『知財高裁 平成23年(行ケ)第10135号審決取消請求事件』の考察|知財レポート/判例研究|弁理士法人オンダ国際特許事務所

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『知財高裁 平成23年(行ケ)第10135号審決取消請求事件』の考察

2012年9月
弁理士 佐久間勝久

本件は、出願商標と引用商標との類否判断において、それらの指定商品役務の“取引の事情”が審査段階(商標登録無効の審理を含む)でどのように考慮されるべきなのかを示すものである。

1 事件の概要

本件は、原告(小売業者)が、被告(特許庁長官)に対し、被告の商標登録出願についての商標法第4条第1項第11号の規定に該当することによる拒絶査定維持審決(不服2010-6747号事件)の取り消しを求めた審決取消訴訟である。

(1)本件商標登録出願及び引用商標

①本件商標登録出願

  • 出願番号:商願2008-33130号(出願人:株式会社スーパーみらべる)
  • 出願日:平成20年4月27日
  • 出願商標:『知財高裁 平成23年(行ケ)第10135号審決取消請求事件』の考察 | 2012年
  • 区分:第35類
  • 指定役務:飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,食肉の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,食用水産物の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,野菜及び果実の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,菓子及びパンの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,牛乳の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,清涼飲料及び果実飲料の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,茶・コーヒー及びココアの小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供,加工食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供

②引用商標 ⅰ)引例1

  • 登録番号:1696965号(権利者:株式会社和光)
  • 出願日:昭和57年5月28日(設定登録日:昭和59年6月21日)
  • 登録商標:『知財高裁 平成23年(行ケ)第10135号審決取消請求事件』の考察 | 2012年
  • 区分:第30類
  • 指定商品:茶,コーヒー,ココア,氷
  • 区分:第32類
  • 指定商品:清涼飲料,果実飲料

ⅱ)引例2

  • 登録番号:1727596号
    (権利者:ミラベル ザルツブルガー コンフイスリー ウント ビスクヴイート ゲゼルシヤフト エム ベー ハー)
  • 出願日:昭和54年5月28日(設定登録日:昭和59年11月27日)
  • 登録商標:『知財高裁 平成23年(行ケ)第10135号審決取消請求事件』の考察 | 2012年
  • 区分:第30類
  • 指定商品:菓子,パン

ⅲ)引例3

  • 登録番号:2341239号
    (権利者:オーシャン チョイス インターナショナル エル ピー)
  • 出願日:昭和63年8月25日(設定登録日:平成3年9月30日)
  • 登録商標:『知財高裁 平成23年(行ケ)第10135号審決取消請求事件』の考察 | 2012年
  • 区分:第29類
  • 指定商品:食用魚介類(生きているものを除く。),食肉,卵,冷凍野菜,冷凍果実,肉製品,加工水産物,加工野菜及び加工果実,油揚げ,凍り豆腐,こんにゃく,豆乳,豆腐,納豆,加工卵,カレー・シチュー又はスープのもと,お茶漬けのり,ふりかけ,なめ物

ⅳ)引例4

  • 登録番号:4989901号
    (権利者:ミラベル ザルツブルグ コンフイセリエ ウント ビスケト ゲー エム ベー ハー)
  • 出願日:平成17年10月24日(設定登録日:平成18年9月22日)
  • 登録商標:MIRABELL(標準文字)
  • 区分:第30類
  • 指定商品:菓子及びパン,アイスクリームのもと,シャーベットのもと,穀物の加工品,即席菓子のもと

 

(2)争点

上記出願商標と上記各登録商標とが商標類似の関係にあるか。<>br / ※上記引例1~3はいずれも上記商標登録出願よりも先願先登録の他人の商標登録であることは明らかである。また、上記商標登録出願は第35類の小売等役務を指定しているため、上記引用商標の各指定商品と類似する(類似商品・役務審査基準,商標法第2条第6項)。それゆえに、上記出願商標が上記各登録商標と類似していなければ商標法第4条第1項第11号の規定に該当しない。

