オリンピックと知的財産権(パロディは許されるか?)|判例研究/レポート|特許業務法人オンダ国際特許事務所

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オリンピックと知的財産権(パロディは許されるか?)

2020年7月30日
弁理士 木村達矢
(中部経済新聞2020年7月9日掲載コラム)

オリンピックと知的財産権(パロディは許されるか?) | 2020年 オリンピックと知的財産権(パロディは許されるか?) | 2020年
出典:朝日新聞デジタル 出典:東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会WEB

新型コロナウイルスの感染拡大がなければ、今頃は日本中がオリンピック関連セールやイベントで盛り上がっていたことでしょう。

しかし、オリンピックや五輪の用語、五輪マーク、大会エンブレムやマスコット、「TOKYO 2020」との大会呼称や「がんばれ!ニッポン!」といったスローガン、さらに選手の肖像や大会映像は商標法、不正競争防止法、著作権法、加えて肖像権や選手が著名であればその氏名・肖像が有する顧客吸引力を排他的に利用する権利(パブリシティ権)により保護されています。したがって、各権利者から許諾を得ない限り原則としてこれらを無断利用することはできません。

先日、日本外国特派員協会の会員向け月刊誌の表紙に大会エンブレムを新型コロナウイルスに見立てたデザインが掲載され、話題(事件?)となりました。英国人デザイナー、ポセケリ・アンドリューさんの作品で「麻生副総理の「呪われたオリンピック」発言や、五輪延期が発表された後に日本国内の感染者数が急増したことへの疑問にも着想を得た」とのことですが、大会組織委員会が著作権侵害に当たるとともに、多くの人々やアスリートへの配慮を欠いていると抗議し、同協会は風刺画を取り下げ、謝罪しました。これに対し、会員からは、「風刺やパロディは芸術である」「米国や英国では問題にならない」など、「表現の自由」の観点から、異論が相次いだそう。

たしかに、外国にはパロディを明文やフェアユースにより許容する国があります。しかし、日本の著作権法はそのような規定はなく、あくまで日本の著作権法に則して考えることになります。

大会エンブレムは「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)で、美術の著作物に該当することは明らかでしょう。そして、問題の図柄は、エンブレムをそのまま複製しているのではなく、組市松紋の周りにコロナウイルスの突起のような図形を配しており、変形利用にあたり、翻案権が問題となります。

翻案とは「既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的な表現を変更して新たな著作物を創作すること」をいい、原著作物に修正、増減を加えたとしても、なお原著作物の本質的特徴を感得できる場合には、原著作物の翻案権を侵害することになります。本件図柄は、創作者のコメントからもエンブレムに依拠していることは明らかで、周りに突起が付加されているとはいえその表現上の本質的特徴である組市松紋のデザインを感得でき、翻案権侵害にあたると思われます。そもそもパロディは原著作物を想起させることが前提となる作品、手法ですから、主題、作風の想起に止まる場合を除き、その表現上の本質的特徴を感得できることを否定することは困難ではないでしょうか。

なお、批評目的のパロディは「公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるもの」(同32条)であれば引用として許容されるとの考え方もあります。しかし、本件はコロナ禍に蝕まれた東京大会を風刺・寓意的に伝え、現代社会への揶揄、批評を含むともいえますが「目的上正当な範囲内」といえるかは微妙です(条文上翻案しての引用は認められておらず、出所の明示も必要です)。

また、表現の自由といえども、他者の権利、尊厳と衝突する場面では、一定の制約に服しますが、芸術的表現は思想と不離一体でその自由は尊重されるべきともいえ、著作権と表現の自由の「公正なバランス」が問題となります。しかし、我が国ではパロディを許容する規定がない以上侵害を否定することは困難と思われます。