日本における「故意でない基準」に基づく期間徒過回復手続の最新動向|お知らせ|オンダ国際特許事務所

日本における「故意でない基準」に基づく期間徒過回復手続の最新動向|お知らせ|オンダ国際特許事務所

アクセス

日本における「故意でない基準」に基づく期間徒過回復手続の最新動向

弁理士 本田 淳

 

1.はじめに

2023年4月1日、日本の特許制度において「期間徒過の回復」に関する運用が大きく転換した。従来は「正当な理由」を要件としていたが、法改正により「故意でない(Unintentional)」ことを基準とする緩和制度が導入された。本稿では、特許の徒過回復に関して制度の沿革と現行制度の内容、実務上の留意点を整理し、国際的な動向や当所の実務経験を踏まえて解説する。

 

2.制度改正の経緯

徒過回復制度は2000年代当初、天災や重篤な疾病といった極めて限定的な「不責事由」の場合に限られていた。その後、2011年改正で「正当な理由」に基づく回復が導入され、さらに2014年以降は国内優先、パリ条約上の優先権、審査請求、商標や意匠の手続へと対象が拡大してきた。2021年改正(2023年施行)により、日本は「故意でない基準」を採用し、国際的な調和の観点からもPLT(特許法条約)のユーザーフレンドリーの理念に沿った制度設計が進められている。

 

3.回復の対象範囲

「故意でない」基準による回復が認められる手続は、特許では外内PCT(30か月移行)、パリ優先権、国内優先、審査請求、年金(登録料)納付などである1)。ここでは外内PCTとは、外国でPCT出願され、日本に国内移行してくるものを指す。一方で、不服審判、異議申立て、無効審判といった審判系手続には適用されない。対象範囲の明確な理解は、実務上の誤解を避けるために留意すべき点である。

 

4.期限と費用

回復手続には「徒過日から1年以内」と「気づいた日から2か月以内」という二重の期限管理が求められる。特に優先権の回復は「徒過日から1年以内」ではなく、「2か月以内」が絶対的な上限となる点で注意が必要である。外内PCTであって、日本への移行前に30か月を徒過している場合、国内書面、翻訳文、回復理由書を一緒に提出しなければならない。普段行われる国内書面を先に提出し翻訳文を後から提出するという進め方とは異なる点に注意を要する。費用面では、特許では庁料金21万2,100円が標準的に必要となる。

 

5.回復理由書作成の実務

回復理由書の作成においては、「故意」を疑わせる表現には留意すべきである。例えば、「出願を断念した」「不要と判断した」といった記載は、意識的な選択として却下される可能性が高い。「事務処理上の不注意」などの経緯を示しつつ、継続的に手続きを遂行する意思があったことを補足することが望ましい。

 

6.外内PCTにおける課題

外内PCTの30か月移行徒過は、特許事務所の実務上の回復案件として頻出する。「気づいた日」から2か月以内に翻訳文を用意することが望ましい。また、パリ優先権の徒過が国際段階で既に回復されている場合、日本移行時に追加の理由書や庁料金が不要となる点も留意すべきである2)

 

7.故意と不注意の線引き

期間徒過において「故意」とは、期限徒過の結果を認識しつつ意識的に不提出の行為を選択した場合を指すと考えられる。これに対し「故意でない」とは、意図的でなく不注意に基づくものである。徒過回復の実務では、こうした線引きを意識することが望ましい。

 

8.実務経験と認容率

当所においては、2024年以降、外内PCTの徒過回復を月に数件程度経験しており、当所経験の範囲では、回復が認められる事例が一定程度確認されている。また、審査請求や年金納付でも回復事例が確認されている。制度緩和により、日本における認容率は増加傾向がうかがわれる。

 

9.内外PCTの徒過回復

一方、内外PCT(ここでは日本でPCT出願され、外国に国内移行していくものを指す。)にも、徒過回復制度はある。日本において、優先期間内に優先権主張を伴うPCT出願をできなかった場合、2か月以内であれば優先権主張を伴うPCT出願をできる場合がある。PCT出願時には費用は求められないが、回復理由の記載は求められる3)。また移行後の各国において、各国の基準で費用や回復理由が求められることになる。

 

10.結論

日本の徒過回復制度は「故意でない」基準への転換により、国際調和を進めるとともに利用者の利便性を大きく向上させた。今後も外内PCTを中心に実務での適用が拡大すると見込まれるが、期限管理と回復理由書作成における慎重な対応は依然として留意すべき点である。知的財産に関する専門家は本制度を適切に理解し、依頼人の権利維持に資する運用を実現する必要がある。

 

参考URL:

1) 「故意によるものでないこと」による期間徒過後の救済について | 経済産業省 特許庁
2) PCT国際出願関係手続QA | 経済産業省 特許庁
3) 令和5年4月1日以降に優先期間を徒過した国際出願の優先権の回復(「故意ではない」基準)について | 経済産業省 特許庁

本資料は、公開されている情報や当所での一般的な実務経験をもとにまとめたものであり、個別案件への助言を目的とするものではありません。記載内容は発行時点のものであり、今後の運用変更等により異なる場合がありますので、実際の手続にあたっては必ず最新の公式情報をご確認ください。