OEM商品の横流しの不正競争行為性と一般不法行為性  平成21年(ワ)第16809号損害賠償請求事件(本訴)  平成21年(ワ)第33956号損害賠償請求事件(反訴)|知財レポート/判例研究|弁理士法人オンダ国際特許事務所

OEM商品の横流しの不正競争行為性と一般不法行為性  平成21年(ワ)第16809号損害賠償請求事件(本訴)  平成21年(ワ)第33956号損害賠償請求事件(反訴)|知財レポート/判例研究|弁理士法人オンダ国際特許事務所

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OEM商品の横流しの不正競争行為性と一般不法行為性  平成21年(ワ)第16809号損害賠償請求事件(本訴)  平成21年(ワ)第33956号損害賠償請求事件(反訴)

平成22年7月20日掲載
弁理士 鶴久留美

1. 当事者

本訴原告(反訴被告)

インターネット広告業務会社

本訴被告(反訴原告)

健康関連商品開発・製造・販売会社(他社にOEM供給もしている)

本訴被告A

竹酢液関連商品製造・販売業者

2. 事実

・原告は、平成13年1月30日ころ楽天市場にインターネット店舗「元気健康本舗genki21」を立ち上げ、同年4月ころから樹液シート(※1)の販売をしていたが、平成14年初めころから本件標章(※2)を付して販売するようになった。なお、樹液シートは被告会社が製造し、これを購入した(有)名翔が袋詰め等して(有)ロータスAkiに卸したものを原告が仕入れていた(※3)

※1 樹液シート…貼り付けた部分から老廃物である体液を吸い出す健康グッズ。
※2 本件標章
OEM商品の横流しの不正競争行為性と一般不法行為性  平成21年(ワ)第16809号損害賠償請求事件(本訴)  平成21年(ワ)第33956号損害賠償請求事件(反訴) | 2010年
※3 取引関係

被告会社(OEM製造)名翔(袋詰め等)ロータスAki(卸)原告(仕入)

・原告は、平成19年11月までに樹液シートの供給元(OEM供給元)を被告会社とは別の製造業者に変更した。
・被告Aは、平成19年10月ころまでに、楽天市場オークション等に「樹液ドットコム」というネット商店を出し、被告会社の委託を受けて本件標章を付した樹液シート(OEM供給元変更で被告会社の元に残った在庫品)を廉価で販売するようになったが、平成20年4月ころ出店を削除した。

3. 事件

(1)本訴: 被告会社及び被告Aが原告の商品等表示として周知性を有する標章を付した樹液シートを共同で販売したことが、主位的には不正競争(不正競争防止法2条1項1号)に、予備的には民法上の一般不法行為に該当するとして、原告が被告らに対し連帯して、不正競争防止法4条(予備的に民法719条1項)に基づく損害賠償請求(損害金元金合計1591万2588円及び年5分の割合による遅延損害金)をするとともに、不正競争防止法14条に基づく信用回復措置として、楽天モール上の原告店舗(元気健康本舗genki21)のホームページに謝罪広告を30日間掲載することを求めたもの。

不正競争防止法

(定義)
第二条  この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
一  他人の商品等表示(人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するものをいう。以下同じ。)として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為
(損害賠償)
第四条 故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、第十五条の規定により同条に規定する権利が消滅した後にその営業秘密を使用する行為によって生じた損害については、この限りでない。
(信用回復の措置)
第十四条  故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の信用を害した者に対しては、裁判所は、その営業上の信用を害された者の請求により、損害の賠償に代え、又は損害の賠償とともに、その者の営業上の信用を回復するのに必要な措置を命ずることができる。

民法

第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。 
(共同不法行為者の責任)
第719条 数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。

(2)反訴: 被告会社が原告との取引関係の終了に伴い在庫品(本件標章の付された樹液シート)を売却処分することについて、原告が合意ないし承諾していたにもかかわらず、その後、原告が上記売却の中止を求めるなどしたため、被告会社による在庫品の処分ができなくなったとして、被告会社が、原告に対し、債務不履行又は不法行為による損害賠償請求として、在庫品相当額128万9500円の支払を求めたもの。

