限定公開【判例研究】「笠木下換気構造体」事件
令和7年5月21日判決言渡 令和6年(ネ)第10080号 特許権侵害差止等請求控訴事件
2026年4月1日掲載
弁理士 荒井 保亮
1. はじめに
本件は、被控訴人製品を部材とする笠木下換気構造体の構造が、特許第5269264号(本件特許)の請求項1に係る発明(本件発明)の技術的範囲に属するものであり、被控訴人製品は本件発明の「生産のみに用いられる物」に該当するため、本件特許権の侵害(間接侵害)に当たるとして争われた事案です。
本稿では、本件発明の技術的範囲への属否について、文言侵害の判断の内容をご紹介します。
2. 本件発明の請求項1について
【請求項1】
A 外壁下地材及び前記外壁下地材の外面に取付けられた胴縁を介して取付けられた外壁材とその上方に設置される笠木との間の部分に設置することができる笠木下換気構造体であって、
B-1 前記外壁下地材の上端部の外方側に対して垂直方向に延びる第1垂直部と、
B-2 前記第1垂直部の上端側に接続され、外方に向かってほぼ水平方向に延びる第1水平部と、B-3 前記第1水平部の外方側に接続され、垂直下方に延びると共に長手方向に所定間隔で複数の開口が形成された第2垂直部と、
B-4 前記第2垂直部の下方側に接続され、前記第1垂直部の方向に所定距離を残して延びる第2水平部とからなる
B-5 笠木下部材と、
C 前記笠木下部材内に配置され、通気性能及び防水性能を発揮する換気部材とを備え、
D 前記笠木下部材の前記第1垂直部は前記外壁下地材と前記胴縁との間の隙間に差し込むようにして設置されることができる、
E 笠木下換気構造体。

3. 被控訴人(被告)製品の概要

被控訴人製品は上図の形状となっており、外方に向けて内角約45度に傾斜して延びる傾斜部⑤等を備える部材です。
争点となった構成ついて、以下に記載いたします。
争点となった構成:
- 内部に傾斜した傾斜部⑤
- 傾斜部の上端近傍の通気間隙
傾斜部⑤の形状:
- 第2水平部④の内方側の側端から上方に向け、第2水平部上面との間の内角約45度になして傾斜
機能:
- 笠木下部材内部から開口⑥に向かう気流が傾斜部⑤上方の隙間を通り、外気側へ排出される。
- 開口から侵入する雨水を遮断してその侵入を防止する。
傾斜部⑤等を備える部材が本件特許の構成要件C「前記笠木下部材内に配置され、通気性能及び防水性能を発揮する換気部材」に該当するかが主な争点となっています。
4. 地裁の判断
構成要件Cの充足性(「前記笠木下部材内に配置され、通気性能及び防水性能を発揮する換気部材」を備えるか)
本件明細書の課題及びその解決手段の記載に基づいて、構成要件Cの文言解釈が行われており、「換気部材」については、少なくともそれ自体が「通気性能及び防水性能」を有することを要すると解するのが自然な文言解釈であると判断されています。
「a.構成要件Cの「前記笠木下部材内に配置され、通気性能及び防水性能を発揮する換気部材」との文言は、「換気部材」が、「笠木下部材内に配置され」ていることと、「通気性能及び防水性能を発揮する」ものであることとをいずれも備える旨を規定するものである。
b.本件明細書には、以下の内容が示されている
(ア)(a) 先行技術文献である特許文献1(特開2007-138422号公報。甲11)に示されるような従来の笠木下換気構造体では、設置時に本体部と通路部とを別々に、かつ蛇行通路が形成されるように所定の位置関係で腰壁パネルに取り付ける必要があり、複雑な構造であるため、迅速な設置が困難であるとともに、換気量が少ないものであったこと(【0009】)に加え、笠木下部分における雨水の浸入は、覆い部材内の蛇行通路によって移動距離を長くして防止しているのみであるため、暴風雨等で雨量が極端に増加したときの防水機能としての信頼性が十分ではなく、さらには、虫等が蛇行通路を介して建物内に侵入するおそれがある(【0010】)という課題があった。本件発明は、かかる課題を解決するためものであり、迅速な設置を可能にするとともに、通気機能及び防水機能の信頼性の高い笠木下換気構造体を提供することを目的としている(【0011】)。
(b) 前記課題を解決するための手段
本件発明は、外壁下地材及び外壁下地材の外面に取り付けられた胴縁を介して取り付けられた外壁材とその上方に設置される笠木との間の部分に設置することができる笠木下換気構造体であって、外壁下地材の上端部の外方側に対して垂直方向に延びる第1垂直部と、第1垂直部の上端側に接続され、外方に向かってほぼ水平方向に延びる第1水平部と、第1水平部の外方側に接続され、垂直下方に延びると共に長手方向に所定間隔で複数の開口が形成された第2垂直部と、第2垂直部の下方側に接続され、第1垂直部の方向に所定距離を残して延びる第2水平部とからなる笠木下部材と、笠木下部材内に配置され、通気性能及び防水性能を発揮する換気部材とを備え、笠木下部材の第1垂直部は外壁下地材と胴縁との間の隙間に差し込むようにして設置されることができる(【0012】)。
(c) 本件発明の効果
換気部材が笠木下部材に一体化されるため、笠木下部分への取付けが容易で通気機能及び防水機能の信頼性が向上し、また、笠木下部材の位置決めが容易になるため、取付作業が効率的になる(【0024】)。
(d) …換気部材20は通気孔21を介しての通気を可能にするとともに、通気孔21を介しての雨水や虫等の侵入を阻止する通気性能及び防水性能を発揮するものとなる(【0041】)。…笠木下換気構造体1は、笠木下部材10と通気性能及び防水性能を発揮する換気部材20とを一体化したものである(【0042】)。
検討
(a) 前記aのとおり、構成要件Cは、「換気部材」について、「笠木下部材内に配置され」ていることと、「通気性能及び防水性能を発揮する」ものであることとをいずれも備える旨を規定している。
(b) そして、前記bのとおり、本件明細書の記載によれば、本件発明は、従来の笠木下換気構造体の有する課題(複雑な構造であるため、迅速な設置が困難であるとともに、換気量が少ないものであったことに加え、笠木下部分における雨水の浸入は、覆い部材内の蛇行通路によって移動距離を長くして防止しているのみであるため、暴風雨等で雨量が極端に増加したときの防水機能としての信頼性が十分ではなく、さらには、虫等が蛇行通路を介して建物内に侵入するおそれがある。)を解決するために、構成要件B-1ないしB-4に規定される構成を有する「笠木下部材」と、笠木下部材内に配置され、通気性能及び防水性能を発揮する「換気部材」とを備え、「笠木下部材」の第1垂直部は外壁下地材と胴縁との間の隙間に差し込むようにして設置されることができる笠木下換気構造体を提供するものである。
(c) 前記(a)及び(b)で述べたことに照らせば、構成要件Cが規定する「換気部材」については、当業者にとって、少なくともそれ自体が「通気性能及び防水性能」を有することを要すると解するのが構成要件Cの自然な文言解釈であり、かつ、本件明細書の記載にも合致する。」
上記の構成要件Cの文言解釈を前提として、以下のとおり、被告製品を部材とする笠木下換気構造体は、それ自体が「通気性能及び防水性能」を有するものではないため構成要件Cを充足しないから、文言侵害の成立は認められないと判断されています。
「(イ) 被告製品を部材とする笠木下換気構造体についてみると、その概要は別紙「図面」記載2のとおりであるところ、原告は、傾斜部⑤が「通気性能及び防水性能を発揮する換気部材」に相当する旨主張する。しかし、傾斜部⑤は、それが「笠木下部材」(第1垂直部①ないし第2水平部④)内に配置されたものに当たり得るとしても、ガルバリウム鋼板からなる板状物であって(弁論の全趣旨)、傾斜部⑤自体が素材としての通気性能を有するものとは認められない。傾斜部⑤の上部と第1水平部との間には一定の空間が確保されており、当該空間を通気路と想定することはできるけれども、当該空間が「換気部材」(又はその一部)に該当するとはいえず(原告も傾斜部⑤が「換気部材」に相当すると主張している。)、「換気部材」が通気性能を有すると解することはできない。傾斜部⑤は、その傾斜を含む形状によって遮断性能(防水性能)を担っていることから、明らかに通気が可能な領域を狭めており、「換気部材」として通気性能を発揮しているものとは認められない。
したがって、被告製品を部材とする笠木下換気構造体は、構成要件Cの「通気性能…を発揮する換気部材」を充足しない。

