第3次改正「中国国商標法」のポイントを探る|パテントメディア|オンダ国際特許事務所

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第3次改正「中国国商標法」のポイントを探る

2014年1月
セブンシーズIPコンサルティング上海
中国弁護士 王 紅艶(ワン・コウエン)

1983年3月1日施行の「中華人民共和国商標法」は、1993年2月に第1次改正及び2001年10月に第2次改正が行われ、2009年11月には国家工商行政管理総局(SAIC)から国務院に第3次改正案が提出されました。
2011年9月には、国務院による第1回目の公開意見募集、2012年9月国務院による第2回目の公開意見募集及び12月全国人民代表大会による公開意見募集を経て、2013年8月30日、第12期全国人民代表大会常務委員会第4回会議で採択されました。
第3次改正中国商標法(以下改正法という)は、2014年5月1日から施行されます。
以下にその主な改正内容についてご紹介し、そのポイントを考察してみたいと思います。

1.音声商標の導入

改正法第8条は、商標として登録出願できる標章に「音声等」を追加し、現行法における「可視性」の概念を削除しました。
中国市場で消費者に広く知られている音声として、例えば、インテル社の広告音、マイクロソフト社のコンピューター起動音、マクドナルド社のサウンドロゴ等があります。
中国の商標登録制度が「先願主義」であることを考慮すると、企業はこの新制度を充分に活用し、現有の識別力のある代表的な音声についてはタイムリーに保護を図るべきでしょう。
これらの音声には一般的に、映画、テレビ・ラジオや広告に用いられる音響、独特の音声的スローガン、会社の代表的なメロディー、ウェブサイトにおけるバック・ミュージック、その他出所等を識別できる音声などがあります。
音声商標に関する具体的な出願方法、出願に要する資料等は未だ明確ではありませんが、中国国家関係部門は現在、改正法に対応する「商標法実施条例」を作成中であり、この実施条例が公布され次第明確になるものと思われます。

2.1商標多区分出願制度の導入

改正法第22条第2項では「商標登録出願人は、1出願で複数の区分の商品について同一商標の登録出願をすることができる」と規定しました。 1商標多区分出願制度の導入は、中国の商標制度を国際基準に符合させることにあります。この制度は、出願人に多区分出願を可能にすることによって商標出願のコスト削減に繋がるものであり、多くの業界、企業にとって有益なものとなります。1商標多区分出願の具体的な要領は、商標法実施条例等の規定を待つことになります。

3.商標審査期限の明確化
  • 商標登録審査期間は、商標局の出願受領日から9か月以内。(商標局)
  • 拒絶再審期間は、9か月以内。特殊な状況の場合は3か月延長可。(商標評審委員会)
  • 異議申立の審査期間は、公告期間満了日から12か月以内。6か月延長可。(商標局)
  • 異議申立再審請求の審理期間は、12か月以内。6か月延長可。(商標評審委員会)
  • 商標局の無効決定に対する再審請求の審理期間は、9か月。3か月延長可。(商標評審委員会)
  • 相対的無効理由による無効宣告請求の審理期間は、12か月以内。6か月延長可。(商標評審委員会)
  • 絶対的無効理由による無効宣告請求の審理期間は9か月以内。3か月延長可。(商標評審委員会)
  • 不使用取消請求の審理期間は、9カ月以内。3か月延長可。(商標局)
  • 登録商標取消再審請求の審理期間は、9カ月以内。3か月延長可。(商標評審委員会)

政府関係部門は商標審査の促進に注力しているものの、ここ数年、商標登録出願の激増に伴って依然として審査遅延が続いています。商標拒絶再審請求案件1件の審査に2~3年を要し、いくつかの複雑な案件では、7、8年さらには10年を経ても審査が完了しないという極端な例もあります。
このように、長期にわたって商標権を取得できない状況は、出願人にとって商標の商業的価値を著しく低下させることになります。このような状況が、悪意の先駆登録や商標権転売など、商標法の趣旨に反する現象を生み出したといっていいでしょう。

