ハイブリッド知財戦略®のご提案 第一部 (意匠セミナー開催報告を兼ねて)|お知らせ|オンダ国際特許事務所

ハイブリッド知財戦略®のご提案 第一部 (意匠セミナー開催報告を兼ねて)|お知らせ|オンダ国際特許事務所

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ハイブリッド知財戦略®のご提案 第一部 (意匠セミナー開催報告を兼ねて)

(パテントメディア2015年1月発行第102号掲載)
意匠部 部長 弁理士 森 有希
営業企画部 部長 佐藤 隆

昨年8月~9月に掛けて開催した意匠セミナーの概要報告と併せ、オンダ国際特許事務所(以下、オンダと略称する)の新たな知財戦略を提唱いたします。
オンダの新たな知財戦略の提唱、それは今回のセミナーテーマである「~特許のウィークポイントを意匠でカバーする~ 特許+意匠 ハイブリッド知財戦略®のすゝめ」です。
オンダでは、事務所開業以来、意匠権の活用や意匠法独特の関連意匠・部分意匠制度を活用した出願戦略に加え、特許と意匠の相補的活用を提唱してきました。企業様の開発成果を効果的に保護するために、『形あるものは特許権だけでなく意匠権での保護も併せて考える』というのが、オンダのポリシーとなっています。
近年、特に特許出願から意匠への出願変更の審査傾向が従来とは変化してきていることもあり、改めてオンダの意匠出願戦略として提唱すべくセミナーを開催いたしました。

今回のセミナーでは、まず始めに会長の恩田博宣が、「特許と意匠の比較」として、特許と意匠それぞれの制度上の特徴や権利の効力・範囲の違いを整理して解説しました。
続いて、意匠部長である弁理士の森有希が、メインテーマであるハイブリッド知財戦略®について、「意匠の特許的活用」と「特許から意匠への出願変更の活用」の二つの観点から解説をしました。
最後に、2015年から我が国でも受付開始が予定されている『意匠の国際登録に関するハーグ協定のジュネーブ改正協定(以下、「ジュネーブ改正協定」)』に基づく意匠の国際出願についての情報と利用上の留意点もご紹介しました。
いささか長文となりますので、本号と次号の二回に分けてご紹介いたします。

1.特許と意匠の比較

まず最初に、ハイブリッド知財戦略®の解説に入る前に、特許との比較の中で意匠の基本的な事項を確認・復習しました。

(1)保護対象

例えば、保護対象の相違に関しては、意匠の保護対象で通常問題とされるのは、(a)物品性、 (b)形態性、(c)美感、 (d) 視覚性(視認性)の4点です。
(a)物品性に関していえば、意匠法上の物品とは、独立して取引可能な有体物・動産であり、工業的手法により反復量産可能なものとされています。
また、(c)の美感の問題に関していえば、少なくとも我が国においては、何らかの印象・趣味感を与えるような美的処理が施されていれば足りるとするのが通説です。したがって、我が国においては、美感の無い意匠など存在しないに等しく、機能美を有する意匠であれば、登録対象になり得ると考えられます。
今回のハイブリッド知財戦略®で重要なポイントは、我が国においては機能的な部品・部位についても意匠での保護が可能だという点です(欧州などでは、デザインの良さが購買動機につながるという意味での「装飾性」が求められます)。
なお、(d)の視覚性(視認性)に関しては、微細・微小な物品についての取扱いがありますが、これも取引上拡大観察するのが通常であれば視覚性(視認性)ありと判断された判例があり(平成17年(行ケ)第10679号「コネクター接続端子事件」)、登録例も多く存在します。また、外観を保護する意匠制度の観点からすると、常には見えない内部構造などは登録されませんが、冷蔵庫のようにドアを開けば見ることができる内部は登録対象となり得ます。
また、部品の意匠の場合には、先に述べた独立取引されるものかどうかに加え、当該部品が他の部品と組み合わされたり、完成品に組み込まれたりした状態、さらには流通過程において、意匠の特徴部分が外部から視認できるか否かが、問題となる可能性があります(平成15年(ネ)第1119号 「減速機付きモーター事件」)。

(2)審査の流れと期間、登録率

特許では一定期間内に審査請求が必要であって、一次の審査期間が平均11ヶ月程度とされているのに対し、意匠では審査請求は不要であり審査期間が約6.4ヶ月程度です。
また、権利化までの期間も、特許の平均29.6ヶ月程度(2012年度)に対し、意匠は6.4ヶ月(2013年度)です。また、それぞれの登録率については、特許は69.8%、意匠は90.6%です(以上、特許行政年次報告書2014年版より)。
なお、権利の存続期間については、原則として、特許は出願日から20年ですが、意匠は登録日から20年ですから、同時に出願したとしたら、意匠権の存続期間の方が長くなります。

