意匠の寄与率に関する事例研究|パテントメディア|オンダ国際特許事務所

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意匠の寄与率に関する事例研究

2016年5月
弁理士 正木美穂子

1.寄与率・寄与度とは

特許権や意匠権の侵害訴訟においては、製品の販売から得られる利益額等に対して、侵害の対象となる知的財産がどの程度貢献したかが検討され、その貢献の度合が「寄与率」又は「寄与度」として具体的数値で示されるケースがしばしば見受けられます。

たとえば、意匠権に関しては、平成10年の法改正で部分意匠制度が導入されて以来、初めて部分意匠の意匠権侵害が争われた化粧用パフ事件(大阪高裁平成18年5月31日判決)において、部分意匠の製品全体における寄与率が判示されました。以降、登録意匠が部分意匠か全体意匠かに拘わらず、判決文の中に「寄与率」という言葉を見つける機会が増えたように思われます。

また、平成10年法改正により、特許法第102条第1項及び意匠法第39条第1項など、侵害品の譲渡数量に単位数量当たりの利益額を乗じることで権利者の損害額を算定することができる規定が導入されましたが、同条同項ただし書きの「特許権者等が販売することができないとする事情」として、寄与率が考慮されるケースも存在します。
こうして見ると、寄与率・寄与度は損害賠償額の妥当性を担保するという観点から、訴訟当事者双方にとって重要な概念であると理解することができます。

しかしながら、寄与率の認定方法に関しては、具体的かつ明確な基準が確立しているわけではなく、何を寄与率の評価基準とし、各評価基準をどの程度重視するかは、ケースバイケースで異なります。客観的事実から具体的な寄与率を立証することが極めて困難な場合には、最終的に、裁判所が口頭弁論の全趣旨を踏まえて、裁量的に数値を決めることもあります。その一方で、意匠に関しては、寄与率を認定した裁判例が豊富に蓄積されているとはいい難い状況にあります。

そこで、意匠権侵害訴訟において、意匠の寄与率が認定された近時の判決を収集・概観・分析し、寄与率認定の根拠、認定基準及び算出方法に焦点を当てて、下記のとおり検討することにしました。
また、一般に部分意匠出願は、形態上の特徴部分を模倣しつつ、他の部分を異なる形態に変えて、全体として非類似となるような巧妙な模倣盗用行為を排除するのに有効な出願方法であると言えますが、寄与率の適用が部分意匠の保護に与える影響についても、改めて考察したいと思います。

2.寄与率控除の類型について

過去25年以内の意匠権侵害訴訟で、寄与率が認定された事案の中から、主要な判決例7件(全体意匠4件、部分意匠3件)を抽出して、寄与率、及び寄与率控除事由をまとめたものが表1となります。侵害の対象となる登録意匠の種別や性質等に着目した場合、寄与率控除事由を以下のとおり4つに分類することができます。

①部品意匠型

イ号物品が侵害者の販売製品の一部を構成する部品である場合、該販売製品全体に対するイ号物品の原価割合や物理的割合を考慮する。

②部分意匠型

登録意匠が部分意匠である場合、イ号物品全体に対する登録対象部分の原価割合や物理的割合を考慮する。登録を受けようとする部分の物理的面積が小さいと、寄与率が低く評価される可能性が高くなる。

③購買動機参酌型

イ号物品の販売に、侵害された意匠がどの程度貢献しているか、すなわち登録意匠と同一又は類似する意匠が採用されていることが、真にイ号物品の購買動機となっているかを参酌する。たとえば、イ号物品の優れた機能や、イ号物品の形態中に含まれる登録意匠との差異点が購買動機となっている場合は、侵害製品の販売が登録意匠に依存しているとはいえず、寄与率が低く評価される。

④取引実情参酌型

実際の取引実情に鑑み、侵害者が得た利益の中に侵害行為に起因しないと考えられるものがないかを参酌する。たとえば、販売シェア、他の製品による代替性、侵害者の技術力、営業努力あるいは資金力等を考慮して寄与率が控除される。

表1 寄与率が認定された主要な判決例(7件)

