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判例研究/レポート

特許権の消尽論に関する米国最高裁判決

2017年9月7日掲載
米国特許弁護士 マイク オニール

米国最高裁判所(最高裁)は、製品が一旦販売されると、その製品に関する米国特許権は消尽すると判示した。製品の販売地が米国であるか否かは問わない。特許権者が一旦特許製品を販売すると、その製品については、もはやその特許権を主張することができなくなる。

最高裁は、特許製品が販売されると、特許権者はその特許製品を支配する米国特許法上の権原を失うと判断した。したがって、製品の購入者や使用者は、特許権侵害の心配をすることなく、その製品を使用および再販売することができる。特許権者は、契約や契約法に基づき、その製品に関する権原を維持できるかもしれないが、契約に基づく場合には、米国連邦法(統一州法)ではなく、契約当事者、裁判管轄、及び各州の州法上の問題に留意する必要がある。

本件は、LEXMARK社が製造・販売したインクカートリッジの再販売に関する事案である。LEXMARK社はプリンターのインクカートリッジに関する実用特許を取得していた。LEXMARK社は、空になったカートリッジを同社に返却することを条件に、購入者がインクカートリッジを安価に購入できるというビジネスモデルを構築していた。

IMPRESSION社は、LEXMARK社のインクカートリッジをリサイクルし、再販売するビジネスを展開した。IMPRESSION社は使用済みのインクカートリッジを購入し、インクを補充して(refurbishing/改造)、カートリッジを再販売した。このビジネスは再製造(remanufacture)と呼ばれる。

LEXMARK社はIMPRESSION社に対し、特許権侵害訴訟を提起し、IMPRESSION社がインクカートリッジを再製造・再販売する行為はLEXMARK社の特許権侵害に該当すると主張した。米国連邦巡回区控訴裁判所はLEXMARK社の主張を認めたが、最高裁はこれを認めなかった。

最高裁は、LEXMARK社がインクカートリッジを販売した時点で、販売製品に関する特許権は消尽したと結論付けた。すなわち、米国特許法は、特許権による独占排他権を無制限に認めているわけではなく、例えば、権利存続期間等、一定の制限を設けている。また、かかる独占排他権は、他の法令または慣習法の原則のいずれかによっても制限されている。慣習法の原則の下で「消尽論」や「ファーストセールドクトリン」として知られている理論もまた、排他権について制限を設けている。特許権者が一旦、特許製品を販売すると、特許権者は販売された個々の製品についての特許法上の独占的権利を失い、当該製品は購入者個人の財産となる。購入者は、特許権者との間の契約上の義務の範囲内であれば、購入者が適切と考えるように製品を処分することができる。言い換えれば、製品の販売により、販売された製品に対する全ての特許権が終了する。

最高裁は、販売が米国内で行われたか否かは問わないと結論付けた。特許権者が製品を販売したら、その製品は、特許権者からの権利行使を免れることができる。さもなければ、私有財産の販売を制限してはならないという慣習法の原則に反するからである。言い換えれば、個人の私有財産の使用について、元の所有者が、未来の譲受人に対して制限を課すことができるような状況は許されるべきではない。

本事案の影響を直ちに被る産業分野は2つある。第1にプリンター業界、第2に製薬業界である。

プリンター業界は、特許戦略とともにインクカートリッジに関するビジネスモデルを再考する必要があるだろう。一旦、インクカートリッジがプリンター会社から販売されると、使用済みインクカートリッジを再製造・再販売した者に対して、プリンター会社は特許権侵害を主張できない。したがって、再製造されたインクカートリッジの販売者による意匠特許権侵害は成立しないことになるだろう。実用特許については、インクカートリッジを製造(充填)するプロセスについてのクレームがない限り、特許権侵害が成立しない可能性が高い。このような点を踏まえると、今後は、実用特許には、インクカートリッジを充填する方法のクレームを追加することを検討する必要があるかもしれない。なお、本判決は、製品自体に焦点を当てており、製造方法については焦点を当てていない。

製薬業界としては、薬価設定について再考する必要がある。今や、米国外で購入した薬を米国に輸入することが可能となり、これを阻止するのは、FDA(食品医薬品局)の認可や取り締まりのみという状況になっている。

結論として、適切な設備で「改造」、「再製造」、「リサイクル」できる消耗品を販売する企業は、この最高裁判決により、ビジネスモデルと特許ポートフォリオを再検討すべきである。

以上

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