(3)費用

一件あたりの出願・権利維持コストは、通常意匠の方が安いですが、意匠は一意匠一出願のため、複数件出願すると特許より高額になる場合があります。

  特許 意匠
出願料
(印紙代)
¥15,000 ¥16,000
(秘密意匠は+¥5,100)
審査請求料
(印紙代)
¥118,000+¥4,000×請求項数 不要
登録料
(印紙代)
20年分の特許料:¥830,000
(H16.4.1以降の審査請求で、請求項数1とした場合)
20年分の登録料:¥312,800
(4)その他

以上のほかに、出願手続き・必要書類・新規性と進歩性(創作非容易性)・補正の融通性・効力と属否の判断・秘匿性(公開制度の有無・拒絶審決の公開)などについても総合的に比較検討しました。
例えば、特許の「進歩性」と意匠の「創作非容易性」の比較においては、一般に、後者が“ハードル”が低いと考えられ、特許では進歩性欠如と判断されるものが、意匠では創作が容易ではなかったと見做され、登録されるケースがあります。
また、補正の融通性では、特許では最初の拒絶理由通知後は所定の補正制限が課されるものの、査定謄本送達前までは原則願書に最初に添付した明細書・特許請求の範囲・図面の範囲内で補正が可能で融通性があります。一方、意匠は、願書はもとより、図面についての補正も、殆どの場合要旨変更と判断されるため、融通性に欠けます。
さらに、意匠においては、出願意匠が一つの意匠としてまとまっている限りは、それを複数の意匠に分割したり、或いは全体意匠の出願を部分意匠に変更したりするような補正も認められていません。
以上のような特許と意匠との相違を総合的に比較した上で、図1に示すように意匠の時期的・質的メリットを活かした知財戦略を提唱しました。

2.ハイブリッド知財戦略®その1(意匠の特許的活用)

ここでは、先の特許と意匠の比較に基づき、以下のように意匠の時期的メリットと質的メリットを生かしながら、特許と相補的に活用することの解説・提案をしました。

ハイブリッド知財戦略®のご提案 第一部 (意匠セミナー開催報告を兼ねて) | オンダ国際特許事務所の活動【図1】
ハイブリッド知財戦略®のご提案 第一部 (意匠セミナー開催報告を兼ねて) | オンダ国際特許事務所の活動ハイブリッド知財戦略®のご提案 第一部 (意匠セミナー開催報告を兼ねて) | オンダ国際特許事務所の活動

なお、セミナーでは、意匠活用の上で、重要な制度である関連意匠制度・部分意匠制度の基本的な事項を事例に基づき復習しましたが、これらについては当所の過去のセミナーや出版物で紹介しておりますので、本稿では割愛します。
結論としては、全体意匠のみならず、部品の意匠や部分意匠、さらにはそれらの関連意匠を重畳的・総合的に活用する。また、意匠を特許的に活用するという観点から、意匠で機能的保護を図ることを考える、というのがオンダの推奨です。
この総合的な制度活用を前提としながら、特に皆様から良く質問される事項や、上手く活用する上でのポイント・注意点を、以下に簡単に紹介します。

(a)意匠の特許的活用に適した発明とは?どのように出願する?

①開発技術を実現するために不可欠な形状やレイアウトがある場合
→不可欠な形状を部分意匠で保護します
②開発技術を実現するための形状やレイアウトにはバリエーションがあるが、その程度が限定的である場合
→限定的バリエーションを関連意匠で保護します

(b)関連意匠はどこまで、どの程度出願すべきか?

基本的には、当該意匠の新規性の度合やビジネス上の重要性によって程度は異なるものですが、多くのバリエーションが想定される場合には、機能性・製造コスト・省スペース・見た目の良さなど、製品に求められる複数の観点から評価して絞り込むと良いでしょう。
なお、関連意匠を多く登録すると、権利範囲が広く・強く安定的になりますが、その分だけ維持費用(年金)が嵩みます。このような場合には、登録後にそれぞれの意匠がカバーしている範囲に配慮しながら幾つかの関連意匠の権利維持を見送ることで、権利範囲への影響を極力排除しながら節約する方法もあります。

(c)バリエーションの範囲が広すぎて、全てを関連意匠で保護することが困難なときはどうすべきか?

このような場合には、必ずしも全てを関連意匠で保護を図る必要はありません。たとえば、全体意匠と部分意匠に出願の方法を分けて保護を図るのも一策です。或いは、バリエーション間で共通する形状があれば、その部分を部分意匠で保護する方法もあるでしょう。また、サイズバリエーションが豊富な場合、市場参入に際して絶対必要な基本サイズや最も多く売れるサイズがあれば、そのサイズだけ保護しておく方法も考えられます。

ハイブリッド知財戦略®のご提案 第一部 (意匠セミナー開催報告を兼ねて) | オンダ国際特許事務所の活動【図2】

(d)部品意匠か部分意匠かどちらで出願すべきか?

