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「パテントメディア」

企業における商標管理 〜商標管理の必要性〜

2009年1月
理事 谷尾唱一

9月某日、『S部長の提案でご相談ですが、「パテントメディア」2009年新年号に「企業における商標管理のあり方」について書いていただけませんか?』本誌編集子からの電話である。
しかし、よくよく考えて見るとこれほど焦点の定まらない曖昧且つ観念的なテーマはない。これまで用語として何の疑問もなく、もっともらしく語られてきたテーマではあるが、いざ活字にしようとすると、料理すべき食材も見栄えよく盛り付ける手段も簡単には見つからないのである。
「企業」には「製造業」「販売業」「サービス業」等があり、何年もの間に1件しか出願の経験のない企業、年間数件の出願企業、さらには年間数百件を出願する企業がある。また、「商標」には企業文化の凝縮ともいえる「社名商標」や「ハウスマーク」もあれば個別の「商品・役務商標」もある。さらには、「地域団体商標」もある。業容においても「製造業」には原料メーカー、中間素材メーカー、一般消費財(コンシューマー商品)メーカー等があり、「サービス業」には千差万別の業種・業態がある。当然のこととして、それぞれにおける「商標」の位置付けや戦略が異なる。さらに、「地域団体商標」に至っては特殊な商標管理を必要とする。現実には企業や事業者はそれぞれの事業環境や事業の多様性に応じた独自の商標管理が実行されていると考えるべきであろう。
このような背景を踏まえると、「企業における商標管理」という汎用かつ画一的な管理手法があるとは思えないのである。読者の皆様にその解説を試みること自体が不遜であると認識しつつ、本稿では「商標管理の必要性」なる副題を付し言及領域を限定することで、商標管理上の参考に資することができれば幸いである。

はじめに

企業、個人事業者、事業者団体(ここで言う「企業」とはこれらを総称する)の如何を問わず広く社会に「商品」「役務(サービス)」を提供し続ける限り、商標法に基づく「商標」を確保し財産権として確実に維持保全しなければ、健全な市場競争はできないと考える必要がある。国内外における商標管理の必要性と重要性の認識が希薄なことに起因して、過大な金銭的負担を余儀なくされた事例も多い。
本稿では、商標権者にとってなぜ商標管理が必要なのか、そのためには何が課題かについて考えてみたい。

1.商標の機能維持

「商標」とは、取引の実際において自己の商品や役務を、他人の商品・役務と区別するための標識であり、以下の役割・機能を有している。

(1)商品又は役務の出所表示機能

特定の商標を付した商品又は役務は、常に特定の生産者、販売者又は提供者によってなされていることを対外的に示す機能である。
需要者は、その商品又は役務に付された商標によって、自己が求めるべき商品・役務を選択し自己の欲求を充たすことになる。

(2)商品の品質又は役務の質を保証する機能

特定の商標を付した商品又は役務は、常に一定の品質又は質を備えていることを需要者に保証する機能である。
生産者、販売者又は提供者は常に一定の品質、質を維持した商品又は役務を提供することによって、取引者、需要者からその商品、役務について信用を獲得し、購買意欲を高めることになる。すなわち、取引者、需要者は、その商標に付された商標によって生産者、販売者、提供者の品質又は質を確認できる作用がある。

(3)商品又は役務の広告宣伝機能

商品又は役務に付される商標を常に一定の態様で広告宣伝に使用することによって、その生産者、販売者又は提供者の商品又は役務であることを取引者、需要者に認識させ、商品の購買又は役務の利用意欲を喚起させる原動力となる機能である。
自己の商品、役務に付した商標を活字媒体、電波<CODE NUM=00A5>映像媒体、電子媒体などを通じ広く取引者、需要者に対し訴求することによって既存の顧客に対する信用、信頼度を高めると同時に新しい顧客を吸引していく効果がある。