(3)本判決(平成23年12月26日判決言渡)について

※主文抜粋
『特許庁が不服2010-6747号事件について平成23年3月2日にした審決を取り消す。
※上記争点に対する結論抜粋
『本願商標と引用商標とは,「ミラベル」との称呼において類似する場合があり得たとしても,外観において著しく相違し,かつ観念において類似するとはいえず,取引の実情等を考慮しても,本願商標がその指定役務(中略)に使用された場合に,引用商標との間で商品ないし役務の出所に誤認混同を生じさせるおそれはないから,両商標は,類似しない。』 (注:下線部分は筆者追記)

このように、裁判所は上記出願商標と上記引用商標との称呼類似を認めている。しかしながら、“取引の実情”を考慮した結果、出処混同のおそれがないということにより商標非類似と認定している。
そのため、商標法第4条第1項第11号の規定に該当しないと認定している。それゆえに、拒絶査定維持審決を覆す判決を出している。

2 本件の商標類否判断の前提

本件判決文の「第4 当裁判所の判断」の「1 商標の類否判断について」に以下の記載がある。

●『商標の類否は,同一又は類似の商品又は役務に使用された商標が,その外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して,その商品又は役務に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考察し,取引の実情を明らかにし得るかぎり,具体的な取引状況に基づいて判断されるべきであり,このような考察によって,役務や商品の出所についての誤認混同を来すおそれがないものについては,類似の商標とすべきではないというべきである(氷山事件)。』
●『商標の構成部分の一部を抽出し,この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,その部分が取引者,需要者に対し,商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などを除き,許されないというべきである(リラ宝塚事件),(セイコー・アイ事件),(つつみおひなっこや事件)参照)。』 (注:下線部分は筆者追記・変更)

そのため、本件では“取引の実情”に基づいて商標の類否判断を行っている。なお、本件の“取引の事情”については、本件判決文によると以下のとおり。

●『原告は,昭和52年10月ころ,原告代表者により,東京都板橋区で「ミラベル」の名称で,スーパーマーケットの営業が開始され,昭和56年8月ころ,「有限会社ミラベル」となり,さらに,平成9年10月ころ,株式会社に組織変更がされ,「株式会社スーパーみらべる」の名称となった。原告は,現在,東京都北部にスーパーマーケットを8店舗営んでおり,各店舗の出入口の上部に,本願商標とほぼ同一の書体と色彩による「スーパーみらべる」の店舗名の表示を掲げるなどして,本願商標を継続的に使用している』
『原告は,引用商標に係る商標権者などとの間で指定商品について,取引及び販売をしたことはなく,また,原告の顧客の間で,引用商標に係る商品の出所を認識している者はいないと推認される』

このように、

  • 原告は東京都北部でスーパーマーケットを8店舗展開している。
  • 各店舗の出入り口には“『知財高裁 平成23年(行ケ)第10135号審決取消請求事件』の考察 | 2012年”が掲げられている。
  • 原告は上記引用商標の権利者と取引関係にない。
  • 原告の顧客は“『知財高裁 平成23年(行ケ)第10135号審決取消請求事件』の考察 | 2012年”のみを認識している(推認)。

と本件の個別具体的な“取引の実情”が裁判所によって認定されている。

3 リラ宝塚事件,セイコー・アイ事件,つつみおひなっこや事件の各判示内容への氷山事件で考慮すべきと判示された“取引の実情”のあてはめ

本件では、裁判所は“氷山事件”を基礎とし、“リラ宝塚事件”,“セイコー・アイ事件”及び“つつみおひなっこや事件”を一括解釈している。そして、同解釈を基礎に審理している。そのため、“氷山事件”を見直して“取引の実情”の判断方法を確認する。そして、上記判断方法により本件の“取引の事情”を再確認しつつ、“リラ宝塚事件”,“セイコー・アイ事件”及び“つつみおひなっこや事件”の判示内容をそれぞれ検討する。

