当所の「是」について|お知らせ|オンダ国際特許事務所

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当所の「是」について

会長 弁理士 恩田博宣

はじめに

 筆者の事務所では、考え方や行動の指針として、「是」を定めています。1976年、小さいながら自社ビルができあがったのを機に作りました。多くの社是を調査して、参考にしました。筆者の当時の思いであった自利利他の精神も盛り込まれています。是は次の通りです。毎週月曜日に行われる全体朝礼で、所員全員で唱和しています。
 今回は前文である経営理念及び一番目の是について説明します。

上質な知的サービスで国際文化価値を創造する

一.私達は全所員の物心両面の幸せを追求します。
一.私達は情報を通じて世界に貢献します。
一.私達はお客様の利益に貢献します。
一.私達は常に一流の仕事をします。
一.私達は質の高さと迅速を旨とします。
一.私達は力を合わせて事に当たります。
一.私達はプロとして日々技能を向上させます。
一.私達は目標を達成します。

 

1)企業理念 

 上質な知的サービスで国際文化価値を創造する」は是の前文であると同時に、筆者の事務所の企業理念ともいうべき項目です。事務所の業務範囲を決めるものともいえます。
 筆者の事務所は、主として特許等産業財産権の特許庁への出願を企業に代理して行う業務を行っています。その他弁理士の業務である知的財産権に関する多くの業務も、すべてお客様のために価値を創造するものです。そういう意味で、この企業理念は事務所の業務を広く適切に捉えた理想的なものだと考えています。

 

2)私達は全所員の物心両面の幸せを追求します

 是の一番目は「私達は全所員の物心両面の幸せを追求します。」となっています。この項目は京セラの創始者稲盛和夫さんの考え方の影響を受けて、2014年11月になってから追加されたものです。
 これは筆者の事務所の経営の基本的な考え方として、働く全所員が幸せになるためにどうすべきかを重要視するという意味です。

 筆者の事務所の是の第二番は「私達は情報を通じて世界に貢献します。」となっています。
 順番が逆だと思われる向きもあろうかと思います。逆ではないという理由は以下のとおりです。

 会社は事業を行うことによって、公のために尽す、世の中のために貢献する義務があります。貢献した結果、その反映として利益が上がって、従業員の幸せがあると考えるのが普通でしょう。
 確かに、社会に貢献できない企業、取引先から相手にされない企業、あるいは、反社会的な団体が、長期間にわたって存続しえないことも明らかです。そうすると、会社の目的の第一番は、社会への貢献だという理屈に行き着きます。
 そういう意味から、筆者の事務所の是の第一番は、長い間「私達は情報を通じて世界に貢献します」となっていました。
 筆者の事務所は国内のみならず、特許等知的財産権に関する仕事で、世界中の企業の利益に貢献するとともに、産業の発展に貢献するという大義名分のある業務を行っています。まさに「世界に貢献している」「社会に貢献している」といっていいでしょう。
 さて、そこに突如一番目が加わったのはなぜか。

 会社として最も大切なことは何か。それは従業員を雇い、定年まで給与・生活の糧を払い続けることなのです。従業員を雇うとき、面接とちょっとした試験で採用を決断します。一旦、雇用したならば、その従業員が辞めると言わない限り、定年まで雇い続けなければなりません。それを実現するには、大きな、大きな努力が必要です。従業員一人でも、それを実現するのは大変です。それが5人、10人、100人、300人と増加すれば、「さらに大変なことになる」といえるでしょう。これほどの大きな社会貢献は、会社の活動としては他にないと断言できます。

 だから、その大きな社会貢献活動を順調に進行させるには、従業員の幸せの追求が一番目に必要なのです。この幸せの追求が成功して、初めて、この大きな社会貢献活動を全うできるからです。ちょっと考えてもわかるのですが、筆者の事務所に勤めたら、所員は皆不満たらたら、皆不幸せになってしまっていては、筆者の事務所は潰れてしまいます。存続不可能です。

 そうすると、従業員の幸せ追求と、情報を通じて世界に貢献するという両社会貢献活動を比較すると、どうしても従業員の幸せ追求が第一番目に来るのです。

 ここで重要なことがあります。幸せの追求は企業のトップ、幹部が行って、その他の従業員に分け与えるものではないということです。トップの指揮の元、従業員自身が自ら努力をして追求していくものだということです。

 

