GUCCIO GUCCI S.P.A(伊)と福州市鼓楼区酷奇酒吧(中)の 商標権侵害及び不正競争事件|外国知財情報|オンダ国際特許事務所

GUCCIO GUCCI S.P.A(伊)と福州市鼓楼区酷奇酒吧(中)の 商標権侵害及び不正競争事件|外国知財情報|オンダ国際特許事務所

アクセス

GUCCIO GUCCI S.P.A(伊)と福州市鼓楼区酷奇酒吧(中)の 商標権侵害及び不正競争事件

2014年5月30日

事 件:商標権侵害事件、不正競争事件
第一審:福州市中級人民法院 判決日:不明
第二審:福建省高級人民法院 判決日:2014年2月10日
上訴人(原告):GUCCIO GUCCI S.P.A(又は「古喬古希股份公司」という)
被上訴人(被告):福州市鼓楼区酷奇バー(以下、「酷奇バー」という)
出典:中華人民共和国福建省高級人民法院民事判決書(2014)閩民終字第57号

 

一、事件の背景

GUCCIO GUCCI S.P.Aは、1974年11月15日にイタリアで設立され、1996年2月19日にイタリアフィレンツェ市で法人登記された。GUCCIO GUCCI S.P.Aは、主に皮革製品、半皮革製品、皮革の代用品、繊維製品及びその他の材料の製品などのデザイン、生産、卸・小売、輸出入業務を取り扱っている。
GUCCIO GUCCI S.P.Aは、以下の登録商標を保有している。

  1. 国際商標登録番号第G1099944号商標「GUCCI」
    国際分類:第43類
    指定役務:飲食物の提供、一時宿泊施設の提供。
    商標権の存続期間:2011年11月23日~2021年11月23日
  2. 商標登録番号第177038号商標「図形」(下記商標図案1に参照)
    国際分類:第18類
    指定商品:皮革及び人造皮革、バッグ、ベルト、革製ケース、財布、小銭入れ、買物袋、旅行かばん、トランク。
    商標権の存続期間:2003年5月15日~2013年5月14日

     GUCCIO GUCCI S.P.A(伊)と福州市鼓楼区酷奇酒吧(中)の 商標権侵害及び不正競争事件 | 中国

  3. 国際商標登録番号第G1092502号商標「図形」(下記商標図案2に参照)
    国際分類:第18類
    指定商品:他の類に属さない皮革と人造皮革、及びこれらの材料の製品、牛、羊等の生皮、獣の皮、トランク、旅行用かばん、雨傘、女性用日傘、つえ、むち、乗馬用具。
    商標権の存続期間:2011年8月29日~2021年8月29日

     GUCCIO GUCCI S.P.A(伊)と福州市鼓楼区酷奇酒吧(中)の 商標権侵害及び不正競争事件 | 中国

酷奇バーは、個人事業企業であり、2012年3月30日に設立された。所属する業種名は、飲み物の提供サービスである。経営範囲は、バーにおけるサービスの提供である。酷奇バーは、地元ではゴージャスでセンスのあるバーとして知られていて、福州市で最も値段の高いバーでもあり、ビール(1ケース/24本)の値段は1200元(1万9200円)、個室利用時の最低消費額は1200元(1万9200円)、カラオケの最低消費額は2600元(4万1600円)である。なお、「酷奇」は中国語で「クチ」と発音される。また、「酷」は、英語の「cool」の音訳として用いられている。

 

ニ、事件の概要

GUCCIO GUCCI S.P.Aの調査により、酷奇バーが正面玄関の看板、フロント、個室入口の案内板、ポスター、カラオケ選曲端末、スタッフの名刺等に、図形商標「第177038号商標」、文字「GUCCI」、文字「新酷奇」、文字「XINKUQI」、図形商標「第G1092502号商標」、文字「GUCCI酷奇娯楽帝国」、及び文字「GUCCLL」がそれぞれ使用されていることが明らかになった。GUCCIO GUCCI S.P.Aは、上記行為に対して証拠保全を行った。
GUCCIO GUCCI S.P.Aは、以下のような主張を展開した。酷奇バーがGUCCIO GUCCI S.P.A保有の第G1099944号「GUCCI」の商標権を侵害した。また同時にこの行為により不正競争を構成した。権利侵害行為を停止し、損害賠償額800,000元(1280万円)(そのうち、商標権侵害に対する損害賠償額は500,000元(800万円)、不正競争に対する損害賠償額は300,000元(480万円)。)を支払い、訴訟費用を負担することを請求した。
訴訟の過程において、GUCCIO GUCCI S.P.Aは、酷奇バーのGUCCIO GUCCI S.P.Aの登録商標に対する使用行為を証明する公証資料を提出したほか、自社の登録商標の著名性に関する一連の証拠を挙げた。これらの証拠資料には、有名ウェブサイトに掲載された商標「GUCCI」及び商標「古驰」※1が全国重点保護商標、著名商標、国際著名商標、外国商標保護リスト登録済み商標、外国著名ブランド等として保護された記録(公証済み)と、新聞、雑誌及び刊行物による商標(ブランド)に関する紹介や記事とが含まれた。
※1 商標「古驰」は、GUCCIの中国語名(音訳)で商標登録されたものである。