(1)氷山事件(最三小判昭和43年2月27日民集22巻2号399頁参照)について

氷山事件(原判決:拒絶審決取消認→原判決支持)判決文の一部を以下に示す。

『商標の外観、観念または称呼の類似は、その商標を使用した商品につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず、従つて、右三点のうちその一において類似するものでも、他の二点において著しく相違することその他取引の実情等によつて、なんら商品の出所に誤認混同をきたすおそれの認めがたいものについては、これを類似商標と解すべきではない。』

そして、本件裁判長裁判官が同じく裁判長裁判官を勤めたCIS事件(平成20年(行ケ)第10285号:拒絶審決取消不認容)では、保土ヶ谷化学社標事件(最一小法廷昭和49年4月25判決・昭和47年(行ツ)第33号参照)の判決文を次のように引用している。

『商標の類否判断に当たり考慮すべき取引の実情は,当該商標が現に,当該指定商品に使用されている特殊的,限定的な実情に限定して理解されるべきではなく,当該指定商品についてのより一般的,恒常的な実情,例えば,取引方法,流通経路,需要者層,商標の使用状況等を総合した取引の実情を含めて理解されるべきである』

このように、“取引の実情”の判断は『一般的,恒常的な実情,例えば,取引方法,流通経路,需要者層,商標の使用状況等』を総合して行うべきであると本件裁判長裁判官は過去に自ら判示している。

(2)リラ宝塚事件(最一小判昭和38年12月5日民集17巻12号1621頁)について(原判決:拒絶審決取消不認容→原判決支持)

リラ宝塚事件判決文を「取引方法,流通経路,需要者層,商標の使用状況等を総合した」本件の“取引の実情”を考慮しつつ以下のように読み替える。

「スーパー」なる文字が“『知財高裁 平成23年(行ケ)第10135号審決取消請求事件』の考察 | 2012年”の指定役務たる小売等役務の需要者の間に広く知れわたつているものの、これに対し、「みらべる」はそれ自体造語であり、しかも、右「みらべる」なる文字は“『知財高裁 平成23年(行ケ)第10135号審決取消請求事件』の考察 | 2012年”のほぼ中央部に「スーパー」なる文字の下段に「スーパー」なる文字よりも大きく極めて読みとり易く表示され、独立して看る者の注意をひくように構成されている。それゆえに、かかる事実関係の下において、「スーパー」なる文字と「みらべる」なる文字とはそれらを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものではない。したがって、“『知財高裁 平成23年(行ケ)第10135号審決取消請求事件』の考察 | 2012年、単に「みらべる」なる称呼も生ずることが少なくないと認めて、ひとしく“ ”等と称呼において類似すると判断したことは、正当である。』 (注:下線部分は筆者書き換え)
<参考:リラ宝塚事件で類否判断された商標→類似と判断>
上告人商標:『知財高裁 平成23年(行ケ)第10135号審決取消請求事件』の考察 | 2012年≒引用商標:『知財高裁 平成23年(行ケ)第10135号審決取消請求事件』の考察 | 2012年

小売等役務の需要者にとって「スーパー」なる文字がスーパーマーケットを指すことは『一般的,恒常的な実情』として日本全国で明白である。そのため、上述のようにリラ宝塚事件判決文をこのような“取引の実情”を考慮しつつ読み替えると、“『知財高裁 平成23年(行ケ)第10135号審決取消請求事件』の考察 | 2012年”から「みらべる」部分を分離観察して類否判断すべきであると考える。

(3)セイコー・アイ事件(最二小判平成5年9月10日民集47巻7号5009頁)について(原判決:拒絶審決取消不認容→原判決破棄)

セイコー・アイ事件は引用商標の分離観察の可否について判示するものであるが、引用商標であれ出願商標であれ、同じ判断基準で分離観察の可否を判断すべきと考える。そのため、セイコー・アイ事件判決文を以下のように読み替える。

