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判例研究/レポート

「切り餅」特許事件の知財高裁における <中間判決>
平成23年9月7日判決言渡
(平成23年(ネ)第10002号 特許権侵害差止等請求控訴事件)

平成23年12月26日
弁理士 村井純子

1.はじめに

平成22年11月30日に、切り餅特許についての地裁判決がありました。
この地裁判決については控訴されて、知財高裁で争われていました。
平成23年9月7日に、知財高裁で中間判決が出ましたので、報告します。

2.原審(東京地方裁判所 平成21年(ワ)第7718号)の内容

まず、東京地裁の判決を概説します。
被告の「サトウの切り餅」には、全体的に綺麗に膨らませるために、以下のように、側面や上面に切り込み(スリット)が入っています。

図

そして、原告の越後製菓は、スリットを側面に入れた切り餅の特許権を持っており、無断で「スリット入り切り餅」を売っている佐藤食品を訴えました。この訴訟では、「無断使用の切り餅を売るな」、「約15億円の損害賠償金を払え」というものです。越後製菓の権利内容(特許第4111382号)は、以下のとおりです。

【請求項1】
焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、
この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け、
この切り込み部又は溝部は、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状とした若しくは前記立直側面である側周表面の対向二側面に形成した切り込み部又は溝部として、
焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり、最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように構成したことを特徴とする餅。

図

ここでは、「切餅の載置底面又は平坦上面ではなく」という表現が問題になりました。この表現は、「底面や上面にスリットがない切り餅」とも読めます。この場合、「サトウの切り餅」には、上面にもスリットがあるため、越後製菓の特許とは異なります。これが、被告の佐藤食品の主張でした。
これに対して、越後製菓は、審査経過において、「上側表面部の側周表面のみに…切り込み」があると補正した後、出願当初の明細書に記載されていないとの審査官の指摘に応じて「のみ」を削除しました。このため、「切餅の載置底面又は平坦上面ではなく」は「底面や上面にスリットがない切り餅」ではないと主張しました。
しかしながら、東京地裁は、原告の越後製菓の言い分を認めず、客観的に表現を解釈すれば、「載置底面又は平坦上面ではなく」というのは、「載置底面又は平坦上面には切り込みがない」を考えるのが自然と判断しました。
この原審については、当所のホームページにも掲載しておりますので、ご興味がある方はご参照ください。
<http://www.ondatechno.com/Japanese/report/2011/20110617.html>

3.知財高裁の判断(中間判決)

今回、知財高裁は、「佐藤食品が越後製菓の特許権を侵害している」との中間判決を出しました。

<中間判決とは?>

最終的な判決の前に、焦点を絞り込むために、ある論点についての判断を示すものです。
なお、裁判において、中間判決は必ず出されるというものではありません。
今回は、論点整理のために、前提となる侵害の成否について先に結論を出したものですが、やはり話題性に富む事件だからではないかと思います。
同日に、審決取消訴訟においても「特許有効」との判決も出されていますので、裁判所は和解を促す意図があったのかもしれません。

<「載置底面又は平坦上面ではなく」についての判断>

知財高裁は、(ア)「特許請求の範囲の記載」全体の構文も含めた、通常の文言の解釈(イ)本件明細書の発明の詳細な説明の記載(ウ)出願経過等を総合的に判断し、以下のように判断しました。

「載置底面又は平坦上面ではなく」とは、「側周表面」であることを明確にするための記載であり、載置底面又は平坦上面に切り込み部等を設けることを除外するための記載ではない。

(ア)「特許請求の範囲の記載」全体の構文も含めた、通常の文言の解釈

…「載置底面又は平坦上面ではなく」との記載部分の直後に、「この小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に」との記載部分が、読点が付されることなく続いているのであって、そのような構文に照らすならば、「載置底面又は平坦上面ではなく」との記載部分は、その直後の「この小片餅体の上側表面部の立直側面である」との記載部分とともに、「側周表面」を修飾しているものと理解するのが自然である。