 

三、事件の争点

第一審法院は、次のとおり判示した。

原告であるGUCCIO GUCCI S.P.Aは、適法に有する商標権の法的保護を受けるべきである。商標法の規定によって、商標権者である原告の許諾を得ず、何人も同一若しくは類似商品についてその登録商標と同一又は類似の商標を使用してはならない。また、原告の商標権を侵害して損害与える行為をすれば、相応する法的責任を負うことになる。同時に、企業経営において、経営者は商業道徳を遵守するべきであり、不正な手段を用いて他の経営者に損害を与え、利益を取得してはならない。

本件の法的問題は以下の2点である。
1、被告である酷奇バーは、原告の第G1099944号商標「GUCCI」の商標権を侵害したか否か。
2、被告による原告の第177038号商標と第G1092502号商標を使用した行為は、不正競争を構成したか否か。

 

四、判決とその根拠

 

1.被告である酷奇バーは、原告の第G1099944号商標「GUCCI」の商標権を侵害したか否か。

本案において、原告が国際登録番号第G1099944号商標「GUCCI」の商標権を有し、指定役務は第43類の「飲食物の提供、一時宿泊施設の提供」であり、商標権の存続期間は2011年11月23日から2021年11月23日までであり、当該商標はまだ有効期間内のものである。被告が経営したのはバーであり、経営範囲にはアルコールとその他飲料及び飲食物の提供が含まれ、原告の第G1099944号商標「GUCCI」の指定商品「飲食物の提供」とは同一役務に属する。被告は、原告の許諾を得ず、バーの看板、カラオケ選曲端末、及びスタッフの名刺等に原告の第G1099944号商標「GUCCI」と同一のものを無断使用し、またバーの経営において、文字の構成が登録商標「GUCCI」と類似している標章「GUCCLL」を使用したため、消費者にその役務の出所について混同を生じさせうるものとなった。被告の行為は、被告が原告とは関連企業であること、或いは被告が原告とは何らかの関係を有すると消費者に誤認させた。中国《商標法》第52条の規定によれば、以下に掲げる行為の一つに該当する場合、いずれも商標権を侵害する。

(一)商標権者の許諾を得ず、同一若しくは類似商品についてその登録商標と同一又は類似の商標を使用した場合;
(ニ)商標権を侵害する商品を販売した場合。

上記法律の規定に基づいて、被告によるバーの経営における標章「GUCCI」と「GUCCLL」の使用行為は、原告の登録商標「GUCCI」に係る商標権の侵害となるものである。

 

