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「パテントメディア」

どうしたらマネジメントはうまくいくか

2019年5月
会長 弁理士 恩田博宣

1.はじめに

筆者の事務所は昨年開業50周年を迎えました。創業から今日までの道のりは、困難の連続だったように思い出されます。
この号から数回、京セラの経営理念をご紹介するとともに、50年を振り返り、私どもの経営を京セラの経営理念に照らし合わせてみたいと思います。

本題に入る前に最近の特許事務所を取り巻く環境について、見てみます。
最近の第1の問題点は、人材不足のため、新規採用がままならないことです。単なるホームページや求人サイトの募集では、ほとんど採用できなくなりました。かろうじて数少ない採用ができるのは、人材紹介会社を介しての求人です。
そうすると、採用できたとしても、年収の35%を採用の成功報酬として、費用負担する必要があります。大変な出費となります。このように人材採用難が続きますと、特許事務所の弱体化が起こり、明細書品質の劣化となる事態が危惧されます。

第2は、手数料の改定ができていないことです。筆者の事務所では、過去32年間、実質的な手数料の値上げはできませんでした。むしろ、値下げ傾向が顕著でした。年々所員の給与はアップしなくてはなりません。しかし、十分な昇給は難しいことでした。
このまま推移しますと、採用難と相まって、特許事務所の業界に優秀な人材の参入がなくなり、我が国の知財力の低下につながるおそれがあります。
このように非常に厳しい特許事務所業界ですが、そこを生き延びていくのに、頼りになるのが、京セラのフィロソフィ(経営理念)です。
京セラフィロソフィには、経営者として、そのマネジメントに対して、心すべきことが満載されています。自分自身に言い聞かせながら、コメントしたいと思います。

2.京セラのフィロソフィ

1) 自分を追い込んで努力を続ければ「神の啓示」が訪れる

『困難な状況に遭遇しても、決してそこから逃げ出してはいけません。追い込まれ、もがき苦しんでいる中で、「何としても」という切迫感があると、普段見過ごしていた現象にもハッと気づき、解決の糸口が見つけられるものです。
火事場の馬鹿力という言葉があるように、せっぱ詰まった状況の中で、真摯な態度で物事にぶつかっていくことによって、人は普段では考えられなかった力を発揮することができます。
人間はえてして易きに流れてしまいがちですが、常にこれ以上に引けないという精神状態に自らを追い込んでいくことによって、自分でも驚くような成果を生み出すことができるのです。』

1−1)人材募集のため給与6万円アップ

この京セラの理念を読んで、筆者にも思い当たる事件がありました。昭和60年バブル期の頃、仕事は忙しいにもかかわらず、人材の募集が思うに任せませんでした。筆者の事務所は岐阜という地方にあることもあって、開業以来、経験者の採用はほとんどできませんでした。このように通常でも地方ゆえの困難さはあったのですが、景気の良さがさらに人材集めの困難さに拍車をかけたのでした。
採算からいうととても給与の大幅アップは、無理な状況でした。悩みに悩んだのですが、打つべき適当な手段はありません。給与のアップを抜きにして、適切な人材採用手段を生み出すことはできなかったのです。

神の啓示とはとてもいえないと思うのですが、平均給与を一挙に6万円上げることを決断し、準備に取りかかりました。まず、それまでの各実務者個人の月間目標を1件ずつアップすることにしました。実務者全員を1人ずつ呼び出し、給与アップと目標アップを説得しました。こちらの迫力も相当なものだったと思うのです。誰1人「できない」と答えた者はありませんでした。
それで平均給与を6万円上げられるものの、ボーナス資金を稼ぎ出せるという計算はできませんでした。ボーナスは最低限でも、毎月の給与の高さを標榜し、人材募集を有利に運ぼうという目算でした。 毎月の目標達成率は非常に低く、年間で達成できるのが、せいぜい3、4ヶ月でした。
この改革体制は、悩み抜いた結果の窮余の一策でした。何とか人材募集を正常に戻したいという執念がそうさせたといえます。