ここでは、裁判官は、「載置底面又は平坦上面ではなく」と「この小片餅体の〜」との間に「、」がないことを指摘しています。そこで、「、」がない文章と「、」がある文章とを併記してみます。

a …切餅の載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け…
b …切餅の載置底面又は平坦上面ではなく、この小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け…

さて、皆さんは違いをどのように感じますか。「違いが分る人」でしょうか。

特許請求の範囲は、一文で書くことが多いです。このため、文章がどこに繋がっているのか、不明確になることがあります。
(a)の場合(本件特許の場合)では、「側周表面に」が一つのまとまりになっています。一方、「切餅の載置底面又は平坦上面ではなく」の後に読点を入れると、この節がどこに繋がっているのか不明確になります。比べてみると、(a)では、「切餅の載置底面又は平坦上面ではなく」は「側周表面」の修飾語と判断したようです。
「直側面である側周表面に」或いは「切餅の載置底面又は平坦上面に挟まれた直側面である側周表面に」の方が明確だったかもしれません。不必要な修飾語が混乱を招く原因となったように思います。

(イ)本件明細書の発明の詳細な説明の記載

…発明の詳細な説明欄において、側周表面に切り込み部等を設け、更に、載置底面又は平坦上面に切り込み部等を形成すると、上記作用効果が生じないなどとの説明がされた部分はない。本件明細書の記載及び図面を考慮しても、…「載置底面又は平坦上面ではなく」との記載は、通常は、最も広い面を載置底面として焼き上げるのが一般的であるが、そのような態様で載置しない場合もあり得ることから、載置状態との関係を示すため、「側周表面」を、より明確にする趣旨で付加された記載と理解することができ、載置底面又は平坦上面に切り込み部等を設けることを排除する趣旨を読み取ることはできない。
…本件発明は、上記のとおり、切餅の側周表面の周方向の切り込みによって、膨化による噴き出しを抑制する効果があるということを利用した発明であり、焼いた後の焼き餅の美感も損なわず実用化できるという効果は、これに伴う当然の結果であるといえる。載置底面又は平坦上面に切り込み部を設けたために、美観を損なう場合が生じ得るからといって、そのことから直ちに、…載置底面又は平坦上面に切り込み部を設けることが、排除されると解することは相当でない。
…被告は…「小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に切り込み部又は溝部を設ける」と記載すれば足り、「載置底面又は平坦上面ではなく」との記載を付加する必要はない、と主張する。しかし…角形等の小片餅体である切餅において、最も広い面を載置底面として焼き上げるのが一般的であるといえるが、これにより一義的に全ての面が特定できるとは解されない。したがって、小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面を特定するため、「載置底面又は平坦上面ではなく」との記載を付加することに、意味があるといえる。したがって、被告の上記主張は、採用することができない。

 

(ウ)出願経過  

 
平成17年5月27日 本件出願について拒絶理由が通知。
同年8月1日 原告は補正書を提出。
「切餅の上下面である載置底面又は平坦上面ではなく切餅の側周表面のみに切り込みが設けられる…」と補正。
同年9月21日 この補正は当初明細書の範囲ではないとして拒絶理由が通知。
同年11月25日 前回の補正を撤回して、新たな補正を提出。

…本件特許に係る出願過程において、原告は、拒絶理由を解消しようとして、一度は、手続補正書を提出し、同補正に係る発明の内容に即して、切餅の上下面である載置底面又は平坦上面ではなく、切餅の側周表面のみに切り込みが設けられる発明である旨の意見を述べたが、審査官から、新規事項の追加に当たるとの判断が示されたため、再度補正書を提出して、前記の意見も撤回するに至った。したがって、…文言を解釈するに当たって、出願過程において、撤回した手続補正書に記載された発明に係る「特許請求の範囲」の記載の意義に関して、原告が述べた意見内容に拘束される筋合いはない。

4.まとめ

(1) 文章を書く場合には、読み手の立場で「修飾語がどこに掛かっているか」を見直すことが大切です。
(2) 発明の特徴を検討する場合には、「どの構成から効果が得られるのか」を把握することが大切です。

