新しいタイプの商標 ~平面から立体へ、そして五感で感じる商標の保護へ~|パテントメディア|オンダ国際特許事務所

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新しいタイプの商標 ~平面から立体へ、そして五感で感じる商標の保護へ~

2014年9月
弁理士 木村達矢

特許法等の一部を改正する法律が、平成26年5月14日に公布され、商標法では「新しいタイプの商標」が導入されることになりました(この部分の施行は、公布から1年以内とされており、平成27年4月1日からが有力です)。
「商標」とは、事業者が自己の取り扱う商品・役務(サービス)を他人の商品・役務と区別するために使用される標識であり、需要者はこれを目印として商品・役務の出所を識別することができます。「商標」は特許庁に登録することにより、所定の商品・役務について、その登録した権利者のみが当該「商標」を日本全国で使用できるようになります。これにより、商標権者は、他人が勝手に自己の商標を使用してその信用へのただ乗り、イメージの毀損を防止することができ、安心して自らの商標を使用することができるようになります。
ところで、商標法では、「商標」とは、文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合と規定しています。
したがって、例えば、

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のような文字や図形(シンボルマーク)からなる一般的な商標は登録可能です。
(なお、「TOYOTA」は、ありふれた氏(および産地?)のローマ字表記を普通の書体で表したにすぎませんので通常登録されませんが、トヨタ自動車の商標として有名であることから登録されています。)

また、平成8年の商標法改正により、立体的形状からなる商標(立体商標)の登録が可能となっており、例えば、

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のような椅子の形状や飲料容器の形状が登録されています(ただし、これらの立体的形状は、長年使用されたことにより、当該立体的形状のみで誰の商品であるか分かる状態になっていると認められて登録されています)。
このように、文字や図形といった伝統的な商標に限らず、商品・役務の出所を識別でき、人に認識可能であれば、どのようなものであっても「商標」になり得るといえます。
そこで、今回の商標法改正では、このような新しいタイプの「商標」として「輪郭のない色彩」「動き」「音」「位置」「ホログラム」の5タイプについて、商標登録が認められることになりました。としても、なかなか言葉による説明だけではイメージしづらいと思います。そこで、各タイプごとに海外での登録例を紹介してみたいと思います(海外では欧米をはじめとして多くの国で新しいタイプの商標登録が認められています)。

1. 「輪郭のない色彩商標」

文字や図形と組み合わされた色彩付き商標ではなく、イメージカラーを商標として登録して保護するものです。

米国商標登録第2359351号(右側は使用例です)

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日本でも有名な宝石店ティファニーが、ロビンエッグブルー(ロビンという小鳥の卵の色)という同社のイメージカラーについて、宝石等の広範な商品について登録しています(ただし、商標の説明には、「包装箱に使用される」とされています)。
また、欧州や豪州でも下記の登録があります(権利者はおそらく分かると思います)。

欧州共同体商標登録第5978283号

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http://www.dhl.co.jp/ja/press/press_materials/images_general.htmlより)

豪州商標登録第749403号

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http://www.sej.co.jp/company/index.htmlより)

2. 「音の商標」

音楽、音声、動物の鳴き声、自然音等からなる商標であり、聴覚で認識される商標です。

米国商標登録第3409865号

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■音声はこちら (米国特許庁のサイトへリンク)

本件は、楽譜により出願されており、商標見本だけでは、一般人にはどのような商標(音)であるのか分からないのですが、実際に音を聞けば、権利者はすぐに分かると思います(おそらくみなさま毎日少なくとも一回は耳にしているのではないかと思います)。

その他、米国登録第2210506号
「有名なターザンの叫び声、叫び声はひと続きからなる10音からなる」というような説明で表現されたものや、

欧州共同体商標登録5170113号

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■音声はこちら (欧州共同体商標意匠庁サイトへリンク)

のようにソノグラム( 横軸に時間、縦軸に音の周波数、音色を色で表したもの)で登録されているものがあります(これも見ただけでは音が認識不可能ですが、ある動物の鳴き声です。映画好きの方なら想像できるかもしれません)。
いずれにしても、商標の特定や公示によって一般人が商標を容易に認識できるかに問題があることから、日本では楽譜等のみの出願は認められず、必要な資料としてサウンドファイルの提出が求められるようです。

3. 「動きの商標」

図形等が時間によって変化して見える商標です。動く平面商標のほか、動く立体商標もあり得ます(動くかに看板などもこの範疇に入りそうです)。

欧州共同体商標登録第5910831号

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いわずとしれた、○○○○○○のスタート画面です。
さらに、米国ではこんなものまで登録されています!