ところが半年たったときの決算は、驚くべき結果でした。十分なボーナスを支払っても、事務所全体の利益も出ていたのです。目標の達成できない月が1ヶ月しかなかったのです。一体何が起こったのか、不思議でした。実務者全員が理解したのだと思われます。自分たちの給与が大幅に上がったのに、プラス1件の目標が達成できなければ、事務所はつぶれる。何としても目標を達成しなければならないと。トップと職員のベクトルがぴたっと一致したのだと思います。

経営者としてこの成果は、しびれるほどの感激でした。
自分の打った手が素晴らしく機能し、見事に花を咲かせたのです。
ボーナスを支払い、税金もうんと納めることができました。しかも、平均給与を6万円も上げることができたからです。
そのころから、初任給の高さによって、ぼつぼつ人材の応募がくるようになり、採用もできるようになったのです。
強い欲望と、その意思力に支えられた行動は、ある種の強いエネルギーを有しているものと思われます。従業員は、「ノー」とは言わず、ただ、目標達成のみを意識し頑張ってくれたのだと思います。その後も、人材の不足はなかなか解消できていませんが、現在は300名を超える人材集団になっています。

1−2)給与アップとQCサークル活動

前述の通り、現在は人材不足と、手数料の低迷という困難に遭遇しています。この難局をどう乗り切るか。
人材の採用については、人材紹介会社を使っています。年収の35%の支払いは採用経費として計上しています。その費用は採用が活発化するほど多くなって、経営を圧迫します。しかし、人材難で仕事に納期遅れが出るようではもっといけません。やむを得ない出費と心得ています。
ちょうど34年前から筆者の事務所ではQCサークル活動を開始しました。定着するまでに、10年以上かかりました。活動に要する時間が膨大なものですから、「QCにかかる時間で仕事をした方が、どれだけ儲かるか知れない」という苦情が殺到したのです。

しかし、あきらめることなく継続しました。システム開発部門との協力もあって、効率化は大いに進んだのです。国際管理部では6人でやっていた仕事を5人でできるようにするという改善活動が行われたことがありました。この活動では、年間600万円以上の節約効果がありました。このように優れた活動もあったのです。

最近では、システム開発部からの提案があって、QCサークル活動でRPA(Robotic Process Automation)の導入が行われました。国内管理部とのコラボでQCサークル活動が行われて、次のような業務が自動化されました。願書の印刷、審査請求年間チェック、審査請求お知らせ作成前処理、お客様への納品データ作成補助の4項目です。その後もRPAによる業務の自動化は進み、現在では23項目の作業が自動化されています。 どの程度の節約効果があったかは、目には見えませんが、人材不足の緩和になっていることは明らかです。処理項目をどんどん増やしていきたいと思います。

筆者の事務所では、QCによる節約だけが唯一の給与アップの源泉となっています。したがって、QCによる成果が上がらなければ給与アップができないので、経営のトップとしては、QCには真剣に関わります。どのような課題を各グループが選択するかは厳重にチェックします。「給与を上げられるQCサークル活動の課題を選んでくれ」とは筆者の口癖です。筆者も多くの課題を用意しておいて、不適当な課題が選択されようとしたときは、「それはダメ、こっちをやってほしい」と給与アップにつながる課題をやってもらいます。

QCを専門とする専任者が2人いて、約40グループの活動を見守っています。グループミーティングに出席したり、思うように進んでいないときには、アドバイスしたりします。通常6か月をかけて、一つの活動が終了しますが、3か月経過したところで、全グループの進捗をトップインタビューで確認します。給与アップになるような活動ができているかどうかを確かめます。活動に成果が予見できないようなときは、途中であっても課題を変えてもらいます。進捗は毎月の経営会議で報告されますので、活動が進んでいないときは、専任者が面倒を見て、正常に戻すように計らいます。
QCサークル活動の成果は大きく、過去34年間わずかながらも毎年給与アップを継続できています。

