【判例研究】 AI関連発明についての 知財高裁判決(令和元年(ネ)第10052号 損害賠償等請求控訴事件 (原審 東京地方裁判所平成29年(ワ)第15518号))|パテントメディア|オンダ国際特許事務所

【判例研究】 AI関連発明についての 知財高裁判決(令和元年(ネ)第10052号 損害賠償等請求控訴事件 (原審 東京地方裁判所平成29年(ワ)第15518号))|パテントメディア|オンダ国際特許事務所

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【判例研究】 AI関連発明についての 知財高裁判決(令和元年(ネ)第10052号 損害賠償等請求控訴事件 (原審 東京地方裁判所平成29年(ワ)第15518号))

2021年5月
弁理士 濱名哲也

AI関連特許に関する判例についてご紹介します。
今回は、AI関連発明における侵害立証について検討します。多数の争点がありますが、前提事項をあまり詳しく述べなくても議論し易いところをピックアップしました。

 

(1)事件の概要

X(控訴人、一審原告)は、特許権1~3を取得しました。
Xは、Y(被控訴人、一審被告)の行為について、Xの特許を侵害していると主張し、Yを提訴しました。地裁は、Xの請求を棄却しました。これに対して、Xは、知財高裁に控訴しました。知財高裁は、X等の訴えを棄却しました。

 

(2)特許権
(a)特許権1

特許番号:特許第5737641号
発明の名称:自律型思考パターン生成機

 

(b)特許権2

特許番号:特許第5737642号 
発明の名称:自律型知識向上装置

 

(c)特許権3

特許番号:特許第5807829号 
発明の名称:自律型知識分析器

 

(3)本件発明

今回、取り上げる発明は、特許権2の請求項1に係る発明です。本件発明は、所謂、チャットボットです。

[本件発明]

2A 言語情報をパターンに変換するパターン変換器と、
   パターンおよびパターン間の関係を記録するパターン記録器と、

2B 処理を行うためにパターンを保持するパターン保持器と、
   パターン保持器を制御する制御器と、
   パターン間の関係を処理するパターン間処理器を備え、

2C 入力した言語情報の意味、新規性、真偽および論理の妥当性を評価し、
   自律的に知識を獲得し、知能を向上させる
   人工知能装置。

課題を解決する手段の記載を抜粋します。

この発明における自律型知識向上装置は言語情報をパターンに変換する。言語情報の語は対応するパターンに変換され、単語は語の組合せで表現されるので、単語のパターンは語のパターンの組合せとして表現できる。さらに、文は単語の組合せで表現できるので、文のパターンは単語のパターンの組合せとして表現できる。

人間の思考は語、単語、文および文章によって表現されるが、そのパターンはある程度型が決まっていると考えられる。人間は状況に応じ、判断し行動するが、その思考パターン個々の詳細を見てみると、条件付き論理で表現することが可能である。

条件つき論理をプログラム的に表現すると、下記のようになる。

条件付き論理のプログラム的表現

IF(B=C1)D1、IF(B=C2)D2

上記の意味としては下記となる。

「BがC1のとき」「D1を実行せよ!」、「BがC2のとき」「D2を実行せよ!」

少し具体的な例で示すと、B=天気、C1=晴れ、C2=雨、D1=ハイキングに行く、D2=映画に行くと置くと、「天気が晴れならハイキングに行く。」、「天気が雨なら映画に行く。」とうい思考を表現することができる。B、C1、C2、D1、D2をパターンで表現し、パターン間の接続関係を定義することにより、条件付き論理で表現された人間の思考パターンをパターン間の遷移として表現することができる。

この発明における自律型知識向上装置は、人間の思考をパターンとして表現し、思考の遷移をパターンからパターンの変化として表現する。パターンおよびパターン間の接続関係はパターン記録器に記録され、状況に応じて対応するパターンが呼び出され、対応する処理が実行される。人間の典型的な思考パターン、行動パターン等を予め登録しておくことにより、機械も同様の思考パターン、行動パターンを実施することができる。

