平成31年(ネ)第10003号 特許権侵害差止等請求控訴事件 (原審 大阪地方裁判所平成28年(ワ)第5345号)|知財レポート/判例研究|弁理士法人オンダ国際特許事務所

平成31年(ネ)第10003号 特許権侵害差止等請求控訴事件 (原審 大阪地方裁判所平成28年(ワ)第5345号)|知財レポート/判例研究|弁理士法人オンダ国際特許事務所

アクセス

平成31年(ネ)第10003号 特許権侵害差止等請求控訴事件 (原審 大阪地方裁判所平成28年(ワ)第5345号)

2020年9月23日掲載
弁理士 二宮佳亮

本件は、特許権侵害差止等請求に関する控訴事件であり、知的財産高等裁判所(以下、「知財高裁」と称する)の特別部(大合議)による判決である。
本件事件においては、控訴人兼被控訴人(一審原告)の訴訟代理人として、關 健一弁護士と共に、当事務所の弁理士 小林徳夫が代理人を務め、原審の損害賠償額の認定が変更されると共に、控訴審における拡張請求に基づき損害賠償額の増額が認められたものである。
本件事件は、知財高裁の特別部(大合議)でなされたもので、損害賠償の判断に関する知財高裁の統一的見解が示されたものといえる。
また、2020年の特許法改正においては、査証制度(中立な技術専門家が現地調査を行う)が創設されるほか、損害賠償額算定方法についても以下のような見直しがなされる(実用新案法、意匠法及び商標法においても同旨改正実施)。

(ⅰ)侵害者が得た利益のうち、特許権者の生産能力等を超えるとして賠償が否定されていた部分について、侵害者にライセンスしたとみなして、損害賠償を請求できることとする。

(ⅱ)ライセンス料相当額による損害賠償額の算定に当たり、特許権侵害があったことを前提として交渉した場合に決まるであろう額を考慮できる旨を明記する。

以上に鑑みれば、我が国における特許権等侵害事件における損害賠償額の認定については、今後一層より実情に即した判断がなされることが期待できる。
さて、以下に示すように、本件控訴事件は、特別部(大合議)で審理された意義に加え、特許法102条1項に基づく損害賠償に関しての重要な判示事項がある。

1.特別部(大合議)の判決の意義
2.特許法102条1項に基づく損害賠償について
 ①特許法102条1項の規定の趣旨
 ②同条同項所定の
 (イ)「侵害行為がなければ販売することができた物」とは
 (ロ)「単位数量当たりの利益の額」とは
   (a)限界利益の定義
   (b)同条同項に基づき特許権侵害による損害を算定する際の覆滅事項
 (ハ)「実施の能力」と挙証責任
 (ニ)ただし書所定の「特許権者が販売することができないとする事情」と挙証責任

以下に、順を追ってご紹介する。

1.特別部(大合議)の判決の意義

まず、判示事項の説明に先立って、特別部(大合議)が設置されるに至った背景と、本件事件が特別部(大合議)でなされたことの意義について説明する。
1950年以降、知的財産関係事件の増加を受けて、東京地方裁判所や大阪地方裁判所、及びそれぞれの高等裁判所においては、知的財産関係事件の専門部(3名の裁判官による合議制)が設立された。東京高裁の専門部は後には4か部に増え、さらに5名の裁判官による大合議制を採る特別部が設けられた。この特別部では、従前から東京高裁の専属管轄であった特許権等に関する訴え(特許権、実用新案権、半導体集積回路の回路配置利用権、プログラムの著作物についての著作者の権利に関する訴えなどの技術型の訴え)及び特許・実用新案の審決取消訴訟についての審理が行われた。
そして、この特別部(大合議制)の導入は、知的財産権を巡る紛争が、重要な法律上の争点を含み、裁判所の判断が企業の経済活動及び我が国の産業経済に重大な影響を与える事案も少なくないこと、また知的財産権事件では、一定の信頼性のあるルール形成及び高裁レベルでの事実上の判断統一が要請されること等の要請に応えるために導入されたとされている。
その後、知的財産権の重要性に対する認識のさらなる高まりや、司法制度改革審議会による知的財産権関係事件への総合的/専門的処理体制強化を目的とする裁判手続への提言、さらには実質的な「特許裁判所」機能の創出などを提唱する政府の知的財産戦略大綱を受けて、東京地裁の中に知的財産高等裁判所が設立された。これに伴い、東京高裁に置かれていた知的財産権関係事件の専門部4か部と特別部は、知財高裁の通常部4か部と特別部に移行した。

