【判例研究】不使用取消審判における社会通念上同一の判断に関する裁判例紹介|知財レポート/判例研究|弁理士法人オンダ国際特許事務所

【判例研究】不使用取消審判における社会通念上同一の判断に関する裁判例紹介|知財レポート/判例研究|弁理士法人オンダ国際特許事務所

アクセス

【判例研究】不使用取消審判における社会通念上同一の判断に関する裁判例紹介

(パテントメディア2014年1月発行第99号掲載)
弁理士 中山 博登

1 概要

本件は、不使用取消審判の不成立審決に対する審決取消訴訟において、登録商標と使用商標の同一性が否定され、審決を取り消した事件である。

2 経緯
(1)特許庁における手続の経緯

≪出願≫
平成17年3月7日 出願(商願2005-19187号)
平成17年6月24日 拒絶理由通知
平成17年7月20日 意見書・手続補正書提出
平成17年9月16日 登録(商標登録第4894428号)

≪不使用取消審判≫
平成23年4月12日 不使用取消審判請求
平成24年6月29日 不成立審決

(2)審決取消訴訟の経緯

平成24年11月2日  出訴
平成25年3月21日  判決

3 不使用取消審判について
(1)商標法50条

継続して三年以上日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれもが各指定商品又は指定役務についての登録商標(書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標、外観において同視される図形からなる商標その他の当該登録商標と社会通念上同一と認められる商標を含む。以下この条において同じ。)の使用をしていないときは、何人も、その指定商品又は指定役務に係る商標登録を取り消すことについて審判を請求することができる。
2 前項の審判の請求があつた場合においては、その審判の請求の登録前三年以内に日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務のいずれかについての登録商標の使用をしていることを被請求人が証明しない限り、商標権者は、その指定商品又は指定役務に係る商標登録の取消しを免れない。ただし、その指定商品又は指定役務についてその登録商標の使用をしていないことについて正当な理由があることを被請求人が明らかにしたときは、この限りでない。
3 第一項の審判の請求前三月からその審判の請求の登録の日までの間に、日本国内において商標権者、専用使用権者又は通常使用権者のいずれかがその請求に係る指定商品又は指定役務についての登録商標の使用をした場合であつて、その登録商標の使用がその審判の請求がされることを知つた後であることを請求人が証明したときは、その登録商標の使用は第一項に規定する登録商標の使用に該当しないものとする。ただし、その登録商標の使用をしたことについて正当な理由があることを被請求人が明らかにしたときは、この限りでない。

(2)パリ条約5条C(2)

商標の所有者が1の同盟国において登録された際の形態における商標の識別性に影響を与えることなく構成部分に変更を加えてその商標を使用する場合には、その商標の登録の効力は、失われず、また、その商標に対して与えられる保護は、縮減されない。

(3)趣旨(逐条解説から抜粋)

商標法上の保護は、商標の使用によって蓄積された信用に対して与えられるのが本来的な姿であるから、一定期間登録商標の使用をしない場合には保護すべき信用が発生しないかあるいは発生した信用も消滅してその保護の対象がなくなると考え、他方、そのような不使用の登録商標に対して排他独占的な権利を与えておくのは国民一般の利益を不当に侵害し、かつ、その存在により権利者以外の商標使用希望者の商標の選択の余地を狭めることとなるから、請求をまってこのような商標登録を取り消そうというのである。いいかえれば、本来使用をしているからこそ保護を受けられるのであり、使用をしなくなれば取り消されてもやむを得ないというのである。

(4)社会通念上同一の判断基準

法律上(商標法50条1項括弧書き)、社会通念上同一の例として、1)書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標、2)平仮名、片仮名及びローマ字の文字の表示を相互に変更するものであつて同一の称呼及び観念を生ずる商標、3)外観において同視される図形からなる商標、が挙げられており、審判便覧(53-01)にはこれらの判断基準が、事例を挙げて説明されている。
今回の事件は、登録商標に別の文字を付加するケースであり、これらのいずれの類型にも属さないものである。
(※平成8年改正前においては、存続期間の更新出願の際に、登録商標の使用証明が必要であったが、当時の審査基準には、登録商標の構成が「VERNASE/ベルナーゼ」で実際の使用商標が「NEOVERNASE/ネオベルナーゼ」の場合、社会通念上同一として、登録商標の使用と認めることが例示されている。)