種別
登録意匠の物品名
判決日/
事件番号
寄与率
主な寄与率控除事由
類型
全体
ヘア・カーラー用クリップ
(第655612号)
H6年7月19日
東京高裁平成4年(ネ)第3991号
1.8% ・販売製品全体(ヘアカーラー装置)に対する侵害物品(クリップ)の原価割合
部分
化粧用パフ
(第1187684号)
H18年5月31日
大阪高裁平成18年(ネ)第184号
50.0% ・イ号物件全体に占める対象部分の価額の割合等
全体
測量地点明示プレート
測量地点記憶タグ収容座金
(第1280893号、第1284564号)
H22年8月26日
大阪地裁平成20年(ワ)第8761号
20.0% ・取引にあたり、機能面に重点を置くため、意匠が製品の購買動機となる程度は低い
全体
マニキュア用やすり
(第1127832号)
H23年9月15日
大阪地裁平成22年(ワ)第9966号
3分の1 ・被告の業態が低廉かつ均一な価格で多数販売するもの(いわゆる100円ショップ)であり、原告においては被告の全譲渡数量を販売できなかったと認められる。
・被告以外による競合品の存在
・被告製品の購買動機に本件意匠に類似しない特徴(サイズが小さいため、”可愛くて携帯に便利”)が寄与している。

全体
エーシーアダプタ
(第1316224号)
H24年6月29日
東京地裁平成23年(ワ)第247号
10.0% ・被告製品特有の色彩の違いが購買動機に寄与している。
・被告製品と同種の代替品の存在
・被告製品が特定の携帯電話用の専用品であることから、被告製品の購入動機に対する意匠の寄与は一定の割合にとどまる。

部分
サンダル (第1350689号)
H25年4月19日
東京地裁平成24年(ワ)第3162号
33.8% ・部分意匠の物理的割合は75%
・意匠法39条1項の「意匠権者が販売することができないとする事情」として、同種サンダルにおける原告シェア(45%)以外の55%については販売不能と判断された。

部分
遊技機用表示灯
(第1375128号、第1375129号)
H25年9月26日
大阪地裁平成23年(ワ)第14336号
15.0% ・登録意匠は公知形態をありふれた手法で若干変更したにとどまる構成態様を含んでいる。
・物品全体に対して、登録を受けようとする部分が正面視左側のみである。
・広告宣伝において、登録意匠のクレーム部分(実線部分)とは異なる部分の機能が強調されており、意匠のみを差別化要因としていない。
・被告製品は接続可能な遊技機の種類が制限的であるため、被告製品の販売がなかったとしても、原告製品の販売台数が増加したとは考えられない。


3.各類型の具体的裁判例

上述した類型①~④をより具体的に把握するため、各類型につき一例ずつ裁判例をとりあげ、概要を以下に示しました。なお、「④取引実情参酌型」の事例は②~④の複合型として紹介しています。

①部品意匠型 
<ヘアカーラー用クリップ事件(平成6年7月19日) 東京高裁平成4年(ネ)第3991号>

被告は複数の毛髪用カーラー、複数のカーラー用クリップ、及び蒸気発生器等を1セットのヘア・カーラー装置として販売していたところ、カーラー用クリップの意匠権者から権利行使を受けた。
第一審においては、本件意匠と被告意匠の差異は、特に看者の注意を引く部分についての顕著な差異であるため、両意匠は非類似であると判断された。しかし、その後の控訴審では類否判断が覆り、意匠の要部である基本的構成態様が共通している一方、具体的構成態様の相違はいずれも意匠の要部に関しないものである上、その差異の程度もわずかなものであるとして、両意匠は類似と判断された。
損害賠償額については、意匠の寄与率として、クリップ単体の原価が販売製品(ヘア・カーラー装置)の原価に占める割合である1.8%と認定され、被告の利益額にこの寄与率を乗じて意匠法第39条第2項の損害額が算出された。
(損害額11,065円)

本件登録意匠 (※図面は原告の対応米国出願より引用)