思考パターンの変更はパターン記録器に記録したパターンおよびパターン間の接続関係を変更することにより実現できるため、従来技術では必須であったプログラムの変更は不要である。

この発明における自律型知識向上装置は入力された言語情報から人間の思考をパターンおよびパターン間の接続関係として記録し、知識を構築していく。また入力された言語情報の新規性、既に記録している知識との整合・不整合、論理の妥当性等を評価し、有益な情報であると判断した場合には知識に逐次追加していく。これにより、自律型知識向上装置は有益な知識を蓄積し、知識の向上を実現することができる。

(4)被告製品

被告製品は、被告製品のパンフレット、被告製品の紹介ページ、紹介ビデオに基づいて特定されました。被告製品は、「アメリア」と呼ばれるもので、所謂、チャットボットです。判決文に引用されている記載を下記に挙げます。かっこ書きは、筆者の補足です。

  • アメリアが文章をパーツに分解して、各単語の役割と、他の単語との関係を解釈する。
  • (利用者が発した)全ての質問がアメリアの経験や知識に加えられる。
  • アメリアが(人間の)同僚と顧客(ユーザ)とのやりとりを観察し、処理マップを自分で作成する。
  • 顧客に必要な質問を投げかけ、それに対する顧客の回答に応答する。
  • 彼女(アメリア)は同じ言葉の異なる用法を見分けるために文脈をあてはめることで、暗示されている意味を完全に理解します。
  • (アメリアが)自力で問題に対処できない場合、人間の同僚にその問題を引き継ぎます。
  • 生成した処理ステップの使用を管理者が了承すると、直ぐに彼女は同様の質問に対して自分自身で対応できるようになります。
  • (アメリアは)問題の根本を見極めるための的確な質問ができる能力を持っています。
  • (アメリアは)問題を明らかにするために必要な質問を投げかけることで、答えを提示することができます。
  • (アメリアは)事実を明らかにするための的確な質問を発し、人間と同じように問題の明確な性質を顕在化させることができるのです。
  • 知識に対して積極的に論理を当てはめることにより、アメリアは問題を解決することもできます。
  • 彼女(アメリア)が知っている情報の本体に立ち返ることで、自然言語で述べられた質問を元に事実を明らかにするための的確な質問を発し、人間と同じように問題の明確な性質を顕在化させることができるのです。

 

(5)争点

争点の1つは、被告製品が、本件発明の構成2C「入力した言語情報の意味、新規性、真偽および論理の妥当性を評価し、自律的に知識を獲得し、知能を向上させる」を充足するか否か、です。
今回の裁判では、被告製品のパンフレット、被告製品の紹介ビデオ、および、被告製品のウェブサイトの紹介ページが被告製品を特定するための証拠として使われています。
構成2Cの「言語情報の意味の評価」については、X(控訴人)は次の主張を行っています。判決文では、被告製品を「本件装置」と言っています。

本件装置は、「同じ言葉の異なる用法」の中から「最も文脈にあてはまる用法」を見分ける機能を有しているから、「意味を評価する」機能を有している。また、「多種多様な質問や要求を受け付け」、「顧客が求めていることを理解(=意味を評価)し、問題を明らかにするために必要な質問を投げかけ」、「投げかけた質問」及び「回答」を記録して知識を獲得するという一連の動作を実施しているから、本件装置は、「意味を評価し、経験や知識とする質問や回答を知識として獲得している」、すなわち、情報(意味)を評価し、そして知識の獲得を実施しているといえる。

なお、Xは、構成要件2Cに関する要件事項のうち、「言語情報の意味の評価」以外の事項についても本件製品がこれら要件事項を満たすと主張していますが、紙面の都合上、割愛します。

構成2Cの「言語情報の意味の評価」についてのX(控訴人)の主張に対して、裁判所は、次のように判断しました。

本件製品のパンフレット(甲11の2の3頁)の「彼女は同じ言葉の異なる用法を見分けるために文脈をあてはめることで、暗示されている意味を完全に理解します。」との記載は、本件装置が、文脈をあてはめて言葉の用法を見分けているというにすぎず、本件装置が情報(意味)を評価した上で、その評価を踏まえて妥当性が確認された情報を知識として獲得していることを示していると認めることはできない。