4 登録商標及び使用商標

≪登録商標≫ 指定商品:第25類 履物、乗馬靴

【判例研究】不使用取消審判における社会通念上同一の判断に関する裁判例紹介 | 2014年

≪使用商標≫ 商品:婦人靴
使用商標1【判例研究】不使用取消審判における社会通念上同一の判断に関する裁判例紹介 | 2014年
使用商標2【判例研究】不使用取消審判における社会通念上同一の判断に関する裁判例紹介 | 2014年
使用商標3【判例研究】不使用取消審判における社会通念上同一の判断に関する裁判例紹介 | 2014年

5 争点

使用商標は、本件商標と社会通念上同一の範囲であるか否か。

原告の主張(要約) 被告の主張(要約)
使用商標は、いずれも同書同大で外観上まとまりよく一体的に表されており、「ネオリズム」の称呼も5音と短く、よどみなく一気に称呼される。さらに、「新しいリズム」や「新しい調子」といったまとまった1つの観念が生じるので、需要者に一体のものとして認識されるものとみるのが自然であり、「RHYTHM」部分を抽出して商品の識別標識として認識するとみるのは極めて不自然である。
単に「NEO」の文字部分のみが籠字風に表されていることからは、使用商標の外観上の一体性は損なわれず、「NEO」及び「RHYTHM」の文字を視覚上分離して看取させるものではない。また、籠字風に表されているか否かに関わらず、文字の太さもほぼ同一であり、全体として統一感のある書体で表されているので、外観上の一体性は損なわれない。
使用商標において、籠字風に表示された「NEO」と、塗り潰された状態で表示された「RHYTHM」とは、視覚上異なっている。籠字風であることでその背景に埋没するような表示態様である「NEO」に比し、塗り潰し状に明瞭に表示されている「RHYTHM」は一層強くアピールされ、また、「NEO」との間では若干でも分離された態様であることも相俟って、「RHYTHM」の部分が強く印象づけられる。
2つの既成語から成る商標については、総括した一体としての商標を基準として判断されなければならず、両語を結合した全体をもって既成の観念を有する成語として親しまれていないことは、いずれかの文字部分のみを特に抽出して判断する理由とはなり得ない。むしろ、両語からは「新しいリズム」、「新しい調子」といったまとまった観念を容易に認識することができるので、全体として1つの造語を構成するものとして認識される。 「NEO」は「新、新しい」なる意味を有する英語に通じ、また「RHYTHM」は「リズム、調子」なる意味を有する英語に通じる既成語として一般に親しまれているが、これらを結合した「NEORHYTHM」そのものは、一般的に通常使用される親しみある既成語として認識されていないから、原告主張のように一連一体の「新しいリズム(調子)」」なる意味合いのものとして理解されるものではない。
「NEO」が、「新、新しい」の意を有する英単語であることから、直ちに識別力を有しないということにはならない。
使用商標からは、「新しいリズム(調子)」といった観念が把握されるのであり、「NEO」は、それに続く「RHYTHM」を修飾する語として用いられ、需要者にもそのように理解される。「NEO」及び「RHYTHM」の語は、平易な英単語であり、簡易迅速を尊ぶ取引においても、「新しいリズム(調子)」の意味合いが容易に把握されるから、需要者等が、「NEO」の語を「RHYTHM」の語と分断し、使用された商品との関係で、記述的な用語として認識するとは到底考えられない。
「履物」の業界において、「NEO」や、これと同義である「NEW」の語が、商品の品質等を記述的に表す語として一般的に用いられている事実はない。
使用商標は、いずれも籠字風の「NEO」が前半部分に表示されていて、「新、新しい」なる意味を有する英語の接頭語として一般的に使用されており、従来から商標が使用される商品に関し、それが「新しい」ものであることを示す記述的表示として使用されるにすぎないから、自他商品の識別力がないか極めて弱いものである。
すなわち、「NEO」は、「新しい」の意味を有する接頭語であり、新製品や最新の商品であることの表示として、商品名や商標に付加して商取引上普通に採択、使用されており、商品の品質を誇示するための結合辞として使用されるものとして一般的に理解されている。しかも、使用商標においては、「RHYTHM」とは異なる籠字風で表示されていることからも、「RHYTHM」とは一体性があるものとは看取されず、単なる品質表示として認識されるにすぎない。
被告は、被告の販売する婦人靴について使用商標のみを用いてきたのであり、本件商標を単独で使用していた事実は見当たらない。かかる事情の下では、使用商標に接する需要者・取引者が、「rhythm」という名称が付された商品の新商品であると認識することはあり得ない。したがって、「NEO」が商品の品質等を示すものと認識されないことは明らかである。
よって、使用商標の「NEO」の文字部分は、自他商品の識別力がないか極めて弱いものであるとはいえないし、仮にそうだとしても、それのみをもって「RHYTHM」の文字のみを要部として抽出する理由とはならない。
原告は、被告の営業形態から「rhythm」が単独使用された事実がない故に、使用商標がその商品の新商品であると認識することはあり得ないと主張する。
しかしながら、商標の使用、その採択・選択はこれを使用する者の任意によるものであるから、旧タイプの「rhythm」なる商品がないからといって、現在使用の商品に「NEO」を付すのが不当であるとは限らない。
被告は、平成16年に商標「neorhythm」、平成17年に商標「neo rhythm」について商標登録出願し、いずれも商標登録を受けている。また、被告の販売する婦人靴「ネオリズム」は、平成16年から販売が開始されている。
そうすると、被告が、被告の販売する婦人靴について「rhythm」ではなく「neorhythm」又は「neo rhythm」という名称の使用を意図して、当該婦人靴販売開始年に商標を出願したことは想像に難くない。
別件登録商標の使用に該当するとしても、何らの問題も生じない。実際の商取引に際し、現実に使用される使用商標が複数の登録商標の使用に該当することになるのは、数多く認められるところである。
6 審決の内容