②部分意匠型
<化粧用パフ事件(平成18年5月31日)  大阪高裁平成18年(ネ)第184号)>

本件意匠は、取っ手のついた「化粧用パフ」に関するものであり、取っ手を除くパフ部分を登録対象範囲とする部分意匠である。本件意匠のパフ部分は「楕円形の薄板状の本体片面に根元から先端に向かってやや小径となる突起を多数設けたブラシ部」を有している。

※図面は「意匠制度120年のあゆみ」(特許庁意匠課編纂)より引用

対する被告意匠製品は、「洗顔ブラシ」として販売されていたため、物品の類否が争点の一つとなったが、第一審の大阪地裁は、インターネット上に化粧用パフを洗顔用品として用いる洗顔方法が紹介されている事実を考慮して、化粧用パフと洗顔ブラシは類似物品であると認定した。
また、形態の類否判断においては、意匠の要部であるパフ部分のブラシの態様が共通し、差異点は微差にすぎないため、両意匠は類似すると判断された。なお、判決中、破線部分を含む物品全体と登録対象部分の関係(位置・大きさ・範囲)には言及されていないため、部分意匠の解釈方法において、要部説・独立説のいずれの立場であるかは必ずしも明らかでない。
損害額の算定にあたっては、被告製品全体におけるイ号意匠の物理的割合その他の事情に鑑み、寄与率50%とするのが相当と認定され、意匠法第39条第1項に基づく損害額算定に適用された。大阪高裁は原審の判断をほぼそのまま採用し、最高裁への上告も棄却された。(損害額3,600,000円)

③購買動機参酌型
<測量地点明示プレート事件(平成22年8月26日) 大阪地裁平成20年(ワ)第8761号)>

「測量地点明示プレート」に関する意匠権と「測量地点記憶タグ収容座金」に関する意匠権に基づき、各々の物品に関する被告の新旧製品に対して差止請求等を行った事件である。いずれの物品についても、被告の旧製品に係る意匠は本件意匠に類似し、新製品に係る意匠は非類似と判断された。
具体的には、「測量地点明示プレート」の被告旧製品については、上面側と底面側の収容孔口径比、及び収容孔と切り込み部の大きさ比率(上面において鍵穴型をイメージするか)が差異点として挙げられたが、いずれの差異も共通点から受ける印象に凌駕されていると判示された。
また、「測量地点記憶タグ収容座金」の被告旧製品についても、上面側と底面側の収容孔の口径比及び外側面の溝の位置等が差異点として挙げられたが、いずれも共通点を超えて格別異なる印象を看者に与えるものではないとされた。

 
測量地点明示プレート
座金
本件意匠
イ号物件

損害額の認定においては、「需要者である設置業者は、取引にあたり、機能面に対し、より重点を置くと考えられ、この機能を離れた意匠を重視して取引を行うとは考えにくい。」としつつも、「ICタグ及びその収容部分がどのようになっているかという点は、価格面以外では、各社の製品における主要な相違点のひとつであり、上記相違点は、機能に関連するとともに、それぞれの意匠として現れているのであって、上記意匠が測量地点明示プレートや座金の売上に及ぼす影響を否定することはできない」との事情を考慮し、寄与率は20%と結論づけられた。(本件意匠1の損害額:1,575,514円、本件意匠2の損害額:237,606円)