『“『知財高裁 平成23年(行ケ)第10135号審決取消請求事件』の考察 | 2012年”は、小売等役務を指定役務としているから、右商標が小売等役務について使用された場合には、“『知財高裁 平成23年(行ケ)第10135号審決取消請求事件』の考察 | 2012年”の構成中の「スーパー」の部分は、スーパーマーケットの略称として用いられている一般的、普遍的な文字であって、取引者、需要者に特定的、限定的な印象を与える力を有するものではないというべきである。一方、“『知財高裁 平成23年(行ケ)第10135号審決取消請求事件』の考察 | 2012年”の構成中の「みらべる」の部分は、東京都北部で知られたスーパーマーケットの運営業者である株式会社スーパーみらべるの商号の略称を表示するものであることは争いようのないところである。
そうすると、“『知財高裁 平成23年(行ケ)第10135号審決取消請求事件』の考察 | 2012年”が小売等役務に使用された場合には、「みらべる」の部分が取引者、需要者に対して役務の出所の識別標識として強く支配的な印象を与えるから、それとの対比において、スーパーマーケットと密接に関連しかつ一般的、普遍的な文字である「スーパー」の部分のみからは、具体的取引の実情においてこれが出所の識別標識として使用されている等の特段の事情が認められない限り、出所の識別標識としての称呼、観念は生じず、「スーパーみらべる」全体として若しくは「みらべる」の部分としてのみ称呼、観念が生じるというべきである。』
(注:下線部分は筆者書き換え)
<参考:セイコー・アイ事件で類否判断された商標→非類似と判断>
上告人商標:『知財高裁 平成23年(行ケ)第10135号審決取消請求事件』の考察 | 2012年≠引用商標:『知財高裁 平成23年(行ケ)第10135号審決取消請求事件』の考察 | 2012年

スーパーマーケットにおける小売等役務の『取引方法,流通経路,需要者層,商標の使用状況等を総合した』『一般的,恒常的な』取引の実情において「スーパー」が出所の識別標識として使用されている等の特段の事情は認められない。それゆえに、やはり“『知財高裁 平成23年(行ケ)第10135号審決取消請求事件』の考察 | 2012年”から「みらべる」部分を分離観察して類否判断すべきであると考える。

(4)つつみおひなっこや事件(最二小判平成20年9月8日裁判集民事228頁561頁)について(原判決:無効不成立審決取消認容→原判決破棄)

<参考:つつみおひなっこや事件で類否判断された商標→非類似と判断>
上告人商標:『知財高裁 平成23年(行ケ)第10135号審決取消請求事件』の考察 | 2012年≠引用商標:『知財高裁 平成23年(行ケ)第10135号審決取消請求事件』の考察 | 2012年及び『知財高裁 平成23年(行ケ)第10135号審決取消請求事件』の考察 | 2012年

『「つつみのおひなっこや」の文字を標準文字で横書きして成るものであり,各文字の大きさ及び書体は同一であって,その全体が等間隔に1行でまとまりよく表されているものであるから,「つつみ」の文字部分だけが独立して見る者の注意をひくように構成されているということはできない。』 (注:下線は筆者追記)

<検討>
『知財高裁 平成23年(行ケ)第10135号審決取消請求事件』の考察 | 2012年”は「スーパー」なる文字と「みらべる」なる文字とを二段書きして成るものであり、「みらべる」なる文字の大きさは「スーパー」なる文字の大きさよりも大きくかつ書体も異なっているものであるから、「みらべる」の文字部分だけが独立して見る者の注意をひくように構成されているということができる。

