特許の収益化|パテントメディア|オンダ国際特許事務所

特許の収益化|パテントメディア|オンダ国際特許事務所

アクセス

特許の収益化

2010年5月
米国特許弁護士 ブライアン P.ファー

Bloomberg Business Week誌は最近、特許ポートフォリオの価値によってランク付けされた上位25社を発表しました。この調査は、収益と5年間の特許付与件数から見た世界のトップ1,000社の公開会社(株式を不特定多数の人が所有している会社)に限定して行われました。トップ25社には、キヤノン、日立、リコー、パナソニック、セイコーエプソン、東芝、ソニー、富士通の日本企業8社が含まれています。

最も多数の特許を有する企業であるIBM社は、最も価値ある特許ポートフォリオを有しているとはされませんでした。この栄冠は、マイクロソフト社に与えられました。IBM社が所有する特許ポートフォリオの価値は8位とされ、リコー社とパナソニック社の間にランク付けされました。この調査は、知的財産権に特化した金融機関であるOcean Tomo社によりなされました。調査によれば、マイクロソフト社の特許ポートフォリオは、IBM社の特許ポートフォリオの約3.3倍の価値があるとされました。

とはいえ、IBM社は知的財産権の収益化においては非常に優れています。Business Week誌のこの調査に関する記事によれば、IBM社の特許部門は収益を生み出す部門です。2009年にライセンス及び他の企業のためにカスタム開発した知的財産権がIBM社にもたらした利益は、11億USドルを超える見込みです。
価値ある特許ポートフォリオを有することは優れた業績といえますが、価値ある芸術品を収集することとよく似ています。どちらの場合においても、個々の価値を量ることは難しく、また現金化しにくいものですし、それを保持するためには費用がかかります。高価な芸術品の場合、盗難や損害から守るように防御手段を講じ、安全に管理することが必要です。一方、特許の場合、特許が失効することを防ぐために、存続期間満了に至るまでの年金を支払う必要があり、またどんな特許もいつかは失効します。

大規模な特許ポートフォリオを有する企業のほとんどは、特許ポートフォリオの価値を完全には理解しておらず、さらに特筆すべきことに、その価値をいかにして組織のための収益源とするかについて理解していないことでしょう。「質の高い」ポートフォリオという点においては、価値ある米国特許は、全体の1~5%といえるでしょう。本稿の中でいう価値ある特許とは、一特許あたりの収益が少なくとも500万USドルの価値を潜在的に有するものとします。

ポートフォリオの価値を控えめに見積もるとするならば、所有する特許のうち1%がそれぞれ潜在的な利益として500万USドルの価値を有することを前提とすると、米国特許1,000件からなる特許ポートフォリオが、特許の残りの存続期間にわたって5,000万USドルの利益を生み出すことを要します。見積もられた潜在的な利益が組織にとって十分に興味のあるものであれば、ポートフォリオを分析して、その潜在的な利益を実際の利益とするための方法について決定すべきです。

わずか数%の価値ある特許を発見するために何千件もの特許のポートフォリオを手作業で分析することは、非常に骨が折れ、費用のかかる作業となります。幸いなことに、この負担をかなり軽減するためのソフトウェアが開発されています。例えば、前述のBusiness Week誌の調査を手がけたOcean Tomo社は、特許ポートフォリオから経済的な利益を生み出す可能性を判定できることが統計的に証明されていると同社が主張する、特許評価サービスを提供しています。他の同様のサービスを提供する会社としては、例えば、ネオパテンツ社、1790アナリティックス社、セミコンダクター・インサイツ社等が挙げられます。

特許ポートフォリオの分析は、「データマイニング」又は「特許発掘」とも称されます。一般的に、特許分析を行うソフトウェアは、他の文献における当該特許の引用、及び競合製品の説明にも現れる請求項及び要約書のキーワードに基づいて、潜在的なライセンス契約の可能性について調査します。しかしながら、最終的には、手作業での確認が求められます。発明者、契約担当者、及び特許弁護士が、各特許を確認して、ライセンス契約の機会を特定します。ライセンス契約の機会は概ね、(1)技術移転、(2)潜在的な侵害者の特定、の2つのカテゴリーに分けられます。

技術移転は、ほとんどの米国の大学に好まれる手法です。米国の主要な大学のほぼ全てが、大学に所属する教授及び科学者の研究によって得られた特許を収益化することを主要な機能とする部門を有しています。技術移転の機会において重要なのは、その技術が、特許されているか又は特許されようとしており、他の者がその技術に基づいて新規な、あるいはそれを改良した、あるいはそれをより望ましい形にした製品を作ることができるかどうかです。これは基本的に営業の仕事です。つまり、将来のライセンシーが、その新技術が労力、費用、及び商業化のリスクに値するものであると信ずるに足るものでなければなりません。

ある程度世間に認められた企業の多くが社外で開発された技術思想に対して偏見を持っているため、その企業がこのような技術から利益を得る可能性があるとしても、技術のライセンス又は譲渡を行うことは非常に難しいといえます。これがどれだけ困難であるかを示す例として、音波を用いて歯の掃除を行う、ソニケアという商標名で販売される電動歯ブラシの開発が挙げられます。この装置は、シアトルのワシントン大学の2人の教授によって、4,000USドルの研究助成金を用いて、試作品が開発され、特許出願もなされました。2人の教授が大学との基本雇用契約に基づいて当該特許を受ける権利をワシントン大学に譲渡したため、その特許出願はワシントン大学によって所有されていました。

