商標の棚卸しをしてみませんか|知財レポート/判例研究|弁理士法人オンダ国際特許事務所

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商標の棚卸しをしてみませんか

(パテントメディア2010年1月発行第87号掲載)
弁理士 木村 達矢

商標とは、文字、図形、記号等であって、業として商品等を生産等する者がその商品等について使用するものです。取引者・需要者は商品等に付された商標を目印として、その出所を認識し、他の商品と区別します。
他社と差別化された高品質な商品を開発したとしても、取引者・需要者に貴社の商品を正しく選んでもらう必要があります。貴社商標が付された商品の品質が高く評判がよい場合には、取引者・需要者は貴社商標を見ただけで「品質のよい製品」であるとの印象をもち、愛着を感じるようになります。
すなわち、商標には「信用」や「顧客吸引力」が蓄積されていきます。このような場合に、他社が粗悪品に貴社と紛らわしい商標を付して販売すると、取引者・需要者は貴社商品と間違えて他社商品を買ってしまったり、さらに貴社商品が粗悪品であるとの印象をもってしまうこともありえます。
一方、商標を登録しないまま使用していたところ、たまたま他社が類似商標を類似商品について登録している場合には、貴社が他人の商標権を侵害していることになってしまいます。
貴社の事業を守り安心して事業を行うためには、技術開発による品質の向上やデザインによる差別化とともに、商標によるブランド管理が重要になります。
しかしながら、商標は、特許等に比べて若干異質なためか、登録商標の管理がおろそかになっているケースも見受けられます。
そこで、以下に貴社事業を確実に守るための商標チェックポイント8項目をご紹介しますので、一度商標の棚卸しをしてみてはいかがでしょうか。

1.登録商標の一覧の作成

まず、商標管理をするためには、自社の出願・登録商標をきちんと把握することが前提となります。これは当たり前のことのようですが、商標は更新により半永久的に存続するものであり、中には数十年も存続するものもあり、その間には商標担当者が入れ替わって、自社の所有登録商標すら不明となっているケースもあります。
現在では、特許電子図書館の「商標出願・登録情報検索」で「権利者名」から検索することも可能ですが、会社名称が変更されていたり個人名で登録されていたりするケースもありますので、その点に注意する必要があります。

2.使用商標の一覧作成

次に、自社の実際に使用している商標(ブランド)の洗い出しをして、実使用の商標及び当該商標が使用されている商品又は役務の一覧を作成します。そして、上記の登録商標一覧と対比して、商標登録にもれがある場合は、直ちに出願することが重要です。
なお、製品を海外に輸出等されている場合には、併せて製品の輸出状況及び輸出先の国における商標登録の有無を一覧にするとよいでしょう。外国において商標登録にもれがある場合は、当該国における商標登録を確保する必要があります。

3.自社商品又はサービスが当該登録商標の指定商品又は役務により、カバーされているか

さらに、使用商標が登録されている場合であっても、自社商品又はサービスが当該登録商標の指定商品又は役務により、適切にカバーされているかについても留意する必要があります。

商標権者は、登録商標を指定商品又は役務について使用する権利を専有します。すなわち、当該登録商標を独占的に使用できるのは、登録された指定商品又は役務に限られます(なお、類似範囲については他人の使用を禁止できることから、他人の類似商標が存在しない範囲、すなわち貴社の登録商標と他人の登録商標と類似範囲が互いに蹴り合いになっていない範囲では、事実上独占的に使用することができます)。 出願当初は、正しく使用する予定の商品について指定していたとしても、その後商品ラインを拡大したり、マーケットの変化により、当初予定していた商品と異なる商品について、商標を使用している場合があります。 このような場合、自らは登録商標を使用しているつもりでも、実際には当該商標権ではカバーされていない範囲で使用していることになります。 このような場合は、直ちに出願して登録を確保することが重要です。万一、当該範囲で既に他人の登録商標が存在している場合には、不使用取消審判や譲渡・ライセンスの検討又は代替案への変更を検討する必要があります。

4.商標自体が変更されていないか

商標(特に図形商標)は、長く使用されている間に、流行や社会状況に合わせてデザインが変更されることがあります。そのような場合、軽微な変更であって商標の識別力に影響がない程度であれば、当該商標権でカバーされているといえますが、それを超えて識別性に影響するレベルの変更がされている場合には、登録商標とは異なる別の商標を使用していることになります。
このような場合は、再出願して登録を確保する必要があります。また、軽微な変更であっても、商標はなるべく実施用に近い態様で確保しておくことが望ましいといえます。更新時期に合わせて実使用の態様で再出願をし、実体に合わなくなった登録商標については放棄することにより、常に実使用の態様に合わせて登録を確保するとよいでしょう。

5.商標登録にもれはないか

登録商標一覧と使用商標一覧が完成したら、これらを対比して登録にもれがある場合は、まず商標調査をすることをお勧めします。
その結果により、明らかに類似する商標が類似する商品又は役務について、他人により既に登録されている場合には、潜在的に当該商標権を侵害していることになります。この場合、当該使用商標の重要性・必要性、相手方の商標の周知度や使用・不使用等を総合的に考慮して、(1)商標を変更する、(2)商標出願にトライする、(3)譲渡・ライセンス交渉をする等の対策を検討する必要があります。
ちなみに、類似の程度によっては意見書による反論や審判請求をして争うことにより登録される可能性があります(なお、一般的に商標の不服審判の成功可能性は高く50%を超えています)。また、日本の登録商標は不使用であることが多く、不使用取消審判の成功確立はかなり高いという実情があります(成功率80~90%)。
したがって、このような手段により引用された登録商標を取消すことができれば、貴社は商標登録を得ることができます。ただし、最終的に登録が得られなかった場合には、速やかに商標の使用を中止し、代替案に変更する必要があります。