2.被告による原告の第177038号商標と第G1092502号商標を使用した行為は、不正競争を構成したか否か。

原告が登録番号第177038号商標「図形」の商標権を有し、指定商品は第18類の「皮革及び人造皮革、バッグ、ベルト、はみ(馬具)、革製ケース等」であり、商標権の存続期間は2003年5月15日から2013年5月14日までである。また、原告が登録番号第G1092502号商標「図形」の商標権を有し、指定商品は第18類の「他の類に属さない皮革と人造皮革、及びこれらの材料の製品、トランク、旅行用かばん、雨傘、女性用日傘、つえ等」であり、商標権の存続期間は2011年8月29日から2021年8月29日までである。第一審の訴えの提起時において、上記2つの図形商標は、両方とも有効期間内のものである。
原告は、中国大陸において、第177038号商標「図形」と第G1092502号商標「図形」に対して長年にわたり経営と広告宣伝をし、高い著名性を有し、高級とファションのシンボルともなった。
しかし、被告は、第177038号商標「図形」と第G1092502号商標「図形」が高い著名性を有することを知っていながら、原告の許諾を得ず、その経営しているバーの看板、カラオケ選曲端末及びスタッフの名刺等に原告の第177038号商標「図形」、第G1092502号商標「図形」と同一の標章を使用した。被告のこの行為は、消費者の視線を引きつけるためであり、バーの品位を向上することを目的としていた。被告は営業活動をやりやすくするために原告登録商標を踏み台にし、故意に原告の登録商標を利用し、不正な手段によって利益を取得した。
中国反不正当競争法(不正競争防止法)第5条の規定により、経営者は、次の不正な手段を用いて市場取引をし、競争相手に損害を与えてはならない。
(一)他人の登録商標を盗用すること;
(ニ)著名商品に特有の名称、包装、デザインを無断使用し、又は著名商品と類似の名称、包装、デザインを使用し、他人の著名商品と混同を生じさせ、購買者に当該著名商品であると誤認させること;
(三)他人の企業名称又は氏名を無断で使用し、他人の商品であると誤認させること。
原告保有の上記2つの登録商標とは経営範囲の異なるものであるが、被告の経営方式、取引チャンス等は、いずれも原告の市場における競争力に影響を与える。上記法律の規定に基づいて、被告が原告保有の上記2つの登録商標を盗用する行為は、不正競争を構成する。

上述によれば、原告の有する第G1099944号商標「GUCCI」、第177038号商標「図形」及び第G1092502号商標「図形」それぞれの商標権は合法的且つ有効な権利であり、中国の法律により保護を受けるべきである。被告は、バーの経営活動において、複数の箇所に原告の有した著名性の高い上記3つの商標を使用した。被告のこの行為は、主観的に故意が存在しており、原告の第G1099944号商標「GUCCI」の商標権を侵害した。また、第177038号商標及び第G1092502号商標を使用した行為は、不正競争を構成した。法により侵害を停止し、損失を賠償する法律責任を負うべきである。しかし、原告は、被告により原告の上記商標権への侵害と不正競争行為による損失の具体的な金額を証明するための証拠を提出していないため、被告の上記侵害行為の性質、期間、結果、原告商標の評判及び著名性、時間、範囲等の要素を総合的に考慮し、情状を酌量して損失賠償額を人民元20万元(320万円)に確定した。

第一審法院は、これらの根拠により判決を下した。

第一審判決の後、原告はこれに不服とし、福建省高級人民法院に上訴した。その上訴理由は、侵害行為を阻止するための合理的な出費部分である弁護士代理費用(人民元10万元(160万円))を被告に負担させることについて、第一審法院が支持しなかったためである。なお、第二審法院は、次のとおり判示した。原告は弁護士代理費用に関する領収書(人民元10万元(160万円))を提出したが、弁護士との間に結ばれた代理契約書を提出していない。このため、領収書と本件との対応関係を証明できない。裁判所は、《弁護士サービス費用徴収管理弁法》の関連規定に基づいて、本案訴訟の請求金額と上訴人代理弁護士出廷の実情を総合的に考慮し、侵害阻止に支払われた弁護士費用3万元(48万円)を被告の追加賠償すべき金額として確定した。

 

五 判決についての弊所コメント

 

1.「著名性」とは

商標権侵害及び商標権と関連する不正競争事件において、被告が不正競争行為を構成したか否かを判定する時、或いは被告の賠償額を酌量する時、最も重要な判断の基礎となるのは商標権者が保有する登録商標の著名性である。登録商標の著名性は、社会評価というカテゴリーに属するため、無形、動態的などの特徴を有し、自ら直接証明しにくく、製品の売れ行きや市場ランキング等の証拠によって総合的に証明・認定する必要がある。商標の著名性を証明するための資料には、主に商標権者が関連商標の広告宣伝への投資、商標が保護を受ける記録等が含まれており、そのうちの商標が保護を受ける記録は、ほとんど政府行政文書の記載であり、例えば、本案において挙げられた複数の資料の中、商標権者が権利保護により蓄積されてきた行政処罰決定書、法院判決書等もある。

 