『引用各商標は平成3年に商標登録されたものであるが,上告人の祖父は遅くとも昭和56年には堤人形を製造するようになったというのであるから,本件指定商品の販売業者等の取引者には本件審決当時,堤人形は仙台市堤町で製造される堤焼の人形としてよく知られており,本件商標の構成中の「つつみ」の文字部分から地名,人名としての「堤」ないし堤人形の「堤」の観念が生じるとしても,本件審決当時,それを超えて,上記「つつみ」の文字部分が,本件指定商品の取引者や需要者に対し引用各商標の商標権者である被上告人が本件指定商品の出所である旨を示す識別標識として強く支配的な印象を与えるものであったということはできず,他にこのようにいえるだけの原審認定事実は存しない。』 (注:下線は筆者追記)

<検討>
原告が運営するスーパーマーケットは東京都北部に8店舗存在する。そのため、審決当時、また、該スーパーマーケットは東京都北部で営業されているスーパーマーケットとして地域の需要者によく知られていたといえる。しかしながら、「みらべる」は造語であって東京都北部地域の名称ではない。そのため、需要者に識別標識として強く支配的な印象を「みらべる」が与えるものであったということができると考える。

『本件商標の構成中の「おひなっこや」の文字部分については,これに接した全国の本件指定商品の取引者,需要者は,ひな人形ないしそれに関係する物品の製造,販売等を営む者を表す言葉と受け取るとしても,「ひな人形屋」を表すものとして一般に用いられている言葉ではないから,新たに造られた言葉として理解するのが通常であると考えられる。そうすると,上記部分は,土人形等に密接に関連する一般的,普遍的な文字であるとはいえず,自他商品を識別する機能がないということはできない。』(注:下線は筆者追記)

<検討>
『知財高裁 平成23年(行ケ)第10135号審決取消請求事件』の考察 | 2012年”の構成中の「スーパー」の文字部分については、スーパーマーケットを表すものとして『一般的,恒常的』に用いられている言葉である。そうすると、同部分はスーパーマーケット等の小売業に密接に関連する一般的、普遍的な文字であるといえる。そのため、「スーパー」の文字部分は自他商品を識別する機能がないということができる。

(5)まとめ

これらの最高裁判例を通して判断した内容をまとめると次のようになる。

  • 商標の類否判断は『一般的,恒常的な実情,例えば,取引方法,流通経路,需要者層,商標の使用状況等』を総合して判断した“取引の実情”を考慮して行う。
  • 小売等役務の需要者にとって「スーパー」なる文字がスーパーマーケットを指すことは日本全国で明白であるという『一般的,恒常的な』“取引の実情”を考慮すると、“『知財高裁 平成23年(行ケ)第10135号審決取消請求事件』の考察 | 2012年”から「みらべる」部分を分離観察して類否判断すべきである。
  • 『知財高裁 平成23年(行ケ)第10135号審決取消請求事件』の考察 | 2012年”が二段書きかつ「スーパー」と「みらべる」との大きさ及び書体が異なるため、分離観察するのが妥当である。

それゆえに、“『知財高裁 平成23年(行ケ)第10135号審決取消請求事件』の考察 | 2012年”と“『知財高裁 平成23年(行ケ)第10135号審決取消請求事件』の考察 | 2012年”等とが類似するため、商標法第4条第1項第11号の規定に該当するという特許庁の判断、並びに同判断に基づいて拒絶査定を維持した特許庁の判断は妥当であると考える。

4 本判決の考察

これまで本件の判決文に示された最高裁判例(CIS事件の判決文で示された保土ヶ谷化学社標事件を除く)及び保土ヶ谷化学社標事件(最高裁判例)を本件の『一般的,恒常的な』“取引の実情”を考慮しつつ検討した。その結果、本判決とは違う結果となった。その理由の検討を以下で試みる。

(1)外観・称呼・観念について

『「みらべる」との称呼が生じる余地も排除できない』として、“取引の実情”を考慮する前段階では、“『知財高裁 平成23年(行ケ)第10135号審決取消請求事件』の考察 | 2012年” ,“『知財高裁 平成23年(行ケ)第10135号審決取消請求事件』の考察 | 2012年”,“『知財高裁 平成23年(行ケ)第10135号審決取消請求事件』の考察 | 2012年”及び「MIRABELL(標準文字)」と称呼類似となる判断を示していた。この点は納得できる点である。

