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判例研究/レポート

訂正により盛り込んだ構成要件が新規事項に該当するか否かが争われた事件
(平成21年(行ケ)第10133号審決取消請求事件)
(口頭弁論終結日:平成22年1月27日,判決言渡:平成22年3月3日)

平成22年6月23日執筆
弁理士 山本実

事案の概略

訂正により盛り込んだ構成要件が新規事項に該当するか否かが争われた事例です。

訂正後の特許請求の範囲、及び明細書等の記載

(1)訂正後の特許請求の範囲(特許第2814356号)

訂正後の特許請求の範囲を以下に記載します。なお、下線部は、訂正箇所を示します。また、斜体部は、訂正の可否が問題となった箇所を示します。

【請求項1】
基礎用杭を地盤に埋め込むための杭埋込装置であって,/油圧式ショベル系掘削機(9)と,/当該油圧式ショベル系掘削機(9)のアーム先端部に取り付けてあり,四角形の台板(14)の上部に設けられており油圧モーター(21)を有する振動装置(2)と杭上部に被せるために当該台板(14)の下面に設けられている円筒状の嵌合部(15)を有する埋込用アタッチメント(A)と,/当該埋込用アタッチメント(A)の上部嵌合部(15)の側部に設けられている相対向するピン孔(16,16)に自在継手を介して着脱可能に取り付けられる穿孔装置(4)と,/を備えており,/上記四角形の台板(14)の四辺は,上記円筒状の嵌合部(15)よりも張り出しており,上記台板(14)の四辺のうち油圧式ショベル系掘削機(9)側の辺は,油圧式ショベル系掘削機(9)側にある上記振動装置(2)の油圧モーター(21)の端よりも油圧式ショベル系掘削機(9)側にあり,/上記穿孔装置(4)は,/油圧モーター(43)と,/当該油圧モーター(43)により回転駆動される穿孔ロッド(44)と,/を備えており,/上記穿孔装置(4)と上記嵌合部(15)は,穿孔時と杭埋込時において選択的に使用されることを特徴とする,/杭埋込装置。
【請求項2】
(略)

(2)明細書の記載

※以下、判決文からの抜粋です。また、原文に対し一部、下線を付加しました。
【0013】埋込用アタッチメントAはフレーム1を備えている。フレーム1の上面板11の上部には,アーム91の先端部に取り付けるためのブラケット12,12が設けてある。ブラケット12,12には各々ピン挿着孔13,13が設けてある。フレーム1の下部には四角形の台板14が設けてある。台板14の上部には振動装置2が設けてある。振動装置2は,油圧モーター21によっておもりを回転させて振動させる一般的な構造のものである。
【0014】台板14の下面中央部には杭の上部に嵌め込むための円筒状の嵌合部15が設けてある。嵌合部15の側部には直径線上に相対向してピン孔16,16が設けてある。

(3)図面の記載

また,本件特許出願の願書には,本件図面として,本発明に係る杭埋込装置の一実施例を示す説明図である図1,埋込用アタッチメントの要部分解斜視図である図2,ガイド孔を穿孔している状態を示す説明図である図3及び杭を埋め込んでいる状態を示す説明図である図4が添付されている。図2において,「台板」は埋込用アタッチメントの一部を構成する四角形の板状部材であって,その上部にフレーム及び振動装置を固定し,その下面中央部には杭の上部に嵌め込むための円筒状の嵌合部が設けてあるものとして記載されている。また,図1ないし4の振動装置はその油圧式ショベル系掘削機側に油圧モーターを備えているものであり,図2における台板下面の嵌合部の側部には相対向するピン孔が設けられているものであるほか,図2の台板の四辺は円筒形状の嵌合部よりも張り出したものとして記載されている。
他方,図1ないし4において,台板は振動装置の油圧モーターが存在する油圧式ショベル系掘削機側に張り出しているが,振動装置の油圧モーターの油圧式ショベル系掘削機側の端は,台板とは別の部材である三角柱の3つの側面のうちの1つの面を開放状態としたような形状の部材によってカバーされている。

<参考(筆者加筆)>
※符号の説明の抜粋:A…埋込用アタッチメント、1…フレーム、2…振動装置、9…油圧式ショベル系掘削機、14…台板、15…嵌合部、21…油圧モーター、16…ピン孔。

図
(図面は特許第2814356号の特許公報より引用)

原告の主張

本件明細書には,嵌合部からの台板の張り出し量や,台板と振動装置の油圧モーターとの相対位置関係については一切記載がなく,ましてや,当該台板の張り出し量や当該相対位置関係が如何なる技術的意義を有するのかについて全く示唆されていない。
したがって,本件訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものであり,新規事項の追加を禁止する特許法の趣旨にも反する違法なものであり,本件審決は,本件発明の要旨の認定を誤ったものとして,取り消されるべきである。

被告の主張

本件発明1のような杭埋込装置によって杭埋込作業を行う際には,作業者の熟練度や,掘削機を操作するオペレーターとのあうんの呼吸が十分でない場合,杭の上部が円筒状の嵌合部にうまく嵌合しないことが必ず工事現場において生じることは当業者に周知であり,このような場合に台板が盾となって杭の上部が油圧モーターに当たるのを防ぐことは,本件明細書に記載された構成及び図面自体から当業者が直ちに感得することができる自明な効果である。
そうすると,当業者は,図面に明示された台板(14)と嵌合部(15)及び油圧モーター(21)の位置関係を見れば,本件特許出願時の技術常識に照らし,台板(14)が盾となって,台板の下方からの外力(嵌合部へ嵌合しようとしたもののうまく嵌合しなかった杭等)に対して,油圧モーター(21)を保護するという技術的意義を有することは,明細書に記載がなくても一義的に明白である。
したがって,本件訂正の訂正事項は,いずれも願書に添付した明細書又は図面に明示されているということができるのであり,特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもない。