(ウ) これに対し、原告は、本件発明の「換気部材」の文言は、雨水の浸入を軽減しつつ通気通路を確保する部材を総称するものであり、被告製品の傾斜部⑤のように、第2水平部から45度の角度をもって立ち上がり、その上部が第1水平部に接しないようにその長さが調整された部材も含まれるのであって、このような部材は外部から浸入する雨水を遮蔽することにより雨水の浸入を軽減するとともに、該傾斜部の上部と第1水平部との間に非接触部分を設けることにより、該間隙部を通じて笠木下換気構造体の内外の通気を行い、通気通路を構成しているから、「通気性能及び防水性能を発揮する換気部材」に該当する旨主張する。
しかし、前記(ア)のとおり、「換気部材」は、それ自体が通気性能を有する必要があるというべきである。一方、被告製品は、前記(イ)のとおり、傾斜部自体に通気性能はなく、開口(別紙図面の⑥)から笠木下部材内部に向かう気流を第1水平部下部と傾斜部上端との間に存在する気道方向に通気することにより笠木下部材内部と外部との間の通気が行われるとしても、それは単に通気路を残しているにすぎず、傾斜部に通気性能があると認めることはできないから、被告製品を部材とする笠木下換気構造体の構成cは、被告主張のとおり「前記第2水平部の内方端に接続され、外方に向けて内角約45度に傾斜して延びる傾斜部と、を有する笠木下部材であって、前記傾斜部は、開口から浸入する雨水を遮断してその浸入を防止する防水性能を有し、前記第1垂直部側と開口側とを換気する換気経路を遮断して蛇行経路とし、」と認定されることとなる…。そうすると、構成cは構成要件Cを充足せず、原告の主張は採用できない。
(エ) したがって、被告製品を部材とする笠木下換気構造体が構成要件Cを充足する旨の原告の主張は採用できない。
イ 以上のとおり、被告製品を部材とする笠木下換気構造体は構成要件Cを充足しないから、その余の点について検討するまでもなく、被告製品に関する文言侵害(間接侵害)の成立を認めることはできない。」
5. 知財高裁の判断
控訴人は意見書、実験結果等を用いて換気部材の解釈について主張を行いましたが、いずれの主張も否定されています。
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