このような商標が有する本来的な機能は相乗的に作用し、反復継続的に使用することによって商品又は役務の顧客吸引力(Good Will)が形成、蓄積され、商標の経済的価値が付加されていくこととなる。
コストを投じて取得した商標権が、不十分な商標管理によって、このような商標が有する機能の一つでも喪失したときは、その商標はもはや商標権としての役割は終焉し、商標権者にとっての経済的損失は計り知れないものとなるであろう。商標管理の必要性は、このような商標の有する機能を持続的に維持することに集約される。
後述するが、古くには「セロファン」や「アスピリン」、近年では「正露丸」「うどんすき」「巨峰」など、かつては商標権であったものが、商標管理の不徹底によって普通名称化し、商標権としての財産的価値を喪失した。

2.商標権の維持・保全

自己の商標権を権利として維持・保全するためには、次のような対策を講じる必要がある。

(1)第三者の出願状況監視と「情報提供制度」「登録異議申立制度」

1)自己の登録商標と類似する第三者の商標登録を阻止する
2)第三者の商標と同一又は類似の商標出願を自ら回避する
3)第三者による業界慣用語、普通名称などの登録を阻止する
ためには、第三者の出願状況について「商標公開公報」(商標法第12条の2)や「商標登録公報」(商標法第18条第3項)を日常的に監視しておくことが重要である。
特に、自己の社名商標やハウスマーク、重要商標に類似する商標の保全には欠かすことのできない対策であるといっていい。また、これらの監視を通じて特定の第三者や競業他社の商品又は役務に対する戦略や動向を知ることも可能となる。
これらの監視の結果、上記1)、3)に該当する商標は、「商標公開公報」に対応して『情報提供制度』(商標法施行規則第19条)、「商標登録公報」に対応して「登録異議申立制度』(商標法第43条の2)を活用し、当該商標の登録を阻止する必要がある。

「情報提供制度」は平成8年の商標法改正により、商標の早期権利化を目的として商標登録前の異議申立制度が廃止され、登録後の異議申立制度に移行したことに伴って導入された制度である。提供された情報を審査段階において活用することで商標審査の確実性と瑕疵のある商標権の発生を回避する狙いがある。(特許庁商標審査便覧 89.01)
「登録異議申立制度」は、上述のとおり平成8年の商標法の改正によって、商標登録後に審査官の判断に対して意見を開陳する制度となったが、商標権としての安定性を確保するという制度目的においては、登録前の異議申立制度と何ら趣旨を異にするものではない。

自己の登録商標と類似する第三者の商標出願に対し、これらの制度を活用することなく放置すれば、同一又は類似の商品・役務に類似する商標がはんらんすることとなり、そのような状況になれば、自己の商標が有する顧客吸引力は低下し、取引者、需要者に対し商品・役務の出所について誤認混同を生じさせるおそれもある。

(2)第三者の侵害監視

第三者による自己の商標権の侵害についても日常的な監視が重要課題である。
この監視を効率よく且つ効果的に進めるためには、企業内における監視体制づくりや外部との情報チャンネルを予め整備しておく必要がある。
侵害監視の対象としては、例えば次のようなものが考えられる。
  1)活字媒体:新聞、雑誌、辞書類、パンフレット・チラシ、ポスター、広報誌・冊子等
  2)電波・映像媒体:テレビ、ラジオ、PRビデオ、文字放送等
  3)電子媒体:インターネット・ウエブサイト、メールマガジン、ブログ、辞書サイト等
  4)各種展示会、ショー、新製品発表会等
これらの監視は、企業内の商標担当部門のみで行うには負担が大きい。企業内でこれらの媒体に接する場面の多い、例えば、営業部門、企画開発部門、広報・宣伝部門等との有機的なタイアップによって効率的に情報を集約することが必要であろう。
さらに、仕入先、販売先(販売代理店・商社等)などの取引先からの情報収集は極めて重要であり、このような外部からの情報入手のチャンネルも整備しておくことが大切であるといえよう。