つまり、以上のような特別部(大合議)の設置の背景に鑑みれば、本件事件が特別部(大合議)でなされたということは、本件事件では他の特許権等侵害並びに損害賠償請求事件に影響を及ぼす重要な事項に関する判断を含み、その判断に関する法律的根拠に関して高裁としての統一見解が示されたことを意味している。

 

2.本件事件の原審(大阪地方裁判所平成28年(ワ)第5345号)の概要

本件事件における特許法102条1項に基づく損害賠償について言及する前に、原審の争点と、特に損害賠償の認定にかかる判断を概観する。

(1)原審の概要

本件事件は、原告が、発明の名称を「美容器」とする本件特許権1(登録番号:特許第5356625号、その特許に係る発明を「本件発明1」という)及び本件特許権2(特許第5847904号、その特許に係る発明を「本件発明2」という)に基づき、被告に対し被告製品(「ゲルマ ミラーボール美容ローラー シャイン」という名称の美容器等9種類(被告製品1乃至9)の美容器の販売等をすることが、上記各特許権を侵害すると主張して、その差止め、廃棄及び特許法102条1項に基づき損害額の一部として金3億円の支払を求めた事案である。

(2)本件特許に対する無効審判事件

本件特許1、2に関しては、被告は特許庁に対し、進歩性の欠如等を理由とする無効審判を請求した。
両審判事件は、本件審理継続中に、いずれも請求理由なしとの審決がなされたが、いずれの審決に対しても審決取消訴訟が提起され、一の訴訟については、原審継続中に請求棄却の判決が確定した。

(3)原審の争点

原審は争点を以下のように整理し、争点3及び4、すなわち本件特許2に基づく権利行使の可否(技術的範囲の属否と無効理由の有無)の審理を先行し、認められた場合にはその損害賠償についての審理へ進み、認められない場合には本件特許1に基づく権利行使の可否(争点3及び4)の審理を行うこととした。

争点1:被告製品1乃至7は、本件発明1の技術的範囲に属するか。
争点2:本件特許1は、特許無効審判により無効にされるべきものか。
争点3:被告製品1乃至9は、本件発明2の技術的範囲に属するか。
争点4:本件特許2は、特許無効審判により無効にされるべきものか。
争点5:原告の損害額

(4)判決

審理の結果、被告製品1乃至9は本件発明2の技術的範囲に属し、且つ本件特許2は無効理由を有しないと認定し、被告製品の販売等は本件特許権2を侵害するとして、被告製品の販売等の差止め、廃棄を認めた。また、損害賠償については、一部金の請求額3億円に対し、1億0735万0651円の損害(と遅延損害金)を認めた。
以下においては、特許法102条1項の損害額の認定に係る部分を取り上げる。
原判決では、特許法102条1項の損害額の算定に当たって、原告製品の単位数量当たりの利益の額被告製品の譲渡数量を乗じた額から、同項ただし書の事情として5割を控除し、さらに、製品に対する特許発明の寄与度(寄与率10%と認定)を考慮して9割の減額をした。
その算定方法は、次のとおりである。

ⅰ)原告製品の販売数量と売上高と製造原価
まず、平成27年10月から平成29年9月までの間の原告製品の販売数量mと売上高bと製造原価cを認定。

ⅱ)製造原価以外の控除すべき費用
次いで、同期間の原告の全製品の売上高aを認定し、原告の全製品に対する原告製品の売上比率を算定(b/a=α)。
そして、原告製品の単位数量当たりの利益額の算定にあたって、製品原価のほかに、上記期間内の以下の費用項目に関し原告製品の販売に要した費用dを控除するものとした。
費用dは、上記期間内の以下①乃至⑨の項目の費用に原告製品の売上比率αを乗じた金額で算出した。
費用項目:①販売手数料 ②販売促進費 ③ポイント引当金 ④見本品費 ⑤宣伝広告費 ⑥荷造運賃 ⑦クレーム処理費 ⑧製品保証引当金繰入 ⑨市場調査費

