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2017年4月26日
会長 弁理士 恩田博宣

 2016年度QCサークル東海支部経営者フォーラム 講演録

QCサークル活動の必要性(活動本来の姿)

私共の事務所は特許事務所ですので、製造の現場はございません。特許明細書の作成、翻訳、図面作成などを行う実務部門と、特許庁への出願事務や同じく特許庁からの拒絶理由通知等の連絡をお客様に通知したり、会計処理をしたりする、いわゆる事務部門の2つに分かれています。職種を分類するといずれも事務部門であります。
日本の事務部門の能率はアメリカに比較すると、70%くらいにしか達していないという報告があります。

私は同業者の若い弁理士に対して何度も「組織が5人以上になったら、QCを始めるべきですよ」とお勧めして来ました。しかし、ほとんど始まることはありません。ある特許事務所が私の勧めにより、QCを開始し、地区の発表会に出席するようになりました。しかし、しばらくして、発表会で姿を見ることがなくなってしまいました。その所長に別の場所で会った際に、「QCはやっていますか」と尋ねると、「忙しいのでQCはやっていられません」との返事でした。忙しさでやめてしまったのです。
特に事務・販売・サービス部門においては、忙しいことを理由に、「QCで使う時間で事務処理をしたり、営業をしたりした方が儲かる」と、活動がおざなりになったり、止めてしまったり、2S、3S活動だけになったりしがちです。

そうすると、「忙しいので残業で処理する」、それでも処理しきれないときは、「増員要求を出して人を増やす」というようなことが起こります。増員できないときは、長時間労働が横行して、ブラック企業化することさえあり得ます。業務の改善は行われず、増員で効率だけが落ちていくということになるのです。

しかし、改善により効率アップして、その忙しさを解消する努力が本来の姿です。すなわち、「忙しいからQCサークル活動を行う」というのが本来の姿なのです。

特許事務所経営環境とQCの必要性

特許事務所は現在非常に厳しい経営環境にあります。日本全体の特許出願件数の漸減傾向、弁理士数の急激な増加、需要減少、供給過多から手数料は低迷する傾向にあります。私共の給与アップの源泉は、改善による経費節減、効率アップによる生産性向上以外にありません。

従って、QCサークル活動には真剣に取り組まざるを得ないのです。うまくいかなければ給与アップができなくなり、優秀な人財の抜けによって、倒産の方向へいかざるを得ないからです。

オンダ特許の改善事例

2010年頃の話です。当所の国際管理部外内グループは6人で構成されていました。このグループは、外国から日本の特許を取りに来る時の事務方です。非常に多忙なグループなのですが、ある時、1人が産休を取ることになりました。通常なら新規人財を採用するとか、派遣社員を雇うなどの手段をとるところです。しかし、雇ってもすぐには役に立たないどころか、却って足手まといになることさえ想定されるということで、なんとか5人で乗り切れないかを検討しました。産休に入るまでの半年間、QCサークル活動を通して、5人体制で乗り切る努力が行われました。ちょっと考えただけでも、一人一人の仕事量は20%アップする計算になります。

現状把握でどの仕事に最も労力がかかっているかを割り出し、3種類の仕事(拒絶理由、拒絶査定、審査請求)に焦点を当て、システム開発部の助けを借りてコンピュータシステムの改善を行うとともに、おびただしい数の対策を実施し、見事5人で乗り切る体制を完成させたのでした。 その能率は今でも継続しています。年間600万円以上の節約、効率アップでした。忙しいからQCを行う、人手が足りないからQCを行う。これが本来の姿です。

私は「いくら忙しかろうと、QCは継続せよ」と命じました。「時間がなければ寝ずにやれ」とまで言う覚悟でした。そうしなければ当所はやっていけなくなるからです。 当時、国際管理部は大変な忙しさでした。夜10時までやっても、まだ仕事が片付かないのです。深夜労働が続けば、ブラック企業の汚名を着せられかねません。しかし、半年で1サイクル回すQCが1回終わるごとに、仕事は少しずつ楽になっていきました。残業時間が30分程度ずつ減るのです。もちろん、仕事量の増加に従って多少の増員はありましたが、現在の1日の残業時間は平均して1時間以下になってきています。