裁判所の判断

本件明細書において「台板」について定義する記載は存在しないところ,「台」とは「物や人をのせる平たいもの。」(広辞苑第5版1590頁)であることからすると,本件明細書に記載され,本件訂正に係る訂正事項に含まれる「台板」とは,「物をのせる板状の部材」を意味するものと解釈すべきであり,本件明細書の記載に即して具体的に解釈すると,振動装置を載せる板状の部材のことであると理解することができる。
また,上記(ア)及び(イ)によると,本件明細書における「台板」の構成は,埋込用アタッチメントの一部を構成する四角形の板状部材であって,その上部にフレーム及び振動装置を固定し,その下面中央部には杭の上部に嵌め込むための円筒状の嵌合部が設けてあるものとして記載されているということができるが,本件図面における振動装置の油圧モーターの油圧式ショベル系掘削機側の端は,台板とは別の部材である三角柱の3つの側面のうちの1つの面を開放状態としたような形状の部材によってカバーされており,同図面上は同油圧モーターの端がどこに位置するのかを確認することはできないから,台板の四辺のうち油圧式ショベル系掘削機側の辺が,油圧式ショベル系掘削機側にある振動装置の油圧モーターの端よりも油圧式ショベル系掘削機側にあることについて,本件明細書又は本件図面に直接的に記載されているとまで認めることはできない
もっとも,訂正が,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該訂正は,明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものということができるので,本件訂正のうち特許請求の範囲に「上記台板(14)の四辺のうち油圧式ショベル系掘削機(9)側の辺は,油圧式ショベル系掘削機(9)側にある上記振動装置(2)の油圧モーター(21)の端よりも油圧式ショベル系掘削機(9)側にあり,」との記載を付加する部分が,本件明細書及び図面の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものかどうかを判断するに当たっては,この種の杭埋込装置における前記説示した意味での台板の存在及び形状についての当業者の認識を踏まえる必要がある

本件特許出願時における当業者にとって,油圧式ショベル系掘削機のアーム先端部に取り付ける埋込用アタッチメントとして,四角形の台板の上部に振動装置を備えるとともに,その下部略中央部に杭との嵌合部を備えるものはよく知られており,振動装置,四角形の台板及び嵌合部相互の関係については,四角形の台板を油圧モーターを含む振動装置が納まる程度の大きさとし,振動装置が隠れるように配置する構成のものが知られ,作業現場において長年にわたって使用されてきたものとして周知であったということができる。

そうすると,本件訂正のうち,特許請求の範囲の【請求項1】及び【請求項2】について「上記台板(14)の四辺のうち油圧式ショベル系掘削機(9)側の辺は,油圧式ショベル系掘削機(9)側にある上記振動装置(2)の油圧モーター(21)の端よりも油圧式ショベル系掘削機(9)側にあり,」との限定を加える部分は,本件特許出願時において既に存在した「台板の上部に振動装置を設けるとともに,下面中央部に嵌合部を設ける」という基本的な構成を前提として,「振動装置の油圧モーターが油圧式ショベル系掘削機側にある」という当業者に周知の構成のうちの1つを特定するとともに,「台板」と「振動装置」の関係について,同様に当業者に周知の構成のうちの1つである「四角形の台板の上に油圧モーターが隠れるように振動装置を配置するという構成」に限定するものである。
そして,上記イ(ア)ないし(ク)で認定した技術状況に照らすと,上記周知の各構成はいずれも設計的事項に類するものであるということができる。
したがって,本件明細書及び図面に接した当業者は,当該図面の記載が必ずしも明確でないとしても,そのような周知の構成を備えた台板が記載されていると認識することができたものというべきであるから,本件訂正は,特許請求の範囲に記載された発明の特定の部材の構成について,設計的事項に類する当業者に周知のいくつかの構成のうちの1つに限定するにすぎないものであり,この程度の限定を加えることについて,新たな技術的事項を導入するものとまで評価することはできないから,本件訂正は本件明細書及び図面に記載した事項の範囲内においてするものとした本件審決の判断に誤りはない。
※詳細は、判決文をご参照ください。

まとめ

(1)感光性熱硬化性樹脂組成物等事件(平成20年5月30日 知財高裁大合議判決)では、訂正が、明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものか否かは、すべては「当業者によって、明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるか否か」を基準として判断される旨が示されている。この判断基準については、抽象的である感が否めなかったが、本件では、その具体的判断基準の1つとして、「明細書及び図面の記載が明確でないとしても、特許請求の範囲に記載された発明の特定の部材の構成について、設計的事項に類する当業者に周知のいくつかの構成のうちの1つに限定するにすぎないものに関しては、新規事項の追加に該当しない」ことが示された点で一定の意義があると考えられる。

(2)発明の要部ではない構成要件に関連して、実施可能要件やサポート要件が問題とされている場合、これらを解消するための最終手段として検討価値があると考える。ただし、訂正に係る構成要件について、進歩性が欠如していることを自ら主張しているようなものであるので、可能であれば、明細書等の記載から自明である主張に留めるほうが好ましい。同様の理由で、進歩性(第29条第2項)違反を解消する為にこのような訂正を用いることは考え難いといえる。

以上

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