なお、被告はその他の項目についても控除されるべきとの主張をしたが、原審は被告が主張するその余の費目は、いずれも一般固定費又は原告製品ではない別の製品に係る個別固定費と考えられる費用であるから、控除の対象とならないと認定した。

ⅲ)原告製品の利益額
つまり、原告製品の利益額X=原告製品の売上高b-製品原価c-費用総額dとなる。

ⅳ)原告製品の単位数量当たりの利益額
その結果、原告製品の単位数量当たりの利益額Y=x(原告製品の利益額)/m(原告製品の販売数量)となる。

ⅴ)原告の実施能力
また、原告の実施能力については、原告の原告製品の販売能力に基づき被告製品の譲渡数量が上乗せされたとしても実施する能力を有していたと認められると判断した。

ⅵ)販売することができない事情
しかし、原審は特に原告製品と被告製品との価格の違いが大きいことを考慮し、被告製品の譲渡数量nのうち5割については、原告には販売することができない事情があったと認定した。

ⅶ)寄与率
なお、原審は本件特許発明2が製品の一部の構造に関するものであることから、本件発明2の技術の利用が被告製品の販売に寄与した度合いは高くないと判断し、その寄与率を10%(90%を控除する)と認定した。

ⅷ)損害額
そして、以上の認定を総合し、
原告の損害額=n(被告製品の譲渡数量)×0.5(販売できないとする事情)×Y(単位数量当たりの利益額)×0.1(寄与率)
=1億0735万0651円
と算定した。

 

3.本件事件(平成31年(ネ)第10003号)について

 

(1)本件事件の概要

本件事件においては、原告及び被告の双方が、原審の判断を不服として控訴した。
なお、控訴にあたり、一審原告は一審被告製品の製造、使用、貸渡し、輸出及び貸渡しの申出の差止めの訴えを取り下げると共に、原審で審理されなかった本件特許権1に基づく被告製品1乃至9の侵害の差し止めを改めて主張すると共に、損害賠償請求額全体を拡張して、その一部請求を5億円に拡張した。
そして、本判決は、一審被告製品は、本件発明1の技術的範囲に属せず、その販売等は本件特許権1を侵害しないと判断したが、
本件特許権2を侵害するとして、被告製品1乃至9の販売等の差止め及び廃棄を認めたほか、本件特許権2の侵害による特許法102条1項の損害額を4億4006万円(損害賠償額3億9006万円と弁護士費用5000万円)と認定し、損害額についての原審の判断を変更した。
以下、変更にかかる本件控訴事件の損害額の認定に関する部分を概説する。

 

(2)本件特許に対する無効審判事件

本件特許2に関する無効審判については、本審継続中に請求棄却の判決が確定した。

 

(3)本件事件における特許法102条1項に基づく損害賠償の判断について

①特許法102条1項の規定の趣旨
控訴審では、まず特許法102条1項の規定の趣旨・目的について、次のように説示した。
「同規定は、民法709条に基づき販売数量減少による逸失利益の損害賠償を求める際の損害額の算定方法について定めた規定であり、
特許法102条1項本文において、侵害者の譲渡した物の数量に特許権者又は専用実施権者(以下「特許権者等」という。)が

(イ)その侵害行為がなければ販売することができた物の
 (ロ)単位数量当たりの利益額を乗じた額を、
特許権者等の
(ハ実施の能力の限度で損害額とし、
同項ただし書において、
(ニ)譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者等が販売することができないとする事情を侵害者が立証したときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除する
ものと規定して、侵害行為と相当因果関係のある販売減少数量の立証責任の転換を図ることにより、より柔軟な販売減少数量の認定を目的とする規定である。」

 

