特許異議申立制度の創設|お知らせ|オンダ国際特許事務所

特許異議申立制度の創設|お知らせ|オンダ国際特許事務所

アクセス

特許異議申立制度の創設

1.「特許異議申立制度」復活の経緯

特許法等の一部を改正する法律(平成26年法律第36号)が同年5月14日に公布され、付与後特許異議申立制度が創設された。特許異議申立制度については、平成6年の特許法改正で、迅速な権利付与のために長年運用された付与前特許異議申立制度から付与後特許異議申立制度(旧特許異議申立制度)が採用された。そして、平成15年の特許法改正で旧特許異議申立制度が無効審判制度に組み入れられて廃止されて以来、12年ぶりに特許異議申立制度が、実質的に復活することとなったものである。ただし、今回の改正は「復活」といっても旧特許異議申立制度の使い勝手を良くするために一部変更点がある。
 旧特許異議申立制度では、取消理由通知に対して特許権者に意見を述べる機会が与えられた一方、審理中に異議申立人に意見を述べる機会が与えられていなかった。また、一事不再理効が生じないため、異議が認められなかった異議申立人が、特許無効審判を請求するといった事例が多くあり、結局事件の一回的解決はできず、紛争が長期化する傾向にあった。このため、特許の有効性についての争いを特許無効審判に一元化すべく、旧特許異議申立制度が廃止された。
 しかし、特許無効審判は口頭審理を原則としており、当事者の手続負担が大きかった。そのため、いわゆるダミーによる請求は事実上できなかったため、その件数は期待されたほど増加せず、代わりに匿名の情報提供の件数が飛躍的に増加したのが実情であった。
 また、特許無効審判は、特許権の設定登録後、いつでも、何人でも請求できるため、特許権者は、事業展開のために多額の投資を行った後に特許が無効となった場合、致命的な損害を受けかねない。このため、強く安定した権利を早期に確保することのニーズがますます高まってきた。
 以上の背景を踏まえ、旧制度の問題を改善しつつ、今日的な新たな制度意義を与えるための工夫を行った上で、特許の権利化後の一定期間に特許付与の見直しをする機会を与えるための新たな制度として、特許異議申立制度が導入されることとなった。

2.特許異議申立制度について
2-1.主体的要件

 「何人も」、特許庁長官に対して請求することができる。ただし、異議申立人及び代理人の氏名等を記載する必要があるため、匿名で行うことはできない。ただし、真の異議申立人を秘匿するために無関係の人の名前で行う、いわゆるダミー(の申立人)による申立は可能である。

2-2.客体的要件

・平成27年4月1日以降に特許掲載公報が発行された特許について行うことができる。すなわち、平成27年4月1日よりも前に特許掲載公報が発行された特許は対象外となる。

・請求項ごとに特許異議の申立てをすることができる。

・特許異議の申立ての理由は、特許法第113条各号に規定された事由(公益的事由)に限られる。このため、共同出願違反(特許法第38条,同49条第2号)、及び、冒認出願(特許法第49条第7号)といった私益的事由、さらには、後発的事由(特許法第123条第1項第7号、同第8号)を特許異議の申立ての理由とすることはできない。

<特許異議の申立の理由>
特許法第113条第1号
 ・新規事項違反(外国語書面出願を除く、(特許法第17条の2第3項))
特許法第113条第2号
 ・外国人の権利享有違反(特許法第25条)
 ・特許要件違反(特許法第29条、同第29条の2)
 ・不特許事由違反(特許法第32条)
 ・先願違反(特許法第39条第1項ないし第4項)
特許法第113条第3号
 ・条約違反
特許法第113条第4号
 ・記載要件違反(特許法第36条第4項第1号及び同6項(第4号を除く))
特許法第113号第5号
 ・外国語書面出願の原文新規事項違反

2-3.時期的要件

特許掲載公報の発行の日から6月以内に限られる。この期間を経過した特許異議の申立ては、審判官による合議体により決定をもって却下される。また、この期間に特許異議の申立てをしたものであっても、権利消滅後の特許異議の申立てについては、合議体により決定をもって却下される。

2-4.手続的要件
2-4-1.概要

 特許異議の申立てをするには、特許法第115条第1項各号の所定の事項を記載した「特許異議申立書」を提出しなければならない。なお、特許異議申立書及び添付書類については、必要な数(特許権者の数+審理用1通)を提出しなければならない。

