トレンドニュースからのかんたん特許調査|知財レポート/判例研究|弁理士法人オンダ国際特許事務所

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トレンドニュースからのかんたん特許調査

(パテントメディア2016年1月発行第105号掲載)
知財戦略支援部 中村一博

こんにちは。知財戦略支援部 東京グループの中村一博と申します。
日々の業務では特許調査に従事しております。
今回は私が普段実践している調査トレーニングの一部を紹介します。

特許調査のトレーニングと言っても方法は様々あると思います。
その中でも気軽にできてなおかつ実践的な方法として以下のトレーニング方法があります。

1.トレンドニュースから該当する特許を探す。
2.見つかった特許の周辺情報を探り、何らかの知見を得る。

「1.トレンドニュースから該当する特許を探す。」について

最近のトレンドニュースから該当特許を探してみましょう。
先日ニュース欄にてこんな記事を目にしました。
「バック・トゥ・ザ・フューチャー2(1989年公開)」で主人公がタイムスリップした2015年10月21日が到来し、記念イベントが世界各地で開催されたそうです。
バック・トゥ・ザ・フューチャーといえば、空飛ぶ車・ホバーボード等、様々な未来技術が描かれた映画です。現実の2015年現在ではどれくらいの技術が実現したのでしょうか。
検索サイトで「バック・トゥ・ザ・フューチャー 特許」と検索してみると、自動的に靴ひもが結ばれるスニーカーについての記事がたくさんヒットします。主人公が未来に行った時に履いていたスニーカーが特許出願されていたのでしょうか。記事内容を詳しく読み進めると世界的企業であるナイキが2010年に特許出願をしていたことがわかります。

トレンドニュースからのかんたん特許調査 | 2016年

まずはこのナイキの特許出願を探してみましょう。

通常の特許調査実務においては有料データベースを使用していますが、今回は誰でも無料で使用できる「J-PlatPat」(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/all/top/BTmTopPage)で検索を行います。

最初の検索である予備検索にはおすすめの方法があります。それは公報種別を「公開特許公報」のみとし、検索項目箇所を「要約」とする方法です。
「要約」は技術情報を端的に示したもので、探そうとしている特許の構成要素が「要約」に記載されていれば、その公報が適切な文献である可能性が高いと言えます。また、検索項目箇所を「要約」に絞ることでヒット件数を抑えることができ、不要な公報閲覧時間を省くことができます。

J-PlatPatにて以下の検索を実行してみると、約20件ヒットします。

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※ちなみに、さきほどの検索項目箇所を「要約+請求の範囲」として検索をすると約90件ヒットします。これくらいの規模になると、閲覧に時間はかかりますし、ノイズ公報も多く含まれています。該当する特許はヒットするけれども、時間面での費用対効果が悪くなる可能性があるので注意したいところです。

実際に20件の要約箇所を閲覧して、自動的に靴ひもが結ばれるスニーカーに類する公報を探してみると、以下の6件が抽出されます。

①特開2000-014410

【要約】
【課題】?自動紐締め及び紐解き機能を具えた靴の提供。
【解決手段】 使用者の足が靴体1に挿入されて押し板6が踏まれると、押し板6がクランクアーム53を押して伸ばし、クランクアーム53が梭片51を前方にスライドさせて梭片51が靴紐3を牽引して靴体1の作動空間10内に引込み、靴紐3が靴体1のアッパーを締めつけ、上記押しボタン71が押されて止め片72による押し板6の挿入部材61に対する係止が解除された後に使用者が足を靴体1より抜き出すと、押し板6が弾性部材8の作用を受けて上に開き、クランクアーム53が梭片51を後方に牽引して靴紐3に対する牽引作用を喪失させ、靴紐3がゆるんで使用者が靴を脱ぎやすくしてある。

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②特開2004-222782

【要約】
【課題】靴ひもを自動的に締めることができ、着脱が容易な靴を提供する。
【解決手段】留め具手段30が設けられている靴100において、該留め具手段は、一つのアイレットタブ124のあたりに固定されている第1の留め具31と、第1の留め具に脱着可能に嵌入する第2の留め具32とからなり、第2の留め具は、ほぼ平面状の板体であり、第1の留め具に嵌入する嵌入端部と、嵌入端部と反対する側にあって前記アイレットの少なくとも一つのアイレットに代えて通孔が形成された紐通し端部とを有し、また、ソール11内に、その露出端部が第1の留め具を貫通してから第2の留め具の嵌入端部に連結されていて第2の留め具を第1の留め具へ引っ張る少なくとも一つのコードと、コードを巻き取る巻取り輪と、巻取り輪を駆動する電力駆動手段とからなる電動巻取り装置が埋められており、電力駆動手段を作動させるスイッチが設けられている。