1−3)働き方改革と給与アップ

ただ、最近の働き方改革では残業が厳しく制限されます。ドイツに比較すれば、まだ緩さはありますが、短時間で能率よく働かなければなりません。従来残業して上げていた成果を、残業制限の範囲内で上げなければならないことになります。
したがって、経営側の負担だけではなしに、働く側にもかなりの負担が求められます。そこで考えられるのが、生産性のアップを目指して、昭和60年に実現した6万円アップを実現する2匹目のどじょうを狙うことです。明細書や意見書、さらに翻訳等実務者について、「給与を5万円アップするので、売り上げを平均15万円アップしてほしい」という奥の手です。
この手段は働く側の大きな負担となることは明らかですが、働き方改革自体が本来の姿として、生産性の向上を前提としているのですから、合理性はあると考えます。ぜひトライしてみたいと思います。

2)ガラス張り経営をする

『京セラでは、信頼関係をベースとして経営が行われています。そこでは、経理面を始め、全てのことがオープンになっており、何ら疑いを差し挟む余地がないシステムが構築されています。その1つの例として、『時間当たり採算制度』では全部門の経営成績が全社員に公開されています。自分たちのアメーバの利益がいくらで、その内容はどうなっているのかが誰にも容易に理解できるようになっています。一方、私たち一人一人も同じように心をひらき、オープンに仕事をすることを求められています。このように社内がガラス張りであることによって、私たちは全力で仕事に取り組むことができるのです。』

京セラの理念ではこのように述べられているのですが、筆者の事務所でも京セラコミュニケーションシステムの指導を得て、アメーバ経営を導入し、すでに16年が経過しました。このアメーバ経営は、最初の導入時には大きな抵抗がありましたが、当所の利益体質を向上するのに、大きく貢献しています。
アメーバ経営とは、部門毎の採算をきちんと出すというやり方です。間接部門の人件費や家賃や電気代等の経費を全て部門毎に割り付けます。人頭割りであったり、面積割りであったりします。毎月、予定採算表を作り、月初めに前月の採算表を完成し、経営会議で前月の結果採算と今月予定採算を発表します。前月に生じた重点項目も発表されます。受注状況、今月の受注見込み、業績好調の理由、不振の理由、従業員の動向、新規顧客、その他の重要事項も発表されます。経営会議は丸1日かかって行われます。

筆者の事務所では、収益部門として、国内特許本部に10部門、国際特許本部に5部門、意匠商標本部(意匠部、商標部)、知財戦略支援部(調査担当部門)があるとともに、非収益部門として、業務支援本部(国内管理部、国際管理部、東京管理部)、企画本部(経営管理室、図面部、企画推進部、システム開発部、総務部)、営業企画部、改善推進室があります。
収益部門については、部門毎に採算が非常に正確に算出されます。売り上げ予定いくら、実売り上げいくら、差し引き収益いくら、かかった時間何時間、時間当たり収益いくら(ただし人件費を除いたもの)、が出てきます。最後に人件費を差し引いた経常利益については、全体のもののみを算出し、先月の経常利益いくら、経常利益率いくらというように発表されます。
非収益部門については、費用と総時間のみが発表されます。

さらに時間移動ということが行われます。他の部門のために働いたときは、その時間は自分の部門から差し引き、それで利益を得る他部門の時間を増やすということになります。従って、時間を借りた部門はそれだけ時間当たりの採算は悪くなるという勘定です。
当所において、このアメーバ経営が導入されてからは、各部とも採算を合わせるということに、非常に神経を使うようになりました。経費を使えばそれだけ採算は悪くなります。売り上げが落ちれば、目標達成が困難になります。月末にはお客さまへ送付済みの原稿を何とか出願に結びつけようと、「まだご返事はいただけませんか」とお願いすることもあります。
毎月月間目標を達成しよう、その累積である年間目標を達成しようというモチベーションが強くなるのです。
目標を達成できれば安堵するという構図ができあがってきました。そのおかげでアメーバ経営導入前と比較すると、採算はかなりよくなりました。全員が採算に神経を使い、「何とか採算を合わせよう」「時間当たり採算を向上させよう」とするからです。