このようにQCによる節減効果は累積的に効いてきます。当所は32年間QCサークル活動を継続していますが、効率アップ等節約金額が明確なものだけを累積し、それに歯止めがかかる割合である80%を掛けると、ちょうど私共が支払うボーナスの額になります。その他に費用削減効果としては分かりませんが、品質アップや組織が団結し活性化するという効果もあります。QCはボーナスを稼ぎ出す以上の成果があるといえるのです。

事務・販売・サービス部門QCの隘路

特に事務・販売・サービス部門においては先に述べましたように、「QCサークル活動に費やす時間で仕事をした方が儲かる」という考え方は、QCを導入した初期の段階で自動的に起こってきます。その圧力は非常に大きく、知らぬうちに活動が停滞し、形ばかりの活動に陥り、手間のかからないつじつま合わせの活動がはびこることになるのです。

活動開始10年目くらいに、従業員にアンケートを取りました。当時もQCによってそれなりの成果を挙げていましたが、アンケート結果は95%が「QCは辞めろ。その時間で仕事をした方が儲かる」でした。悩みました。従業員はQCがいやでいやでしょうがないのです。「そんなにいやなのなら、辞めようか」と思いました。

しかし、豊田自動織機の元知財部長で、退職後に当所の理事に就任していただいた小林さんという方の「いくらトヨタグループの従業員でも、アンケートを取れば『QCは止めたい』というに決まっている。それを経営者の強い意思で引っ張っていくのがQCだ」との言葉に支えられて、辞めずにやってきました。

その後、事務・販売・サービス部門のQC全国大会で2回優勝し、石川薫賞を6回も受賞、地方の発表会では何度も地区長賞や、県知事賞を獲得し、各種大会や企業に招待され発表する等の成果を挙げるようになりました。

何よりもQCを自ら行う従業員自身が、仕事が楽になる、便利になる、正確になる、効率が上がるという有効性を体得したことが、QCの継続につながっているのです。 あるとき国際管理部外内グループの所員が「QCって大事ですねえ。やればやるほど仕事が楽になるんですものねえ」といっているのを側聞しました。「してやったり」の思いでした。 もうアンケートは取りませんが、現在ではおそらく「QCは止めろ」という従業員はいないのではないかと思います。

すなわち、事務・販売・サービス部門のQCは少なくとも10年以上継続し、トップが強い意思で引っ張っていく必要があると感じます。しかし、大きな組織において社長が毎回QCの先頭に立つということは難しいと思います。役員の方をQCの責任者に決め、強い意思で引っ張っていくことが重要だと考えます。

また、QCで成果を挙げた部門に対しては、賞金をはずみ、昇格昇級を大幅に考慮するようなインセンティブも必要だと思います。

トップはいかに関与するか

そこで、トップの関与の仕方について述べます。
私共の事務所においては、常時36サークルが活動しています。日頃、私はQCで解決してほしい課題を手帳にメモしておきます。すぐ10~20項目くらいになります。そして、その課題は推奨課題として、メールで各グループにあらかじめ送られます。

5-1)テーマの決定

QCサークル活動を開始する際には、全グループのテーマを決定する、トップインタビューを行います。各グループが自分たちで決めたテーマ(案)を説明します。なぜそのテーマに取り組むか、成果に目算はあるか等を説明します。トップとしては、その活動が特に「給与アップに貢献するか」という観点から適切かどうかを見ます。不適切と判断した場合は、他のテーマに変更してもらいます。

5-2)進捗管理

活動の進捗は改善推進室が管理します。改善推進室は専任者2名で構成されています。当所では、週1回1時間のミーティングが、全グループに義務付けられ、ミーティングの報告書が提出されます。それがイントラネットに掲載されますので、進捗はそれを見ていればわかります。専任者はできる限り各グループのミーティングに出席します。私も空いている時間にミーティングが行われるグループがあれば、できる限り出席するようにしています。

しかし、活動には貴重な時間を使うため、給料が上がらなくては困ります。そこで、「それで給料が上がるのか」等とうるさく口をはさんでしまい、却って邪魔になることさえあります。できるだけ見守るように心がける必要があると、自身に言い聞かせています。