上述のように、商標の審査手続期限に関する規定は、実体法の運用を「見える化」したものといえます。商標法において審査期間を明確化することにより、当事者は自身の権利獲得の予測とブランド展開戦略に法律的保証を付加したことになります。また、審査期間の長期化によって生じた社会的混乱を緩和し、悪質行為の温床を排除することができると考えます。

上述以外の商標諸手続き、例えば、譲渡、変更等も商標権者にとっては重要な事項ですが、改正法では関連規定が定められませんでした。また、商標拒絶再審等の手続期間の制限に伴って、出願人の証拠補充期間が短縮される可能性があります。例えば、現行法に定める3か月の証拠補充期間が、2か月もしくは1か月に変更されるかもしれません。これは、出願人が提出する補足証拠資料の収集に影響を与えるおそれがあります。
商標法実施条例の具体的な規定が期待されます。

4.商標異議申立制度の再構築

(1)異議申立人適格
改正法第33条では、異議申立理由が絶対的事由(禁止規定違反、識別性欠如、公序良俗違反等)に基づく場合、「何人」も法定公告期間内に異議を申し立てることができることを規定しました。
異議申立理由が相対的事由(先行商標と同一または類似、悪意の出願等)に基づく場合は、異議申立人適格を「先行権利者、利害関係人」に限定しました。

(2)プロセス変更
改正法第35条では、「商標局は異議案件の審理後、直接登録の可否について決定することができる。商標局が登録の決定をした場合、商標登録証を交付しかつ公告する。異議申立人が商標局の決定に不服の場合、商標評審委員会に対し当該登録商標の無効宣告を請求することができる。商標局の登録しない旨の決定に対し被異議申立人が不服の場合、商標評審委員会に再審を請求することができる」旨、規定しました。
改正法では、異議申立人の異議再審請求の手続きを廃止し、救済手続きを商標登録後の無効宣告請求に移行しました。

今回の改正法によって、異議申立人適格を条件付きで限定することは、他人の商標登録の妨害や金銭的要求を目的とする悪質な異議申立を排除するのには有効と思われます。
また、異議申立人の異議再審請求手続を廃止することで、外見上、商標権確立までの手続が減少し、出願人は商標権の獲得が容易になったように見えます。
しかしながら、異議申立手続は相対的であって、「影響力のある他人の商標」や「著名商標、馳名商標」を悪意で先駆出願した案件について異議申立が不成立となり、その結果、当該商標が登録となれば異議申立人の権益に重大な影響を及ぼすことになります。また、当該商標の登録後に無効宣告を請求することは異議申立人に対する負荷を強いることになります。
改正法における異議申立手続の変更は、制度運用過程で新たな課題を提供することになるだろうと推測します。

5.商標の先使用権に関する新たな規定と使用義務の強化

改正法第48条は、「商標の使用」に関する概念を明確にしました。
新設の改正法第59条第3項は、「商標権者がその商標登録出願前に、他人がすでに同一または類似の商品に商標権者より先に登録商標と同一または類似の商標を使用し、かつ一定の影響力を有するときは、商標権者は、当該使用者の元の使用範囲における当該商標の継続使用を禁止する権利を有しない。ただし、適切な区別標識を付することを要求することができる」と規定しました。
また、新設の改正法第64条は、「登録商標の商標権者が、賠償を請求し、権利侵害の訴えを受けた者が商標権者の登録商標不使用をもって抗弁する場合、商標権者は過去3年以内に当該登録商標を実際に使用した証拠の提出義務がある。商標権者が使用証拠を提出できない場合、権利侵害の訴えを受けた者は賠償責任を負わない」旨、規定しました。

