「先の特許出願を参照すべき旨を主張する方法による特許出願」の使い道を模索して【弁理士コラム】|パテントメディア|オンダ国際特許事務所

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「先の特許出願を参照すべき旨を主張する方法による特許出願」の使い道を模索して【弁理士コラム】

2016年1月
弁理士 岡田恭伸

国内特許第2部所属の岡田です。私は、弁理士になって6年、オンダ国際特許事務所に入所して4年が経過しようとしています。弁理士としてもオンダ国際特許事務所の所員としても、若輩者ですが、今回書く機会を与えて頂きました。
このコラムでは、「少し柔らかめの内容で時事ネタ等を取り上げる」という執筆依頼でしたので、色々と悩んだ結果、平成27年の特許法等改正について触れようと思います。

さて、平成27年の特許法等の改正では、職務発明の特許を受ける権利の帰属に関する規定の改正と特許法条約加入に伴う法整備等が主な改正点となっております。これらを真面目に解説すると「少し柔らかめの内容」の「コラム」とはならず、また記載量が収まらないので、今回は、誰も積極的に取り上げられることがないであろうポイントを、敢えて取り上げようと思います。

そのポイントとは、特許法条約加入に伴って新たに追加された「先の特許出願を参照すべき旨を主張する方法による特許出願」です。以降、参照出願と言います。これは、特許法条約では第5条(7)関係に対応し、特許法では新設された第38条の3等に規定されております。

参照出願とは、ざっくり言えば、出願と同時に先の特許出願に関する情報が記載された書面を提出すれば、明細書や図面を添付しなくても、出願日を認定してくれる制度です。ただし、出願日から省令で定める期間内に、明細書及び必要な図面と、先の特許出願に関し省令で定める書類(先の特許出願の認証された謄本を想定)とを提出する必要があります。この場合、後から提出する明細書及び必要な図面に記載した事項(以降、後出し記載事項と言います)が、先の特許出願(参照先の特許出願)の明細書等に記載した事項の範囲内にない場合には、後から提出する明細書等の提出日が出願日に繰り下がります。

さて、この参照出願制度について、皆様の印象はいかがでしょうか。私の印象は、率直に言って「使えない」でした。
というのも、仮に後出し記載事項が、先の特許出願の明細書等に記載した事項の範囲内であれば、先の特許出願の分割出願で問題ない(むしろ出願日が遡及する分だけ有利)と思われます。一方、仮に後出し記載事項が、先の特許出願の明細書等に記載した事項の範囲外となるのであれば、先の特許出願を基礎とする優先権主張出願又は単独の特許出願を行った方が、手続的にも実体的にもメリットが大きいと思われます。となると、分割出願制度や優先権主張制度が整っている日本においては、参照出願の出番はないのではないかと思いました。実際、法改正の説明会において特許庁の担当者の方も、使用されることはあまりないと思われる、という心証だったと記憶しています。

とは言え、せっかく新しく導入されるのだから、何か使い道がないかを模索してみました。愚考ながらその一例を以下に示します。なお、下記の例は、非常に特殊な前提が含まれています。また、実際に使えるかどうかは定かではない点を予めご了承願います。

分割出願が許されない場面で分割出願の代用品として使う。

例えば、明細書に発明a,bが記載され、特許請求の範囲に発明aのみが記載された特許出願Aについて早期審査を行い、特許出願Aの出願公開前に発明aについて特許査定となり、登録されたとします。

その後、事情が変わって、特許出願Aに関する公報(特許公報又は公開公報のいずれか早い方)が発行される直前に、発明bの特許権が欲しくなりました。この場合、特許出願Aは既に登録されてしまっているため、分割出願はできません。また、特許出願Aの出願データは、特殊な事情によって入手に時間が掛かりそうで、公報発行日前の入手は困難だとします。

このような場合、まず公報発行日前に、出願データの入手を待たずして、特許出願Aを参照する参照出願Bを行います。出願自体は、先の特許出願の出願番号さえ分かればできるものと思われます。その後(公報発行後でもOK)、特許出願Aの出願データを入手し、その出願データに基づいて、明細書及び図面等を提出します。これにより、少なくとも特許出願Aに関する公報発行による発明bの新規性喪失によって、発明bの権利取得ができなくなる事態を回避できるのではないかと考えました。

もっとも、参照出願は、分割出願のような遡及効が認められているわけではありませんので、参照出願Bの出願日は、特許出願Aの出願日となるわけではなく、現実の出願日です。このため、当然のことながら、参照出願Bの出願日よりも前に発明bが既に知られていれば権利は取得できません。

なお、条文上は、参照出願時における先の特許出願の状態については特に明記されていないため、参照される先の特許出願は、参照出願時において登録されていてもよいものと理解しましたが、確証はありません。これについては、今後発表されるであろう具体的な運用方針等といった最新の情報に基づいて判断する必要があります。
他のケースもいくつか考えてみましたが、残念ながら、いずれも特殊なケースであったり、ベストな選択でなかったりしたので、割愛します。

以上のことから、私の考える限りでは、参照出願は今のところ、弁理士の試験勉強でのみ登場するぐらいのトリビア的な存在だと思います。もっとも、トリビア的な存在と思っているので、このコラムに登場しており、実務上使えそうであれば、このようなコラムではなく、しかるべきところでちゃんと書く必要があるのですが。
このコラムが皆様の参照出願の理解に少しでもお役に立てば幸いです。最後になりますが、このようなマニアックな制度の解説を最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

以上