3)どうして物心両面なのか

 では、どうして「物心両面なのか」

 幸せの大きな要素として、物すなわち経済面、給与の高さがあります。しかし、給与やボーナスは「こんなにもらえてうれしいな」と感じても、自分より成績が良くないと思っていた人が、自分と同じ額だと分かった瞬間に不満に変わります。次回のボーナスが同じ額ならば、もう不満になります。世間的にはかなりの高給であったとしても、すぐその額に慣れてしまい、それは当たり前としてさらに高い給与がほしくなります。欲望には限りがないのです。

 幸せは非常に相対的なものなのです。「謙虚に足るを知る」ことが大切なのです。同じ状況でも幸せを感ずる人もあれば、不幸せを感ずる人もあるのです。大事なことは「幸せだなあ」と、自ら宣言することなのです。

 事務所のトップが、所員の幸せのための具体的方針、手段を打ち出し、それを所員が実行することにより、所員の幸せは実現していくのです。あくまで、実行者は所員なのです。どんな仕事をするときにも、幸せの追求は自分のために、自ら行うものと心得るべきなのです。「責任は我にあり」なのです。

 がんばって目標を達成する、気働きで同僚に感謝される、成果を挙げて褒められる、家庭サービスで子供や配偶者が喜ぶ、自己実現を図って幸せを感じる、等々。心の幸せを合わせ持って、初めて真の幸せが得られるのです。

 筆者の事務所における、心の面での教育は、入所時に希望者に対して行われる、目標達成のための勉強会です。心の面を養う典型的な施策といえます。毎週月曜日に行われる朝礼での話も、心の面の幸せに関するものがしばしば出てきます。

 物の幸せ実現のため、筆者はできる限り多くの給料、ボーナスを支給したいと思っています。そのために利益を上げなければなりません。従業員一人一人が、目標を達成する努力をしてもらう必要があります。QCサークル活動(改善活動、註1)は真剣に頑張ってもらわねばなりません。

 例えば、仕事において、誤字脱字があるにもかかわらず、その原稿をお客様へ送付してしまったとします。事務所への信頼が落ちます。度重なれば取引停止になるかもしれません。このような所業は、全所員を不幸のドン底へ落としめることになります。幸せの追求とは正反対のことです。それは、所員が自ら幸せを放棄していることになります。所員全員の一挙手一投足が、所員自身の幸せに直結しているのです。

 以上、「全所員の物心両面の幸せを追求します」が一番目になっている理由でした。

註1:QCサークル活動
従業員が継続的にサービス・仕事などの質の管理・改善を行うグループ活動。

 

 

4)全所員の幸せ追及の具体策
4-1)女性の活躍

 筆者の事務所における女性活躍も全所員の幸せ追求の一環です。
 筆者の事務所の所員の半数以上が女性。ライフイベントで何かと制約がかかりがちな女性も、それぞれの能力を活かして、長く活躍できる職場環境は、事務所の成長発展に不可欠な要素だと考えています。平成29年には筆者の事務所は「岐阜県ワーク・ライフ・バランス推進エクセレント企業」に認定されました。「岐阜県ワーク・ライフ・バランス推進エクセレント企業」は岐阜県が実施する制度で、企業における従業員の仕事と家庭の両立支援や女性の活躍推進等について、特に優れた取り組みを行う企業が認定されるものです。

 筆者の事務所においては、女性リーダーが活躍しています。管理職の比率は現在約22%ですが、女性管理職比率を前年比5%アップすることを目標にしています。
 ほとんどの女性が、結婚・出産後も育休を取得するとともに復帰します。産休・育休からの復帰後、基本的には配置転換はないので、原則、元の職場に戻ることができます。すでに、多くの女性所員が、時短勤務制度や時差出勤制度を活用しながら、仕事と育児を両立させています。もちろん出産・育児を経験した女性リーダーも、数多く活躍しています。

 技術系女子の活躍も目を見張るものがあります。弁理士、特許技術者、特許調査担当者として、機械系、電気系、化学系、情報系、バイオ系分野出身の多くの女性が活躍しています。身に着けた理系の知識・技術力を活かしつつ、常に企業の最先端の技術に触れる仕事です。筆者の事務所では、自動車産業、アミューズメント産業、バイオテクノロジー、精密機器製造業、IT産業等々、幅広い分野のお客様の技術に関わることができます。
 技術者としてのこの仕事の魅力を所員に聞いてみると、

  • 斬新な発明などに出会え、間接的ながらに技術の進歩を感じることができる
  • 様々な分野に精通している理系出身の先輩が多く、未習得の分野であっても安心してチャレンジできる
  • 複雑な事柄についても、説明上手になれる   等々。

 せっかく積み重ねてきた技術者としてのキャリアを、結婚・出産で中断することなく、それぞれの能力を活かして活躍する所員がたくさんいます。

 