また、本件製品の説明ビデオ(甲12の図5)によると、「全ての質問がアメリアの経験や知識に加えられる」のであるから、本件装置が、意味を評価した上で、その評価を踏まえて妥当性が確認された情報を知識として獲得していると認めることはできない。

これに対し、控訴人は、本件製品の紹介ビデオ(甲12の図5)の上記説明について、意味を評価し、その結果に基づいて自律的に有益な知識を獲得する機能を有し、全ての質問を知識として加えるというケースはあり得ると主張するが、上記の説明は、単に全ての質問を知識として加えるという意味に理解するほかなく、本件装置が意味を評価した上で全ての質問を知識として加えるという意味に理解することはできないから、控訴人の主張を採用することはできない。

 

(6)考察
(a)間接的証拠

被告製品はAIを利用した技術であるから、被告製品が行っている内部処理を詳らかに分析することは非常に困難であったと推察できます。X(控訴人)にとって、被告製品を特定するための証拠としては、パンフレット等の間接的な証拠しかなかったと言えます。間接的証拠による侵害立証は無理であるとまでは言えませんが、容易ではないでしょう。間接的証拠の場合、被告製品の特定に推論が入りますが、推論に少しでも飛躍があったり、推論の結果に対して1つでも反証があったりすると、主張は認められません。今回の場合でも、裁判所は、控訴人の推論を否定した形となっています。

AIまたはソフトウェアのような分析し難い技術において特許権の実効性をもたせるために、侵害立証容易性に関して様々なところで議論されています。その1つとして、AIまたはソフトウェアに関する技術における入力や出力によってクレームを構築するというのがあります。本件発明のクレームは抽象的表現であったため、被告製品のあてはめが難しかったという側面があります。

今回は、間接的証拠によって侵害立証は出来ませんでしたが、被告製品を説明するような文書であっても証拠としては十分に使えます。推論に反論の余地がなければ侵害立証できていたでしょう。

 

(b)クレーム解釈

特許について、先行文献に対する技術的貢献が勘案される場合もあります。均等論の適用の場合には、その傾向が強いと感じます。先行技術との対比によって進歩性が議論されます。この場合、発明されたときの背景や課題を踏まえて発明が限定されたり、場合によっては均等論のように発明が拡張されたりする解釈が行われます。今回の裁判において、部分的には明細書を踏まえて議論されていましたが、それが、主たる議論になっていませんでした。

例えば、「入力した言語情報の意味の評価」という構成要件について、被告製品との対比において、明細書の内容からその技術的意義を明らかにして、その上で、被告製品との対比を行うといった従来手法による文言解釈および対比は行われてなかったように感じました。

その理由を考えると、1つには、明細書に基づいても「入力した言語情報の意味の評価」が一体何であるか、明確に定義し難いといった事情があったのではと思料します。

AI技術は、複数の入力に関係づけられる要素間の重みづけの最適化が行われますが、重みづけは、データの頻度に関係するものであって、AIが何か特別が評価を行っているのではありません。学習済モデルを有するシステムに所定の値を入力すると、AIが評価して結果を出力するように見えますが、システムは、単に、学習済モデルの計算式に所定の値を入れて結果を出力しているだけです。本件発明の明細書では、言語情報をパターンに変換し、パターン間の関係を処理することによって、新規に獲得した情報を評価(新規性、信憑性、価値等)するものです。学習によってパターン間の関係を形成することが、評価になっていると考えることができます。一方、Xは、「本件装置は、『同じ言葉の異なる用法』の中から『最も文脈にあてはまる用法』を見分ける機能を有しているから、『意味を評価する』機能を有している。」と主張しています。Xは、「見分ける機能」のことを評価といっています。裁判所は、Xの主張を鑑みて、「意味の評価」をクレームの文言通りに解釈したといえるかもしれません。

なお、アメリアはAIであるため、外見上の「見分ける機能」を有していると見えるかもしれませんが、アメリアが演算処理上の「見分ける機能」を有しているか否かは分かりません。

 

(c)AIと従来技術

ディープラーニング等のAIの判定手段と従来型の判定手段とは、根本的に何が異なるのでしょうか?