(3)第三者の侵害排除

自己の商標権が第三者によって侵害されている事実が発見されれば、その侵害行為は遅滞なく排除する必要がある。
  1)侵害排除の予備的手段
通常、司法による侵害排除の予備的手段として、侵害者に対する「警告書(状)」や新聞・雑誌などへの不特定多数に対する「声明文」又は「警告文」の広告によって解決を試みることがある。
この場合、第三者の侵害行為についての十分な証拠収集(現物、カタログ、パンフレット等)と「権利侵害」であることの確証を必要とすることはいうまでもない。特に、当該第三者の行為が「権利侵害」であるか否かの判断はその後の司法解決においても生命線であり、企業として侵害排除の意思決定の際には、この分野の専門家(弁護士・弁理士)の客観的判断を求めておくことが重要である。これらの警告が法律的根拠を欠きその目的、内容、態様において社会通念上の許容範囲を超える場合は違法行為と判断されることがあり、「営業妨害」や「権利濫用」など不正競争行為となるおそれのあることも注意しておかなければならない。
商標法に定めた侵害行為排除の手段としては以下がある。
  2)商標法第36条に基づく侵害差止請求
  3)民法第709条に基づく損害賠償請求
  4)商標法第39条で準用する特許法第106条に基づく信用回復措置請求
  5)商標法第78条に基づく刑事罰(非親告罪:故意犯に適用)

(4)他社権利の侵害回避対策

自らが使用しようとする商標が第三者の保有する商標権と同一又は類似である場合は、その商標の使用行為が非合法とならないよう、事前に権利関係を明確にしておかなければならない。

1)第三者の当該商標権の分析と無効化

(1)使用しようとする商標と当該商標権の指定商品・役務の重複度合いの検討

自らが使用しようとする商品・役務が当該商標権と非類似の商品・役務である場合は、権利侵害となるおそれはない。
注意すべきは、特許庁の「類似商品・役務審査基準」は、全審査官の統一基準として運用されているものであるが、これはあくまで行政庁が便宜上定めたものであって、類似範囲を概念的に固定したものではないということである。したがって、裁判上ではこの基準と異なる判断がなされる可能性があることも意識しておかなければならない。ちなみに、同一商品・役務区分内の類似商品・役務に含まれる商品・役務及び他類間との類似群コードに含まれる商品・役務は原則として類似する商品・役務として取り扱われている。また、同基準では、商品と役務が相互に類似する場合があることも定めている。

(2)当該商標権の無効原因の有無の検討

当該商標が商標法第3条(商標登録の要件)や同第4条第1項(商標登録を受けることができない商標)の規定に違反して登録されたものであるか否か及び後発的な無効原因を包含するか否か等の検討も重要である。一部の無効理由を除いて当該商標に無効原因が含まれる場合は、商標登録日から5年以内に標法第46条に基づく商標登録の無効の審判を請求することも可能である。この場合、その指定商品・役務に係る特定の部分についてのみの一部無効も認められている。

(3)不使用取消審判請求の可能性の検討

商標法第50条第1項は、『継続して3年以上日本国内において商標権者又は使用権者がその指定商品・役務についての登録商標の使用をしていないときは、何人もその登録商標の取消審判を請求することができる」旨定めており、本条を活用することによって自らの使用を合法化する手段がある。
不使用取消審判では同条第2項によって「使用」の挙証責任は被請求人(商標権者)に課せられているが、審判請求に際しては、商標権者又は使用権者が当該商標を3年間継続して使用していないことを十分に調査し確証を得ておく必要がある。

(4)当該商標について先使用権の有無の確認

商標法第32条は「先使用による商標の使用をする権利」について規定している。第三者の商標登録出願前から不正競争の目的ではなく、その商標の指定商品・役務と同一又は類似する商品又は役務について同一又は類似の商標を使用し、その商標が周知になっている場合は、その後も継続して使用できる権利である。