2-4-2.記載事項

・特許異議申立書には、特許異議の申立てに係る特許を表示しなければならない。

・特許異議申立書には、特許異議申立人及び代理人の氏名・名称、及び、住所・居所を記載しなければならない。

・特許異議申立書には、異議を申し立てる特許が特許法第113条各号のいずれかに該当するかについて、特許を取り消すべき根拠となる適用条文、及び、特許を取り消すべき具体的理由を記載しなければならない。
 なお、特許異議の申立ての対象となる請求項の一部が、特許権者による訂正請求により削除された場合、残りの請求項について合議体による審理が行われる。一方、特許異議の申立ての対象となる請求項の全部が特許権者による訂正請求により削除された場合、合議体により決定をもって当該特許異議の申立ては却下されることとなる。

2-4-3.特許異議申立書の補正

 特許異議申立書の補正はいつでもできるが、その要旨を変更するものであってはならない(特許法第115条第2項本文)。したがって、特許異議の申立てをするに際しては、採用する証拠や理由について十分に調査・検討する必要がある。
 ただし、特許異議申立期間が経過する時又は取消理由の通知のある時のいずれか早い時期までにした特許異議の申立ての理由及び必要な証拠の表示についてする補正は、この限りではない(特許法第115条第2項ただし書き)。なお、特許異議申立期間の経過前に取消理由が通知された後に、新たな特許異議の申立てがあった場合は、審理が併合されるが、新たな特許異議申立書については、要旨変更となる補正はできない点に留意しなければならない。

2-5.効果
2-5-1.決定の確定

 特許異議の申立てについての決定は、取消決定がなされた場合には、出訴期間の経過により確定する。一方、維持決定がなされた場合には、決定の謄本の送達により確定する。

2-5-2.決定の効果

・取消決定が確定したときは、特許権は初めから存在しなかったものとみなされる(特許法第114条第3項)。また、一部の請求項に係る特許の取消しが確定したときは、当該請求項に係る特許権のみが、初めから存在しなかったものとみなされる(特許法第185条)。

・特許異議の申立てにおいては、特許無効審判の審決についての一事不再理の規定(第167条)と同様の規定は設けられていないため、一事不再理効は生じない。また、特許無効審判と特許異議の申立てとの間においても一事不再理効は生じない。

<参考:特許異議申立制度のフロー>
特許異議申立制度の創設 | 知財トピックス

参考資料:平成26年度会員研修テキスト「特許異議申立制度とその運用について」(日本弁理士会 研修所)

3.特許異議の申立ての審理
3-1.審理の対象

 上述のとおり、特許異議申立人が特許異議の申立ての対象として表示した請求項のみが合議体により審理され、特許異議の申立てのない請求項については、職権によっても審理されない(特許法第120条の2第2項)。ただし、複数の特許異議の申立てがされている場合であって、併合審理がされているときは、併合された特許異議の申立てのいずれかにおいて申立てがされた請求項は、全ての審理の対象となる。なお、審理を併合する場合、併合する旨の通知は行われない。

3-2.特許異議の申立ての理由及び証拠に基づく審理

 特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠に基づいて審理が行われる。ただし、職権により、特許異議申立人が申し立てていない理由及び証拠についても審理されることがある。

3-3.審理の方式

 全件書面審理であり(特許法第118条第1項)、特許異議申立人が口頭審理へ呼び出されることがないようにした。その結果、実質的にいわゆるダミーの申立人による申立が可能になった。ただし、特許異議申立人が証人の尋問の申出をしたような場合は、証人尋問等の証拠調べの実施の際に、出頭を求められることがある。

3-4.複数の特許異議の申立ての取り扱い

 同一の特許権に複数の特許異議の申立てがされたときは、これらの審理は原則併合して行われる(特許法第120条の3第1項)。

3-5.取消理由通知(通常)

 特許異議の申立てにより、特許異議申立の副本が特許権者に送付され、審理が開始され、合議体による審理の結果、特許を取り消すべきと判断されたときは、特許権者に取消理由が通知され、相当の期間(標準60日、在外者90日)が指定され、意見書の提出及び訂正の機会が与えられる(特許法第120条の5第1項、2項)。なお、特許権者は、特許異議申立書に記載された理由及び証拠に対して必ずしも意見を述べる必要はない。
 一方、合議体による審理の結果、取消理由が認められない場合には、特許権者に意見書等の提出の機会が与えられることなく、 特許維持の決定が行われる。