2.著名性を有する場合の法的効果

商標権の侵害について、登録商標と同一又は類似の指定商品・指定役務の範囲であれば、周知性・著名性の認定は不要である。しかし、いくら高い著名性を有する場合においても商標権の侵害については、同一又は類似の指定商品・指定役務の範囲に限定される。
一方、本案では法院は、反不正当競争行為に関しては、著名商品の登録商標により誤認混同を生じさせたとして、非類似商品・役務の被告の行為が不正競争を構成したと判定した。
法院が引用した「(一)他人の登録商標を盗用すること。」自体が、著名度に拘わらず不正競争行為として禁止されている。しかしながら、同一又は類似の指定商品・指定役務の範囲外の使用は、もはや登録商標の盗用とは言えない。
しかしながら、本案ではその不正競争行為の認定に際しては、上記(一)のみならず、「(ニ)著名商品に特有の名称、包装、デザインを無断使用し、又は著名商品と類似の名称、包装、デザインを使用し、他人の著名商品と混同を生じさせ、購買者に当該著名商品であると誤認させること;(三)他人の企業名称又は氏名を無断で使用し、他人の商品であると誤認させること。」にも同時に該当するとして、被告の経営範囲は同一又は類似の指定商品・指定役務の範囲に限定せず、その不正競争行為の認定に影響しないとして判断した。本案において、被告の経営範囲は原告保有の上記2つの登録商標の指定商品・指定役務とは異なるものであるが、被告の経営方式、取引チャンス等は、いずれも原告の市場における競争力に影響を与えるものとして不正競争行為と認定した。
上記判断によれば、(二)に該当する限り、被告が使用した商標に関して、(一)の登録の有無はいずれでもよいことになる。

3.中国商標法の規定により、損害賠償額は、商標権者が侵害行為を阻止するために支払われた合理的な出費を含むべきであるが、今までに合理的な費用の具体内容について、法律及び司法解釈には、まだ具体的且つ明確な規定がない。関連する司法解釈により、支払われたいわゆる合理的な費用は、次の2つの条件を同時に満たす必要がある。まず、これらの出費は侵害行為を阻止するための必要な費用である;そのつぎ、これらの費用の金額は合理的であるべきである、即ち一般の状況において正常範囲内の出費である。よって、商標権者の権利保護コストについて、最大限に賠償を受けることができるのを確保するために、前記合理的な費用と関連の証明資料との間の関連性を重視するべきである。

関連条文:中国商標法第52条
中国不正競争防止法第2条、第5条

 

六 判決のバックグラウンド

 

1.平成26年5月1日に改正中国商標法が発効し施行された。

その内容は、例えば、第7条第1項には「商標の出願及び使用は誠実信用の原則に従わなければならない。」と規定され、その基本的な方針が明示された。
また、具体的な条項としても、例えば、冒認出願(いわゆる抜け駆け出願)の防止(第15条)が、現地販売代理店などにも拡げられ(同第二項)、抑制が強化されるのではないかと期待される。また、未登録周知商標なども先使用権を認められ使用の継続ができる(第59条第3項)。このように商標法による商標の保護は前進している。
さらに、反不正当競争法においても、登録商標や未登録著名商標を企業名の一部として使うようなものも防止できるように手当されている(商標法第58条)。
また、審査や異議申立の期間も短縮され、迅速性が担保されている。さらに、2015年には、日本の知財高裁のような知的財産法院も作られることが予想されていることからその保護がますます進展しそうな様子である。
中国では商標法などを法整備して外国資本が流入しやすくすることを狙って法改正が度々なされている。そこで目指すのは、国内産業の保護である。つまり中国に投資をする外国企業は十分な保護が受けられる。一方、いくら著名なブランドでも、中国で経済活動しないところは保護する価値が期待できない。
この意味で、GUCCIは、中国国内でも直営店を出し、多くの商品を供給している。高額なバッグなども裕福な中国人に飛ぶように売れる。そして、紹介した判例のように、中国は、GUCCIを著名ブランドとして法律で保護した。

2.中国における著名性の獲得

このようなバックグラウンドから、中国では、著名性が認められるには、「中国国内」で「使用」した結果、「著名」となったことが要件であり、そのような商標は保護される。単に母国や外国でいくら有名でも、中国において使用していないものは著名性が認められない。
例えば、「無印良品」は、日本では著名商標として知られているが、中国においても直営店を持ち、GUCCI程ではないにしても著名な商標である。しかしながら、「無印良品」の商標権者である良品計画は、指定商品タオルについては、中国内で登録商標を有していなかった。良品計画は、中国でタオルをOEM生産するに当たり調べたところ、既に不動産業を営む中国企業が既に「無印良品」の商標登録を行っていたことが判明した。良品計画はその登録商標の無効と、その使用を止めさせるために長期にわたる裁判で戦った。
しかしながら、最高人民法院は「『無印良品』ブランドは、国際的なブランドであってもOEM生産していたタオルは輸出用であり、良品計画は中国内でタオルについて商標を使用していなかった。」として、被告の商標の使用は権利侵害とはならないと判決した。
また、ソニー・エリクソンは、中国語では「索尼愛立信」と表記され、人々は、これを「索愛」と略した略称で呼んでいた。そして中国人の個人が「索愛」の商標登録出願を行ったところ、ソニー・エリクソンが不正な登録として訴えを提起した。
裁判所は、これに対して「原告は、『索愛』を積極的に使用する意思も行為もなかった。」として、中国人個人の「索愛」の商標登録を認めた。