5-3)中間インタビュー

6か月の中間で全36グループのトップインタビューを行います。今、どこまで来ているか。対策実施まで来ているのか、効果確認まできているのか、順調に進んでいるのか、進捗がなおざりになっていないかを確認します。大した成果を期待できなかったり、テーマが適切でないことが判明した場合には、活動途中であってもテーマを変更してもらうことがあります。時には改善推進室の進捗管理が行き届いていないこともあります。そんなときは叱責とともに、どのように進めるべきかを指導します。

5-4)最終インタビュー

最終段階でもう1回トップインタビューを行い、発表会で発表する16サークルを36サークル中から選びます。もちろん、そこでも不十分な活動しかしていないグループには、叱責とともに、どのように行われるべきであったかを説明します。「そんな活動で給与が上がるか」と厳しく問いただされることになります。

5-5)発表会

各グループのリーダーは当番制で毎回変わるため、発表会に備えて、プレゼンテーション研修が行われます。また、発表会の講評者には所内からベテランの従業員が選ばれます。講評の仕方についても事前に研修が行われます。その他、関係する研修としては、新入社員へのQC基礎研修も行われています。

そして、いよいよ発表会です。所長、会長、改善推進室、そして、各部門の本部長が採点者になります。1グループ20分の持ち時間で発表が行われ、丸1日かかることになります。実務部門午前中、事務部門午後のように二部に分けて行い、全従業員がその部の発表を聞きます。
発表が終わると、所長、会長がそれぞれ講評を行います。
その後、ただちに採点表の集計が行われ、順位が決まります。金賞、銀賞、銅賞、特別賞、講評者賞等が決められます。

5-6)賞金のインセンティブ

通常、金賞のグループには、グループ賞として4万円、個人賞として一人一人に3万円が与えられます。このようにグループ賞と個人賞があり、総計100万円の賞金が支給されます。これが「よし、金賞を狙うか」というインセンティブにもなります。

中小企業として、100万円の出費は痛いのですが、素晴らしい活動さえ行われれば、むしろ100万円は安価だともいえます。 翌週の月曜日の朝礼で表彰式が行われます。

外部発表

このような活動で成果が上がるにつれて、所外での発表もできるようになりました。最初は個人的なお誘いで愛知県の発表会に、図面グループが出場しました。私共の事務所では、特許図面はCADによって作成しています。CADオペレータには、目がかすむ、肩がこる、足がむくむ、疲れる等の身体的問題が発生しがちです。これを緩和することを目的とするQCの成果が発表されました。能率を落とさずに緩和効果を生んだことがよかったと思うのですが、初陣でなんと地区長賞を獲得し、大変驚きました。1998年のことでした。

その後、2008年には同じく図面グループが第1回事務・販売・サービス部門の全国大会において金賞を、2010年には国際管理部外内グループが、同じく第3回大会において金賞を受賞しました。その他、東海支部、関東支部、岐阜県でも多くの賞をいただいています。そうなりますと、企業や地区の大会へ招かれての招待発表も多数に上るようになりました。
所外での発表は一般の発表とは区別された特別の発表として行われますので、発表するグループの所員は誇りを持てます。モチベーションも上がろうというものです。うれしいことに企業への招待発表では、その企業の経営者の方々に「特許出願は当所へお願いします」等と申し添え、宣伝にも一役買ってくれているのです。QCも営業活動の一環になっています。

モチベーションアップ効果

QCサークル活動にはモチベーションアップの効果も大いにあります。特許図面をCADソフトで作成する図面グループは、一昔前、非常に沈滞していました。他の部門で成績不良者があると、「図面部行きだぞ」などといわれたくらいです。しかし、QCで全員が協力し、図面作成効率を40%もアップする活動をして、所内発表で金賞を受賞、外部発表でも地区長賞を受賞し、さらに何回も所内発表会で優秀な成績をあげ、他社から模範発表をしてほしいという招待を受けるに至って、ピカピカのグループに変化したのです。総務部から図面部に変わりたいという者が出て、実際に移籍しました。