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③特表2006-502797

【要約】
【課題】? 自動締付け靴を提供する。
【解決手段】? 自動締付け靴(110)は、交差された紐(136、137)および締付け機構(158)を有しており、この締付け機構は、靴を着用者の足のまわりに締付けるために交差された紐の自動的な締付けを引起こすために1つの方向に作動し、そして靴を着用者の足から取外すことができるように、容易に解放されることができる。

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④特表2010-528811

【要約】
【課題】
【解決手段】交差した靴紐又はクロージャパネルと、靴を着用者の足の周りで締め付けるために、一方向に動作して、交差した靴紐又はクロージャパネルの自動締付けを引き起こし、また、靴を着用者の足から外すことができるように簡単に解放することができる、締付け機構とを有する自動締付け靴。靴の後部靴底から部分的に突出する作動ホイールは、自動締付け機構を締付け方向に移動させるための便利で信頼性の高い作動手段となる。

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⑤特表2011-519611

【要約】
自動靴紐結びシステムを備えた履物物品が開示されている。この自動靴紐結びシステムは、甲を緩んだ位置と締め付けられた位置との間で切り替える自動的に開閉可能なストラップセットを提供する。さらに、物品は、甲の足首部分を自動的に調節するために構成された自動足首締め上げシステムを有する。

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⑥特表2014-521487

【要約】
単一の交差した靴紐又はクロージャパネルと、締付け機構とを含む、自動締付け靴であって、締付け機構は、交差した靴紐又はクロージャパネルの自動的な締付けをもたらして着用者の足の周りで靴を締め付けるように一方向に動作し、また締付け機構は、着用者の足から靴を脱がせられるように、簡単に解放することができる。靴の後部靴底から一部突出しているアクチュエーティングホイールが、自動締付け機構を締付け方向に動かすための簡便で且つ確実な作動手段を提供する。

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この中でも⑤特表2011-519611は、ナイキ インターナショナル リミテッドの出願のもので、登録公報:特許第5323177号も発行されています。文献内容を精査してみると、この文献が探そうとしていた文献のようです。
⑤特表2011-519611の【請求項1】では、以下のように記載されています。

【請求項1】
履物物品用の自動靴紐結びシステムであって、
空洞を有する足底と、
前記空洞中に設けられているモーターと、
前記モーターが駆動シャフトを有し、
前記駆動シャフトが少なくとも1つの歯車を有し、
少なくとも1つのベルトであって、前記ベルトの中間位置において前記少なくとも1つの歯車と係合しているベルトと、
前記少なくとも1つのベルトの付着部分において、前記少なくとも1つのベルトに連結されているヨーク部材と、
前記ヨーク部材に付いていて、履物物品の甲を調節するように構成されている複数のストラップとを有し、
ここで、前記ストラップは、前記モーターを活性化させることにより、閉じた位置と緩んだ位置との間で、自動的に動かされうる自動靴紐結びシステム。

特許分類については、以下の分類が付与されています。

【FI】
【A43B 23/02 105Z】
 A 生活必需品
 A43 履物
 A43B 履物の特徴;履物の部分
 A43B 23/00 甲被;長靴の筒部;補強具;履物のその他の単一部品
 A43B 23/02 ・甲被;長靴の筒部
 A43B 23/02 101 ・・靴の甲皮
 A43B 23/02 104 ・・・緊締部
 A43B 23/02 105 ・・・・前甲皮部にあるもの
 A43B 23/02 105Z その他
【A43C 11/20】
 A 生活必需品
 A43 履物
 A43C 履物の緊締具または付属品;靴ひも一般
 A43C 11/00 靴用の特別なその他の緊締具(衣服用留め具一般A44B)
 A43C 11/20 ・舌片に設けられた引き締め具によって緊締するもの
   
【Fターム】
【4F050 BC22】
 4F050 履物及びその付属品、製法、装置
 4F050 BC00 靴・地下足袋の甲被
 4F050 BC21 ・緊締開閉部
 4F050 BC22 ・・緊締開閉手段
【4F050 MA27】
4F050 履物及びその付属品、製法、装置
4F050 MA00 履物付属品
4F050 MA21 ・靴紐以外の緊締具 *
4F050 MA27 ・・バンド(ワイヤー、ベルト)
【4F050 MA32】
4F050 履物及びその付属品、製法、装置
4F050 MA00 履物付属品
4F050 MA31 ・耐摩耗用付属品
4F050 MA32 ・・甲皮部

今回は予備検索にて探そうとしていた文献が見つかりましたが、見つからなかった場合にはどうすれば良いのでしょうか。仮に先の予備検索にて⑤特表2011-519611が見つからなかったとしましょう。その際は残り5件の文献情報を整理することからはじめます。

ここで整理する項目は特許分類(FIとFターム)とキーワードです。

・特許分類(FIとFターム)について
5件の文献に付与されている特許分類のうち、今回の調査テーマに合致する特許分類を探してみると、以下の分類が見つかります。

【FI】
A43C 11/20 ・舌片に設けられた引き締め具によって緊締するもの
   
【Fターム】
【4F050 BC22】
 4F050 履物及びその付属品、製法、装置
 4F050 BC00 靴・地下足袋の甲被
 4F050 BC21 ・緊締開閉部
 4F050 BC22 ・・緊締開閉手段

