「面白い恋人」vs「白い恋人」 パロディ商標は許されるか。|知財レポート/判例研究|弁理士法人オンダ国際特許事務所

「面白い恋人」vs「白い恋人」 パロディ商標は許されるか。|知財レポート/判例研究|弁理士法人オンダ国際特許事務所

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「面白い恋人」vs「白い恋人」 パロディ商標は許されるか。

平成23年12月16日
平成23年12月23日一部修正
弁理士 木村達矢

1.事件の概要

吉本興業が「面白い恋人」の商標を付した菓子(ゴーフレット)を販売していたところ、「白い恋人」で有名な石屋製菓が、吉本興業ほか2社に対し商標権侵害および不正競争防止法に基づいて販売差止め及び廃棄を求める訴訟を札幌地方裁判所に提起したとのことです。

問題の商品は、2010年7月19日に発売され、大阪土産として、なんばグランド花月の売店や新大阪駅、伊丹・関西・神戸空港などの土産物売り場で販売されているということですが(ウィキペディアより)、その後、「近畿圏に限らず広い範囲で常設販売されるようになり」(石屋製菓のプレスリリースより)、石屋製菓としても見過ごせなくなったようです。

問題の商品は、パッケージの図柄(レイアウト)や配色が「白い恋人」と酷似しており、「白い恋人」を模倣した(もじった)ものであることは明らかです(吉本興業自身も、プレスリリースで、「吉本興業なりの「笑い」と「ユーモア」が詰まった商品…」といっています)。このように、本件は、いわゆるパロディ商品と考えられますが、他人の著名商標をパロディしていることから、商標権との抵触が問題となります。
インターネットを検索するとプーマ、アディダス、ナイキといった有名スポーツメーカーのロゴマークをもじったパロディ商標?が多数見受けられます。また、パロディとは若干異なりますが、「黒い恋人」(黒豆とうきびチョコ)や「赤い恋人」(博多めんたいこんにゃく)といった商品もあります。

2.商標法上「面白い恋人」は「白い恋人」に類似するか

商標権の効力は、登録商標に同一又は類似する商標を指定商品に同一又は類似する商品に使用する行為に及びます(商標法37条1項)。そこで、商標「面白い恋人」が「白い恋人」と類似するか否かを検討すると、「面白い恋人」はひとつのまとまった言葉と理解されますから、「白い恋人」とは意味が相違し、また、一般的には「面白い恋人」から「白い恋人」のみを分離して観察すべき事情は見いだせませんから、外観(見た目)、称呼(読み方)も類似するとはいえません。したがって、「面白い恋人」と「白い恋人」とは、一般的には非類似と判断されます(本件では商品が類似することは明らかです)。なお、石屋製菓はパッケージ全体の図柄についても商標登録していますが、「面白い恋人」のパッケージは絵や模様の形状が相違しており、やはり類似とするのは難しいと思われます。

しかしながら、本件は著名商標のパロディであり、その点からの検討も必要になるでしょう。

3.パロディとして許されるのか

パロディとは、「文学などで、広く知られている既成の作品を、その特徴を巧みにとらえて、滑稽(こっけい)化・風刺化の目的で作り変えたもの」(小学館デジタル大辞泉)と説明されており、アメリカやヨーロッパ等では著作権の事件でフェア・ユースとして認められた例もあるようです(我が国では、モンタージュ写真事件控訴審が「いわゆるパロディの領域に属する」から剽窃(ひょうせつ)ではなく、他人の著作物のいわゆる「自由利用」(フェア・ユース)として、許諾さるべきもの(「正当ノ範囲内ニ於テ節録引用スルコト」)とした例があります。ただし、最高裁では否定されました。なお、この事件は著作者「人格権」侵害が争点であり、そもそも引用(「著作権」の制限規定)が問題にならない事案でした)。
 しかし、仮に、著作権の分野でパロディが認められるとしても、出所表示、品質保護を目的とする商標においては、「自由利用」(フェア・ユース)や「引用」といった概念を認める余地はなく、商標の出所表示機能、信用保護機能の観点から考察されなければなりません。

パロディ商標を、上記の定義にあてはめてみると、「広く知られている既成の商標を、その特徴を巧みにとらえて、滑稽(こっけい)化・風刺化の目的で作り変えたもの」ということになり、商標は周知・著名な商標をその特徴を維持したまま作り変えたものということができそうです。これを、商標の出所表示機能、信用保護機能の観点からみてみますと、元の周知・著名商標の特徴を認識できる点では、その周知・著名性への便乗・フリーライドの要素が認められますが、「作り変えたもの」ですから、一般的には非類似と評価され、出所の混同は生じないと考えられます(この点が、出所混同により便乗・フリーライドする通常の事案と異なります)。その結果、元の商品の品質を誤認させるともいえません。そうすると、商標の機能を実質的に害していないのではないかとも思われます。

しかしながら、このような商標が蔓延すると、周知・著名商標が永年にわたって築き上げたイメージを害するとはいえないでしょうか。周知・著名商標を有する企業にとっては、このようなイメージも重要な資産であり、企業はこのようなイメージを保つために、莫大な費用・労力をかけています。とすれば、このようなイメージも商標で保護されるべきものに含まれ、広い意味で信用の一種といえるのではないでしょうか(商標の宣伝広告機能ともいえます。この機能は学説では一般的に認められていますが、最高裁では明確には認められていません。「フレッドペリー事件」平成15年2月27日/最高裁判所第一小法廷/判決/平成14年(受)第1100号参照)。