米国登録第2793439号

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米国登録第2710415号

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上は、ランボルギーニの車体と並行に上方に開くドアが、動きの商標として登録されており、ドアの開き方といった、(その是非は別として)いわば機能的な特徴が商標登録されています。
下は、カモがエレベータから噴水までレッドカーペットが敷かれた通路を行進し、噴水に飛び込んで泳ぐというピーボディホテルのアトラクションであり、当ホテルの名物行事のようです。この例によれば、アトラクションという、いわば商業的なアイデアを動きの商標として保護できてしまいそうです。

4. 「位置商標」

図形等の標章と、その付される位置によって構成される商標です。標章自体に識別力がない場合であっても、標章が常に商品等の特定の位置に付されることによって、識別力を獲得するというものです。言葉で説明しても分かりにくいかもしれませんが・・・。

米国商標登録第2363544号

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これはIBM(現在はレノボ)のコンピュータキーボードの赤色のカーソルコントロールデバイスが登録された例です。赤色のカーソルコントロールデバイスだけでは、単に赤色の丸い図形にしかすぎず、出所識別力はないと考えられます。しかし、これがコンピュータキーボードの特定の位置に付されると、誰の商標であるかを表わす目印になり得るということです(これを見た需用者がIBM社のコンピュータと分かる)。

米国商標登録第3392817号

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コルセットとうさぎの耳と尾、ボウタイ、カフスからなるバニーガールのコスチュームがプレーボーイ社により商標登録されています。衣装の意匠が商標で保護され得る例です。

5. 「ホログラム商標」

ホログラムに映し出される図形等が見る角度によって変化して見える商標です。
ホログラムとは、レーザー反射光の干渉縞を感光材に3次元像として記録したもので、製造に高度な技術を要することから偽造防止や製品認証等に幅広く利用されており、出所表示や品質保証機能が極めて高いといえますが、需用者が視認してホログラム自体から出所を認識できるかは疑問です(もちろん識別力を有する文字や図形をホログラムにすることも可能であり、その場合は別論)。しかし、人が視認して出所の目印と理解できるとも考えられますから、商標登録が可能となったようです。

米国商標登録第3045251号

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例えば、アメリカン・エキスプレス社がクレジットカードの表面に付されたホログラムを商標登録しています。
以上のように、今回の商標法改正により、伝統的な商標の概念とは異なる新しいタイプの商標を商標登録により保護することが可能になり、多様なマーケティング・広告宣伝手法を駆使した新しい時代のブランド戦略に資することになるといえるでしょう。
それとともに、新しいタイプの商標は、機能やビジネス上のアイデアを商標登録により保護できる可能性もあり、従来、特許、意匠、著作権、不正競争防止法で保護されていたものについて、商標で保護できないかを検討してみる価値もあるでしょう。


営業企画部 部長 佐藤 隆

以上では、「平成26年特許法等の一部を改正する法律」のうち、特に商標の保護対象を拡充することとなる「新しいタイプの商標の導入」に関連して、諸外国での登録事例などをご紹介いたしました。
今回の法改正では上記以外にも商標法・特許法・意匠法などに関わる改正も含まれておりますので、以下に簡単にご紹介いたします。なお、以下の改正法のうち、地域団体商標の登録主体の拡充及び「ジュネーブ改正協定」への加入に係る規定の整備以外の改正の施行日は、公布の日(平成26年5月14日)から起算して一年を越えない範囲において政令で定める日とされています。