・キーワードについて
キーワードについては【発明の名称】【要約】【発明の詳細な説明】等に記載されているキーワードを列挙します。
自動紐締め及び紐解き機能を具えた靴
靴ひもを自動的に締めることができ、着脱が容易な靴
自動締付け靴
等のキーワードが見受けられます。

上記特許分類

FI A43C 11/20 ・舌片に設けられた引き締め具によって緊締するもの
Fターム 4F050 BC22 ・・緊締開閉手段

は、⑤特表2011-519611に付与されているものと同一です。

J-PlatPatにてFI A43C 11/20 を検索すると約20件(公報種別:公開特許公報のみ)、Fターム 4F050 BC22 を検索すると約80件(公報種別:公開特許公報のみ)ヒットし、いずれも⑤特表2011-519611はヒットしています。予備検索にて⑤特表2011-519611が見つからなかったとしても、適切な特許分類を把握することができれば見つかる可能性が高いと言えます。

「2.見つかった特許の周辺情報を探り、 何らかの知見を得る。」について

該当する特許を探したあとはその特許周辺情報を探ってみましょう。周辺情報を探る過程で様々な知見を得ることができ、特許調査のさらなる深掘りをすることができます。
今回の例ですと、

(イ)対象特許の引用文献(もしくは被引用文献)を確認する。
(ロ)対象特許に付与されている特許分類集合を確認する。
(ハ)対象特許の出願人が出願している他の特許を確認する。
(ニ)インターネットにて対象特許周辺情報を探る。

等が挙げられます。

「(イ)対象特許の引用文献(もしくは被引用文献)を確認する。」 について

審査官は拒絶理由通知書において②特開2004-222782を引用しています。これは先ほどの予備検索においても発見している文献です。審査官も同様な検索を行ったのでしょうか。引用文献に付与されている分類を確認したり、J-PlatPat審査書類情報照会にて審査の過程を確認してみましょう。審査書類情報照会にて検索報告書があった場合には、その検索式等を確認することをおすすめします。

「(ロ)対象特許に付与されている特許分類集合を確認する。」 について

これは例えば、Fターム 4F050 BC22の集合をざっと確認するという作業です。ヒットする約80件(公報種別:公開特許公報のみ)を確認すると、アイススケート靴、トレッキングシューズ、地下足袋、武道シューズ、スリッパ兼用モップ、スノーボード用ブーツ、履物、フットウェア製品等様々な靴が見受けられます。すると、予備検索にて使用した「靴 くつ クツ」のキーワード展開にシューズ・ブーツ・履物・フットウェアを入れたり、はたまた足袋やスリッパも追加する…との発想に思い至る場合があります。

「(ハ)対象特許の出願人が出願している他の特許を確認する。」 について

⑤特表2011-519611の出願人である「ナイキ インターナショナル リミテッド」の出願を確認してみると、特表2011-519611の図面と同様な文献がいくつか見受けられます。例えば特表2011-519612、特表2011-528240です。発明の内容としては自動靴紐結びではなく、「照明システムを備えた履物物品」、「履物物品用の充電システム」であって、自動靴紐結びとは異なるものです。靴と表現したり、履物と表現したりと言葉の表現を変えていることも注目に値します。特許調査においては同義語の展開が重要ですので、こうした簡単な検索から意識していくことをおすすめします。

「(ニ)インターネットにて対象特許周辺情報を探る。」について

近年の特許調査実務においてはインターネットから得られる情報が極めて重要になりつつあります。特許検索システムからの情報をもとにインターネット検索システムで検索をし、インターネット検索システムにて把握した情報を特許検索に反映させることで特許調査の質を上げることが期待されます。特許検索に反映しにくい情報であっても企業情報、技術動向等、調査周辺情報を把握することで間接的に特許調査内容を深めていくこともできます。

今回の例において、インターネットで検索を実行してみましょう。検索してみるとナイキが発表しているニュース記事を確認することができます。

トレンドニュースからのかんたん特許調査 | 2016年
http://news.nike.com/news/nike-mag-2015 より引用

Availability
The 2015 Nike Mag is a limited edition release. It will only be available via auction, with all proceeds going to the Michael J. Fox Foundation for Parkinson’s Research. The specific details on the auctions will be posted to Nike News and via Twitter @Nike in spring 2016.

記事によると、自動的に靴ひもが結ばれるスニーカー「Nike Mag:ナイキ マグ」をオークションにて限定発売するそうです。詳細情報は2016年の春とあります。靴の登場が待ち遠しいですね。斬新なデザインなので、実際に履いてみたいと思います。

以上、私が普段実践している調査トレーニングです。このような調査トレーニング手法が皆様のお役に立てれば幸いです。

以上