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中国における特許出願の進歩性の判断について
(先行技術と区別される技術的特徴が公知技術にあたる否かの認定について)

2008年9月
中国専利代理人 丁憲傑

中国では特許出願の進歩性(中国語では「創造性」)の審査において、審査官は、ある発明が際立った実質的な特徴を備えているか否かを判断する際に、通常、以下の3つのステップ(条件)を考慮する。即ち

(1)最も近い先行技術の確定。
(2)発明が解決する技術的課題の確定。
(3)その発明が当業者にとって明確であるか否かの判断。

このうち第3のステップ(条件)で確定しなければならないのは、その分野の技術者が「技術的課題」から導き出される当該発明を十分に理解できるような技術啓示(示唆)が、先行技術全体に存在するかどうかということである。
また、審査基準(中国語では「審査指南」)は、「技術啓示」に対する認定は上記3条件に帰結するとされており、先行技術と区別される特徴が公知技術である場合には、先行技術が技術啓示(示唆)を与えるものと考え得るとしている。
以下に、1つの実例を通してこのような状況を説明する。
1999年11月24日、出願人により発明名称を「エンジンの排気用二次空気供給装置」とする(出願番号99124498.2)特許出願が提出された。そのクレームは下記の通りである。

【請求項1】 シリンダブロック(25,251,252)が備えるシリンダボア(29,291,292)に摺動自在に嵌合するピストン(31,311,312)との間に燃焼室(30,301,302)を形成して前記シリンダブロック(25,251,252)に結合されるシリンダヘッド(27,271,272)に、前記燃焼室(30,301,302)からの排気ガスを排出する排気ポート(34,341,342)が設けられるとともに、該排気ポート(34,341,342)を流通する排気ガスに二次空気を供給するための二次空気供給路(110,110′)が設けられるエンジンの排気用二次空気供給装置において、前記二次空気供給路(110,100′)が、排気ガスの流通方向下流側に向けて排気ポート(34,341,342)の内面に一端を開口して一直線状に延びる第1通路部(111,111′)と、第1通路部(111,111′)の軸線からシリンダブロック(25,251,252)側に屈曲した一直線状の軸線を有して第1通路部(111,111′)に連なる第2通路部(112,112′)とで構成され、シリンダブロック(25,251,252)の外面に、二次空気供給路(110,110′)に接続されるリード弁(115,1151 ,1152)が取付けられることを特徴とするエンジンの排気用二次空気供給装置。

2002年12月20日、実体審査を経た後に、この出願に対し国家知識産権局専利局は拒絶の決定を下した。拒絶理由はこの出願の請求項1が進歩性を有さないというものであり、「日本公開特許公報昭60-79115(拒絶引用例1)」と「日本公開特許公報昭59-68514(拒絶引用例2)」を根拠とする拒絶である。

《昭60-79115(拒絶引用例1)》

《昭59-68514(拒絶引用例2))》

拒絶決定において、審査官は本出願の請求項1と拒絶引用例1,2の相違点には、本出願が解決しなければならない技術的課題の解決に対して顕著な作用はなく、また当業者が公知技術をベースにした具体的な選択の一つでもあり、その相応の技術的効果は予め知り得るものである、したがって請求項1は拒絶引用例1,2に対して進歩性を有さないと指摘した。