なお、使用商標によっては使用商品の一般名称や品質等の記述的表示にすぎず識別力を欠くと考えられるものもあるでしょう。しかしながら、明らかに商品の一般名称や品質等の記述的表示と考えられるものを除き、グレーゾーンと思われるものについては他人により登録されてしまう可能性があります。
もちろん、そのような登録に対しては、自己の使用は商品の一般名称や品質等の記述的表示にすぎないとして争う余地はありますが(商標法26条)、例えばロゴ化したり、既に登録済みの他の商標を組み合わせて出願することにより、登録を得る方法があります。
この場合、商標登録をしたとしても、他人がそのような一般名称や記述的表示を普通に表される方法で使用することに対しては、商標権の効力が及ばない可能性が高いといえます。しかし、紛争を未然に防止して安心して商標を使用できるメリットは大きいと思います。

6.更新の要否の検討

上記とは逆に、現在使用しておらず、かつ、将来も使用する予定がない商標については、更新の要否を検討します。なお、更新は区分単位で可能ですので、一部の指定商品について使用している登録商標であっても、例えば他の区分の指定商品については使用する予定がなければ、必要な区分のみ更新し、他の区分については放棄することも可能です。この検討によって、貴社の経費削減に大いに貢献できる可能性があるでしょう。
ただし、更新されずに消滅した商標については、当該商標が周知著名になっている等の特段の事情がない限り、他人が商標登録することが可能ですので、そのような事態が生じた場合の、自社の事業に対する影響を考慮して慎重に検討する必要があるでしょう(使用を中止したとしても、ブランドの顧客吸引力が残存していたり、中古商品として市場に出回っている可能性もあります。また、そもそも使用予定はないが防衛的に出願しているケースもあります)。

7.使用証拠の保存

登録商標は3年間指定商品について商標権者又は使用権者が継続して使用していない場合は、第三者が不使用取消審判を請求することにより取り消されるおそれがあります。不使用取消審判がかけられた場合、商標権者の側で使用証拠を提出する必要があります。使用証拠を提出しない、又は提出した証拠が不適切で登録商標を指定商品・役務について使用しているものと認められない場合には、商標登録が取り消されるおそれがあります。
このような場合に備えて、商品のカタログやパンフレット、写真やパッケージ等を適宜保存しておくことがよいでしょう。
この際、カタログであれば日付入りのもの、商品であれば型番等により関連づけられる納品書等で使用された日時が証明できることが必要です。
近年では、インターネットのウェブサイト上で宣伝や販売が行われていることが普通になっていますが、これらのプリントアウトについても時系列にそって一定の数量を提出すれば、一般的には文書の真正が認められると考えられますので、これら画面を定期的にプリントアウトして保存しておくことも有効と思います。

8.マドプロ出願への置き換えの検討

以上のように、登録商標を適切に管理することは、貴社の事業を守りブランドの維持・管理にとって極めて重要です。
一方、現代では経済がグローバル化していることから、商品は国境を越えて流通し、外国に製品を輸出する機会も増えていると思われます。とすると、登録商標についても外国を含めて、グローバルに管理する必要が生じています。従来、複数の外国で商標登録をするには、各国に直接出願して登録するより方法がなかったことから、同一の商標についても各国毎に登録日及び存続期間満了日はバラバラであり、また、表示変更や移転登録等についても各国毎に手続をする必要があり、これらを管理することは非常に煩雑かつ大変なことでした。
しかし、平成12年3月14日に我が国でマドリッド協定議定書(以下、マドプロといいます。)が発効したことにより、我が国の国民は日本特許庁を通じて国際出願及び国際登録ができるようになりました。
マドプロには現在80カ国(ただし、日本は北朝鮮を国として認めていません。)が加盟しており、我が国に商標登録を有する者は、これを基礎として国際出願をすることにより、一括した出願手続かつ低廉な費用により複数の外国における権利取得が可能になりました。
さらに、国際登録の商標権は国際事務局の国際登録簿により管理されますから、存続期間の更新等の維持管理が国際事務局に対する一度の更新申請により可能ですから、各国ごとにバラバラに管理する煩雑さが解消されます。
これは、複数の外国における商標登録の管理の点からは、非常に大きなメリットといえます。したがって、単に将来の外国出願だけではなく、既に複数の外国に商標登録を有している場合でも、マドプロ出願による既登録商標の置き換えを検討してみてはいかがでしょうか。

当所では、「商標ポートフォリオ整理」サービスをご提供しています。これは、上記のような商標の棚卸しを、当所が貴社に代わって実施するものです。
例えば、登録数70(区分数は1~15)で、書換え後、不要な区分が多数登録されていたA社のケースでは、パンフレットの検討及び商品範囲の比較作業は当所が行い、既登録の商品範囲の確認はA社の商標担当者が行い、作業は1週間で、当所費用は約30万円でした。
ポートフォリオの見直しにより、不要な区分の更新に係る無駄な出費をなくした結果、A社は1000万円以上の経費を節減することに成功しました。「商標ポートフォリオ整理」サービスでは、当所が全ての作業を行うことも、作業を分担して進めることも可能です。