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「パテントメディア」

中国における「日本製」と商標戦略のすすめ

2008年5月
上海オフィス 尾崎早苗

中国は、今年8月の北京オリンピック開催を目前に控え、さらに2年後の2010年には上海万国博覧会(上海万博)が予定されています。とくに最近は、政府によるインフラ整備への施策がより活発になり、各方面において目覚ましい成長・発展を続けています。私が住む上海は、現在まさに上海万博に向けた環境整備の真っ最中で、街の至るところで地下鉄工事や舗道の整備、施設の建設が行われています。

また、私が上海での生活を始めてから5年が経ちますが、日々の生活の中で目にする中国人も徐々に変化してきたことを実感します。例えば、公共の場所では、モラルを守ろうという姿勢を感じさせることも多くなってきました。今まさに、中国は外面だけでなく、内面も徐々に変革を遂げている最中と言えます。

さらに、高度経済成長に伴い、中国人の収入は年々増加し、上海市内でも以前は外国人しか行かなかったような高級レストランやバーへも足を運ぶ中国人が多くなりました。以前は現地滞在の日本人向けであった日本料理店も、現在は中国人顧客も視野に入れた大型寿司店や割烹料理店が開かれるなどしています。中国におけるマグロをはじめとする海産物の消費量も近年急激に増加してきました。大量のマグロが中国へ供給されているというマスコミ報道から推察しても、日本の食は中国人にどんどん受け入れられ、さらにその質の向上が求められている段階に来ているといえます。

高級品志向は富裕層や新富裕層ばかりではありません。一般的な国民でも、お金を出してでも質の良いモノ、安全なものを手に入れたいと考えているようです。とりわけ日本製品は、高品質で、安心して使用し、食せるものとして中国人から絶大な信頼を得ています。現に私は友人の中国人夫婦から「子どもに質の良い粉ミルクを飲ませたいので日本製の粉ミルクを購入したい。お勧めのブランドはないか?」と聞かれたことがあります。彼らは日本のブランドを実によく知っており、日本製のミネラルウォーターまでも購入しているほどです。その理由は、日本製だと聞けば何でも安心できるというのです。

このように、中国の一般国民も、日本製や日本産であるということへの安心感や高級感を持っているのです。そこで、このような国民的な要求にしたがって日本をイメージさせる商標を付した商品を販売すれば、消費者に良い印象を与え、ひいては高い売り上げが見込まれるのではないか?そう考える中国人や中国企業があったとしても不思議ではありません。日本の地名や商品名が、中国において数多く商標出願・登録されている背景には、このような要因もあるのではないかと私は考えています。

最近の例として、ある中国企業が「青森」という商標を、果物・野菜など複数の商品分野にわたって商標出願し、これに対し2003年に青森県などが異議を申し立てた事例がありました。中国商標法では、商標出願の後、初審公告(予備的査定)された商標に対して、公告日から3ヶ月間以内であれば、何人も商標局に対して登録の異議を申し立てることが出来ます。異議申立がなされると、商標局によってその異議申立の内容が審理され、当該商標の登録許否の裁定がなされます。今回の「青森」商標に対する異議申立はこの制度に基づいてなされたのです。

これに対し中国商標局は、2007年12月、一部の商品分野について「青森」は「公衆に知られた地名である」と認定し、「青森」商標の登録を認めませんでした。もし仮に青森県の異議申立が認められず、「果物・野菜」分野で商標登録が認められたとしますと、中国において原産地の表示としての「青森県産」を表示することは可能ですが、「青森りんご」のように商標的表示はできなくなるところでした。そればかりでなく、青森県産でないりんごが高価格な「青森りんご」として販売される事態を招くところでした。最近の統計によりますと、中国におけるりんごの総生産量は世界総生産量の三分の一を占め、世界最大の生産量を誇っています。そのような中で、青森県産をはじめとする日本産のりんごは、値段が普通のりんごの数十倍するにも拘らず、高級品として高級スーパーなどで人気があるのです。従って、もし仮に今回の異議申立が認められなかったとしますと「青森りんご」の商標のもとで、中国市場でのブランド展開に大きな支障が生じるところだったのです。

さて、今回異議申立が認められた根拠は、中国商標法第10条第2項(商標として使用してはならない標章)の規定「県クラス以上の行政区画の地名又は公知の外国地名は商標とすることができない」によるものと考えられます。だたし、この条文には但し書きがあり、「その地名が別の意味を持つ又は団体商標、証明商標の一部とする場合にはこの限りではない。」と規定されています。

実際、「青森」は中国語でも「美しい森」という意味(観念)を持っていますので、その観点からからすれば「青森」は商標法の規定に違反していない、という判断が下される可能性もありました。地名としては、その他にも例えば「京都」は中国においてすでに多くの区分で商標登録がなされていますが、中国語において「京都」は「都や国都」を意味する用語として、一般的に理解できる意味(観念)を持つ語なのです。

このことを考えると、中国においては、たとえ日本の地名であっても中国において広く知られた地名ではない場合や、地名が別の意味も持つ場合には、商標登録される可能性がある、ということなります。

商標法第3条は、「登録商標とは、商標局の審査を経て登録されたもので、商標登録権者は商標専用権を享有し、商標法の保護を受ける。」と規定しています。つまり、審査を経て一定の基準を満たすものであれば、誰もが商標出願をし、登録を受けることによって、独占的に使用する権利と法による保護を受けられるのです(ただし、2007年2月以降は出願人が中国人個人である場合は、商標出願時に住民登録証のほか、使用予定や証拠を提出する義務が課せられました。)。

今回の「青森」事件では、結果的に「青森りんご」としてのブランドは守られ、今後も中国においてそのおいしさを正しく伝え続けることができるようになりました。しかし、異議申立成立までに要した時間(本件の場合4年半)やコストは少なくなく、何よりも、仮に異議が認められなかったリスクを考えると、県産業の中国事業に甚大な影響を与える可能性がありました。

現在の中国商標法は、日本と同様に先願主義を採用しており、法令に基づいて拒絶される理由がない限り、最先の出願人に権利が付与されます。また、出願件数の急増に伴い、現状での商標登録に要する期間は、初審公告(予備的査定)までに3年以上を要しています。

従って、今後中国での事業・商品展開の可能性が多少でもある場合には、地(域)名・商品名に限らず、また現在は中国への輸出が認められていない商品・農水産製品であっても、将来の規制緩和の可能性を想定して、早期に対策を講じられることが望ましいと考えます。

今後日本と中国の関係はますます強まり、市場はさらに拡大し、多くの中国人がこれまで以上に日本製品や産品を求めていくことが予想されます。その際に自己の商標が中国で確実に使用できるように、予防対策を講じておくことが肝要だと考えます。

以上

2008年5月発行 第82号

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