2)権利の譲り受け

権利者から権利の譲り受けをする場合は、前提条件として当該権利の有効性の確認を要することはいうまでもないが、実務上、当事者間で当該商標の指定商品・役務の「全部」か又は「一部」かの選択も必要である。
当該商標の権利範囲にある指定商品又は役務であっても、権利者の実際使用の商品・役務と自らが使用したい商品・役務とが非類似であれば、当該部分について譲り受けの可能性はあるからである。現実問題としては、同業又は競業関係にある権利者からの権利の譲り受けは困難を伴うと考えなければならない。
また、譲り受けしようとする商標の権利者が、当該商標と類似する他の商標を所有しているか否かの確認をしておくことが好ましい。可能であればこれらを一括して譲り受けることも選択肢としてある。
なお、権利者において過去に当該商標の使用実績がある場合は、譲り受けに際しそれらの証拠を入手しておくことも大切である。これらの証拠は譲り受け商標について自らの使用開始前に、第三者による不使用取消請求に対する抗弁資料となる。

3)使用許諾

前記による譲り受けができない場合の次善の策は、権利者から当該商標の使用許諾を受けることである。この場合、使用許諾を受ける権利の態様、すなわち「専用使用権」(商標法第30条)か「通常使用権」(同法第31条)かについて明確にしなければならない。また、前記2)における譲り受けの場合と同様、使用許諾を受ける範囲を当該商標の指定商品・役務の全部か又は一部かについても当事者間で合意しておくことを要する。
また、使用許諾を受ける場合、商標権者に対し当該商標の存続期間の更新義務を課することや、許諾された専用使用権又は通常使用権についての設定登録をしておくことが望ましい。

(5)権利の活用

現状の商標審査期間は出願から7〜8ヶ月程度である。企業によっては、短期間に商品開発が行われ、開発着手段階での商標出願では上市前に商標登録を受けられない場合がある。少なくとも、商品発売・役務提供に際して使用する商標は、権利として安定したものでなければ、その後にリスクを負う可能性が大きい。その意味で、企業の業容・業態に対応した適切なストック商標の確保は必要であろう。自社権利の活用策として、次のケースが想定される。
  1)自社新製品・新役務に対するストック商標の活用
  2)他社への譲渡、使用許諾
ただし、ストック商標に対する不使用取消請求への防御のためにも、自社登録商標の使用状況について定期的にチェックしておくことが重要となる。

3.商標の適正使用

(1)商標の同一性の範囲

商標権者及び使用権者は、登録商標を適正に使用をする義務があり、適正に使用していない場合は商標法第51条、第53条などに基づく「不正使用による取消審判」によって、登録を取消される場合がある。
実務上、登録商標を現実に使用する場合に、登録商標と物理的に同一であるとは限らない。特に、「標準文字」での登録出願を容認する現行法下では、この種のケースが多発する。
そこで商標法第50条第1項では「商標の同一の範囲」について、
  1)書体のみに変更を加えた同一文字からなる商標
  2)平仮名、片仮名およびローマ字の文字の表示を相互に変更するものであって、同一の称呼および観念を生じる商標
  3)外観において同視される図形からなる商標
  4)その他、社会通念上同一と認められる商標
を含むものとしている。
また、自己の登録商標を不正使用したことにより、第三者の登録商標を侵害する事例があることにも注意しなければならない。

(2)商標の普通名称化の防止

登録商標が第三者によって多用され、その商品・役務を表すものとして普通に使用されることを放置すれば、その商標が普通名称化するおそれが多分にある。商標が自他商品・役務の識別機能を喪失すれば最早「商標権」とはいえない。登録商標についての適切な普通名称化防止対策が、企業における商標管理の最終課題といっても過言ではない。

1)商標権が普通名称にあたるとされた事件例

(1)「巨峰」事件:(大阪地裁 平成13年(ワ)第9153号)
(2)「うどんすき」事件:(東京高裁 平成9年(行ケ)第62号)
(3)「正露丸」事件:(東京高裁 昭和35年(行ナ)第32号)などがある。