初期の目標は、個人向け健康用品を販売する大企業、例えばプロクター&ギャンブル社、ジョンソン&ジョンソン社、サンビーム社等に特許権をライセンスすることでしたが、これらの企業はこの申し出を断り、また、他の25社についても同様の結果となりました。最終的に、教授達は、ヒューレット・パッカード社の元技術者にこの技術の真価を理解させ、この人物は、この技術を商業化すべく、1988年にジェムテックという新会社を興しました。ワシントン大学は、ジェムテック社の所有権の一部と引き換えに、当該特許権についてジェムテック社とライセンス契約を交わしました。この会社は後に、オプティバへと社名を変更し、1992年に開催された歯周病に関する会議において、最初のソニケア(商標名)歯ブラシの販売を開始しました。1996年には、この会社は大きなサクセス・ストーリーとして認識されるに至りました。2000年に、この会社は、フィリップス・ドメスティック・アプライアンス&パーソナルケア社に買収されて、フィリップス・オーラル・ヘルスケア・インコーポレーテッドと社名変更しました。2001年の終わりには、同社によるソニケア(商標名)歯ブラシの生産は1,000万個を突破し、この製品は、再充電可能な電動歯ブラシとして米国で1位を獲得するに至ったのです。

このストーリーはハッピーエンドに終わり、興味深い事例となっていますが、まだ実証されていない新たな技術の利益について将来のライセンシーにライセンス契約することの難しさを物語っています。新興企業は倒産する可能性が大きいため、新興企業に対して株式を見返りとしてライセンス契約することは非常に危険が伴い、また、特許権者がその株式を現金化して利益を受けるまでには何年もかかります。

利益を得る機会として挙げた2つ目のカテゴリーは、特許実務家達が特許事務所において行う業務として最も知られているであろうもの、すなわち潜在的特許侵害者の特定です。これは、敵対的な行為であり、通常は、訴訟やそれに起因する深刻な脅威を伴うものです。なぜならば、このような場合、将来的にライセンシーとなり得る者であっても、ライセンス契約を避けようとあらゆる手段を講じるからです。特許のライセンス契約における潜在的利益については、訴訟の不確実性、時間の経過による金銭価値の変動、訴訟にかかる費用、訴訟によって起きる負担等を差し引かなければなりません。しかしながら、この行動が、それほど敵意的でなく、訴訟において通常要する時間よりもかなり早く契約が成立することもあります。

第一に、侵害者にライセンス契約を結ばせようとする代わりに、侵害者と競合する者に働きかけて、当該特許を競合者に譲渡する申し出をすることが考えられます。可能であれば、当該侵害者から特許侵害訴訟を提起されたことのある、又はそのような訴訟を提起されている競合他社への働きかけをすべきでしょう。このような競合他社は、通常、特許の購入の申し出を受け入れやすく、訴訟をほのめかすことなく比較的に短期に交渉を終わらせることができます。

第二に、もし貴社が訴訟に巻き込まれたくないのであれば、特許訴訟をビジネスとする他の組織を用いる方法もあります。このような組織は、侵害されている特許を探しており、もしそのような特許が有効なものであり、第三者により侵害されていると納得すれば、その特許の購入に非常に興味を示すことでしょう。このような組織は、よく非実施組織(NPEs)と呼ばれ、悪意を込めて「パテントトロール」とも称されます。

特許の売買を宣伝する組織もあります。例えば、tyanax.comでは、売買可能な特許のリストをオンラインで提供しており、特許の売買取引が行われています。本稿を執筆している2010年2月においても、様々な技術分野において現在購入したい特許がリストアップされています。具体的に例を1つ挙げると、現在侵害されている可能性のある、事務用及び生産性向上用ソフトウェアに関する特許の購入が求められていました。この広告主は、現在侵害があることが特定され、かつそれが文書化された技術の特許に特に興味を持っています。別の広告主は、オンライン賭博及びテレビゲームに関する特許を探しており、特に日本と米国の特許に興味を示しています。

特許ポートフォリオから特許を市場に出す特許ブローカーを用いることも可能でしょう。例えば、前述したtyanax.comは、特許の仲介サービスを提供しています。その他にも同様の仲介業者がいます。例えば、パナソニック社は、セミコンダクター・インサイツ社(semiconductor.com)において特許仲介業者を介して売りに出しているハードディスクドライブに関する特許を有しています。また、特許は、オークションで売ることもできます。現に米国特許についてのオークション取引がなされているipauctions.comにて提供されるオンラインオークションサービスも存在しています。

特許ポートフォリオを収益化しようとする際には、特別な報酬取り決めも考えておくべきでしょう。特許の収益化は、ポートフォリオ中における大きな収益の見込める特許が、見つけることが困難な稀有な宝石のようなものであるため、よく「特許発掘」とも呼ばれます。どの従業員がこれらの価値ある特許を特定するための知識及び能力を有するものであるかを事前に判断することは困難です。このような価値ある特許を特定する意欲をライセンス契約担当者に生じさせ、潜在的な利益を現実のものとする取引を完成させるために、歩合制を用いることがより良好な報酬取り決めとなるかもしれません。

しかしながら、貴社が何千件もの特許からなるポートフォリオを有していなかったとしても、質の高い特許が2、3あれば、利益を得ることはできます。過去においては、IEEE Spectrum誌が、1790アナリティックス社のデータに基づいて様々な技術分野における特許ポートフォリオの価値について毎年ランキングを発表しています。ランキングの上位に位置する企業が翌年大きく順位を変えることはあまりないのですが、2008年には、コンピュータの周辺機器及び記憶装置の分野において、新たな企業が突然姿を現しました。この分野における上位2社は、セイコーエプソン社及びリコー社であり、2007年に付与された特許はそれぞれ1,218件と763件でした。一方、2007年に付与された特許がわずか25件であるにもかかわらず、イー・インク・コーポレーションが第3位にランクインしたのです。ポートフォリオにおいては、特許の数が重要な要素となり得ますが、特許の質は決定的要因となり得るのです。