しかし、逆に未来への投資ということがおろそかになりそうです。部門長の決断で新人をその部門に採用しますと、その新人の教育に時間が取られ、部門の成果は目に見えて落ちてくるからです。真の教育に消極的になるという構図が出てきています。
トップとしては、新人を育てるためのインセンティブを考える必要があるわけです。部門長の評価はその部門の売り上げをどれだけ大きくし、全体の利益にどれだけ貢献したかになりますので、長い目で見れば新人を常に教育し、新しいパワーを育て上げ、売り上げ増に注力し、さらに効率アップを図り利益の絶対量を上げなければならないのです。

このアメーバ経営は京セラの理念にもあるように、経営をガラス張りにするという大きな効果もあります。所員全員が経営状態の全てを把握できるからです。例えば、接待交際費でも必要なものを最小限に使うということとなり、不明朗なものは一切排除されます。各部門でコントロールできる経費もできる限り節約しようというムードも高まりました。
さらに、仕事上の品質、例えば特許明細書ですが、出願手続きのために、国内管理部門に回ってから、チェックされて (注1)、訂正箇所が出てきますと、時間移動が行われるために、明細書部門の採算が悪くなります。明細書部門ではできる限り訂正箇所が出ないようにチェックするということになります。すなわち、品質向上にも役立っているわけです。

経営のトップとしても、少しは自由に使える会社の金があってもいいのではないかと考えるのは普通ですし、日頃のトップとしての苦労を思えば、当然ではないかとも思われます。
京セラ理念では、これを明確に否定しています。トップたる者公明正大であればあるほど、迫力が出てくるし、自信になるし、自分自身を強め、勇気を与えてくれるというのです。
確かに会社の金をいささかでもプライベートな臭いのする場面で使用するならば、トップの迫力は減殺されることになることは明らかでしょう。例えば、家族との食事代金を会社の費用として損金として落とすようなことがあれば、従業員の私的なタクシー利用を追及することはできないでしょう。やったとしても非常に迫力のないものとなるからです。
会社のトップが常に公明正大であることの重要性は、いくら強調しても強調しすぎることはないでしょう。

(注1:筆者の事務所では、明細書チェックソフトが開発使用されています。図面番号、クレーム番号の引用間違い、出願人・発明者の住所・名称・氏名、明細書内に通信文が誤挿入されていないか、「前記○○」という記載がある場合○○が前に出ているか、クレームの部材名称が明細書内にあるか等180項目のチェックを行っています)

3)闘争心を燃やす

『仕事は真剣勝負の世界であり、その勝負には常に勝つという姿勢でのぞまなければなりません。
しかし、勝利を勝ち取ろうとすればするほど、さまざまなかたちの困難や圧力が襲いかかってきます。このようなとき、私たちはえてして、ひるんでしまったり、当初抱いていた信念を曲げてしまったりするような妥協をしがちです。
こうした困難や圧力をはねのけていくエネルギーのもとは、その人の持つ不屈の闘争心です。格闘技にも似た闘争心があらゆる壁を突き崩し、勝利へと導くのです。 どんなにつらく苦しくても、「絶対に負けない、必ずやり遂げてみせる」という激しい闘志を燃やさなければなりません。』

この理念の説明の中で、闘争心について、次の趣旨が付け加えられています。すなわち、闘争心は「相手を打ち負かす」という意味での闘争心ではないというのです。例えば、路傍の草木は、お互いに競い合うように生きています。それは太陽の光を少しでもたくさん浴びて炭酸同化作用を一生懸命行い、養分を蓄えるためです。そして、来るべき厳しい冬に備えているのです。その姿はただひたすら精一杯生きよう、生きようと努力している姿です。どの草木も「隣の草木をやっつけてやろう」「打ち負かそう」という気持ちはないのです。
しかし、十分陽の光を浴びられなかった草木の中には、枯れ絶えてしまうものもあります。それが自然界のルールであり、適者生存の法則です。

