マルチマルチクレームの制限について|知財レポート/判例研究|弁理士法人オンダ国際特許事務所

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マルチマルチクレームの制限について

2022年2月21日
弁理士 岡田恭伸

 2022年4月1日以降の出願について、マルチマルチクレームが制限される予定であり、そのための法整備が進められております。具体的には、既に省令改正については2022年1月25日に意見募集が終了しており、2022年2月10日にて特許・実用新案審査基準改訂案が公開され、意見募集が行われています。この点について現在分かっている範囲でお知らせ致します。
 まず、マルチマルチクレームとは、審査基準改訂案によれば「他の二以上の請求項の記載を択一的に引用する請求項(マルチクレーム)を引用する、他の二以上の請求項の記載を択一的に引用する請求項」と定義されております。
 ざっくり言えば、「請求項●●又は●●」or「請求項●●~●●のいずれか」と記載されたクレームがあるとすると、その引用する請求項の中に、同じく「請求項●●又は●●」or「請求項●●~●●のいずれか」と記載されたクレーム(マルチクレーム)が含まれている場合には、マルチマルチクレームとなります。
 例えば、以下のクレームがあったとしますと、請求項3が「マルチクレーム」、請求項4が「マルチマルチクレーム」に該当します。

請求項1:Aを備える装置。
請求項2:さらにBを備える請求項1に記載の装置。
請求項3:さらにCを備える請求項1又は2に記載の装置。(←マルチクレーム)
請求項4:さらにDを備える請求項1-3のいずれかに記載の装置。(←マルチマルチクレーム)
請求項5:Dがd1である請求項4に記載の装置(←マルチマルチクレームを引用するクレーム)。(「特許・実用新案審査基準改訂案の概要」から引用)

 日本では、これまでマルチマルチクレームについては許容されておりました。しかしながら、審査負担の増大やマルチマルチクレームを制限している外国との国際調和などの観点からこの度制限されることになりました。
 具体的には、特許法36条第6項第4号が委任する特許法施行規則第24条の3に新たに第5号を設けて規定することが予定されております。

「第二十四条の三
 特許法第三十六条第六項第四号の経済産業省令で定めるところによる特許請求の範囲の記載は、次の各号に定めるとおりとする。
 一~四 (省略)
 五 他の二以上の請求項の記載を択一的に引用して請求項を記載するときは、引用する請求項は、他の二以上の請求項の記載を択一的に引用してはならない。」(特許庁「特許・実用新案審査基準改訂案の概要」より引用)

 このため、2022年4月1日以降の出願について、マルチマルチクレームが記載されていると、委任省令違反の拒絶理由に該当します。この場合、単一性違反と同様に、マルチマルチクレームについては新規性・進歩性等の実質的な審査が行われません。したがって、クレームの書き方について注意が必要です。
 更に、マルチマルチクレームを引用するクレームについても、審査対象外になってしまいます。上の例で言えば、請求項5は、それ単体では通常のクレームですが、マルチマルチクレームを引用しています。このため、請求項5も審査対象外となります。つまり、上の例で審査請求を行った場合、請求項1-3についてのみ実質的な審査が行われ、請求項4,5(D又はd1)については実質的な審査が行われないということが起きてしまいます。なお、マルチマルチクレーム違反は、拒絶理由に該当しますが、異議理由・無効理由には該当しません。

 参考までに、主要国及びPCTにおけるマルチマルチクレームの扱いについては以下のとおりです(特許庁産業構造審議会 知的財産分科会 特許制度小委員会 第16回 審査基準専門委員会ワーキンググループ 資料1「マルチマルチクレームの制限」から引用)。

 米国:×
 韓国:×
 中国:×(一部例外あり)
 欧州:○
 PCT:○

 最後のPCTについては、特許庁産業構造審議会 知的財産分科会 特許制度小委員会 第16回 審査基準専門委員会ワーキンググループの議事録において、現状通り変更がない旨が記載されておりますので、引き続きマルチマルチクレームがあっても国際調査報告書が作成されると思われます。

 実務上の方針としては、当たり前ではありますが、マルチマルチクレームに該当しないように従属関係を調整することです。この場合、従前と同様の従属関係を実現するとなると、請求項数が多くなってしまいます。請求項数が多くなるほど、審査請求料及び特許料の負担増となってしまいますので、従前と同様の従属関係を実現することが必ずしも良いとは言えない可能性があります。
 したがって、例えばその構成のみで進歩性に有利なものであれば請求項1のみに従属したり、下位クレームとの関係で特に進歩性に有利なものであれば、その下位クレームに対してのみに従属したりするような従属関係の取捨選択が求められてくる場合があると考えます。もっとも、元々外国への出願の際にはマルチマルチクレームを解消する作業を行っておりますので、作業自体が新しいことではありません。

 経過措置について説明しておきますと、マルチマルチクレームの制限は、「2022年4月1日以降の出願」について適用されます。これまでの出願についてマルチマルチクレームが制限されるわけではありませんので、ご注意ください。

 念の為に特殊出願の経過措置について説明しておきます。
 分割出願・変更出願につきましては、現実の出願日ではなく遡及日で判断します。例えば、2022年4月1日よりも前の出願を親出願とする分割出願を、2022年4月1日以降に行うとします。この場合、分割要件を満たす適法な分割出願であれば、マルチマルチクレームは許されます。一方、分割要件を満たさない場合には、遡及効が得られず、出願日は現実の出願日となるため、マルチマルチクレームが制限されます。
 国内優先権主張出願につきましては、後の出願日で判断されます。したがって、仮に2022年4月1日よりも前の出願を基礎出願とする国内優先権主張出願を、2022年4月1日以降に行う場合には、マルチマルチクレームの制限対象となります。よって、仮に基礎出願にマルチマルチクレームが含まれている場合には、クレームの書き換えが必要となっていると考えられます。

 なお、マルチマルチクレームの制限については、実用新案についても適用され、基礎的要件に追加されます。したがって、マルチマルチクレームが含まれていると、基礎的要件違反として補正命令がなされるため、実用新案についても同様に注意が必要です。

 最後になりますが、上述した内容は、現在公開されている情報に基づくものであり、確定には至っておりません。したがいまして、今後具体的な運用について変更が行われる可能性がある点を予めご承知頂ければ幸いです。

 

(出典)

特許庁「特許・実用新案審査基準改訂案の概要」
https://www.jpo.go.jp/news/public/iken/document/220210_tokkyo-shinsakijun/220210_tokkyo-gaiyo.pdf

特許庁産業構造審議会 知的財産分科会 特許制度小委員会 第16回 審査基準専門委員会ワーキンググループ 資料1「マルチマルチクレームの制限について」
https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/kijun_wg/document/16-shiryou/01.pdf

特許庁産業構造審議会 知的財産分科会 特許制度小委員会 第16回 審査基準専門委員会ワーキンググループ 議事録
https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/kijun_wg/document/index/16_gijiroku.pdf