商標法

1.保護対象の拡充 上記でご紹介した「新しいタイプの商標の導入」に伴い、色彩のみや音からなる商標を保護対象とするために、「商標の定義」を見直し、音の標章を発する行為を使用の定義に追加するなど、「商標の使用の定義」も見直されています。
また、今回保護対象に追加された商標のみならず、将来保護対象に追加する可能性のある商標や従来の手続では適切な登録が難しかった動き・ホログラム・位置の商標について、適切に保護できるように、出願に関する手続について以下のような整備がなされます。
(1) 「新しい商標」についても、現行制度の下での立体商標と同様に、出願に際して意思表示義務が課されます。
(2) 「新しい商標」については、出願に際し、その商標に関する詳細な説明の記載や所定の物件(音の商標であればその音を記録したCDなど)の提出義務が課されます。
(3) 詳細な説明や所定の物件は、その商標の内容を特定するものでなければならず、その要件を充たさない場合は拒絶対象となります。
(4) 登録商標の範囲を定めるにあたっては、詳細な説明や物件の内容を考慮するものとされています。
*なお、マドリッド協定議定書に基づく国際登録出願に関する手続について、WIPO国際事務局の国際登録原簿上に記載されている事項のうち、所要の事項を商標の詳細な説明とみなすこととされます。

2.地域団体商標の登録主体の拡充 現行法の下では、登録主体は事業協同組合等に限られていますが、近年新たな地域ブランドの担い手となっている、商工会・商工会議所及び特定非営利活動法人(NPO法人)並びにこれらに相当する外国法人が登録主体に追加されます。
なお、この改正は、公布の日(平成26年5月14日)から起算して三月を越えない範囲において政令で定める日から施行することになっています。

3.国際機関の紋章等と類似する商標の適切な保護 パリ条約では、加盟国に対し国際機関が使用する紋章等を他者が商標登録することを防止する義務を課しており、我が国も商標法第4条第1項第3号の規定により義務を果たしています。
他方、条約上は、このような国際機関と関係があるとの誤認を生じない商標については商標登録を行うことができるとの例外措置を定めています。
しかし、我が国の商標法では、当該例外措置が規定されておらず、実際の審査において担保している状態でした。近年では、このような例外措置の対象となり得る商標が数多く登録され、また使用されています。
このような実情に鑑み、商標法第4条第1項第3号の規定を改正し、この例外措置を商標法上に明確に位置づけることとなりました。

4.「商標的使用」でない商標の使用に対する商標権の効力の制限
「商標的使用」でない商標の使用については、商標権を侵害しないとする判例が数多くありますが、これらの判例は商標法上の規定を根拠とするものではありませんでした。
今回の改正法では、需要者が何人かの業務に係る商品または役務であることを認識することができない態様で使用されている商標には、商標権の効果が及ばないことが明文化されました。

特許法

1.救済措置の拡充 海外を含めて災害などの止むを得ない事情が生じた場合に、迅速な手続期間の延長を可能にするなど、救済措置の整備が行われます。
現行法の下では、災害発生時に逐一の政令指定手続きを必要とし、また海外での災害に対応していないなどの問題があったことに対応したものです。
具体的には、次のような整備がなされます。

(1) 手続期間の延長に係る規定の整備
特許法等に基づく手続をする者の責めに帰することができない事由が生じた時は、その手続期間を一定の期間に限り延長することができるようになります。
*実用新案法・意匠法・商標法及び国際出願法にも同様の措置が講じられます。

(2) 優先権主張に係る規定の整備
優先権主張を伴う特許出願について、その優先期限内に出願をすることができなかったことに正当な理由があり、かつ当該出願が一定期間内にされた場合は、優先権の主張をすることができるようになります。また、優先権を主張する旨の書面についても、出願と同時でなくとも一定期間内であれば提出できるようになり、その補正も一定期間内に限りできるようになります。
*実用新案法にも同様の措置が講じられます。

(3) 特許出願審査の請求期間徒過に係る救済既定の整備
特許出願の審査請求について、その請求期間(特許出願から3年)の徒過に正当な理由があるときは、一定期間内に限り請求できるようになります。
なお、その特許出願について特許権の設定登録があったときは、その請求期間の徒過について記載した特許公報の発行後から当該請求について記載した特許公報の発行までの間に、その特許出願に係る発明を善意に実施した第三者には、一定の範囲内でその特許権について通常実施権が認められます。

