外内案件の権利化に関する業務の紹介【弁理士コラム】|パテントメディア|オンダ国際特許事務所

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外内案件の権利化に関する業務の紹介【弁理士コラム】

2020年5月
弁理士 天野真理

国際特許第1部に所属する天野と申します。オンダ国際特許事務所には2008年に入所しました。私は、入所以来、主に外国のお客様が日本で特許権を取得するお手伝いをさせて頂いています。いわゆる外内案件というものです。本稿では、この外内案件の権利化に関する業務についてご紹介させて頂きたいと思います。

外内案件の権利化は、日本における特許権の取得ですので、特許庁とのやり取りを介して、基本的には国内案件とほぼ同様のフローに従って手続が進んでいきます。国内案件と最も異なる部分は、やはり元になる明細書が外国語で記載されているということです。最近の外内案件は、特許協力条約(PCT)に基づく国際出願を国内移行して、日本での権利化を進める件が殆どを占めています。この場合、外国語で記載されたPCT国際出願の明細書を日本語へ翻訳して特許庁に提出します。

PCT出願の翻訳時に注意することは、原文新規事項の拒絶理由(特許法第184条の18において読み替えて適用する特許法第49条第6号)や、他の記載要件に関わる拒絶理由(特許法第36条第4項、第6項等)を発生させないようにすることです。すなわち、翻訳文は、原文(PCT公報)に記載した事項の範囲内でなければならず、なおかつ、明確性や実施可能要件等を満たすものでなくてはなりません。

翻訳文なのだから原文の範囲内なのは当たり前ではないか、と思われるかもしれませんが、異なる言語から日本語へ翻訳をする際には様々な問題が生じ得るものです。外国語では使われるのに日本語には存在しない表現や言い回し、技術用語等は、原文に忠実に翻訳しようとすると、意味不明になってしまうこともあり得ます(内外出願で、ある種の日本語的表現が英語に翻訳しにくいとされる状況に似ています)。また、英和辞典を見ても分かるように、1つの単語に対し複数の訳語が存在することから、その中から適切な(そして、できれば過度に限定的ではない)意味を有する訳語を選択していくことも重要になります。

某国内メーカーの開発部門にいる私の夫は、しばしば競合他社の明細書を読む機会があるそうですが、外国人の出願の翻訳された明細書は、なんだか不自然な文章で読みにくいし、その技術分野の人間の書き方とは違っていると苦言を呈してきます。しまいには、なんでこんなに分かりにくいものが特許になるんだと(なぜか私が)怒られたこともあります。きっとその翻訳文は、原文に忠実に翻訳しようと作成されたものなのだとは思いますが、同じ技術分野の人間(いわゆる当業者)が読んでいてイライラしてしまうような翻訳文は、明確性や実施可能要件の点で問題がある可能性も否定できません。なるべくそのようなことが無いように、その発明の技術分野で使われる用語や言い回しを十分吟味し、分かりやすく読みやすい翻訳文を作成するべく日々努めています。

私の担当分野である電気系の案件では、最近はAI関連技術、特に、画像認識や自然言語処理のためのニューラルネットワークを利用した機械学習に関する内容を目にする機会が増えてきました。インターネットを通じてこれらの技術について調べると、なにぶん近年発達が目覚ましい分野であるため、ある種の技術用語については、日本の当業者も英語のままで用いていることがしばしばあります。日本語の定訳が存在しないそのような用語を、技術的に正しくかつ分かりやすくどのように日本語で表現するかというのも頭を悩ませるポイントのひとつです。

中間処理では、特許庁から拒絶理由通知を受け取ると、必要に応じてそれを英語に翻訳したり、拒絶理由を解消するためにどのように応答するかを提案したりして、外国の出願人や現地代理人の指示を仰ぎます。日本と諸外国のルールの違いを考慮し、日本の特許法に詳しくない外国人でも理解しやすいように説明を加えることもあります(特に、日本の方がより厳しいルールを適用している場合に説明が大変になる傾向にあります)。引用文献を日本語でしか利用可能でない場合には、その内容のポイントを適宜英語で伝えることも必要となります。権利範囲を定める特許請求の範囲(クレーム)の補正案を考えるにあたっては、他社による侵害の検出しやすさ、侵害の可能性、回避の難しさ等も考慮するよう心がけていますが、この点は国内案件と何ら変わらないものと思います。ただし、外内案件では、大抵の場合、基礎となる外国の出願や他のファミリー出願の審査の経過を参照することができるため、そこで提出された意見や補正の内容を参酌して戦略を立てることも可能となります。

以上、外内案件の権利化に関する業務をご紹介させていただきました。様々な場面で翻訳が介在することにより思いもよらぬ困難に直面することもありますが、諸外国の出願人と日本の特許庁との間の橋渡しをすることのできるやりがいのある仕事です。