「2 商標の同一性について
本件商標は、「rhythm」の文字からなり、「リズム」の称呼及び「リズム、調子」の観念を生ずるものである。
他方、使用商標1ないし3は、上記1(1)※のとおり、「NEO RHYTHM」又は「NEORHYTHM」の文字からなるところ、これらの「NEO」の文字部分が籠字風に表され、「RHYTHM」の文字部分とは明らかに態様が異なることから、両文字部分は、視覚上分離して看取されるばかりでなく、「NEO」も「RHYTHM」も既成語であること、「NEO」の文字は、「新、新しい」の意味を有する接頭辞としてしばしば他の語に冠して使用される語であって、それ自体は自他商品の識別力がないか極めて弱いものであること、両文字を結合した全体をもって既成の観念を有する成語として親しまれているとはいえないこと、などからすると、使用商標1ないし3は、「RHYTHM」の文字部分が独立して看者の注意を強く惹き、自他商品識別のための要部というべきである。
そして、該「RHYTHM」の文字は、本件商標とは同一の綴りであり、小文字と大文字との差のみであるから、同一の称呼及び観念を生ずるものである。
そうすると、使用商標1ないし3は、本件商標と社会通念上同一というべきである。」

※本稿では4項

7 裁判所の判断

「1 認定事実
後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(中略)
(2) 被告の婦人靴の取引の実情
ア 前記使用商標1ないし3が付された婦人靴の値札には、同一の書体で「NEORHYTHM」と表示されている(甲21の3の1・2)。
イ 平成20年9月から平成22年11月までの間に発行された新聞や雑誌に、被告の業務に係る商品「婦人靴」について、10回以上、紹介記事又は広告が掲載された。それらの記事又は広告においては、使用商標3とほぼ同一の態様からなる籠字風の「NEO」の文字と白塗りの「RHYTHM」の文字を横一列に表したものが1件ある(甲21の6の1)ほかは、いずれも、上記婦人靴について、同一の書体で「ネオリズム」「NEORHYTHM」「NEO RHYTHM」と表記されている(甲21の5の1~4、21の6の2、21の7の1~6)。
(3) 別件登録商標
被告は、使用商標1ないし3を付した婦人靴の販売を開始した頃、指定商品を第25類「履物」とする「neorhythm」、指定商品を第25類「履物、乗馬靴」とする「neo rhythm」について、別件登録商標を登録出願し、商標登録を受けた(甲5、6)。
(中略)
2 登録商標と社会通念上同一と認められる商標の使用について
(中略)
(2) 本件商標と使用商標の同一性
ア 本件商標は、「rhythm」の文字からなり、「リズム」という称呼を生じ、「リズム」、「調子」という観念を生じるのに対し、使用商標は、いずれも、「NEO」の文字を伴って、「NEORHYTHM」又は「NEO RHYTHM」の文字からなり、「ネオリズム」という称呼を生じ、「新しいリズム」、「新しい調子」という観念を生じる。
そして、使用商標は、「NEORHYTHM」又は「NEO RHYTHM」の文字からなり、「NEO」の文字は白抜きで籠字風に表され、「RHYTHM」の文字は塗り潰しのゴシック体風の文字で表されているところ、<1>本件商標の書体のみに変更を加えた同一の文字からなる商標とはいえないし、<2>本件商標のローマ字の文字の表示を平仮名や片仮名に変更して同一の称呼及び観念を生ずる商標でもなく、また、<3>外観において本件商標と同視される図形からなる商標でもなく、これらと同程度のものということもできない。