 
4. 争点

(1)本件標章は被告会社にとって「他人の」商品等表示か(本訴)
(2)本件標章は原告の商品等表示として需要者の間に広く認識されていたか(本訴)
(3)本件販売について不正競争の成否(本訴主位的請求)
(4)本件販売について一般不法行為の成否(本訴予備的請求)
(5)原告による債務不履行・不法行為の成否(反訴)
(6)原告による本訴請求は、権利の濫用に該当するか(本訴)
(7) 損害
  ア 原告の損害(本訴)
  イ 被告会社の損害(反訴)
(8)信用回復措置の要否(本訴)

判決 本訴一部認容 反訴棄却
1 結論

・被告会社及び被告Aは、原告に対し、各自140万円及びこれに対する平成20年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
・原告のその余の本訴請求をいずれも棄却する。
・被告会社の反訴請求を棄却する。

2 各争点について
(1)本件標章は被告会社にとって「他人の」商品等表示か(本訴)

被告らの主張

本件標章の付された樹液シートについて、この種商品の専門家である被告会社が幾多の投資、研究を重ねて考案した実用新案権(登録第3110497号)を実施して製造したもので、その包装紙のデザインも担当するなどして、本件標章に対する顧客の信頼や顧客吸引力を主体的に形成してきたものであるから、本件標章は被告会社にとって「他人の」商品等表示であるとはいえない。

裁判所の判断

不正競争防止法2条1項1号は、自己の商品、営業を他人の商品、営業と誤認混同させる行為、すなわち商品主体、営業主体の混同を生じさせる行為を「不正競争」として規制するものであり、当該商品の製造に用いられた技術やアイディア等を保護するものではないから、被告会社がその実用新案権や専門知識を駆使して本件樹液シートを製造しており、被告会社の有する技術が本件樹液シートに具現化されていたとしても、それだけで本件標章が被告会社の商品等を表示する標章となるものではない(なお、本件樹液シートが上記実用新案に係る考案を実施したものであることについては、立証がない)。
同号における「他人」とは、商品等表示の主体として、当該商品の製造、販売等の業務に主体的に関与する者を指称するものであり、当該表示を付した商品の品質等を管理し、販売価格や販売数量を自ら決定する者がこれに該当するものと解されるところ、本件において、自己の判断と責任において本件標章の付された商品を市場に置き、消費者の間において本件標章に化体された信用の主体として認識され得る立場にあったのは原告であると認められる。他方、被告会社は、名翔からの注文に応じて本件標章の付された樹液シート(袋詰めされる前の半製品)を製造し、これを名翔に卸売りしていたにすぎないもので、本件標章が被告会社の出所であることを需要者に認識させるような態様で使用されていたとは認められないから、被告会社にとって、本件標章は「他人の」標章に当たるというべきである。

(2)本件標章は原告の商品等表示として需要者の間に広く認識されていたか(本訴)

裁判所の判断

(前提)本件販売はインターネット上の日本語のオークションサイトで行われたもので、日本全国の需要者を販売対象としていたものであることが認められるから、本件販売が不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争に該当するというためには、基本的に、本件標章が全国的に周知であったこと(需要者の間に広く認識されていたこと)を必要とするものと解するのが相当である。

原告の主張

原告店舗の総売上げについて、平成18年度が1億9800万円、平成19年度が1億4900万円である。

裁判所の判断

インターネット通販の市場規模は、平成20年度において8兆円を超えるものとされていることにかんがみると、原告店舗の総売上高が本件標章に周知性を獲得させるほど高いものであると即断することはできない。

