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自社商標が他人によって先駆されたら

2008年1月
上海オンダ商標事務所 代表 夏 宇

2001年のWTO加盟後、中国に進出する外国企業は日本企業を初めとして年々増加の一途である。それらの企業の多くは進出の際又は進出後に、自社商標(ブランド名)を中国に登録出願することにしているようだ。ところが、登録出願前の事前調査をしてみると、その自社商標と同一の商標がすでに他人により出願又は登録されていたというケースがよくある。中でも、それらの商標に対し有効な対抗手段がないために、既存の自社商標による中国ビジネス展開を断念し、新しい商標への変更を余儀なくされるという最悪なケースも度々起こっている。

実際のところ、他人により出願又は登録されている商標の中には、偶然に既存の自社商標と同一または類似の商標が出願又は登録されたケースもあるが、明らかに不正な目的を持つ第三者によって先駆されたケースも少なくないようだ。

本稿では、自社商標が他人によって先駆された場合、その他人の商標権を排除するための手段をご紹介し、このようなアクションに対する中国商標局又は商標評審委員会の審査(又は審判)で実務上運用されている判断基準についても説明する。

中国商標法では、他人の予備登録商標(初審登録商標ともいう)又は登録査定商標が商標法の関連規定を満たさない場合、第三者(真の権利者や利害関係者などを含む)が異議申立又は取消を請求するチャンスを与えている。中国商標法第31条では、「商標登録の出願は、他人に先に存在している権利を侵害してはならず、他人が既に使用し一定の影響力を有している商標を不正の手段によって奪い取って出願してはならない。」と規定されている。この条文は自社商標が他人によって先駆された場合、その自社商標が中国馳名商標の認定を受けることによって他人の商標を排除する他に、その他人の先駆商標権を排除できる唯一の法的根拠となると言っても過言ではない。

1. 「商標登録の出願は、他人に先に存在している権利を侵害している」に該当するか否かの判定について 

ここで言う「他人に先に存在している権利」は商標権を除く商号権、著作権、意匠権、氏名権、肖像権などを指しているが、実務上、援用される権利の多くは商号権、著作権、意匠権の3つである。

A:商号権について

所有している商号権に基づいてアクションを起こす場合の要件としては、次の3つが挙げられる。

1)商号の登記、使用日が係争商標の登録出願日より前であること。
2)当該商号が中国の関連公衆において一定の知名度を有すること。
3)係争商標の登録と使用が関連公衆に誤認混同を与えやすく、商号権者の利益に損害を与えるおそれがあること。 

上記要件1)でいう商号の登記、使用日は中国国内での登記、使用日であることに注意すべきである。なお、商号の登記は、現地企業や駐在員事務所などの中国の各地方における工商行政管理局への登記でなければならない。 

また、上記要件3)を充たすか否かを判断する際、実務上次の要素が考慮されている。 

a.該当商号の独創性 
商号に用いられている文字が常用の言葉ではなく造語であれば、独創性があると認められる。 
b.該当商号の知名度 
外国企業の商号の場合、外国のみならず、中国での関連公衆において知名度があることが必要である。 
c.係争商標の指定商品・サービスが商号権者により提供されている商品・サービスと同一又は類似であること。 

上記のように、商号権の保護範囲は該当商号の独創性、知名度、及び指定商品・サービスの関連性などに基づいて確定されるようになっている。 

B.著作権について

所有している著作権に基づいてアクションを起こす場合の要件としては、次の3つが挙げられる。

1)係争商標が、他人が先に所有している著作権に係わる作品と同一又は実質的に類似すること。
2)係争商標の登録出願人が、他人が先に所有している著作権を知っているか又は知る可能性があること。
3)係争商標の登録出願人が著作権者の許可を得ていないこと。 