よって、使用商標は、本件商標と社会通念上同一のものと認められる商標ということはできない。 なお、前記1(3)認定のとおり、被告自ら、本件商標とは別個に、同様の指定商品(第25類「履物、乗馬靴」)について、「neorhythm」又は「neo rhythm」という別件登録商標の登録出願をした上でその商標登録を得ていることに照らしても、本件商標と使用商標とが社会通念上同一であると認めることはできない。
イ 被告の主張について
(ア) 被告は、使用商標において「RHYTHM」の部分が要部となっているから、本件商標と社会通念上同一であると主張する。
しかしながら、前記1(1)認定の使用商標の態様並びに同(2)認定の被告の婦人靴の取引の実情を総合すると、同一の大きさ、同一の書体で表された「NEORHYTHM」又は「NEO RHYTHM」の文字からなる使用商標において、「RHYTHM」の部分が取引者、需要者に対し商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものとまではいうことはできない。また、「NEO」の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないともいうことはできない。よって、使用商標から「RHYTHM」の部分のみを抽出し、この部分だけを本件商標と比較して商標そのものの同一性を判断することは、許されない。
(イ) 被告は、籠字風に表示された「NEO」の文字部分は、塗り潰された状態で表示された「RHYTHM」の文字部分とは、視覚上異なり、その背景に埋没するような表示態様であって、看者をして「RHYTHM」の部分が強く印象づけられると主張する。 しかし、使用商標の文字は、いずれも同一の大きさ、同一の書体で表され、外観上まとまりよく一体的に表示されているのであって、籠字風に表示されたからといって、「NEO」の部分が捨象されるとはいえない。
(ウ) 被告は、「NEO RHYTHM」又は「NEORHYTHM」全体が既成の観念を有する成語として親しまれていないと主張する。
しかし、「NEO」は「新、新しい」なる意味を有する英語に通じ、また「RHYTHM」は「リズム、調子」なる意味を有する英語に通じる既成語として一般に親しまれている。したがって、これらを結合した「NEO RHYTHM」又は「NEORHYTHM」については、それ自体が既成の成語として認識されていないとしても、「新しいリズム」、「新しい調子」なる意味合いのものとして理解することは容易であり、そこから「ネオリズム」という称呼が生じる。
(エ) 被告は、「NEO」が接頭辞であり、自他商品の識別力がないか極めて弱いと主張する。 しかし、接頭語として使用されるからといって、直ちに使用商標と本件商標とが社会通念上同一であるということはできない。
(オ) 以上のとおり、被告の主張は、いずれも採用することができない。
(3) 商標の使用の有無 以上によれば、商標権者である被告は、本件審判請求の登録前3年以内に、日本国内において、指定商品について、使用商標を使用していたことをもって、本件商標と社会通念上同一と認められる商標を使用していたとはいえないものである。
3 結論
以上の次第であるから、原告主張の取消事由には理由があり、本件審決は取り消されるべきものである。」