原告の主張

原告店舗には平成18年度、平成19年度とも年間10万3500人前後が平均年4回程度(年間延べ45万人前後)アクセスしている。

裁判所の判断

これらの者すべてが本件標章をキーワードとして原告店舗にアクセスしているわけではないから、アクセス数の多寡が本件標章の周知性と直結するとは必ずしもいい難い。

原告の主張

平成19年8月ころ、Yahoo!及びGoogle において「樹液シート」又は「樹液シート格安」による検索をしたところ、原告店舗が最上位に表示された。

裁判所の判断

検索サイトにおける検索結果の順位は、検索用語として何を設定するかによって大きく変動し得るものであり、検索結果の順位をもって本件標章が周知であるというには、根拠が薄弱であるといわざるを得ない。

原告の主張

原告店舗が複数の雑誌の記事で紹介されたほか、静岡新聞に掲載されたNTT西日本の全面広告中の掲載4企業の一つとして紹介された。

裁判所の判断

原告店舗を紹介した雑誌等の記事は、7点にほぼ限られる上、そのうちの半数については、原告自身が広告料を支払って掲載したにすぎないものなのであるから、本件標章の周知性を基礎づけることはできないというべきである。

(3)本件販売について不正競争の成否(本訴主位的請求)

裁判所の判断

本件販売当時、本件標章が原告の商品等表示として周知であったことを認めることはできないから、原告の不正競争防止法に基づく損害賠償請求は理由がな い。

(4)本件販売について一般不法行為の成否(本訴予備的請求)

被告らの主張

本件販売当時、本件標章が原告の商品等表示として周知であったことを認めることはできないから、原告の不正競争防止法に基づく損害賠償請求は理由がな い。

裁判所の判断

名翔又はロータスAkiが原告を代理する権限を有するためには、その代理権を取得するための原因(代理権授与行為)が必要であるが、被告らはその原因となる事実を主張、立証しない。したがって、仮に名翔又はロータスAkiが本件販売について承諾をしたとしても、その効果が原告に帰属するものということはできず、被告らの上記主張は、採用することができない。被告らによる本件販売は、OEM供給先である原告の信用が化体された本件標章が付された樹液シート在庫品の残りを被告らが原告に無断で販売したというもので、OEM商品の横流しともいうべき行為であり、公正な競業秩序を破壊する著しく不公正な行為と評価できるから、民法上の一般不法行為(共同不法行為)を構成するものと認めるのが相当である。したがって、被告らは、これによって発生した原告の損害を賠償する責任があるというべきである。

(5)原告による債務不履行・不法行為の成否(反訴)

裁判所の判断

本件において、被告会社、名翔、ロータスAki及び原告は、いずれも独立した経済主体として一連の取引に関与していたものである。そして、名翔又はロータスAkiが原告から代理権等の権限を授与されていたと認めることができないことは上記(4)のとおりであり、名翔又はロータスAkiの取引の法的効果が原告に直接帰属するということはできないから、原告と被告会社との間に直接の契約関係(本件基本契約)が存在するとは認められない。したがって、同契約の存在を前提とする被告らの上記主張(在庫処分を容認する旨の黙示の合意)は理由がない。

(6)原告による本訴請求は、権利の濫用に該当するか(本訴)

裁判所の判断

本件基本契約の成立が認められないことは前示のとおりであるから、被告らの主張は、その前提において失当である。

(7)原告の損害(本訴)

裁判所の判断

・原告店舗の信用毀損による損害80万円
・販売減少による損害45万円
・弁護士費用15万円

(8)信用回復措置の要否(本訴)

裁判所の判断

本件標章が原告の商品等表示として周知のものであったとまでは認められず、本件販売が不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争に該当するとは認められない以上、同法14条に基づく信用回復措置の請求についても理由がない。

考察

主位的にされた不正競争の主張については本件標章の周知性が認められず採用されなかった。不正競争防止法2条1項1号の周知は全国的なものである必要はない、とするのが判例・通説であるところ、インターネット上で使用される標章の周知性は全国的なものである必要があるとされた上、インターネット特有のアクセス数や検索順位による立証が悉く否定されている。ハードルも高いが、立証も困難である。最終的に民法で救われはしたが、本件標章が商標登録されていれば商標権侵害を主張するのに何の苦労もなかったに違いないと思わざるを得ない。

以上