平成22年(行ケ)第10331号 審決取消請求事件 (知財高裁 平成23年4月26日判決)|判例研究/レポート|弁理士法人オンダ国際特許事務所

平成22年(行ケ)第10331号 審決取消請求事件 (知財高裁 平成23年4月26日判決)|判例研究/レポート|弁理士法人オンダ国際特許事務所

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平成22年(行ケ)第10331号 審決取消請求事件 (知財高裁 平成23年4月26日判決)

平成25年4月17日 執筆/平成25年5月23日掲載
弁理士 金森晃宏

1.概要

特許無効審判において維持審決がなされた後に、その審決の取り消しを求めた審決取り消し訴訟で、特許法第36条第6項第2号(明確性)違反を理由に維持審決が取り消された事案である。

※参考(審査基準)
2.2.2.3 第36条第6項第2号違反の類型
(2)発明を特定するための事項に技術的な不備がある結果、発明が不明確となる場合。

②発明を特定するための事項の技術的意味が理解できず、さらに、出願時の技術常識を考慮すると発明を特定するための事項が不足していることが明らかである場合。

発明を特定するための事項の技術的意味とは、発明を特定するための事項が、請求項に係る発明において果たす働きや役割のことを意味し、これを理解するにあたっては、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮する。

2.経緯

[出願]
出願人:ファミリー株式会社

平成19年5月11日 特許出願(特願2002-64823の分割)
平成20年5月7日 拒絶査定
平成20年7月3日 拒絶査定不服審判請求
平成20年8月29日 特許権設定登録

[無効審判]
請求人:株式会社フジ医療器

平成21年10月19日 無効審判請求
平成22年9月13日 維持審決

[審決取消訴訟]
原告:株式会社フジ医療器
被告:ファミリー株式会社(特許権者)

3.本件特許(特許4176812号)
3-1.内容

「【請求項1(本件発明1)】
被施療者が着座するための座部と、該座部に対して後傾可能に設けられて該被施療者の上半身を支持するための背凭れ部と、該背凭れ部の前方に設けられた左右の肘掛け部とを備え、
該肘掛け部は、手のひらを下方に向けた前腕のうち手のひらに連なる部分に対向する第1部分と手の甲に連なる部分に対向する第2部分と小指側に連なる部分に対向する第3部分とを具備すると共に該第3部分に対向する部分が前腕の長手方向に沿って開口して正面視で内側に開いたカバー部を有し、
前記肘掛け部は更に、前記第1部分および前記第2部分のそれぞれに設けられて膨張・収縮する空気袋を有し、手のひらを下方に向けた前腕を前記第1部分に載せた状態で前記空気袋を膨張・収縮させることにより、前記手のひらに連なる部分および前記手の甲に連なる部分に押圧刺激を付与できるように構成され、
更に、前記カバー部が有する少なくとも第2部分は板状部材により構成され、且つ、前記第2部分における左右方向内側部分の前後方向寸法が、前記第3部分の前後方向寸法よりも小さくなるように構成されていることを特徴とするマッサージ機。」

平成22年(行ケ)第10331号 審決取消請求事件 (知財高裁 平成23年4月26日判決) | 2013年

平成22年(行ケ)第10331号 審決取消請求事件 (知財高裁 平成23年4月26日判決) | 2013年

 

なお、上図における第1~第3部分の指示及び方向の指示は筆者記載。また、以下の引用中における二重下線は筆者記載。

3-2.拒絶査定不服審判での主張

出願人は、拒絶査定不服審判請求時の補正で、上記【請求項1】の下線部を限定し、下記の内容を審判請求書で主張している。
「『第2部分における左右方向内側部分の前後方向寸法が、前記第3部分の前後方向寸法よりも小さくなるように構成されている』という構成により、カバー部に置かれた被施療者の前腕を広範囲にわたって覆い、広い施療範囲を確保しつつも、カバー部への前腕の出し入れや、前腕の前後方向の位置調整を容易に行えるようになっています。
より詳しく説明すると、一般に、前腕を挿入するよう内方へ開口する凹状に構成されたカバー部の場合、前腕に対する施療範囲を広く確保しようとすればするほど、カバー部に置いた前腕は該カバー部によって拘束され、カバー部への出し入れが困難になります。特に、カバー部に前腕を置くとき、前腕から上腕に至る腕は、肘を基点に屈曲した姿勢となりますが、上腕の正面部位が手の甲に続く第2部分に干渉してしまう可能性があり、このような事情により、カバー部への出し入れが困難になります。しかしながら、上述したような構成とすると、第2部分における左右方向内側部分の前後方向寸法を小さくしているため、カバー部の第2部分と上腕との間に余剰スペースを形成できるため、両者の干渉が少なくなり、カバー部への前腕の出し入れが非常に容易になります。また、第2部分と上腕との間の余剰スペースにより、前腕をカバー部に置いた状態で、前後方向に位置調整を行うこともできます。」