(4)上記(イ)〜(ニ)に関する控訴審の判断及びそれに基づく算定方法

(イ)侵害行為がなければ販売することができた物

「侵害行為がなければ販売することができた物」について、侵害行為によってその販売数量に影響を受ける特許権者等の製品、すなわち、侵害品と市場において競合関係に立つ特許権者等の製品であれば足りるとした。
そして、原告製品は、本件発明2の実施品であるから、「侵害行為がなければ販売することができた物」に当たることは明らかであると認定した。

(ロ)単位数量当たりの利益の額

この「利益」の定義については、かつては「粗利益説」と「純利益説」の二説が存在した。「粗利益説」は、売上額から製造原価を控除したものとする考えである(損害額が相対的に大きくなるので権利者に有利な解釈といえる)。一方、「純利益説」は、売上額から製造原価(仕入原価)のみならず、販売費、一般管理費、営業外損益、公租公課等の売上げを上げるために必要な費用をすべて控除したものとする考えである(損害額が相対的に小さくなるので侵害者に有利な解釈といえる)。
しかし、最近の判例は、いわゆる「限界利益説」に立っているとされており、本判決も次のように説示していることから、この「限界利益説」を踏襲して判断しているものと言える。
『「単位数量当たりの利益の額」は、特許権者等の製品の売上高から、特許権者等において上記製品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額であり、その主張立証責任は特許権者側にあるものと解すべきである。』
ちなみに、一審被告は、原告製品の売上高から、一審原告の全ての費用を、一審原告の全製品に対する原告製品の売上比率に従って控除すべきとの主張、すなわち上記の「純利益説」に相当する主張を行っているが、裁判所は、上記(2)に記載した特許法102条1項の規定・目的に基づき、次のように述べて、被告の主張を排斥した。
『同項の損害額は、侵害行為がなければ特許権者等が販売できた特許権者等の製品についての逸失利益であるから、同項の「単位数量当たりの利益の額」を算定するに当たっては、特許権者等の製品の製造販売のために直接関連しない費用を売上高から控除するのは相当ではなく、管理部門の人件費や交通・通信費などが、通常、これに当たる。また、一審原告は、既に、原告製品を製造販売しており、そのために必要な既に支出した費用(例えば、当該製品を製造するために必要な機器や設備に要する費用で既に支出したもの)も、売上高から控除するのは相当ではないというべきである。』

(a)原告製品の限界利益の額

Ⅰ)原告製品の販売数量と売上高と製造原価
平成27年10月から平成29年8月までの間の原告製品の販売数量Ⅿと売上高Bと製造原価Cを認定。

Ⅱ)製造原価以外の控除すべき費用
次いで、同期間の原告の全製品の売上高Aを認定し、原告の全製品に対する原告製品の売上比率を算定(B/A=β)。
さらに、同期間における原告製品が含まれるブランドの製品全体の売上高Eに占める原告製品の売上比率を算定(B/E=ε)。
そして、原告製品の単位数量当たりの利益額の算定にあたって、製品原価Cのほかに、上記期間内の以下の費用項目に関し原告製品の販売に要した費用Dを控除するものとした。
ここまでは、対象期間が1月相違する外は、基本的な算定方法は同じである。
ただし、費用Dについては、費用対象項目は原審と同じであるが、下記①、③、④、⑥~⑨の費用については、原審同様に全製品について生じた各費用の総計に前記βの比率を乗じた額で算出したが、②及び⑤の費用については、原告製品が含まれるブランドの製品について生じたものとして各費用に前記εの比率を乗じた額で算出している点が相違する。