4-2)休暇のとりやすい職場風土

 最大で年間20日付与される年次有給休暇の取得率は、現在70%を超えました。残った年次有給休暇は、20日まで翌年に繰り越すことができます。有休のとりやすい雰囲気が、すでに所内に根付いています。順調に有休がとれていない所員に対しては、総務部から「何日までに何日間とってください」という指示が飛びます。時間単位で有給休暇を取得できる制度も取り入れています。

 

4-3)時差出勤

 介護など所員の事情に応じた働き方ができるよう、一定条件のもとで時差出勤制度を実施しています。この制度は、1日の所定労働時間を維持したまま、出勤・退社時間を社員が決めることができる制度です。人それぞれの事情によって、始業時間を7時から11時の間で、自由に設定することが可能です。

 

4-4)在宅勤務

 新型コロナウィルスの蔓延で、筆者の事務所においても、在宅勤務が定着しました。特に通勤距離の長い所員や、子育て中だとか、親の介護が必要な所員にとっては有効な制度です。また、全部門に在宅勤務ができるインフラが整えられています。一定条件のもと、在宅勤務が可能です。岐阜オフィスの在宅勤務の実施率は、35%程度ですが、東京・大阪オフィスでは80~90%です。コロナが収まった現在は、原則週1日は出勤することを義務としています。所員間のコミュニケーションを維持するためですが、この状態を3年間続けてきたことによって、東京・大阪オフィスでは、やはりコミュニケーション不足が課題となっています。週2日出勤制にするだとか、所員どうしが集まるイベントを開催しようと、いったことが検討されています。

 

4-5)お褒めメール

 筆者の事務所では、お褒めに相当する素晴らしいことがあったときには、部門長がその内容を所長に報告します。所長は、その報告事項にコメントをつけて本人にメールします。部門長は、月1件以上お褒め該当事項を見つけ出して報告することが義務付けられています。

 人知れず、苦労して仕上げた仕事があったとします。自部門の上司以外、誰も知らぬうちに時間の経過とともに忘れ去られていくようなことは、特許事務所では珍しいことではありません。しかし、それを部門長がしっかりと把握していて、その苦労の様子を所長に連絡します。所長は「よくやってくれました」とねぎらうとともに、お褒めの言葉をメールします。そうするとどうでしょう。ほとんどの場合、本人から所長あてに、「お褒めのメールとてもうれしく思います。これからの励みになります」というような返信メールがあるのです。苦労が報われたということだと思います。心の幸せにつながっています。
なお、お褒めは部門長のみならず、一般所員が他の所員に対して報告してもいいことになっています。

 

4-6)不適合報告書

 筆者の事務所では、ミスが発生したときには、どのように小さなミスであっても直ちにトップに連絡することが義務付けられています。ミスが隠蔽されたり、自分で解決しようとしたりすると、ミスはどんどん大ごとになってしまうケースが多いからです。トップの判断で最小の被害で納めるためです。そして、必ずその報告書を作成し、経営管理部門とトップがチェックした後で、全所員に回覧します。どのようなミスか、いつ発生したか、どのお客様の件か、どのように対処したか、何が原因か、再発防止の対策はどうするか、が書かれます。

 ミスを限りなくゼロに近づけることによって、事務所の業務品質の向上が図られます。その結果、事務所の経営が健全化され、全所員の幸せにつながるのです。

 

4-7)朝礼

 筆者の事務所では。毎週月曜日の始業時に、全所員が一堂に会して朝礼が行われ、トップの思いを所員に伝えます。東京・大阪の所員及び在宅勤務の所員は、オンラインで参加します。話題は何でもありです。月初であれば、所長が先月の決算の報告をします。売上いくら、利益または赤字がいくらか、その率はいくらかを具体的数字で報告します。

 法改正があればその内容、顧客開拓の報告、お客様からのお褒め、お叱り、新しい所員の紹介、コロナ情報や対策、ミス発生内容、自己啓発に関する話等々です。心の幸せに関する話も多く出ます。

 

4―8)その他

 年2回、他部門の所員との話し合い機会を持つHPCプログラム、年1回の所員旅行、月間所長賞(毎月何か素晴らしいことをやってのけた所員に与えられます)等々です。

 

5)おわりに

 今回は筆者の事務所の是の一番について、述べました。次回以降、二番目、三番目と続けたいと思います。筆者としては55年間、特許事務所を運営してきて、この是は過不足ないように思えるのです。毎週全所員が唱和して、この是に沿った考え方や行動ができれば、筆者の事務所の継続は、かなり長期間にわたってできるのはないかと思っています。ご意見があれば頂戴したいと思います。