5.補足

知財高裁は、この中間判決において「無効理由なし」と判断しました。
そして、この中間判決の判決言渡日(9月7日)と同じ日に、審決取消請求訴訟(平成22年(行ケ)第10225号)の棄却判決が出ました。すなわち、裁判所でも、無効審判における特許庁の判断(権利は有効)は正しいと判断されました。この審決取消訴訟の内容は、中間判決における「無効理由なし」とほぼ同じ内容です。

※「無効理由」として、佐藤食品(被告)は「本件出願前に自分が製造販売した商品(こんがりうまカット)には、既に、側面に切り込みがあった」と主張しました。以下、時系列に並べてみました。

平成14年 9月 6日 被告は、「上下面に切り込みを入れた餅」について特許出願(1)。
この出願で「切込みから断続的に内部の蒸気が抜けやすいので…ほぼ立方体の形に保持されたまま膨れる。」との効果を言及。
平成14年10月16日頃 被告は、商品「こんがりうまカット」を製造。
平成14年10月21日 被告は、「こんがりうまカット」をイトーヨーカ堂で販売。
平成14年10月31日 原告が、本件特許出願。
平成15年 7月17日 被告は、「上面と下面及び側面に切り込みを入れた餅」について特許出願(2)。
平成15年 9月 1日 被告が、「パリッとスリット」を販売

これについて、裁判所は、次のように判断しています。

本件餅の保管目的、保管状況等一切の事情が判然としない上、本件餅の外袋の写真及び個包装の図と内容物が齟齬すること、被告が自らの主張と整合しない特許出願を行っていること、「パリッとスリット」において初めて切餅の側面に切り込みが入ったとの新聞報道がされていること、などに照らすと、平成14年10月21日に発売された本件こんがりうまカットは、上下面に切り込みが施されていたものの、側面には切り込みが施されていない商品であったと認めるのが合理的である。…したがって、本件発明は、本件特許出願前に公然実施をされた発明又は公然知られた発明とはいえず、また、上記本件特許出願前に公然実施をされた発明又は公然知られた発明(本件こんがりうまカット)に基づき容易に想到できたともいえない。

以下、少し詳しく説明します。

・「保管目的、保管状況等一切の事情が判然としない」について

…本件餅を長期保存していたという目的自体,「被告の歴史という部分を踏まえ」などという,極めて不自然なものである。

 

・「本件餅の外袋の写真及び個包装の図と内容物が齟齬する」について

…外袋の写真及び個包装の図においては、切餅の上面に十文字の切り込みがされているものの、上記側周表面の切り込みが記載されておらず、包装等に表示されている図柄と内容物が齟齬している…

 ・「被告が自らの主張と整合しない特許出願を行っている」

…被告特許(1)に係る明細書においては、切餅の側面の切り込みについては、何らの説明もない。仮に、平成14年10月21日に発売された「こんがりうまカット」に、上下面のみならず側面にも切り込みが施されていたならば、被告は、被告特許(2)に係る発明について、特許出願前に自ら公然実施をしていながら、その事実を秘匿して特許出願に至ったということになる。むしろ、上記出願に係る事実経緯を総合するならば、平成14年10月21日に発売された「こんがりうまカット」には、上下面に切り込みが施されていたものの、側面には切り込みが施されていなかったと推認される。…

ちなみに、被告が証拠として提出した「フード・ウイークリー」(第1636号 平成15年9月29日発行)には、気になる以下の記載がありました。

「もちに切れ込みを入れて、焼き上がりと食感をよくする技術を施した製品が佐藤食品と越後製菓から発売された。こうした発想は、各社ともテスト段階では構想にあったものの、実用化に踏み切ったのは、佐藤食品がイトーヨーカ堂向けに発売していた商品が最初。それはもちの上下面に十字の切れ込みを施したもので、今年はそれに側面にも2本の切れ込みを施した製品で全国展開する。また、越後製菓は、 もちの側面に切れ込みを入れた商品を発売し、CMを投入して積極的な展開をする。

佐藤食品としては、「切込みを入れると綺麗に膨れるとした出願や商品化したのは、うちが先なのに・・・」といった気持ちがあるのかもしれません。

裁判では、引き続き損害額についての審理が行なわれています。今後も注目したいところです。

以上

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