七 実務上の指針
1.商標登録出願
① 先願主義

第1に、いち早く中国内で商標登録出願をすることが、最もコストが安く、時間も手間もかからない対策である。中国の商標制度は、登録主義の原則が日本以上に強く働き、一旦登録を受けると、これに対抗することは時間が掛かるばかりか、これを覆すには非常な困難が付きまとう。
実際、英国バーバリー社の著名なチェック柄についても、中国企業による抜け駆け出願で、本家本元のバーバリー社の登録商標が後願として抹消されている。
中国では、iPad事件をきっかけに、ますます商標を投資対象とみるようになっており、一般の個人も株式投資を楽しむように大化けする商標を仕込んでいる。また、そのような商標を公然と売買するブローカーやネットのマーケットもにぎわっている。2012年の中国での商標登録出願は1,648,316件であった。
これに対応するには、いち早く商標登録出願をする以外効果的な対応はない。

② 標章見本について

この場合に、商標登録出願は、文字商標には、英語等の原語表記と漢字表記とピンイン(発音記号)表記とがあるが、いずれも必要である。
Gucci社の商号「古希」と、GUCCIの音訳である登録商標「古驰」、被告の「酷奇」は、いずれも「GUCCI」の漢字への音訳であるが、中国語としてはそれぞれ発音や声調(アクセント)が全く異なり、称呼類似とされる可能性はほとんどない。したがって漢字の「古驰」だけでは、「古希」や「酷奇」を排除できない。
また、同じ「GUCCI」の音訳でも、中国語の発音をアルファベットで表記したピンインで表すと「GUXI(古希)」、「GUCHI(古驰)」「KEQI(酷奇)」とさまざまである。
また、「GUCCI」の商標登録だけでも、上記のとおり発音が異なり、これを音訳した「古希」「酷奇」はもちろん、「古驰」すら称呼類似として排除できない。
なお、もちろん、マークやモノグラムや図形等も使用しているものは、その態様で出願する。できれば、パッケージ「そのまま」の商標も、似たようなイメージを持った模倣品を排除するアンカーとすることができる。

③ 指定商品・指定役務について

本案でも、原告自身が第43類の「飲食物の提供」について「GUCCI」の登録商標を有していたため、商標権の行使が可能であった。しかし、GUCCIのような著名でない企業でも登録商標と同一又は類似の指定商品・指定役務の範囲であれば、周知性・著名性の認定は不要であるため、権利行使できる。なお、中国でも日本のように商標不使用取消審判制度があるものの、権利行使前に実際にその商品・役務に使用すれば当然取り消しを免れる(商標法第44条4号、商標法実施条例第39条2項)。

2.資料の収集

中国での著名性の獲得のためには、商標権者自身が中国国内で使用していることが重要である。まず、「無印良品」の例からわかるように、中国国内の販売であることが重要である。またそのような使用事実は、原則的に公証がなければ裁判資料としては使えないと考えた方がよい。日本の裁判所では、相手が争わない限り証拠は真正の証拠であるとされる。また、双方の代理人もカタログ、各種伝票や販売記録、さらにウェブサイトのプリントアウトされたものや、メールまで真偽を争うことは極めて少ない。一方、中国の裁判所では、基本的に公証されたものでなければ、雑誌ですら真正の証拠とは認められにくい。過去の販売実績などその時に公証を取っておかなければ、証拠として認められなくてあとで悔やむことになる。各種契約書も、公証がなければ真正の証拠とすることが難しい。
本件では、原告GUCCI社側は、公証された資料が準備されており、証拠として採用されている。一流ブランドにふさわしいブランド管理である。
いずれにしても、目的を持って資料を準備しておかなければ、いざという場合に役に立たない。

以上