②~④複合型
<遊技機用表示灯事件(平成25年9月26日) 大阪地裁平成23年(ワ)第14336号)>

被告の製造販売する遊技機用表示灯が、原告の部分意匠の意匠権2件を侵害するものとして、差止請求等がなされた事件である。

本件意匠部分1

本件意匠部分2

被告製品

本件意匠部分1については、創作非容易性を欠く意匠として、登録無効にされるべきものであると判示された。
本件意匠部分2については、正面視において略横長長方形状で、平面視において背面側に約75度の角度で傾斜している点、ならびに左寄りに7個のセグメントが略8の字状に2個横並びで突出して配置されている態様が意匠の要部であると認定され、登録無効にされるべきものではないと判断された。そして、本件意匠部分2と被告製品の対応部分は、要部においてその態様を共通にし、差異点は平面視における傾斜角度や横長長方形状の縦横比のわずかな違いにすぎないため、部分意匠としての美感が共通し、互いに類似すると結論づけられた。
その一方、本件意匠部分2の要部として挙げられた「正面視が略横長長方形状で、平面視で右辺から左辺に背面側へ傾斜」し、「傾斜する角度が前後方向の直線に対して約75度」という構成態様について、裁判所は「公知意匠をありふれた手法で若干変更したにとどまり、この部分が原告製品の売上や利益に寄与していたとしても、これをもって本件意匠部分2の寄与と見ることはできない」との判断を示した。すなわち、本件意匠部分2の実質的な創作性は、登録を受けようとする部分中
「7個のセグメントが略8の字状に2個横並びで突出して配置」という、極めて限定的な構成態様に存すると認定された。加えて、「原告製品の広告宣伝において、本件意匠部分2と異なるスイッチ部等の機能が強調されており、意匠のみを差別化要因とする製品ではない」こと、及びその他の取引実情が参酌され、最終的に寄与度は15%と結論づけられた。(損害額:3,486,111円)

4.考察 

部品意匠や部分意匠は、特徴部分を抽出して意匠登録を受けられるため、その特徴部分を模倣した侵害品に対しては効果的に権利を行使できる一方、登録対象範囲が物理的に小さいほど寄与率が低く評価され、損害賠償額が減額される傾向があることが、上述した類型①及び類型②の裁判例から見てとれます。また、類型③の裁判例は、装飾性よりも機能性の色合いが強い意匠は、寄与率認定において、いくらか不利になる可能性があることを示唆しています。さらに、類型②~④複合型の裁判例からは、意匠的要部と認定された態様であっても、「公知意匠をありふれた手法で若干変更」した程度で、創作性が高くないものと評価されることがあり、結果として、寄与率が登録対象範囲の物理的割合よりも減殺される可能性があることを示唆しています。
もっとも、日本国内においては、知的財産権を尊重する社会基盤がある程度確立している上、米国のような故意侵害の三倍賠償ルールも存在しないので、多額の損害賠償金を得ることよりも、他社を牽制して侵害行為を確実に差し止めることの方に、意匠権の存在意義を見出すことが多いのではないかと推測します。とすると、物理的割合や原価割合が、侵害訴訟における寄与率控除の根拠にされたとしても、部分意匠や機能的意匠に関する権利取得の意義が損なわれることは、ほとんどないのではないかと考えます。
とはいえ、寄与率が必要以上に控除され過ぎると、侵害者側の高額賠償のリスクは低くなり、侵害抑止効果も低下するおそれがあります。また、通常、部分意匠として登録を求めた部分とそれ以外の部分は、分離して販売できるものではないことが多く、物理的割合等を乗じただけでは、真の損害額を補填できないことが懸念されます。同様に、遊技機用表示灯事件で示されたような、一登録意匠中に混在する創作性の高い部分と低い部分についても、分離不可能な場合が多いと言えるでしょう。
出願人・権利者の立場からは、訴訟が起こった場合に、部分意匠や機能的意匠に関する損害賠償額が必要以上にディスカウントされることがないよう、寄与率向上という観点から出願方法を模索してみることも一案であると思います。例えば、「特徴部分の部分意匠だけ登録すれば十分」と決めてかかるのではなく、全体意匠の意匠権も、できればいくつかのバリエーションを関連意匠として登録しておく等、重層的な保護が実現できれば理想的であると考えます。

さらに、今回取り上げた判決例の中には、寄与率の決定に際し、意匠権者自身の広告宣伝の内容や(遊技機用表示灯事件)、被告販売サイト上の購入者レビュー(エーシーアダプタ事件)が、取引実情として参酌されたケースもありました。インターネットの普及・発達により、ネット上の情報が思いがけず寄与率を左右する可能性があることにも留意しつつ、適切に情報管理を行う必要があると考えます。

以上

<参考文献>

市川佐知子「部分意匠と損害額算定における寄与度」
パテント2008, Vol.61 No.2
中所昌司「意匠権侵害訴訟において意匠法39条1項が適用される場合の寄与率」
パテント2013, Vol.66 No.6
「意匠制度120年のあゆみ」特許庁意匠課編纂 2009年3月