すなわち、経営者が持つべき闘争心とは、相手を倒すためのものではなくて、自分が精一杯に生きていくためのものでなければならないというのです。
京セラのこの理念を、筆者は生き延びるため、事業繁栄のための最大の努力というように理解しました。筆者が常に心に念じているのは、どんなことがあっても従業員を路頭に迷わせてはならない。夢を持たせなければならない。ということです。
そのためには、収益を確保しなければなりません。将来の明るい展望を語らねばなりません。

昨今、前述のように国内出願事件では、非常に厳しい経営を余儀なくされています。それでも闘志をむき出しにして、何とか生き残る努力をせねばなりません。
どこまで我々の力でコストダウンができるかを、QC手法に乗っ取り、6ヶ月間で現状把握、要因解析、対策案出、対策実行、効果の確認、歯止めの手順で実行したことがありました。
筆者の事務所でも最もベテランが集っている部門において実施しました。現状把握から生まれた対策として主なものは、

  1. インタビューの後、直ちにクレームを作成する。
  2. 1日3〜4時間の集中時間を作り、その間電話にも出ないし、お客さまのインタビューもせず、部下・同僚との会話も一切禁止する。
  3. できる限り中断をなくし、一気呵成に書いてしまう。
  4. 明細書作成を中断するときは、書こうとしている構想をメモ書きしておく。
  5. 同一出願人の過去の明細書及び図面を検索し、再利用をする。(当所では主要なお客さまについて他事務所作成のものも含めて明細書、図面の検索が可能)

というものでした。
その結果、分かったのは、お客さまからの依頼方法がどの程度充実しているかによって、特許事務所の能率は大幅に変化するということです。
お客さまからの依頼書、すなわち発明の開示内容が充実していて、ポイントもハッキリ分かるようなケースは、2、3の質問をするだけで、一瀉千里で明細書作成が可能となります。このようなケースは、非常に能率が上がります。従って、料金的に多少低額でも耐えられるということになります。ましてや同じ分野の出願が継続して、何件も続くケースは特に特許事務所としては、ありがたい仕事ということになるのです。

逆に届出書が充実していないために、インタビューに多大な時間をかけた上に、不足資料をなかなか届けていただけない。しかも、届いた資料が不完全なものであるようなケースは、時間がかかり、発明のポイントも定かになりにくいために、多大の費用がかかってしまうのです。
ましてや、高度技術が単発で時々しか受注できないケースでは、非常に能率が悪く、かなりの手数料をいただかないと、採算が取れないということになります。

また、届出書及びインタビューの結果に基づいて、明細書原稿を作成しお送りすると、読まれた発明者に新たな気づきがあり、あれを足したい、これを足したい、ということもよくあります。困るのは明の趣旨まで変更されてしまうケースです。大幅な書き直しが必要となります。
特許事務所に発明のレポート代わりに明細書を書かせて、それで頭を整理し、さらに考えて発明を充実するということもよくあります。こうなるともう通常の料金では対応できなくなります。当所ではいくらでも書き直しOKですが、見合う料金をお願いすることにしています。しかし、現実には付加料金の請求は非常に難しいのです。
能率を上げるためには、企業の知財部と発明者に多くのご協力をいただかなければならないし、そうしなければリーズナブルな手数料の実現は非常に難しいということです。