従来型の判定手段の1つとして、対応テーブルを有しているものがあります。対応テーブルは、入力と出力とを対応付けるテーブルです。AIの判定手段は、学習済モデルを有します。学習済モデルは、入力と出力とを対応付けるモデルを含みます。従来型であっても、AIであっても、入力が同じであれば、出力も同じになります。入出力において、両者に違いがありません。しかし、大きな違いとして、予期しないデータを入力したときの結果が異なります。従来型では、対応テーブルにおいて入力に対応する値がなければ、エラーが出ます。後者は、何等かの結果を出力します。このような点を踏まえて、学習済モデルが対応テーブルとは異なると認定された事件があります(平成28年(ワ)第35763号特許権侵害差止請求事件、パテントメディア第113号参照)。

従来型の判定手段においても、予期しないデータに対して何等かの値を出力するものもあります。近似式を算出する回帰モデルでは、どのような入力に対しても所定の値を出力します。ディープラーニングによって形成された回帰モデルと、データから近似式を求める回帰モデルとの相違は何でしょうか?2次元においては略同じと考えて差支えないのではないでしょうか?しかし、多次元になると、従来技術では、近似式を求めること自体が困難になるかもしれません。ディープラーニングによれば、データと教師データとがあれば、何らかの学習モデルが構築されます。

AI技術を用いた場合に、従来技術で出来ないことを明細書に開示しておくことは、先行技術との相違を主張する点で、重要と考えます。なお、発明を限定してしまうような記載ぶりはよくないので、記載には注意を要します。

 

(d)AI特許の状況

様々な技術分野において、AI関連の技術開発が進められており、それにともなって、特許出願も増加しているようです。黎明期にある技術において懸念されるのは特許係争です。黎明期にある技術では、先行文献が少ないため、広い技術範囲、または、機能的クレームで権利が成立し易いと思われます。AIであるが故に、機能的クレームにならざるを得ないといった側面があるかもしれません。また、発明者は、出来る限り広い範囲の権利を取ろうとするが故に、クレームも抽象的になりがちです。機能的なクレームで権利化された場合、その回避が難しくなることもあるでしょう。機能的なクレームの場合、技術範囲の属否の判断が難しくなるでしょう。一時期、特許の藪やパテントトロールといったことが話題になりましたが、AI技術に関しても、同じようなことが起こるかもしれません。

 

(e)今後の展望

今後、様々なAI関連発明がなされていくでしょう。AIは、様々な分野で応用され、生活をより便利にしていきます。一方で、AI関連発明の特許は、従来にない特徴があるため、従来手法にとらわれない新たな特許戦略が必要になってくるでしょう。機能的クレームが故に権利行使され易さが増大しているかもしれません。逆に、機能的クレームが故に、権利行使を行い難い側面もあります。入出力の結果だけでは、AI技術を使っているか、従来技術をつかっているか、判然としない場合もあります。このため、特許発明の技術範囲にあきらかに属していると考えられる場合でも、安易に権利行使できないような状況もあるかもしれません。技術革新によって、権利範囲から外れてしまうような状況は、よくあることです(例えば、カーナビ事件)。

判例が少ない状況のなかで、発明を如何に保護するかについて試行錯誤の段階ですが、特許発明の保護の趣旨は発明開示と代償であることからして明細書に発明の内容を如何に開示するかにかかっているのではと思料します。単に開示するというのではなく、AI特有の事情に応じた開示が求められます。入力させるデータの性格、データ構造、に特徴があれば、これは開示の対象になるのではないでしょうか。しかし、学習済モデルを構築する場合に入力データに工夫をしたが、AIの使用時においては入力データに限定が無い場合、その工夫は、外部から見えないものであるからノウハウとすることも考えられます。学習済モデルを構築する場合の入力データの工夫は、学習済モデルの製造方法に関する発明と考えられますから、製造方法の保護のありかたと似ていると考えます。

以上