2.特許異議申立て制度の設立 特許権の早期安定化を図るべく、特許の異議申立て制度が創設されました。
具体的には、

(1) 何人も、特許掲載公報の発行の日から六月以内に限り、特許異議の申立てができるようになります。
(2) 審判長が取消理由を通知した場合には、申立期間内であっても申立書の要旨変更はできなくなりました。
(3) 特許異議の申立ては、書面審理に限られます。
(4) 特許権者から特許請求の範囲等の訂正の請求があったときは、異議申立人に対し意見書を提出する機会を与えられます。
なお、特許の無効審判については、利害関係人のみに請求人適格が認められます。
*旧制度の異議申立てと比較すると、以下のように審理効率化・制度活用や利便性(特に申立人に)の向上が図られたとされています。
(a)審理効率化のために、異議申立書の要旨変更を認める期間が短縮(申立て期間内に取消理由通知があった以降は要旨を変更する補正ができない)されている。
(b)全件書面審理とされ、申立人にとっては当事者性のバーが引き下げられて利用しやすくされている。
(c)特権権者によって請求の範囲等の訂正の請求がなされたときは、これに対し異議申立人に意見書提出の機会が認められるようになっている。

意匠法

我が国の『意匠の国際登録に関するハーグ協定のジュネーブ改正協定(以下、「ジュネーブ改正協定」)』への加入に向けて、規定(法律・手続き)の整備が行われます。但し、この改正の施行日は、「ジュネーブ改正協定」が日本国について効力を生ずる日とされています。
「ジュネーブ改正協定」は、複数国に対して意匠を一括出願することができる制度で、商標に関するマドリッド協定議定書に基づく出願のイメージが近いといえます。
協定に加入すれば、我が国から特許庁長官を通じて加盟各国に保護を求める国際登録出願がなされ、それとは反対に我が国以外の加盟各国から国際登録に基づき我が国に保護を求める国際意匠登録出願がなされることになるため、両者に伴う手続整備が必要となります。
現在、整備が予定されている手続の概要は次のとおりです。

(1) 我が国で認められる国際出願とその出願日の認定
我が国に保護を求める国際出願については、協定に基づき国際登録及び国際公表がなされたものを、その国際登録の日にされた意匠登録出願とみなされます。

(2) 複数意匠を含む国際出願の取扱い
複数意匠を含む国際出願については、我が国において個別の意匠ごとにされた意匠登録出願とみなされます。

(3) 秘密意匠制度の適用可否
国際公表を前提としているので、「秘密意匠制度(意匠法第14条)」は適用されません。

(4) 模倣被害対策
意匠の設定登録前にその意匠が国際公表されることによる模倣被害を防ぐべく、特許法第65条に倣った「補償金請求権」が付与されます。

(5) 関係手数料の規定
特許庁を通じて国際登録出願する場合等の手数料が定められます。

その他

そのほか、国際出願法および弁理士法において、以下の改正が行われます。

(1) 国際出願法(手数料の納付手続きの簡素化)
特許協力条約に基づく国際出願手数料のうち他国の特許庁等に対する手数料について、特許庁に対する手数料と一括で納付できるようになります。
従来は、我が国特許庁に納付する手数料(送付手数料・調査手数料)とWIPOの口座に納付する国際調査機関への調査手数料とWIPO事務局への国際出願手数料とは、それぞれ別に納付する必要がありましたが、改正後は我が国特許庁に一括して納付すれば、国際調査機関やWIPO事務局に特許庁から納付されることになります。

(2)弁理士法改正
弁理士の使命や相談業務の明確化、「ジュネーブ改正協定」加盟に伴う国際登録出願に関する手続代理の追加、利益相反行為の緩和などが改正されます。
なお、今回ご紹介の商標法改正や意匠法改正については、今後施行規則・審査基準などが公表され次第、さらに具体的な手続き方法や出願戦略などを本誌あるいは当所Web上でご紹介する予定です。