4.「面白い恋人」が「白い恋人」と類似すると判断される可能性はあるのか

侵害事件における商標の類否は、「同一又は類似の商品に使用された商標がその外観、観念、称呼等によって取引者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すべきであり、しかもその商品の取引の実情を明らかにし得る限り、その具体的な取引状況に基づいて判断すべきであって、綿密に観察する限りでは外観、観念、称呼において個別的には類似しない商標であっても、具体的な取引状況いかんによっては類似する場合があり、外観、観念、称呼についての総合的な類似性の有無も、具体的な取引状況によって異なってくる場合もある」(「大森林事件」平成 4年 9月22日/最高裁判所第三小法廷/判決/平成3年(オ)第1805号)とされていますから、パロディの元となる商標の周知・著名性や便乗により現実に利益をあげているといった具体的な取引の実情に基づいて判断すれば、類似と評価することも可能ではないかと思われます(特にパッケージの図柄の商標については)。

なお、本件は、不正競争防止法違反も主張されているようですが、周知(需要者の間に広く認識されていること)の「商品等表示」(商標や商品の包装も含まれます)の保護を規定する不正競争防止法2条1項1号では、「類似」する「商品等表示」を使用して他人の商品と「混同」を生じさせることが必要です。さらに、周知の状態を超えた著名な「商品等表示」の保護については、同法2条1項2号があり、この規定では需要者が「混同」することは不要ですので(「類似」は必要)、本件ではこの2号がより適用しやすいと思われます。いずれにしても、「商品等表示」が非類似と判断されれば、「不正競争」は成立しないということになります(なお、表示された文字や図柄の細部が相違するミルクティーの容器について、類似するとされた例がある(「ロイヤルミルクティー事件」平成9年1月30日大阪地裁平成7年(ワ)第3920号))。

5.実は「面白い恋人」は商標出願されていたが拒絶されていた

ちなみに、「面白い恋人」は2010年8月25日に株式会社吉本倶楽部を出願人として商標登録出願されていますが、商標法4条1項7号(公序良俗違反)に該当するとして拒絶されています。たしかに、公正な取引秩序を乱す点で、公益に関わるともいえますが、どちらかといえば、著名商標の私益保護という側面が強いと思われますから、著名商標へのただ乗り・フリーライド防止を趣旨とする4条1項19号(日本又は外国における周知商標の不正目的使用)を適用する方が妥当ではないかと思われます。

このような取り扱いは、パロディ商標が問題となった、SHISA事件判決が影響しているのかもしれません(平成22年7月12日/知的財産高等裁判所/第2部/判決/平成21年(行ケ)第10404号)。
これは審決取消し事件(異議申立ての事件ですので正確には決定取消し事件)ですが、参加人(異議申立人)の、「商標の信用をフリーライドし、希釈化するものである」との主張に対し、傍論ですが、「「パロディ」なる概念は商標法の定める法概念ではなく、講学上のものであって、法4条1項15号に該当するか否かは、あくまでも法概念である同号該当性の有無により判断すべき」であり、「本件商標と引用商標Cとは、生じる称呼及び観念が相違し、外観も必ずしも類似するとはいえないのであって、必ずしも補助参加人の商標をフリーライドするものとも、希釈化するものともいうこともできない」とされました。ただし、この事案で問題となった商標は、滑稽さ、風刺という側面が若干薄く、パロディといえるかは微妙な事案でした(判決も「原告は引用商標C等の補助参加人の商標をパロディとする趣旨で本件商標を創作したものではない」としています)。この事件では、取消し理由として4条1項11号、15号、19号が主張されましたが、全て裁判所により否定されました(4条1項7号は、異議申立て理由として主張されなかったため、争点とならなかった)。この事件が影響して、本件では19号ではなく、7号が適用されたのかもしれません。

本件は、パロディであることが明らかであり、また、侵害事件ですので、上記判決はあまり参考にならないと思われます。

なお、パロディ商標が図形商標やロゴマークの場合、Tシャツ等の前見頃に大きく意匠的・装飾的に表示されていることが多く、商標としての使用にあたるかも問題になりますが、そのような態様であっても出所表示機能も併有していると考えられますから、意匠的であると同時に商標的にも使用しているといえるでしょう。

6.今後の動向に注目

余談ですが、吉本興業は、訴訟提起後も販売を継続しており、マスコミ報道により、「面白い恋人」の売上が急増し、入荷と同時に売り切れる状態のようです。もっとも、石屋製菓としては、ますます「面白くない」ようで(当然か)、今後、「損害賠償請求を検討することになる」としています(ということは、今回の訴訟は差止め、廃棄のみを請求しているということでしょうか)。
吉本興行側は、商魂たくましく、話題性が続く限りがんばるのかもしれません。負ければ損害賠償で利益をはき出さなければならないわけですが、吉本の営業努力寄与部分は控除されることでしょう。そうだとしても、マスコミ報道の寄与部分はどう評価されるのでしょうか。下火になったら止めるでしょうが、このあたりの興味は尽きません。

「面白い恋人」vs「白い恋人」 パロディ商標は許されるか。 | 2011年