新たな知財戦略の提案 第二部(意匠セミナー開催報告を兼ねて)|お知らせ|オンダ国際特許事務所

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新たな知財戦略の提案 第二部(意匠セミナー開催報告を兼ねて)

(パテントメディア2015年5月発行第103号掲載)
意匠部 部長 弁理士 森 有希
営業企画部 部長 佐藤 隆

 さて、先号において、2014年の8月から9月に掛けて開催した意匠セミナーの概要報告と併せて、オンダの新たな知財戦略をご紹介しました。
 本号ではその第二部として、特許から意匠への出願変更の活用を提唱する「ハイブリッド知財戦略その2」と、2015年5月13日より受付が開始される「ハーグ協定・ジュネーブ改正協定に基づく意匠の国際出願」について簡単にご紹介いたします。

3.ハイブリッド知財戦略その2  (特許から意匠への出願変更の活用)

 ここでは、特許は権利化に時間を要するというデメリットを逆手に採って、最近の登録事例や判決を踏まえながら、特許から意匠への出願変更の活用を提案しました。

(a)特許出願から意匠への変更の考え方

 オンダでは、従来から特許出願と意匠出願の相補的活用を推奨してきており、意匠と特許の併用出願や、変更出願も多数実績を重ねています。
 開発製品について、予め実施品や他社の参入を予測したバリエーションデザインの展開が可能な場合には、製品全体の意匠から部品の意匠、さらには部分意匠や関連意匠を活用することで、総合的且つ効果的な意匠権利網を構築することが可能となります。
 しかし、開発製品そのものに複数のデザインがあったり、或いは実施品が定まっていなかったりする場合、さらには新規な構成部品が多数含まれている場合、事業予測(成果)が定かでない段階で、多くの意匠出願することは経費的に躊躇されます。このような場合には、まずは最低限必要な意匠出願を行うと共に、その他のデザイン(意匠出願)候補については、暫定的に特許に含めて出願する方法があります(含める意匠によって出願日を注意する必要があります)。こうすることで、後に実施品が確定した段階や、第三者の参入状況を判断しながら、適宜特許出願から必要な意匠を分割・変更し、第三者の参入を阻止できる有効な権利網を確保することが可能となります。最終的な費用が、最初から意匠網を構築した場合よりも高くなるおそれもありますが、必要な権利を時期に応じた妥当なコストで構築できるメリットがあります。
 このように、特許から意匠への変更出願は、出願戦略上極めて有効な手段でありますが、これまで企業様での活用頻度は低かったように思います。それは何故でしょうか?
 第一の理由は、変更する意匠を特許出願中にどの程度表しておけば良いか判らない、そのため特許出願中の開示図面から確実に意匠に変更できるか不安(リスク)がある、ということだと思います。
 もちろん、皆様は意匠出願と同等の図面が開示されていれば問題ないことは百も承知です。しかし、そのようにすれば必然的に特許図面の図数が増加する上に、時には含めた意匠の説明のために明細書の文章量も増えることになります。結局手間もコストも増加するため、出願変更戦略を躊躇させざるを得なくなります。その結果、意匠への変更の経験が得られず、変更への不安(リスク)だけが先だつという悪循環に陥っていると思われます。
 また、第二の理由は、部分意匠制度導入の影響です。平成10年に部分意匠制度が導入された際に、特許出願から部分意匠出願への変更を行う場合の図面の表現が問題となりました。その際、オンダが確認した特許庁の回答要旨は次のようなものでした。
 『特許出願中に全体図(全体意匠)が表されている場合に、それに基づき部分意匠に変更することはできない。部分意匠に変更するのであれば、特許出願の図面を意匠出願の際と同様に登録を受けようとする部分とその他の部分を区別して表す必要がある。線図で表すのであれば実線と破線とで描き分けた図を表しておくことになる。』
 しかし、このように部分意匠を想定した図を予め特許出願中に表しておくことは、現実的ではありません。このような図が含まれた特許出願が公開されれば、第三者にとって出願人が部分意匠への変更を意図していることを容易に察知することができることとなります。加えて、このような図を含ましめることは、先に述べたように図数や明細書の増加、ひいては時間・コストの増加を招くことが明らかです。これも、出願変更の活用を妨げる要因となっていました。
 もっとも、第一の理由については、やはり活用経験不足の影響があります。特許から意匠に変更可能な程度の図面とは、意匠出願用の図面をそのまま含ましめておく必要はありません。意匠変更対象の全体の形状が把握できれば、現在の意匠出願で許容されている斜視図2図で足りる場合もあるし、6面の図が無くとも複数の図の併用で特定されていたり、さらには明細書中に文言で形状について特定や説明が補完されていれば、それで足りる場合もあります。要は、全体形状が充分に特定されているか否かが重要なのです。これを理解しておけば、特許から実に多くの意匠への変更を試みることが可能となります。