8 まとめ

本判決は、不使用取消審判の不成立審決に対する審決取消訴訟において、登録商標と使用商標との同一性が否定された事案である。判決では、同一性の否定において、『被告自ら、本件商標とは別個に、同様の指定商品(第25類「履物、乗馬靴」)について、「neorhythm」又は「neo rhythm」という別件登録商標の登録出願をした上でその商標登録を得ていることに照らしても、本件商標と使用商標とが社会通念上同一であると認めることはできない。』として、商標権者の別件登録商標についても言及している。使用商標がその構成全体で一体的であることを理由に、登録商標との同一性を否定した結論には異論はないが、商標権者が別件登録商標を所有しているという事実と、登録商標と使用商標とが社会通念上同一でないこととを結びつけている点については、論理に飛躍があるように思える。
不使用取消審判制度の趣旨は、一定期間使用しないことによって信用が消滅した登録商標を取り消すことである。そうすると、社会通念上同一かどうかの判断主体は、信用を置く側の需要者であると考えられる。婦人靴の需要者は一般消費者であり、その大半の人が商標公報を監視しておらず、どの事業者がどんな登録商標を持っているかを全て記憶しておくことはできないことからすると、一般消費者からの信用は、事業者がどんな登録商標を所有しているかとは関係なく形成されていくはずである。また、一の商標の使用が、複数の登録商標への信用の蓄積に貢献することもあり得る(使用商標と社会通念上同一の範囲に複数の登録商標が存在し得る)ので、一の登録商標の存在により、その他の登録商標への信用の蓄積を真っ向から否定することはできない。そうすると、登録商標と使用商標との同一性を、商標権者の別件登録商標に照らして判断することは不合理であるように思われる。
一方で、商標権者が使用商標の構成により近い別件登録商標「neorhythm」を所有しているから、商標権者には「rhythm」ブランドの「neo」バージョンではなく、一体的な「neorhythm」ブランドであるとの認識があったと推認し得る余地はあり、そのような認識を持ったまま商標を使用していたのであるから、広告等の媒体を介して一般消費者にも一体的な「neorhythm」ブランドであるとの認識が伝わったということは言えるかもしれない。しかし、実際に商標権者の持つ認識が一般消費者に伝わったというには根拠が薄く、憶測の域を出ない話である。
そうすると、別件登録商標を所有しているという事実を持ち出し、登録商標と使用商標とが社会通念上同一でないこととを結びつけるには、やはり無理がある。では、何のために持ち出したのかというと、結論の具体的妥当性を見るためのものであったと思われる。つまり、商標登録が取り消された場合、商標権者は使用商標の構成により近い別件登録商標「neorhythm」を所有していて、その登録商標の使用を続けていくことになるわけであるから、商標権者が被る不利益は小さく、一方、審判請求人は「rhythm」についての既出願(商願2012-73862号 他3件)が登録され、「rhythm」を使うことができる(「neorhythm」と「rhythm」との類否の問題は残るが、本判決では判断の対象外である)という利益がある。反対に、商標登録が取り消されなかった場合は、商標権者は使用商標の構成により近い別件登録商標「neorhythm」以外にも登録商標「rhythm」を所有し続けることになる一方、審判請求人は「rhythm」についての既出願が拒絶となって使用できなくなるという不利益を被る。本判決においては、出所混同を引き起こすかどうかの類否については他に委ねつつも、このような両者の利益について比較衡量がなされたのではなかろうか。
であるならば、社会通念上同一か否かの判断は、商品についての取引実情だけではなく、様々な背景事情にまで考慮が及び得るものとなり、非常に困難な判断となる。よって、本件のように、登録商標に何らかの文字を付加して使用しているような同一性が疑われる場合は、原則として、使用商標をそのままの構成態様で出願し、権利化しておくべきである。もっとも、本件の事例によれば、別件登録商標を持つことは、元々の登録商標の存続にとってはマイナスに働いてしまうことになるが、現実の使用商標で権利を得ておくことが何よりも第一にとるべき策である。
なお、判決からは話が逸れるが、平成8年改正前の審査基準に、不使用取消審判の審判便覧には規定されていない登録商標「VERNASE/ベルナーゼ」と使用商標「NEOVERNASE/ネオベルナーゼ」との同一性が規定されていたのは、まだ実際に登録商標と同一・類似の商標を使いたい第三者が現れていない場面であって、特許庁が単にその登録商標の存続期間の更新を認めるかどうかという査定系の判断のための基準であり、緩めに設定していたのではないかと思われる。実際に登録商標と同一・類似の商標を使いたいという当事者が現れてしまった場面の当事者系審判である不使用取消審判の審判便覧とは、画一的判断を下すための基準は異って当然であろう。

(本記事の内容は記事執筆時点(2013年10月31日)でのものです。)