2)普通名称化の防止策

商標の普通名称化は主として取引者、需要者に起因することが多く、商標権者は自社の登録商標が商品・役務の慣用的な名称として使用されないよう常に監視する必要がある。
加えて、自らの登録商標の使用方法にも細心の注意を払わなければならない。

(1)登録商標と一般名称の併記(Ex. うまみ調味料「味の素」、セロファン製粘着テープ「セロテープ」、PPC複写機「ゼロックス」、面ファスナー「マジックテープ等)
(2)登録表示(登録商標第○○○○号、  等)または同一文中での「 」、“ ”、ロゴタイプ等による区別
(3)新聞・雑誌、書籍、辞書・事典類への訂正申立
(4)放送、マスメディアなど情報媒体への訂正申立
(5)第三者による普通名称的使用に対する注意喚起

(3)社内商標使用マニュアル(ブランディング・マニュアル)の制定

通常の場合、商標の管理部門と使用部門は異なることが多い。したがって、 普通名称化防止手段を含めた、企業独自の全社的な「商標使用マニュアル」又は「商標使用基準書」による管理とその徹底が重要である。
特に、CI(Corporate Identity)やVI(Visual Identity)、CB(Corporate Brand)戦略の推進にあたっては、商標の表現形式の統一化を効果的に達成するために、社名商標、ハウスマークや重要商標についての厳格な「商標使用マニュアル」又は「商標使用基準書」の制定は不可欠となるであろう。
企業文化の凝縮ともいうべき「社名商標」「ハウスマーク」は企業価値そのものであり、その価値の持続的維持・向上のための使用管理の徹底は、「厳格かつ絶対的規範」によらなければならないと考えている。
企業として、社名商標やハウスマークは普遍的なものではなく、変更不可能なものでもないが、この種の商標は常に定められたルールによって使用し、いかなる場合でもその使用態様において付記変更を加えることがあってはならない。社名商標やハウスマークは需要者、消費者に対する視覚的影響度が大きく、仮に自らの使用において多数のバリエーションを許容したとすれば、需要者、消費者に対する企業イメージの浸透が非効率となるからである。

1)社名商標、ハウスマーク、重要商標の使用方法のルール化

2)個別商標の使用方法のルール化

3)マニュアル化の対象;
    (1)パンフレット、チラシ、ポスター
    (2)広告、Web
    (3)看板、サイン、ディスプレイ、運搬車両
    (4)名刺、封筒、各種書類(便箋、レターヘッド・伝票類など)等。

4.企業における商標管理部門の役割

企業の商標管理における課題が、商標の機能の維持にあることは既に述べた。そうしてみると、企業が健全な市場競争を維持するためには、業種、業態、業容の如何に関わらず、商標を企業活動における「戦略」の道具として位置付ける必要があろう。企業における商標管理部門がその「戦略」の中枢として機能するためには、これまで述べた諸課題に適切に対応することはもちろんであるが、先ず社内での商標についての認識を共有することに始まると考える。
例えば、中国における日系企業の商標事件のほとんどは、商標に関する企業トップの関心の希薄さ、事業関連部門や商標管理部門の管理の不徹底に起因している。自社の事業領域の将来予測と情報収集の不足によって回復不可能な事態が生じ、又は回復に多額のコストを要するなどネガティブな事例が極めて多い。
このような場合、商標管理部門の役割をどのように位置付けるべきであろうか。

(1)商標」の重要性に関する社内啓蒙(商標管理部門から社内関係部門への働き掛け。)