(b)特許出願から意匠への変更の判断基準の変化

 最近の登録例・審判決例によれば、特許から意匠への変更の、特に図面に関する判断が、さらに大きく変化してきています。これらを研究すると、特許出願から意匠への変更が、効果的な意匠権を確保する上で、実に有効な手段であることを理解いただけます。事例によっては、意匠出願しておいた場合よりも、権利確保の自由度が高いと言える場合さえあります。
 下記にセミナーで紹介した事例を示します。

事例2.注射器用ピストンに関する特許出願と出願変更された意匠

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 この事例は、「注射器用ピストン」に関する特許出願(左欄図1~4参照)から3件の意匠(右欄変更意匠①~③)を分割・変更した事例です。
 変更意匠①は、特許出願に開示されていた、ピストンの全体の図に基づいて、そのまま全体意匠に変更したものです。
 一方、変更意匠②では、ピストンの周囲に設けられたリング状突起が変更意匠①では3個であったものが、2個に変更されています。原特許出願の図面には、リング状突起が2個の図は表されていなかったのですが、明細書中に「2個以上であれば良い」と記載されていたのを根拠として変更し、登録されているのです。リング状突起が2個と言っても、突起の径・幅・間隔などは種々考え得ると思われますが…。さらに、変更意匠③では、リング状突起の部分を実線で、その他の部分を破線で表した、部分意匠に変更されているのです。この変更意匠③を見る限り、特許庁は先に述べた部分意匠制度導入時の『全体の図から部分意匠への変更はできない』とする判断を変更したと考えざるを得ません。
 なお、このような登録例は製品の外形形状に係わるものだけではなく、画像デザインと称せられる意匠についても登録されています。実質的に保護対象が画面に表示される画像であるからだと思われますが、特許出願時には図も表されてもいない表示媒体(ディスプレイや製品)の外形形状を、意匠変更時に破線で描いた登録例が存在します。例えば、遊技機の管理装置に関する特許出願からその管理情報が表示された画像デザインに変更したり、ゲーム機に関する特許出願から設定画面の画像デザインを複数のゲーム機本体の意匠に展開・変更したりした事例も存在します。
 なお、近年の登録例を研究してみますと、無制限に変更を認めている訳ではなく、変更される意匠の形状が、他の図や明細書中に文言でサポートされていることが重要であると思われます。例えば、部分意匠に変更したい部分があるとするならば、その部分を含む物品と、その部分の機能・用途が、特許出願から特定できる必要があると考えています。

(c)出願変更を利用した他社対策

 次に、特許は権利化に時間を要するという時期的なデメリットを逆手に採って、特許からの意匠への分割・変更を上手く活用した事例を紹介します。

事例3.角度調整金具に関する判例(大阪高裁平成24年(ネ)第1872号)

 この事件は、下図に示すような、角度調整金具に関する意匠権侵害差止請求事件です。
 この事件は、2件の原告意匠権に基づき、4件の被告意匠(イ号とロ-1, 2, 3号)の実施の差止を求めた事案でした(下図、参照)。
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 争点となったのは、大別すると以下の3点です。