出願人は上述の拒絶決定に対して不服を申立て、2003年3月26日に専利復審委員会に再審請求を提出した。請求の理由は、本出願の特許請求の範囲が補正され拒絶引用例1または2に対して進歩性を有するというものである。出願人は再審請求時に次のような請求項1を提出した。
「シリンダブロック(25,251,252)が備えるシリンダボア(29,291,292)に摺動自在に嵌合するピストン(31,311,322)との間に燃焼室(30,301,302)を形成して前記シリンダブロック(25,251,252)に結合されるシリンダヘッド(27,271,272)に、前記燃焼室(30,301,302)からの排気ガスを排出する排気ポート(34,341,342)が設けられるとともに、該排気ポート(34,341,342)を流通する排気ガスに二次空気を供給するための二次空気供給路(110,110′)が設けられる、エンジンの排気用二次空気供給装置において、前記排気ポート(34,341,342)の内面には、二次空気を供給する方向が排気ガスの流通方向下流側に向けるように前記二次空気供給路(110,110′)の一直線状に延びる第1通路部(111,111′)が接続され、前記二次空気供給路(110,110′)の第2通路部(112,112′)は第1通路部(111,111′)の軸線からシリンダブロック(25,251,252)側に屈曲した一直線状の軸線を有して第1通路部(111,111′)に接続され、シリンダブロック(25,251,252)の外面には、二次空気供給路(110,110′)に接続されるリード弁(115,1151,1152)が取付けられ、該二次空気供給路(110,110′)は吸気ポート(331,332)方向の開口から排気ポート(34,341,342)の内面までに開口され、シリンダヘッド内に90度ないし鋭角の屈曲部を有することを特徴とするエンジンの排気用二次空気供給装置。」

出願人は、補正後の請求項1には「二次空気供給路はシリンダヘッド内に90度ないし鋭角の屈曲部を有する」という技術的特徴を補充しており、二次空気供給路の配置が吸気側にあり、且つ二次空気供給路の2つの分岐部分が90度ないし鋭角の屈曲部を有するため、二次空気供給路の開口は排気浄化効率の高い部位に設けることができる。拒絶引用例1,2には上述の特徴やこれに対するいかなる技術啓示や示唆も開示されておらず、この特徴は一定の有益な効果を備えており、補正後の請求項1は拒絶引用例1,2に対して進歩性を有すると出願人は主張した。

国家知識産権局専利復審委員会は2003年6月30日に出願人に対し再審通知書を出し、元の拒絶決定を維持した。

2003年8月5日、出願人は上述の再審通知書に対して意見陳述を行い、再度、特許請求の範囲を補正し、「上述の二次空気供給路が排気ガスの流れ方向下流側の排気マニホールド(106)側に対して排気ポート内面においてその一端が開口する。」という技術的特徴を追加した。出願人は新たに追加した技術的特徴は拒絶引用例1,2に開示されておらず、この技術的特徴には二次空気を最大限度で排気管方向に導き出す作用を備えており、それによって二次空気の供給量を十分に満たし、さらに初期の空気浄化を実現することができ、補正をした請求項1は拒絶引用例1,2に対して進歩性を有すると主張した。
国家知識産権局専利復審委員会は審査を経て、2003年8月5日に、出願人により提出された特許請求の範囲を審査基礎として再審請求に対する決定をした。その決定では請求項1の進歩性について以下のように認定した。

本出願の独立請求項1と拒絶引用例1の相違点は以下の二点にある。(1)拒絶引用例1は本特許独立請求項1の前書部分の技術特徴を開示していない。(2)本特許は二次空気供給路の設置方向及びその中の二つの分岐通路の挟角に対して更なる限定を行い、即ちこの二次空気供給路は吸気ポート方向の開口から排気ポートの内面において、シリンダヘッド内に90度ないし鋭角の屈曲部を有し、且つ上述の二次空気供給路が排気ガスの流れ方向下流側の排気マニホールド(106)側に対して排気ポート内面においてその一端が開口する。本出願の独立請求項1の前書部分には、内燃機関シリンダの具体的な構造が記載されており、さらにこれらの構造は内燃機関には欠かすことのできない技術的特徴でもある。拒絶引用例1にはこれらの技術特徴が明示されていないが、上記の構造は当業者にとっては公知技術である。相違点(2)に至っては、二次空気供給通路の開口は排気ポートの屈曲部の内部及び外部の2種の設置方式しかない。燃焼室から排出される排気は二次空気供給通路の開口から排出される空気に対しても逆流と順流の2種の方式のみである。二次空気供給通路の一端の開口を排気マニホールドに対向して設置することは実際に上述した順流方式が取り入れられており、流体力学のパルス放射の理論により、この設置方法が二次空気を円滑に排気管方向に流すことができるのは明らかである。またシリンダヘッドにおける二次空気供給通路の具体的な設置は、排気ポートとクーラント通路の設置状況とその必要性、排気ポートを妨げない等のシリンダの具体的構造に基づいた具体的な設定が可能である。二次空気供給路の二つの分岐部分が有する90度ないし鋭角の屈曲部に至っても、当業者がシリンダの具体的構造に基づき任意に選択することができ、たとえ拒絶引用例1が示す二次空気供給路の2つの分岐部分が鈍角を呈する屈曲部であったとしても、同様に逆流の排気を戻させ、流速を下げる作用を果たすことができる。

