判例研究「平成28年(ワ)第35763号 特許権侵害差止請求事件」|知財レポート/判例研究|弁理士法人オンダ国際特許事務所

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判例研究「平成28年(ワ)第35763号 特許権侵害差止請求事件」

(パテントメディア2018年9月発行第113号掲載)
弁理士 村井純子

1.序

フィンテック(FinTech)に関連した特許侵害による差し止め請求訴訟の事例を紹介します。フィンテックは、finance(金融)とtechnology(技術)とを融合したサービスに関連する事項です。

2.内容

平成28年(ワ)第35763号 特許権侵害差止請求事件
判決言渡:平成29年7月27日
原告:フリー(freee)株式会社
被告:株式会社マネーフォワード
特許番号:特許第5503795号
発明の名称:「会計処理装置,会計処理方法及び会計処理プログラム」

(1) 特許になるまでの経緯と裁判で判決確定になるまでの経緯
平成25年10月17日: 出願(特願2013-216457
  (特願2013-55252の分割出願))
平成25年10月17日: 早期審査に関する事情説明書の提出
平成25年11月12日: 拒絶理由通知((進歩性、記載要件違反)
平成25年12月13日: 面接記録
平成25年12月17日: 手続補正書、意見書の提出
平成26年  1月14日: 特許査定
平成28年  9月28日: freeeがマネーフォワードに警告書を送付
平成28年10月19日: マネーフォワードが書面で回答 (回答期限を経過)
平成28年10月21日: 裁判所に訴状提出(提訴)
平成29年  1月29日: 反論の準備書面を提出(応訴)
平成29年  5月12日: 口頭弁論終結
平成29年  7月27日: 判決言渡
平成29年  8月10日: 控訴せず(判決確定)
(2) 特許請求の範囲

請求項1(装置)、請求項10、請求項13(方法)、請求項14(プログラム)が対象です。
裁判所は、請求項13(方法の発明)を用いて、侵害の成否を判断しました。
争点となったのは、請求項13の構成要件「C」と「E」です。

【請求項13】
「A」ウェブサーバが提供するクラウドコンピューティングによる会計処理を行うための会計処理方法であって,
「B」前記ウェブサーバが,ウェブ明細データを取引ごとに識別するステップと,
「C」前記ウェブサーバが,各取引を,前記各取引の取引内容の記載に基づいて,前記取引内容の記載に含まれうるキーワードと勘定科目との対応づけを保持する対応テーブルを参照して,特定の勘定科目に自動的に仕訳するステップと,
「D」前記ウェブサーバが,日付,取引内容,金額及び勘定科目を少なくとも含む仕訳データを作成するステップとを含み,作成された前記仕訳データは,ユーザーが前記ウェブサーバにアクセスするコンピュータに送信され,前記コンピュータのウェブブラウザに,仕訳処理画面として表示され,前記仕訳処理画面は,勘定科目を変更するためのメニューを有し,
「E」前記対応テーブルを参照した自動仕訳は,前記各取引の取引内容の記載に対して,複数のキーワードが含まれる場合にキーワードの優先ルールを適用し,優先順位の最も高いキーワードにより,前記対応テーブルの参照を行う
「F」ことを特徴とする会計処理方法。

取引内容が「モロゾフ JR大阪三越伊勢丹店」の事例では、以下のようになります。
取引内容から抽出されるキーワード:「モロゾフ」「JR」「三越伊勢丹」
キーワードの中で優先順位が高いキーワード:「モロゾフ」
「モロゾフ」に対応づけられた勘定科目:「接待費」
従って、「接待費」として自動仕訳。

(3) 当事者の主張

①原告の主張は、以下の通りです。

被告方法は,摘要の記載に基づいて,記載に含まれうるキーワードと勘定科目とを対応づけておき,これを参照するが(構成c),当該対応づけは,教師あり学習の成果として生成された対応づけを表すデータとして記憶されている(構成g)から,被告方法においては,摘要の記載に含まれうるキーワードと勘定科目との対応づけを表すデータを参照して,勘定科目の自動付与がされている。このことは,被告が提供するサービスについて原告が行った動作確認の結果(甲6,8,9)から明らかである。

すなわち、機械学習によって作成されたデータを用いることが、「対応テーブル」を用いた処理になるとの主張です。

②被告の主張は、以下の通りです。

…被告製品の本件機能は,いわゆる機械学習を利用して,入力された取引内容に対応する勘定科目をコンピュータが「推測」するものである。機械学習とは,「コンピュータにヒトのような学習能力を獲得させるための技術の総称」といわれており,コンピュータが,データ識別等の判断に必要なアルゴリズムを,事前に取り込まれる学習データから自律的に生成し,新たなデータについてこれを適用して予測を行う技術のことをいう。
被告は,これまでのサービスの提供を通じて自らが保有する莫大な数の実際の仕訳情報の中から抽出した膨大なデータを,学習データとして利用することで(すなわち,既に正解が判明している大量の取引データをコンピュータに入力して学習させることで),新たな取引についても,より高い確率で適切な勘定科目に仕訳することができるようなアルゴリズムをコンピュータに自律的に生成させ,これを本件機能に用いているのである。このアルゴリズムは,極めて複雑な多数の数式の組み合わせから構成されるものであって,キーワードと勘定科目の「対応テーブル」を参照するなどというものではないし,そもそもキーワードと勘定科目が対応づけられたテーブルなど保持していない。

被告は、キーワードと勘定科目と関連付けた「対応テーブル」と、機械学習とは異なるとの主張です。

(4) 裁判所の判断

そこで、裁判所は、被告による「被告方法」と「特許発明」との実施結果を参考にしました。
結果的には、両者の「勘定科目の仕訳結果」が合致しないことから、両者の手法は異なり、侵害を否定しました。