4.特許権者による意見書又は訂正請求書の提出
4-1.取消理由通知に対する特許権者の対応

 特許権者は、取消理由が通知されたときは、上述した指定期間内に意見書及び訂正請求書を提出して、反論をすることができる。また、特許権者は、意見書のみを提出することもできる。特許権者は、早期に決定を得ることを目的として後述する取消理由通知(決定の予告)を希望しない場合には、その旨を意見書に記載する。

4-2.訂正の請求

 訂正要件等は、特許無効審判における訂正の請求及び訂正審判と基本的には同じである。なお、専用実施権者等が存在する場合には、これらの者の承諾が必要である(特許法第120条の5第9項で準用する特許法第127条)。

4-3.特許権者による意見書又は訂正請求書の提出期間経過後の審理 
4-3-1.意見書も訂正請求書も提出されない場合の審理

 

 取消理由通知に対して、意見書も訂正請求書も提出されない場合は、取消理由通知(決定の予告)がされることなく、特許を取り消すべき旨の決定(取消決定)がされることがある。

4-3-2.意見書のみ提出された場合の審理

取消理由通知に対して、意見書も訂正請求書も提出されない場合は、取消理由通知(決定の予告)がされることなく、特許を取り消すべき旨の決定(取消決定)がされる。

・通知した取消理由通知に対して意見書のみが提出された場合は、特許異議申立人に意見書の提出の機会が与えられることなく審理が進められる点に留意する。後述する特許異議申立人に意見書の提出の機会が与えられる場合は、適法な訂正の請求があった場合に限られる(特許法第120条の5第5項)。このため、特許権者による訂正の請求が行われない限り、取消理由通知(通常)が特許権者に通知されたことは、異議申立人には知らされない。すなわち、特許権者により意見書のみが提出され、通知した取消理由によっては特許を取り消すことができないと判断されたとき、異議申立人には、突然、維持決定が通知されることとなる。このため、異議申立人は、例えば、特許権者が提出した意見書に対する上申書の提出等の自発的なアクションを起こしたい場合、定期的に包袋閲覧請求をする必要がある。

5.特許異議申立人による意見書の提出

 平成6年改正の旧特許異議申立制度では、異議申立の審理自体は査定系の手続であり、訂正があっても特許異議申立人による意見書の提出はできなかった。そのため、審理結果に不満がある特許異議申立人が新たに特許無効審判を請求し、紛争解決の長期化につながっていたという事情から、特許権者による訂正請求があった場合には特許異議申立人にも意見書提出の機会が与えられることとなった。

5-1.意見書の提出の機会

・通知した取消理由に対して特許権者が訂正の請求を行ったときには、(1)特許異議申立書において意見書の提出を希望しない旨の申し出を行ったことにより、特許異議申立人が意見書の提出を希望しないとき、又は、(2)意見書提出の機会を与える必要がないと認められる特別の事情がある場合を除き、特許異議申立人には、取消理由を通知した書面、特許権者が提出した意見書、及び、訂正請求書等の副本が送付され、相当の期間(標準30日、在外者90日)が指定されて、意見書を提出する機会が与えられる。

・特許異議申立人により意見書が提出された場合には、提出された意見書の内容が参酌され審理される。ただし、特許権者による訂正の請求に付随して生じた事項を除き、意見の内容が実質的に新たな内容を含むものであると認められるときは、特許異議申立期間が特許掲載公報の発行の日から6月以内に制限されている趣旨を踏まえ、実質的に新たな内容を含む部分は、新たな取消理由としては採用されない。

5-1-1.特別の事情

 上記(2)の特別の事情とは、訂正の請求の内容が実質的な判断に影響を与えるものでない場合等、特許異議申立人に意見を聞く必要のないことが明らかであるときであり、具体的には、下記の(a)~(d)が挙げられる。

(a)訂正の請求が訂正要件に適合していない場合
(b)訂正が誤記の訂正等の軽微なものである場合
(c)訂正が一部の請求項の削除のみの場合
(d)訂正が特許異議の申立てがされていない請求項のみについてされた場合

6.取消理由通知(決定の予告)
6-1.取消理由通知(決定の予告)について

・特許無効審判の場合と同様に、特許異議の申立てにおいても、特許庁と裁判所とのいわゆるキャッチボール現象を防止するために、取消決定取消訴訟の係属中の訂正審判の請求が禁止されている(特許法第126条第2項)。このため、取消理由(通常)の通知後に、特許異議申立事件が決定するのに熟した場合において、特許を取り消すべきと判断されたときは、運用により特許無効審判における審決の予告に相当する取消理由通知(決定の予告)が行われ、特許権者に訂正の機会が与えられる。