(a) ・イ号意匠が本件意匠1に類似するか否か
   ・ロ-1, 2, 3号の意匠が本件意匠2に類似するか否か
(b) 本件意匠1及び2は、無効とされるべきか
  →(特許出願の分割要件違反があるか、意匠への出願変更は適法か)
(c) 本件意匠1は、意匠法上の物品といえるか(互換性・独立取引の有無)

 結論は、(a)についてイ号意匠は本件意匠1に、ロ-1, 2号意匠は本件意匠2に類似すると求められましたが、ロ-3号意匠は類似しないとされました。
 特に注目すべきは、本件意匠の成立背景と、それに関する上記(b)の争点です。
 実は、本件意匠は、初めから意匠出願がなされていたのではなく、特許出願からの分割・変更による意匠でした。しかも、下図に示すように、原特許出願(乙1)の子出願(1世代)3件の内の1件を変更したものが本件意匠1で、さらに子出願を分割した3件の孫出願(第2世代)の1件を変更したものが本件意匠2でした。
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 当事者の主張を整理して時系列に表すと、次のようになります。
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 これから明らかなように、被告も特許出願と意匠出願を複数件行っていたのですが、被告のイ号やロ-各号の販売後に、原告は先行した自己の特許出願1件から複数の特許出願、さらにはそれを意匠出願に変更することによって、実に効果的に権利を獲得・行使をしたと言えます。
 なお、上記(b)記載の争点である、原告の特許出願からの分割要件違反や変更出願の適法性についての被告の主張は認められませんでした。
 この判決で、もう一つ重要な判示がなされています。それは、上記(c)の本件意匠1の物品性に係る問題です。ハイブリッド知財戦略1の項目でも述べたように、特に部品の意匠においては、その単独流通性が問題になります。本件においても、被告から本件意匠1について、物品性(単独流通性)が認められないとの主張がなされましたが、裁判所は認めませんでした。
 これには、被告自らもイ,ロ号意匠について出願していることも判断理由となっていますが、併せて次のような判示もなされています。
 『新しい商品が発売された場合に、その商品を構成する部品については、互換性は提供されていないのが通常であることを鑑みると、部品について意匠登録が認められるために、意匠出願の時点で、現に独立取引の対象となっており、互換性があることまでは必要なく、その可能性があれば足りると解すべきである。』

 以上の登録例や判決例をみても、特許から意匠への変更が実に有効な戦略になることは間違いないと考えます。
 特に、模倣品対策として早期権利化を図りたい、形状(しかも特徴的な部分)を保護する必要が生じてきた、特許で権利化される可能性が低い、少しでも権利の存続期間を延ばしたい場合などには、知財戦略として一考の余地があると考えます。
 ただし、出願変更に際しては、原特許出願からの分割や変更が適法に行われることに注意する必要がありますし、以下のようなデメリットも考慮しておく必要がありますので、これらを総合的に検討することが求められます。

【出願変更で想定されるデメリット】

①時間と費用…最初から意匠出願した時よりは、登録まで時間・費用を要する。
②優先権の適用…パリ条約の優先権期限(6月)の起算日は、原特許出願の日からとなる。国によっては、変更後の意匠出願で優先権の効果を認めない国がある(中国等)。
③特許出願に開示された意匠と実質的に同一の意匠に限られる上に、上記訴訟事案のように分割・変更要件違反などが争いになる可能性がある。
④最初から意匠出願を行った場合に比べて、権利化が遅れ、その間の牽制効果が低くなる(模倣品が出やすくなる)可能性がある。

 以上から、まずは製品の発表時期に合わせて、必要最低限の意匠出願は行っておき、それでカバーできないときに、次善の策として、特許から意匠への変更出願を利用するのが、適切であると考えます。
 一旦、模倣品が出てしまえば、通常その対処には多くの労力を費やすことになるので、「いかに模倣品を出させないようにするか」が肝要なのです。