改正法が、「商標の使用」概念を明確化したことで、「3年不使用取消」案件における使用証拠方法やその他の商標使用証拠方法に明確な法的根拠を与えたことになります。
改正法の施行後は、商標の使用義務強化という立法趣旨に基づいて、3年不使用取消請求手続きが簡便となる可能性があります。

改正法第59条第3項は、条件付きで商標の先使用権を認め、元の商標使用範囲内で継続的に使用することができるようにしたものであり、商標権者は当該商標の使用者に対し使用を禁止できなくなります。これは、「登録ありき」の従来基準を変更したことになります。
改正法によれば、悪意ある商標出願の登録後に、商標権者が他人の使用に対し行う使用禁止要求や高価買い取り要求を抑制することが可能となります。これには、すでに市場で使用され、かつ一定の影響力のある未登録商標を保護する狙いがあり、本来の商標権者の利益を確実に担保することに繋がります。

6.信義誠実の原則の導入

改正法第7条第1項では、「商標の出願と使用は、信義誠実の原則に従わなければならない」と規定しました。
また、改正法第15条第2項及び第45条第1項によって、利害関係や業務取引関係にある者による先駆出願の規制を明確にし、加えて、登録済の商標に対し無効宣告の請求を可能にしました。

改正法で民法の基本原則を明記した主旨は、市場において商標登録及び使用時に信義誠実の原則を順守することを提唱することにあります。改正法第7条第1項は概念的法原則であり、今後、行政及び司法における判断の根拠条項として多く適用されることになるでしょう。
改正法第15条及び第45条における追加条項は、信義誠実の原則そのものであって、悪意による登録行為の抑制とそれに対する法的手段を明確にしました。
また、関連商標権者は、代理店契約、業務委託契約やその他業務取引上における関連証拠を厳重に保存することが重要になってきます。

7.「馳名商標」表記の広告宣伝禁止に関する新たな規定

改正法第14条第5項は、「生産者、経営者は『馳名商標』の文字を商品、商品包装または容器において、広告宣伝、展示及びその他の商業活動に用いてはならない」と規定し、本条違反は、改正法第53条により「地方工商行政管理部門により是正を命じ10万元の過料を科す」としました。

今回の「馳名商標」に関する改正は、中国商標制度における抜本的な措置であると考えます。「馳名商標」の本来的意味合いは「栄誉称号」ではないということにあり、論理的に「馳名商標」が宣伝用語であってはならないからです。今回の「馳名商標」表記の広告宣伝禁止規定は、非常に高い評価を得ています。
これまで、企業(主として中国企業)が多額の費用を費やして「馳名商標」の認定を得たにもかかわらず、広告宣伝に使用できないことは容認しがたいことかもしれませんが、改正法施行までには対応する対策を講じておく必要があります。

8.商標代理行為の規範化

改正法第19条は、商標代理組織の業務について次の通り規範化しました。

  • 守秘義務:商標登録されない状況にあるときは、委託人に対し明確に告知しなければならない。
  • 先駆出願:悪意等に該当する出願の委託を受けてはならない。
  • 商標代理機構は、その代理業務について、その商標登録出願以外の商標登録出願をしてはならない(罰則付き)。

中国国内の8,700余の商標代理組織には、当然、組織間の格差が生じています。
一部の代理組織が不正や出願依頼人の商標を先駆出願するなどによって、商標代理業界全体が非難の的となっているのが現状といってよいでしょう。今回の改正法で商標代理行為を規範化することは、商標代理業界全体の自己抑制と健全な発展に繋がるものと期待されます。
商標代理組織や代理人に不誠実または不正行為の事実を発見した場合は、工商部門又は商標代理組織に苦情を申し立てることが可能になり、加えて、改正法第68条による刑事・民事の訴追が可能となります。

(以上は弊所の見解であり、改正法施行後の「商標法実施条例」の規定と異なる場合は、当該条例をご参照ください。)

(特許業務法人オンダ国際特許事務所 理事 谷尾唱一監修)