・取消理由通知(決定の予告)には、決定の予告である旨が明示され、特許権者は、指定期間(標準60日、在外者90日)内に意見書の提出及び訂正の請求をすることができる(特許法第120条の5第1項、2項)。

6-2.取消理由通知(決定の予告)が不要な場合

 以下の場合には、取消理由通知(決定の予告)は行われず、決定がされる。

(1)取消理由通知(通常)に対して、意見書の提出又は訂正の請求がない場合。
(2)特許権者が、取消理由通知(通常)に対する意見書にて、決定の予告を希望しない旨を申し出ている場合。

 このため、特許権者は、取消理由通知(決定の予告)が必要である場合、取消理由通知(通常)に対して少なくとも意見書を提出する必要がある。

6-3.取消理由通知(決定の予告)後の審理
6-3-1.特許権者による訂正の請求がある場合

 

 特許異議申立人から意見書の提出を希望しない旨の申し出がなく、かつ、特許異議申立人に対して意見書を提出する機会を与える必要のない特別の事情にも該当しないときには、特許異議申立人に意見書を提出する機会が与えられる。なお、取消理由(決定の予告)の通知後の特別の事情としては、以下の(a)~(f)に該当する場合が挙げられる。

(a)訂正の請求が訂正要件に適合していない場合
(b)訂正が誤記の訂正等の軽微なものである場合
(c)訂正が一部の請求項の削除のみの場合
(d)訂正が特許異議の申立てがされていない請求項のみについてされた場合
(e)訂正の内容を検討しても、特許を取り消すべきと合議体により判断された場合
(f)すでに特許異議申立人に意見書の提出の機会が与えられている場合であって、訂正請求により権利が相当程度減縮され、提出された全ての証拠や意見書等を踏まえてさらに審理を進めたとしても、特許を維持すべきとの結論になると合議体が判断したとき

6-3-2.特許権者による訂正の請求がない場合

 特許異議申立人には意見書の提出の機会が与えられない。一方、特許権者から意見書の提出があるときには、その内容が検討され、取消理由通知(決定の予告)の理由により特許を取り消すべきと判断されるときには、取消理由通知(決定の予告)に記載された内容により決定がされる。

7.決定に対する不服の申し立て
7-1.訴えを提起することができる決定

 取消決定に対しては、特許権者、参加人又は特許異議の申立てについての審理に参加を申請してその申請を拒否されたものが、特許庁長官を被告として東京高等裁判所(知的財産高等裁判所)に訴えを提起することができる(特許法第178条第1項)。なお、取消決定に対しては、行政不服審査法による不服申し立てをすることはできない(特許法第195条の4)。

7-2.訴えを提起することができない決定

 維持決定に対しては、不服を申し立てることができない(特許法第114条第5項、同195条の4)。

8.特許無効審判との関係
8-1.特許無効審判の主体的要件(請求人適格)の変更

・平成26年改正法により、特許異議申立制度が創設されたことに併せ、平成27年4月1日以降に請求された特許無効審判については、原則として「利害関係人」のみが請求できるものとして確認的に規定された。なお、例外的に、共同出願要件違反(特許法第123条第1項第2号)、及び、冒認出願(特許法第123条第1項第6号)を理由とする場合には、特許を受ける権利を有する者に限り特許無効審判を請求できる点については従前と変わらない(特許法第123条第2項かっこ書)。

・例えば、当該特許発明と同一である発明を実施している同業者は、利害関係人と認められるが、異議申立人であるからといって必ずしも利害関係人と認められるとは限られない。

8-2.特許異議の申立てと特許無効審判が同時継続した場合の審理

 特許異議の申立てと特許無効審判が同時継続した場合、原則として特許無効審判の審理が優先される。ただし、すでに特許異議の申立ての審理が相当程度進行しており、早期に特許異議の申立てについての決定ができるときには、例外的に特許異議の申立てが優先して審理される。
 また、特許異議の申立てに係る証拠が、特許無効審判に係る証拠よりも明らかに証明力が高いものであり、特許異議の申立てを優先して審理することが、当該特許権についての紛争の迅速な解決に資するときも、例外的に特許異議の申立てが優先して審理される。


参考資料
平成26年度会員研修テキスト「特許異議申立制度とその運用について」(日本弁理士会 研修所)