4.ハーグ協定・ジュネーブ改正協定に基づく意匠の国際出願について

 101号でもご紹介しましたように、2015年5月13日より我が国でも『ジュネーブ改正協定』が発効し、国際出願の受付が開始されます。

(1)手続きの概要

 5月13日以降は、日本国特許庁を通じて、または直接に国際事務局(WIPO)に出願手続きすることにより、複数の加盟国に対して意匠を一括出願することができるようになります(下図参照)。
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 なお、2015.3.1現在のジュネーブ改正協定加盟国・機関等は、以下の通りです。
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 また、出願から審査・登録の流れは次の通りです。
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 次に、指定国に日本が含まれている場合の日本での審査については、
 (a) 審査の結果、拒絶理由がなければ特許庁はWIPOに対し「保護認容通知」を送付し、意匠登録され、
 (b) 拒絶理由があった場合には、特許庁はWIPOに対し「拒絶通報」を送付し、WIPOから出願人に通知されます。
 なお、前号でもご紹介しましたが、複数意匠を含む国際出願は、日本では意匠毎に個別に出願されたものとして扱われ、権利も個別に発生します。また、日本の秘密意匠制度の適用はされませんが、最長30ヶ月国際公表の繰延が可能です(ただし、後述するように、他の指定国が繰延を認めていない場合や、繰延期間が短い場合は、この限りではありません)。

(2)国際出願のメリットとデメリット
メリット

①手続きが簡便…複数の加盟国に対し、一つの言語、一つの出願で保護を求めることができます。また、一出願に最大100意匠まで含めることが可能です。
②登録(権利化)が早い…原則として国際出願日が国際登録日となります。
③更新等の手続が簡便…登録料及び更新料の支払い、並びに名義変更等の登録原簿の更新は、原則、国際事務局に対し行うことができます。

デメリット

①意匠の公開時期のコントロールが難しい…原則、国際意匠登録出願は、国際登録日(国際出願日)から6ヶ月で国際公開されます。しかも、指定国に公表の繰延を認めない国、或いは繰延期間の短い国が含まれていると、公開時期のコントロールについて、大幅な制約を受けることになります。

②拒絶経過が第三者に閲覧され得る…指定国が実体審査を行う場合、拒絶の理由や引例がWIPOに通知され、閲覧可能となります。そのため、あえて知らせる必要の無い、或いは知られたくない審査経過が探知されるおそれがあります。
③登録年度毎の権利維持管理ができない…国際登録意匠の保護期間は、国際登録日から15年で、国内法がこれより長ければ国内法に従うとされています。そして、更新は5年単位となっていますので、年度毎の維持管理ができません(通常の日本への国内出願であれば一年単位での納付が可能ですが)。
④意匠の出願・保護要件は加盟各国で異なる…「ジュネーブ改正協定」は、単なる手続きの統一条約ですので、結局は意匠の出願・保護要件の判断は加盟各国の判断によることになります。従って、出願前に指定国全てにおいて、出願・保護要件を充たしているか否かについて確認することが困難な場合があります。

 以上のメリット、デメリットを考慮した上で、国際出願を行うべきか否か、また国際出願を行う場合は、その活用法を慎重に検討するのが望ましいと思われます。

 以上で、先号から連続掲載しておりました、オンダの新たな知財戦略についてのご紹介を終了します。これらの記事が、皆様の開発成果を保護する上で一助となれば幸いです。
 ご不明点・ご意見などがございましたら、オンダの意匠部若しくは営業企画部宛にお寄せいただければ幸いです。

(注)本記事の内容は、セミナー開催時の2014年8月時点での法律・規則及び弊所保有情報に基づくものです。随時、改正・変更される可能性がありますので、手続き・ご判断にあたっては、最新の情報を入手されるようご留意ください。

以上