部品意匠で出願すべか、それとも部分意匠で出願すべきか?
これは上記1. で解説しましたが、その判断ポイントは、①単独流通性、②流通過程における視認性、③「部品」と「完成品」の物品の類否ですが、このチェックポイントを判断フローとして示すと図2のようになります。

(e)全体意匠と部分意匠とではどちらが有効か?

全体意匠と部分意匠との範囲の広狭を考えると、一般的には(例外もありますが)次のようなことがいえると思われます。
全体意匠は、多くのデザイン要素から構成されているため、部分的に多少の違いがあっても全体としては似通った(類似の)印象を受けることになります。
一方、部分意匠は、一般に対象範囲が狭く、その特徴部分が顕在化してくるため、微細な相違で対象範囲全体が異なった(非類似の)印象を受けることになります。これを、範囲・効力・出願目的で表すと図3のようになります。

ハイブリッド知財戦略®のご提案 第一部 (意匠セミナー開催報告を兼ねて) | オンダ国際特許事務所の活動
【図3】

さて、それでは特許出願と意匠出願を、双方のメリットを生かしながら出願・活用するには、どのように考えれば良いか? 評価すべき項目と意匠の出願方針・内容を一覧で示すと図4のようになります。

特許性 評価 意匠出願方針 策定
・特許性高 ・意匠では実施形状の保護をメインに
(全体意匠、部分意匠の範囲大)
・特許性低 ・意匠で技術的特徴点も保護(部分意匠)
・特許請求の範囲が狭くなりそう
・特許では完成品を保護 ・意匠では部品を保護
・特許では部品を保護 ・意匠では完成品を保護

【図4】

ここで特許と意匠のそれぞれの特徴を生かして、ハイブリッドに保護した事例を紹介します。

事例1.「位置決め装置」に関する特許と意匠出願
この事例は、ワーク(加工材料)を加工台上に支持固定する際に用いられる位置決め装置であって、ワーク側に設けられた係合凹部に係合するボール部を備えたものです(図5参照)。
特許は「位置決め装置」として出願され、この装置が半導体製造装置など真空環境下で使用される際に、装置内に余分な空気が溜まらないようにガス抜き開口部やガス抜き孔を設けたことが特徴になっています(本事例は、オンダが代理した案件でありますが、出願人である「鍋屋バイテック株式会社」様のご了承をいただき紹介させていただいております)。

ハイブリッド知財戦略®のご提案 第一部 (意匠セミナー開催報告を兼ねて) | オンダ国際特許事務所の活動【図5】

一方、意匠ではその位置決め装置を構成する「位置決め用ネジ」などとして出願・登録されています。

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本意匠は、特許出願図面に開示されたものとほぼ同等の意匠ですが、特徴となるボールを含む先端部分を登録を受けようとする部分(上図の断面図におけるグレーの着色部分)とし、その外の周面ネジ状の本体部は破線とした部分意匠出願です。そして、関連意匠1は、本意匠では2個(一対)であったガス抜き用のスリットが4個(二対)に変更されています。また、関連意匠2は、本体形状のプロポーションそのものも異なっていますが、物品名も「ボールプランジャー」に変更されています。さらに、関連意匠3は、物品名が「位置決め用ボルト」となり、形状もボルト状をなすばかりか、先端のボールには切欠きも施されています。このように、意匠においては、部分意匠を活用し、登録を受けようとする部分のみならず、登録を受けようとする部分以外の形状も大きく変化させ、さらには物品も当該技術が適用可能な類似の物品にまで変更展開しています。これにより、形状的にも物品的にも、意匠の範が広く及ぶことを確認できているのです。

また、以下に示す特許の請求項との比較においても、請求項の概念を意匠出願にも取り込んでいる上に、関連意匠1では請求項3を受けて、その範囲に属する二対に(一対は二対を含む)変化させて登録を図っています。

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さて、この事例に該当する製品は、すでに販売されていますが、特許出願と意匠出願とを同時に行ったことで、すでに意匠については登録されており、特許権が成立するまでは意匠権で保護を図ることが可能です。また、特許と意匠が同時に出願されても、特許の存続期間は出願から20年であるため、登録から20年とする意匠権より短くなりますが、特許権消滅後のブランクを意匠権がカバーしてくれることになります。

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さて、本号でのご紹介は以上ですが、次号では「ハイブリッド知財戦略®その2」として、特許から意匠への出願変更の活用方法をご紹介いたします。

最後に、セミナー開催にあたり、事例紹介をご快諾いただきました「鍋屋バイテック株式会社」様に、改めてお礼を申し上げます。

(注)本記事の内容は、セミナー開催時の2014年8月時点での法律・規則及び弊所保有情報に基づくものです。随時、改正・変更される可能性がありますので、手続き・ご判断にあたっては、最新の情報を入手されるようご留意ください。

以上