再審請求時に出願人により提出された意見について、復審委員会は、拒絶引用例1中の二次空気供給路は排気ポートの屈曲部の内方向に開口しているが、二次空気供給路が排気流速の低い部分に位置していることには特別の意味がなく、両者に直接的な関係はないとした。また、拒絶引用例1において、排気の流動方向に対して逆流する二次空気供給路の開口の方向は、これも排気の浄化効率に何ら影響を与えるほどのものではない。反対に、排気の流動方向に逆流する二次空気供給路の開口の方向は、順流に対して二次空気を混ぜ合わせ、さらに浄化効率を向上させることができる。再審請求人が、容易には想到し得ない技術効果をもつと強調する上述の特徴は、まさに請求項1に対して前述したとおりで、当業者がシリンダの具体的な部品の設置と必要性に基づき任意に選択でき、際立った実質的な特徴と顕著な進歩性は有さない。したがって復審委員会は請求人の上述の意見を支持しない。

出願人が再審通知書について回答した意見に関しては、二次空気供給路の一端の開口を排気マニホールドに対向して設置することは、実際に二次空気供給通路の開口から排出される空気を燃焼室から排出される排気に対して順流の方式を取り入れている。また請求項1の進歩性については前述したとおりであり、このような順流の設置方法はシリンダの具体的構造とその必要性に基づいて任意に設定でき、同時に流体力学の放射理論に基づけば、このような方式は必然的に二次空気が排気管方向に導き出されるのに役立ち、二次空気の供給量を満たし、他の角度から空気の浄化を改善することができる。

復審委員会は、以上の各理由を総合的に勘案して、本特許請求の範囲が拒絶引用例1に対して進歩性を有さないとした。

上述の実例では、すべての審理段階において、復審委員会が再審通知書及び再審決定書の中で焦点としているのは、本特許と拒絶引用例の相違点である。すなわち「二次空気供給路の設置方向及びその中の2つの分岐通路間の挟角」が公知技術となるか否かであり、そのため本特許が進歩性を有するか否かの判断である。

出願人は上述の先行技術と区別される特徴が公知技術にならない理由として、この相違が二次空気供給路の開口を排気浄化率の高い部位にさせることができると同時に、二次空気を排気管方向に最大限度で導く作用もあり、したがって二次空気の供給量を満たし、初期の空気浄化が実現できるとした。

再審通知書及び再審決定においてこれに対し逆の認定がされた。その理由は、本特許の二次空気供給路の設置方向と排気浄化効率の高低には必然的な関係がないというものである。本特許の二次空気供給通路の開口の設置には、当業者により知られている選択可能な2種の方式の一つを採用しており、出願人が強調するこのような選択が有する有益な効果も、当業者がその流体力学の理論の知識から容易に推定可能な必然の結果である。このため、上述の先行技術と区別される特徴は公知技術に属し、先行技術はこの特徴を本発明に応用する技術啓示を与えたとした。再審決定によれば、この特徴は当業者であれば当然熟知していることであり、あるいはその熟知している知識から容易に推定できる必然の結果であれば、この特徴は公知技術に該当するということである。

(事例は中国国家知識産権局HP上で公開された資料を引用)

2008年9月発行 第83号

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