(2)“取引の実情”の判断について

上述したように、本件の判決文では本件の“取引の実情”を、

  • 原告は上記引用商標の権利者と取引関係にない。
  • 原告の顧客は“”のみを認識している(推認)。

と個別具体的に認定している。 ところが、飲食料品を取り扱う小売店(原告)と引用商標の権利者との需要者層は一般消費者で共通しており、飲食料品の取引方法及び流通経路が重複する部分も多く、そのため、小売等役務制度の導入前に小売業者は取扱製品すべてについて商標登録していたこと等は良く知られた『一般的,恒常的な実情』である。したがって、本件の“取引の実情”認定は『一般的,恒常的な実情,例えば,取引方法,流通経路,需要者層,商標の使用状況等』を総合して判断した結果ではない、すなわち保土ヶ谷化学社標事件の判示内容に沿ったものではないように見受けられる。 このように、商標の類似判断において重要な“取引の実情”の判断が従来の特許庁の判断とは異なっているため、必然的に最終的な判断が正反対の結果になったと考える。

(3)“取引の実情”を個別具体的な実情に基づいて判断することについて

審査段階(商標登録無効の審理を含む)で、“引用商標の使用実績がないため”や“事業展開地域が違うため”に出処混同は発生しないと個別具体的に“取引の実情”を認定した上で商標の類否判断を行うことは、商標法の法目的である『商品及び役務の取引秩序の維持』(工業所有権法(産業財産権法)逐条解説〔第18版〕1182頁)を困難にさせ得ると考える。
引用商標が不使用取消(商標法第50条)の要件を満たさない不使用状態にある場合であって該引用商標の使用が近い将来開始される場合、除斥期間の経過後(商標法第47条第1項)に後願商標権者が引用商標の権利者の営業地域に進出した場合、あるいは資本力のある者に権利譲渡された場合に、『商品及び役務の取引秩序の維持』が困難になると予想する。いわゆる専用権の範囲であれば後願商標権者は登録商標を半永久的に使用することができかつ譲渡可能なためである(商標法第25条、同法第23条、同法第24条の2)。
また、引用商標が不使用取消(商標法第50条)の要件を満たす不使用状態にある場合は、後願出願人は不使用取消審判(商標法第50条)を請求して該引用商標を取り消せば商標法第4条第1項第11号の規定に該当するという拒絶理由を解消することができるため、無理に“取引の実情”を個別具体的な実情に基づいて判断することはないと考える。ちなみに、こういった手続をサポートすべく、審決確定まで審査を中止可能にする規定(商標法第17条で準用する特許法第54条第1項)が設けられている。

5 実務上の指針

上述したように、審査段階(商標登録無効の審理を含む)において、商標の類否判断は『一般的,恒常的な実情,例えば,取引方法,流通経路,需要者層,商標の使用状況等』を総合して判断した“取引の実情”を考慮して行う旨を判示する最高裁判例が確かに存在している。また、該最高裁判例に沿って商標の類否判断を行わなければ『商品及び役務の取引秩序の維持』が将来困難になるおそれがある。また、本判決は最高裁判例でないこと、審査官が商標の類否判断の際に個別具体的な“取引の実情”を調査しつつ審査を進めたのでは出願案件処理が渋滞して類似群コードを導入した趣旨を没却すること、これらのことを考慮しただけでも本判決によって特許庁が審査基準を変更するとは到底考えられない。そのため、本判決が出されたとはいえ、本件と同様の案件について調査依頼をお客様からいただいた場合、弊所としても登録の可能性がほぼないと従来通りの評価をせざるを得ない。すなわち、審査段階(商標登録無効の審理を含む)では本判決内容に拘泥されることなく、従来からの特許庁の判断を踏襲して商標の類否判断を行わざるを得ない。
しかしながら、お客様のご要望にお応えすることが弊所の努めであることも当然のことである。本件のような出願案件をご依頼いただいた場合には、審査から拒絶査定不服審判で登録査定を得ることは不可能に近いこと、知財高裁でこのような出願人有利の判決が出される幸運に賭けるしかないこと、最高裁判所まで争う可能性があること、紛争の長期化により結論が出るまでに時間及び費用がかなりかかること等をお客様にご理解していただいた上で、お客様のために誠心誠意努力する所存である。