このQCサークル活動で判明した事実は、以上のようなものですが、全体として、何%のディスカウントができるかという点については、条件が全てのお客さまについて大幅に異なりますので、結論を出すことはできませんでした。
時代の流れに乗るには、何としても、コスト低減を図らなければならないことは、分かりすぎるほど分かっていますし、そのための努力も惜しみません。
依頼者の方々にも分かっていただきたいことは、「得たる価値と失いたる価値は常に相等しい」という原理です。
あれだけ合理性を重んじるアメリカで、しかも、特許弁護士の合格比率が30%を超える状況で、新規参入は山ほどあるはずであるのに、明細書の作成料金は、決して下がっていません。技術レベルが高くやや長めの明細書は、100万円を超える場合がいくらでもあります。
クライアントが明細書作成の価値を認めているということだと思われます。あまり過酷な料金体系が一般的になりますと、特許事務所そのものが疲弊していきます。優秀な人材が集まらなくなります。明細書作成者が育たなくなります。特許事務所の作る明細書の品質は長期的に下がっていきます。日本の特許は質が悪く、有効に働かないという傾向が生ずるでしょう。
企業では重要発明については、社内で明細書作成をしなければならなくなります。そのときのコストは非常に高くなってしまいます。できれば、今社内で明細書作成を行った場合のコストを試算していただき、料金体系を作る際の参考にしていただければ幸いです。

次に、特許事務所の現在の夢は何かということですが、特許明細書作成部門においては、次のように勇気を鼓舞しています。
「多くの企業はどうして特許事務所に明細書の作成を依頼するのでしょうか。明細書というのは非常に難しいのです。多くの大企業では自社で明細書を作成しようと思えば、できるでしょう。しかし、難しいが故に、我々の能率に比較すれば遙かに低くなってしまいます。だから特許事務所の業務が成立するのです。
事実、多くの大手企業では外国出願業務を内部に取り込んでいます。難しいが、明細書作成業務ほどの困難性はないからです。それだけ取り込みやすいからなのです。

逆に言えば明細書作成業務はそれだけ困難だということです。神経を張り巡らせて、いかに広い権利を確保するかを考えなくてはなりません。技術を言葉で表し、思想的に表現しなければならないのです。部品名称は何がよいか頭を悩ませることは多くあります。できる限り分かりやすい表現は何かを選びます。二通りにも三通りにも解釈できる表現があってはだめなのです。請求範囲は少し書きすぎれば、権利行使不可能になります。それはそれは神経をとぎすませて書く必要があるのです。
高度であるとともに、困難な仕事です。もっといえば企業内での明細書作成は、高度人材育成の困難さ、その実現にかかる費用の膨大さを考慮すると、非常に困難だといえると思います。

最近、弁理士受験指導予備校で講師が、『特許事務所は明細書作成が大変だから、大企業の知財部へ行け』と指導していると聞きます。
弁理士が皆、明細書を書かなくなってしまったならば、日本産業は一体どうなることでしょうか。日本の発明は有効な保護ができなくなってしまいます。日本産業の危機を招くでしょう。日本の明細書は質が悪く、有効に権利行使ができないという状態になってしまうからです。
筆者の事務所において、高度な明細書作成を十分学習し、身に着けたならば、それは非常に大きな財産になるでしょう。その能力は一生なくなることはありません。その気になれば死ぬまで明細書を書き続けることができます。あなたの仕事は大きな価値のある仕事、日本の産業になくてはならない仕事なのです。このような仕事をしているあなた方は大いなる誇りを持ちましょう」と言うのですが、その裏付けとして誇りの持てる報酬が必要です。

明細書の仕事がいかに大変かは、実際に身をもって経験し、多くの失敗を重ねながら、成長してきた筆者自身の体験からも分かりますし、現在、所内において、多くの新人弁理士の明細書に目を通しながら、品質の向上を指導する中でも痛切に感じるのです。1人の未経験の弁理士が立派な明細書作成者として独り立ちするまでには、半年くらいの者もいますが、3年くらいかかるのが普通です。年々独り立ちが遅くなっていくようにも感じます。10年かかってもまだチェックが必要なケースもあります。
特許事務所として、生き残り、従業員に夢を持たせる、トップの役割も大変になってまいりました。

出典:「京セラフィロソフィー」

2019年5月発行 第115号

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