被告方法の認定

…複合語を入力した場合に出力される勘定科目の推定結果が,上記組み合わせ前の語を入力した場合に出力される勘定科目の各推定結果のいずれとも合致しない例(本取引⑥⑦⑭ )が存在することが認められる。例えば,本取引⑦において,「商品店舗チケット」の入力に対し勘定科目の推定結果として「仕入高」が出力されているが,「商品店舗チケット」を構成する「商品」,「店舗」及び「チケット」の各単語を入力した場合の出力である「備品・消耗品費」,「福利厚生費」及び「短期借入金」(本取引①ないし③)のいずれとも合致しない。

  摘要(入力)   勘定科目の推定結果(出力)
本取引①  商品 備品・消耗品費
本取引② 店舗 福利厚生費
本取引③ チケット 短期借入金
本取引④ 商品店舗 備品・消耗品費
本取引⑤ 商品チケット 備品・消耗品費
本取引⑥ 店舗チケット 旅費交通費
本取引⑦ 商品店舗チケット 仕入高

  摘要(入力)   勘定科目の推定結果(出力)
本取引⑧  東京 旅費交通費
本取引⑨ 還付 福利厚生費
本取引⑩  電気 福利厚生費
本取引⑪ 東京還付 旅費交通費
本取引⑫ 東京電気 旅費交通費
本取引⑬ 還付電気 福利厚生費
本取引⑭ 東京還付電気 接待交際費

 

また,…摘要の入力が同一であっても,出金額やサービスカテゴリーを変更すると,異なる勘定科目の推定結果が出力される例(本取引⑮ないし⑱)が存在することが認められる。

  摘要
(入力)
出金額 サービス
カテゴリ
勘定科目の
推定結果(出力)
本取引⑮ 東京 5040円  カード 旅費交通費
本取引⑯ 東京 500万円 カード 福利厚生費
本取引⑰ 東京 5040円  銀行 預り金
本取引⑱ 東京 500万円 銀行 現金

 

さらに,…「鴻働葡賃」というような通常の日本語には存在しない語を入力した場合であっても,何らかの勘定科目の推定結果が出力されていること(本取引⑲ないし㉒)が認められる。

  摘要
(入力)
出金額 サービス
カテゴリ
勘定科目の
推定結果(出力)
本取引⑲ 鴻働葡賃 5000円 カード 仕入高
本取引⑳ 鴻働葡賃 500万円 カード 備品・消耗品費
本取引㉑ 鴻働葡賃 5000円 銀行 支払手数料
本取引㉒ 鴻働葡賃 500万円 銀行 現金

 

以上のような被告による被告方法の実施結果によれば,原告による被告方法の実施結果を十分考慮しても,被告方法が上記アのとおりの本件発明13における「取引内容の記載に複数のキーワードが含まれる場合には,キーワードの優先ルールを適用して,優先順位の最も高いキーワード1つを選び出し,それにより取引内容の記載に含まれうるキーワードについて対応する勘定科目を対応づけた対応テーブル(対応表のデータ)を参照することにより,特定の勘定科目を選択する」という構成を採用しているとは認めるに足りず,かえって,被告が主張するように,いわゆる機械学習を利用して生成されたアルゴリズムを適用して,入力された取引内容に対応する勘定科目を推測していることが窺われる。
なぜならば,被告方法において,仮に,取引内容の記載に含まれうるキーワードについて対応する勘定科目を対応づけた対応テーブル(対応表のデータ)を参照しているのであれば,複合語を入力した場合に出力される勘定科目の推定結果が組み合わせ前の語による推定結果のいずれとも合致しないことや,摘要の入力が同一なのに出金額やサービスカテゴリーを変更すると異なる勘定科目の推定結果が出力されることが生じるとは考えにくいし,通常の日本語には存在しない語をキーワードとする対応テーブル(対応表のデータ)が予め作成されているとは考えにくいからそのような語に対して何らかの勘定科目の推定結果が出力されることも不合理だからである。

なお、原告は、均等論についても、主張しています。
しかし、裁判所は、先行技術及び出願経過を参酌した上、構成要件「E」は、本願発明の本質的部分と判断し、均等論も成立しないと判断しました。

ところで、本件では、原告から文書提出命令の申立てがありました。
これに対して、裁判所は、被告に「正当な理由」があると判断し、申立てを却下しています。

本件においては,原告から「被告が本件機能につき行った特許出願にかかる提出書類一式」を対象文書とする平成29年4月14日付け文書提出命令の申立てがあったため,当裁判所は,被告に対し上記対象文書の提示を命じた上で,特許法105条1項但書所定の「正当な理由」の有無についてインカメラ手続を行ったところ,上記対象文書には,被告製品及び被告方法が構成要件1C,1E,13C,13E,14C又は14Eに相当又は関連する構成を備えていることを窺わせる記載はなかったため,秘密としての保護の程度が証拠としての有用性を上回るから上記「正当な理由」が認められるとして,上記文書提出命令の申立てを却下したものである。

 

3.コメント
  1. フィンテックは、金融とIT(情報技術)を融合した分野です。その実体は、ソフトウェア関連技術です。
  2. クラウドサービスの場合、サービス提供のための情報処理はクラウドの中であり、ユーザーから見えません。この場合、入力と出力とから、クラウドで実行される情報処理を予測し、権利者(原告側)は、侵害を主張することができます。
  3. 実施者(被告側)は、類似した情報処理を用いている場合でも出力が異なることを理由に反論することができます。
  4. 原告側からの「クラウドにおける情報処理について文書提出命令の申立て」に対して、被告は「インカメラ手続」を要求することも1つの手です。

以上