図面部に所属する個人個人は、自分だけが勉強して早く正確に書けるようになれば、成績優秀ということで評価されます。自分が同僚に先駆けて、開発した便利な書き方を同僚に教えてしまっては、相対的に自分の地位が下がることになり、損をすることになります。

しかし、QCサークル活動では全員で向上しようというインセンティブが働きます。例えば、10種類くらいの線の描き方を全員が時間を図って持ち寄ります。一人の人だけがすべての線の描き方で早いわけではありません。Aという線は甲さんが早い、Bという線は乙さんが早いというように異なるのが普通です。

図面部の10人が持ち寄った描き方で最も早い方法に全員が「右へ倣え」をします。そうすると全員が最も早い方法で図面を描くことができるようになります。結果として、個人的に最も早い人よりも、もっと早い書き方が開発されることになるのです。このとき、もともと優秀であった人が、教えて損をしたということは起こりません。自分も知らなかった早い書き方を教えてもらうことになるからです。

このようにQCサークル活動では、力を合わせて全員で向上する、という非常に前向きな力が働きます。自分の技術を秘匿し抜け駆けしようとする、マイナスのエネルギーは働かないのです。それでも、優秀な人とそうでない人の差は必ず自然に現れます。

時間のかかる企画はQCで
1)ファイルの整理

例えば、誰のPCにもおそらく永久に使用しないであろうファイルが大量に収蔵されているのが通常でしょう。これを「何時かはきちんと処理しよう」と誰もが思っているのですが、ほとんど実現することはありません。 時間がとてつもなくかかるからです。

ところが、QCでなら6か月かかってやるのですから、可能性があります。当所の国際管理部のあるグループは、6人のグループで使うファイルがなんと4,000以上あったのをQCで減らすという活動を行いました。1ファイルずつしらみつぶしに調べて、3,000ファイルを不要として廃棄しました。残った約1,000のファイルについては、使いやすくするために、グルーピングを4段階にして、欲しいファイルが直ちに見つかるようにしました。こうすることによって、不要なファイルは廃棄され、有用なファイルは有効に使用できるという効果を上げたのでした。まさにQCサークル活動でしかできない改善です。

2)新技術の習得

そのほかに時間のかかるものとして、新技術の習得があります。特許事務所は常に最先端の技術を扱っています。かなりの頻度で、新しい技術や理論が出願発明に応用されることがあります。
例えば、現代制御がエンジン制御に応用されたり、最近ですと、AIのディープラーニング等です。これらの分野に強いスタッフがいればいいのですが、そうでなければ勉強が必要です。当所の実務部門では、しばしばQCサークル活動の一つとして勉強会が行われます。現状把握は参加者数名のその科目における知識がどの程度かを試す試験です。試験の結果が50点ならば、目標は80点や90点にして、勉強会を始めます。教科書の輪読もありますし、リーダーがあらかじめ勉強しておいて、解説するというやり方もあります。効果の確認はリーダーが作った試験で目標の点数が取れれば達成です。 すなわち、勉強会もQCストーリに乗せて行うのです。

3)パンフレットの作成

また次のような活動もありました。
パンフレットの作成をQCサークル活動でやった事例です。通常、業者に頼むと、結構な時間と費用が掛かります。実際にはQCでやって費用的に節約できるかは、人件費を考えると疑問ですが、パンフレットの充実度はかなり向上すると思われます。

現状把握は他事務所のパンフレットやホームページをつぶさに調べます。そうすると、どんなコンテンツが必要かということもわかりますし、素晴らしい企画を発見することがあります。対策の行程で当所にふさわしい観点を考えます、具体的に文章や写真、図表等をそれぞれ所内のスタッフに依頼して作成します。最終工程では、業者と打ち合わせをして、足りない写真や必要なコンテンツを手配してもらいます。6か月で無事完成というわけです。業者任せのパンフレットよりもいいものが完成します。

このようにQCサークル活動で、業務改善活動だけでなく、時間のかかる業務、通常ではなかなか行えない活動を、QCストーリーに乗せて行うということもあります。オンダ国際特許事務所のQCサークル活動についてはこれで終わらせていただきます。日本の事務部門の改善活動に少しでもお役にたつことを願っております。