4.無効審判での明確性についての判断

「本件発明1~4においては,第2部分における左右方向内側部分の前後方向寸法が,第3部分の前後方向寸法よりも小さいことにより,カバー部への前腕の出し入れや前腕の前後方向の位置調整を容易に行えるとの作用効果を奏すると理解できるから,寸法差としてはそのような技術的意義を有するものであれば良く,具体的な寸法差の特定が必要なものでもない。
そうすると,本件発明1~4の『前記第2部分における左右方向内側部分の前後方向寸法が,前記第3部分の前後方向寸法よりも小さくなるように構成されている』という事項は全体として不明確とはいえず,特許法36条6項2号に適合しないものではない。」

5.審決取消訴訟
5-1.原告の主張(明確性要件について)

「本件発明1にいう「前記第2部分における左右方向内側部分の前後方向寸法が,前記第3部分の前後方向寸法よりも小さくなるように」との構成のうちには,第2部分のうち被施療者の上腕側ではない部分が先細りであって被施療者の上腕側は先細りではない形状や,第2部分に大きく切り込みが存在する形状,第2部分のうち被施療者の上腕側が0.1mm程度しか短くない形状などの,被施療者の上腕と第2部分との間に特段の余剰スペースが生じず,被施療者の前腕の出し入れや前腕の前後方向の位置調整を容易に行えないという,本件発明1の作用効果を奏しない構成が含まれる。

5-2.被告(特許権者)の反論(明確性要件について)

「本件発明1においては,第2部分の左右方向内側部分の前後方向寸法が第3部分の前後方向寸法よりも小さくされているため,カバー部の入り口側が奥側よりも小さくなって,カバー部への腕の出し入れが容易になる。このとおり,第2部分の左右方向内側と第3部分との位置関係及び寸法差に技術的意義があるのであって,第2部分と第3部分の境界が具体的にどこにあるかに技術的意義があるわけではない。したがって,本件発明1にいう第2部分と第3部分の境界が必ずしも明らかでないとしても,特許請求の範囲の記載が不明確になるわけではない。
また,物の発明においては,特許請求の範囲の記載に基づいて具体的な物が想定できれば足りるところ,本件発明1の特許請求の範囲の記載から具体的なカバー部の構成が想定できることは明らかである。」

5-3.裁判所の判断

「本件発明1の特許請求の範囲においては,「肘掛け部」の「カバー部」につき,「前記カバー部が有する少なくとも第2部分は板状部材により構成され,且つ,前記第2部分における左右方向内側部分の前後方向寸法が,前記第3部分の前後方向寸法よりも小さくなるように構成されている」と特定されている…(略)…上記構成を備えることによって奏される作用効果は,審決が説示するとおり(12,14,15頁),「肘掛け部25」への前腕の出し入れや前腕の前後方向の位置調整を容易に行うことができるという点にあるということができる。
…(略)…ところで,上記の「『肘掛け部』への前腕の出し入れや前腕の前後方向の位置調整を容易に行うことができる」という作用効果を奏することができるのは,図5の略円板状の部材をその中心付近で略U字状に折り曲げて形成したもののように,「肘掛け部」(ないし「カバー部」)のうち被施療者の手の甲に連なる腕の部分(概ね上面)に対向する「第2部分」の長手方向(腕の長手方向)の長さ(寸法)が,左手であるならば被施療者の小指に連なる腕の部分(概ね側面)に対向する「第3部分」の長手方向の長さ(寸法)よりも有意に短くすることによるものであることが明らかであり,上記「第2部分」の長手方向の長さと上記「第3部分」の長手方向の長さに差異を設けない構成,すなわち円筒を軸方向に二つに切ったような形状の構成では,奏し得ない効果であるということができる。
上記構成は,「第2部分」の長手方向の長さと「第3部分」の長手方向の長さとの間に差異を設けることしか特定しておらず,この差異を設ける「肘掛け部」の形状には種々のものが想定され得るのであって,その外延は当業者においても明確でないといわざるを得ない。…(略)…原告が主張するとおり,「肘掛け部」のうちの「第2部分」の手指側のみを先細りの形状とする場合には,「第2部分」の長手方向の長さが「第3部分」の長手方向の長さよりも短くなるものの,「『肘掛け部』への前腕の出し入れや前腕の前後方向の位置調整を容易に行うことができる」との作用効果を奏することは困難であるし,また,「第2部分」の長手方向の長さと「第3部分」の長手方向の長さとの間に僅かな差異しか設けない場合には,上記作用を奏することができないことは明らかである。
したがって,本件発明1の特許請求の範囲中,「前記カバー部が有する少なくとも第2部分は板状部材により構成され,且つ,前記第2部分における左右方向内側部分の前後方向寸法が,前記第3部分の前後方向寸法よりも小さくなるように構成されている」との構成は,明細書及び図面によっても明確でなく,当業者の技術常識を勘案しても明確でないというべきである。」

6.まとめ(実務上の指針)

上記事案においては、単に第2部分と第3部分との大小関係を限定するのみでは、特許発明が課題を解決できない範囲が含まれるため、その技術的意味が理解できないとして特許法第36条第6項第2号違反であると判断している。
実務上、特許明細書の作成に際して、部材間の大小関係を限定することは比較的多い。そのため、単に大小関係のみを限定すれば課題を解決することができるのか否かを十分検討する必要があるといえる。
ただし、単なる大小関係のみでは足りないと疑われる場合でも、最初(出願時)からメインクレームを必要以上に限定することはせず、サブクレーム等に記載して補正可能な状態としておくことにも留意が必要である。