6 補足(商標権侵害の有無の判断時における商標の類否判断)

本件は審査段階(商標登録無効の審理を含む)の事件であるが、商標権侵害の有無の判断時における商標の類否判断をどのようにすべきかについて、小僧寿し事件(最三小判平成9年3月11日:平6(オ)1102号)を引用して簡単に検討する。ここでは、登録商標を「小僧」、使用商標を「小僧寿し」とする。
この小僧寿し事件においても、上記氷山事件の判例を引用して商標の類否判断を行っている。そして判決文で次のように“取引の実情”を考慮している。

『昭和四七年ないし同六〇年における小僧寿しチェーンの店舗数、売上高、宣伝広告の規模内容、小僧寿しチェーンに関する一般新聞、雑誌等の報道内容、その知名度に関する全国調査の結果等に照らして、小僧寿しチェーンは、外食産業において上位の売上高を上げ、知名度も高く、遅くとも昭和五三年には、本件商品の製造販売業者として著名となっており、「小僧寿し」は、小僧寿し本部又は小僧寿しチェーンの略称として一般需要者の間で広く認識されていたというのであるから、被上告人標章については、一般需要者が「小僧寿し」なる文字を見、あるいは「コゾウズシ」又は「コゾウスシ」なる称呼を聞いたときには、本件商品の製造販売業者としての小僧寿し本部又は小僧寿しチェーンを直ちに想起するものというべきである。そして、「小僧寿し」は、一般需要者によって一連のものとして称呼されるのが通常であるというのであるから、右によれば、遅くとも昭和五三年以降においては、「小僧寿し」(中略)は、全体が不可分一体のものとして、「コゾウズシ」又は「コゾウスシ」の称呼を生じ、企業グループとしての小僧寿しチェーン又はその製造販売に係る本件商品を観念させるものとなっていたと解するのが相当であって、(中略)「小僧」(中略)の部分のみから「コゾウ」なる称呼を生ずるということはできない』
(注:下線部分は筆者追記)

このように、小僧寿しチェーンの営業,宣伝広告活動によって需要者が使用商標「小僧寿し」から「小僧」の部分を分離観察することはありえないと最高裁判所は個別具体的な実情に基づいて“取引の実情”を考慮し、次のように商標の類否判断を行っている。

登録商標(「小僧」)使用商標(「小僧寿し」)とを対比すると、外観及び称呼において一部共通する部分があるものの、使用商標中「小僧」部分は独立して出所の識別標識たり得ず、「小僧寿し」から観念されるものが著名な企業グループである小僧寿しチェーン又はその製造販売に係る本件商品であって、「小僧寿し」は商品の出所そのものを指し示すものであることからすれば、「小僧寿し」の付された本件商品は直ちに小僧寿しチェーンの製造販売に係る商品であると認識することのできる高い識別力を有するものであって、需要者において商品の出所を誤認混同するおそれがあるとは認められないというべきである。したがって、「小僧寿し」は、「小僧」に類似するものとはいえない。
(注:下線部分は筆者追記)

このように、商標権侵害の有無の判断時では個別具体的な実情に基づく“取引の実情”を考慮して商標の類否判断を行うことにより、最高裁判所は“登録主義(商標法第18条第1項)”の弊害を修正している。

以上