実務上、自社のロゴマーク又は図形商標に著作権を有することを主張することが考えられる。この場合、有力な証拠としては、日本又はその他の国における当該ロゴマーク又は図形商標の商標登録証明書、そのロゴマーク又は図形商標をデザインするときのデザイン会社への依頼書ないしデザイン会社からの納品書、及びそのロゴマーク又は図形商標を記載したカタログ又はパンフレットに関する著作権登録証明書(日本又は中国での登録)などが挙げられる。 

C.意匠権について

所有している意匠権に基づいてアクションを起こす場合の要件としては、次の3つが挙げられる。

1)意匠権の授権公告日が係争商標の登録出願日より前であること。
2)係争商標が意匠権と同一又は類似の商品(物品)に使用されること。
3)係争商標が意匠と同一又は類似であること。

2. 「他人が既に使用し一定の影響力を有している商標を、不正の手段によって奪い取って出願した」に該当するか否かの判定について 

この規定の表現は抽象的であり、実際の判定においては、次のような要件が考えられている。

1)係争商標の出願日前に他人の商標が既に使用され且つ一定の影響力を有していること。
2)係争商標が他人の商標と同一又は類似であること。
3)係争商標の使用又は指定商品・サービスが他人の商標の使用商品・サービスと原則的に同一又は類似であること。
4) 係争商標の出願人が悪意を有すること。 

なお、上記でいう「既に使用され且つ一定の影響力を有する商標」とは、中国国内で既に使用され且つ一定の地理的範囲内で関連公衆に知られている未登録商標を指している。 
また、商標が一定の影響力を有するか否かを判定する際、次の要素が考慮されているが、これらすべての要素を満たすことを前提とはしないことになっている。 

a.当該商標に対する関連公衆の認知状況 
b.当該商標使用の継続期間と地理的範囲 
c.当該商標の広告宣伝活動の継続期間、方法、金額及び地理的範囲 
d.その他、当該商標に一定の影響力を持たせた要素 

ここで注意すべきは、商標使用の状況を証明するための証拠資料には、使用される商標の標識、商品・サービス、使用時期と使用者が明示されたものでなければならないことである。 
一方、係争商標の出願人が悪意を有するか否かについての判定は、極めて難しいことであるが、通常、次の要素が総合的に考えられている。 

a.係争商標の出願人と先使用者とが、かつて取引関係又は提携関係にあった。 
b.係争商標の出願人と先使用者とが同じ地域にあり、又は互いの商品・サービスが同じ販売ルートと地域範囲を有する。 
c.係争商標の出願人が先使用者と紛争を起こしたことがあり、先使用者の商標を知っていた。 
d.係争商標の出願人と先使用者とはかつて相互に人的交流があった。 
e.係争商標の出願人が商標登録後、不当利益を得るために、先使用者の商標の名声と一定の影響力を利用して関連公衆に誤認混同を与える広告宣伝を行い、先使用者に自分と事業提携するよう脅迫し、先使用者又は他人に対し高額な対価、使用料又は侵害賠償金を要求する行為がある。
f.他人の商標が強い独創性を有する。 
g.その他、悪意として認定できると思われる状況がある。 

因みに、上記でいう「関連公衆」とは、一例として以下のものが含まれる。

1)商標を付した商品の生産者又はサービスの提供者
2)商標を付した商品・サービスの消費者
3)商標を付した商品・サービスの販売・流通に関わる販売者及びその他の関係者 

上述のように、万一、自社商標が他人によって先駆された場合は、上記の手段を用いてその他人の商標権を排除することが考えられる。しかしながら、実務的に有効な証拠の収集又は立証は困難を極め、外国での証拠については公証認証を要するなど煩雑な手続が伴う上、場合によっては、せっかく準備した証拠が証拠能力不十分として認められないなど、上記の手段によって他人の商標権を排除できた事例は極めて少ない。 

このような実態を考えると、自社商標が他人によって先駆された後にアクションを起こすのでは遅きに失する。 
先駆された他人の商標権の排除に要する労力・時間とコストは多大なものがあり、その間のビジネスにおける逸失利益は決して少なくないことを肝に銘じる必要がある。

2008年1月発行 第81号

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