1)経営トップに対する啓蒙(まずは、知財担当役員から)。
2)事業部門、営業部門又は企業内カンパニーとの情報の共有。
3)研究・企画・開発部門との情報の共有。

(2)会社の方向性、事業の方向性について社内情報の収集

(3)同一又は類似の事業に関する他社の動向・情報の収集

(4)商標の発掘と国内・海外を含めた商標戦略の策定及び関連部門への提案と実行

(5)商標提案制度・商標報奨金制度(法的な義務はないが)の導入

など、それぞれの企業に適した商標意識の高揚手段は他にも多くあるはずである。

5.商標管理業務の合理化

この項では、商標権の維持コストの削減について考えてみたい。

(1)商品分類の歴史的変遷

わが国の商標法は明治以来、数次にわたり改正されると同時に商品区分も次のような歴史的変遷がある。  
(1)明治32・42年法
(2)大正10年法(原材料主義)
(3)昭和34年法(用途主義)
(4)平成3年改正法による国際分類への移行・サービスマーク制度の導入

1985年頃からのいわゆるバブル期には、事業の多角化が積極的に進められ、社名、ハウスマークの変更によって視覚的イメージの対外的訴求と、内部的には新たな企業理念による企業文化の醸成に向けたCI活動が活発に行われた時代である。その結果、社名商標、ハウスマークに関する商標権の登録件数と維持コストは増加の一途を辿った。特に、社歴の長い企業ほどCI活動が導入され、それに伴う商標出願が盛んになった時期でもある。
さらに、企業の商標管理面からコスト負担を加速したのは、平成3年の改正による国際分類への移行である。平成8年の改正商標法附則第2条において『平成4年3月31日までに出願された商標の商標権者は、国際分類に従って書換えをしなければならない」旨、義務づけられたことである。すなわち、それまでの日本固有の商品分類による商標権を国際分類に従って再分類しようとするものである。この「書換制度」の導入によって、多くの場合一つの商標権が多区分に分割されると同時に、同一商品区分内に指定商品の異なる同一商標が多数存在することとなった。
加えて、企業における商標担当部門、担当者の変更や、企業自体の事業の多角化、業容の変更などに伴って十分な管理がなされず、社名商標、ハウスマークについて事業の全領域にわたっての権利確保が不充分な事例、あるいは不要ともいえる商品・役務区分に商標権が依然として存続している事例も生じてきた。
また、現実に使用中の、例えば、カタカナ、アルファベット、ひらがな又は漢字社名商標の指定商品・役務とハウスマークの指定商品・役務が相互に符合しない事例も発生してきた。
本来、企業にとって社名商標とハウスマークは、現実の事業範囲で等しく権利確保されていなければならないと考えるが、例えば、ハウスマークについてはある商品・役務区分では登録商標があるのに、カタカナ、アルファベット、ひらがな又は漢字社名商標では商標権が確保されていない事例や指定商品・役務の範囲がそれぞれ異なる事例もある。

(2)ハウスマーク・ロゴマーク等汎用商標管理の合理化(過渡期の手段として)

そこで筆者は、その企業にとって歴史的重要性を持つ商標権は別として、少なくとも現実に使用(将来予測を含めて)されているハウスマークとカタカナ、アルファベット、ひらがな又は漢字社名のそれぞれの指定商品・役務は全て同一であるべきことを前提に、「商標別指定商品・役務のアップデート化」を提案する。
すなわち、旧商標権の放棄と新規出願によるリニューアルである。企業ごとの現状実態に合わせた新出願の登録後に、不要な商標権や指定商品・役務が一部重複する古い商標権の存続期間満了毎に順次放棄することで目的は達成される。
この新規出願は、旧商標権の権利存続期間中であることを前提とするが、その効果として、
1)存続期間更新登録申請に要する総費用よりも、新規出願・維持の総費用はコストダウンとなる
2)書換登録申請を回避できる
3)古い商標の存続期間更新登録申請を回避できる
4)新出願における多区分指定によって管理権利数が減少する(ただし、以後の存続期間更新管理は注意する必要がある)
等である。削減可能コストは、既存の商標権の保有件数、企業ごとの管理上の事情により異なるが、長期的に見ればコストメリットは十分にあると確信する。
当所では、このような新たな企業ニーズを想定し、別掲のとおり「商標ポートフォリオの整理」に関する新サービスを開始した。企業での商標管理業務の合理化の一助となれば幸いである。(完)

2009年1月発行 第84号

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