判例と中間処理に関する業務の紹介【弁理士コラム】|パテントメディア|オンダ国際特許事務所

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判例と中間処理に関する業務の紹介【弁理士コラム】

 特許16部に所属する鈴木と申します。オンダ国際特許事務所には2013年に入所しました。入所してからは、外国の企業が日本で特許権を取得するための業務、日本の企業が外国で特許権を取得するための業務に主に従事してきました。

 以前の社内勉強会にて紹介した判例の内容と、実際に私が対応した中間処理の内容を絡めて紹介いたします。

 以下で説明する判例は、知財高裁平成28年(行ケ)第10186号審決取消請求事件です。本件は、特許無効審判請求を成立とする審決の取消訴訟であって、進歩性が認められたものです。原告(特許権者)は、パイロットインキ株式会社、株式会社パイロットコーポレーションで、被告(無効審判請求人)は三菱鉛筆株式会社です。擦ることによって書いたものを消すことができるボールペン(フリクションボール)の案件で親しみやすいかと思います。

 判決では、本件発明と引用例1との相違点5に係る容易想到性の判断の誤りが指摘されました。

 本件発明…摩擦体を筆記具の頂部に装着した、フリクションインキを用いた筆記具

 引用例1…摩擦体に関して開示していない、フリクションインキを用いた筆記具

 相違点5…摩擦体を筆記具の頂部に装着した点。

 引用例2…摩擦体(ペンとは別体)について開示している熱変色筆記材セット(熱変色層が消色状態である場合、氷片や冷水等を充填した冷熱ペンを用いて熱変色像を現出させた後、その上面を摩擦具で摩擦することにより像は消去され、摩擦具は消去体として機能)

 引用例3…消しゴムが頂部に装着された筆記具

 裁判所は、「引用発明1と引用発明2は、その構成及び筆跡の形成に関する機能において大きく異なるものといえるから、当業者において引用発明1に引用発明2を組み合わせることを発想するとはおよそ考え難い」、「仮に、当業者が引用発明1に引用発明2を組み合わせたとしても、引用発明2の摩擦具9は、筆記具とは別体のものであるから、引用発明1の筆記具と、これとは別体の、エラストマー又はプラスチック発泡体を用いた摩擦部を備えた摩擦具9(摩擦体)を共に提供する構成を想到するにとどまり、摩擦体を筆記具の後部又はキャップの頂部に装着して筆記具と一体のものとして提供する相違点5に係る本件発明の構成には至らない」、「また、当業者において、摩擦具9の提供の手段として、引用例3等に記載された、摩擦具9とは性質を異にする、単に筆跡を消去するものを筆記具の後部ないしキャップに装着する構成の適用を動機付けられることも考え難い」、「引用発明1に基づき、2つの段階を経て相違点5に係る本件発明1の構成に至ることは、格別な努力を要するものといえ、当業者にとって容易であったということはできない」といった認定をしました。

 実際の中間処理において上記判例を踏まえて意見書を書いた場合に、これについて、どの程度審査官が考慮したかは判断が難しいかもしれませんが、以下2件紹介いたします。

 1件目では、上記判例において、引用例1と引用例2とを組み合わせたことで本願の構成から離れてしまうこととなった点を踏まえて意見書を書いてみました。こちらについては、請求項1を補正することなく意見書のみで反論して特許査定が得られました。本願発明は、「タッチセンサを介した入力と、無線スキャナを介した入力とのいずれも行われ得る状況下において、好適にタッチスキャンと無線スキャンとの間の干渉を抑制する」といったものでした。これに対し、引用文献2は、タッチセンサと無線スキャナとを用いた施錠解錠を行うセキュリティシステムの発明で、無線スキャナでのスキャンを行って、次いで、タッチセンサでのスキャンを行うというように施錠解錠のためにどのような順番でタッチセンサによるスキャンと無線スキャナによるスキャンを行うのかについて予め定めている発明でした。そして、意見書では、引用文献2を引用文献1に組み合わせることは、本願発明の技術的思想から離れていく旨主張しました。

 2件目では、上記判例において、引用例3(消しゴムが頂部に装着された筆記具)が摩擦体を筆記具の頂部に装着する点の構成に関して引用された(引用文献を上位概念化して他の引用文献と組み合わせた点)が、裁判所はこの点について特許権者に好意的な判断をした点を踏まえて意見書を書いてみました。特許査定が得られた本願発明は、スマートフォンのロック画面を指でなぞって図形(三角形等の図形で、大きさは問わない)を描いてロックを解除する発明に関するもので、入力ジェスチャの方向変化の判定を、複数のユーザジェスチャのうちの1つ以上における速度に基づいて行うといった発明です。こちらは進歩性違反が指摘された従属請求項で請求項1を限定して進歩性を主張したところ特許査定が得られました。具体的には、引用文献には入力パターンとセキュリティパターンとの一致の判定を、速度に基づいて行うことが記載されているに過ぎず、本願発明のように、入力パターンの方向変化の判定を速度に基づいて行うことが記載されているものではない旨主張を行いました。審査官の認定を鵜呑みにすることなく(審査官は引用文献又は本願発明を上位概念化して捉える場合がある)、本願と引用文献との違いが何かないか丹念に見ていくことが肝要ではないかと思いました(上記判例により取り消された審決では、摩擦体を筆記具の後部ないしキャップに装着する構成は周知慣用の構造である、と言われたが、本件訴訟では、消しゴムを筆記具の後部ないしキャップに装着することは、周知と言えるが、摩擦具を筆記具の後部ないしキャップに装着することは当業者に周知の構成であったということはできないとされました)。

 以上判例と中間処理に関する業務を紹介いたしました。少しでも興味を持っていただけましたら幸いです。