費用項目:①販売手数料 ②販売促進費 ③ポイント引当金 ④見本品費 ⑤宣伝広告費 ⑥荷造運賃 ⑦クレーム処理費 ⑧製品保証引当金繰入 ⑨市場調査費

Ⅲ)原告製品の利益額
そして、原告製品の利益額X=原告製品の売上高B-製品原価C-費用総額Dとなる。

Ⅳ)原告製品の単位数量当たりの利益額
その結果、原告製品の単位数量当たりの利益額Y=X(原告製品の利益額)/M(原告製品の販売数量)となる(5546円)。

Ⅴ)覆滅事由
原審では、本件特許発明2が製品の一部の構造に関するものであることから、本件発明2の技術の利用が被告製品の販売に寄与した度合いは高くないと判断し、その寄与率を10%と認定して、利益総額から90%を控除するとした。
一方、控訴審は、原審のような寄与率による控除の考え方ではなく、限界利益に基づく逸失利益の推定に対する覆滅理由として判断した。
すなわち、控訴審は、本件発明2の特徴部分は、原告製品の一部分であるにすぎないことを認定した上で、このような場合の限界利益と逸失利益との関係について次のように述べている。
『特許発明を実施した特許権者等の製品において、特許発明の特徴部分がその一部分にすぎない場合であっても、特許権者の製品の販売によって得られる限界利益の全額が特許権者等の逸失利益となることが事実上推定されるというべきである。』
しかし、原告製品において、本件特許発明2の特徴部分の形状も、原告製品の販売による利益に相応に貢献していると認めたものの、ローリング部の構成とソーラーパネルを備えて微弱電流を発生させていることが、顧客誘引力を高めている大きな特徴であると認定した。
そして、本件特徴部分は原告製品の販売による利益の全てに貢献しているとはいえないから、原告製品の販売によって得られる限界利益の全額を原告の逸失利益と認めるのは相当でなく、原告製品においては、上記の事実上の推定が一部覆滅されると判断した。
上記の本件特徴部分の原告製品における位置付け、原告製品が本件特徴部分以外に備えている特徴やその顧客誘引力など本件に現れた事情を総合考慮して、同覆滅がされる程度は、全体の約6割と認定した。

Ⅵ)原告製品の「単位数量当たりの利益の額」
以上から、原告製品の「単位数量当たりの利益の額」の算定に当たっては、原告製品全体の限界利益の額である5546円から、その約6割を控除するのが相当であると判断した。
原告製品の単位数量当たりの利益の額=5546円×0.4≒2218円

(ハ実施の能力の限度での損害額(実施の能力と挙証責任)

控訴審では、この実施の能力について、次のように判示している。
『特許法102条1項の「実施の能力」は、潜在的な能力で足り、生産委託等の方法により、侵害品の販売数量に対応する数量の製品を供給することが可能な場合も実施の能力があるものと解すべきであり、その主張立証責任は特許権者側にある。』
その上で、控訴審では、「一審原告は、毎月の平均販売個数に対し、約3万個の余剰製品供給能力を有していたと推認できるのであるから、この余剰能力の範囲内で月に平均2万個程度の数量の原告製品を追加して販売する能力を有していたと認めるのが相当」であるとし、一審原告には、一審被告が販売した被告製品の数量の原告製品を販売する能力を有していたと認定した。

(ニ)譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者等が販売することができないとする事情/Ⅶ)販売することが出来ない事情と挙証責任

控訴審では、特許法102条1項ただし書の規定に基づき、侵害者が、販売できない事情として認められる各種の事情及び同事情に相当する数量に応じた額を主張立証した場合には、同項本文により認定された損害額から上記数量に応じた額が控除されると判示した。
そして、「販売することができないとする事情」は、侵害行為と特許権者等の製品の販売減少との相当因果関係を阻害する事情をいい、次のような事情が該当するとしている。

①特許権者と侵害者の業務態様や価格等に相違が存在(市場の非同一性)
②市場における競合品の存在
③侵害者の営業努力(ブランド力、宣伝広告)
④侵害品及び特許権者の製品の性能(機能、デザイン等特許発明以外の特徴)に相違が存在

なお、一審被告は、販売できない事情として、原告製品と被告製品の価格の差異や販売店舗の差異、競合品の存在や一部の製造費用や機能上の差異、被告の営業努力などを主張したが、控訴審では価格の差異以外の事情については、販売できない事情として認めることはできないと判断した。
そして、控訴審は、この価格差について、原告製品と被告製品の価格差は小さいとはいえないから、販売できない事情に相当する数量は小さくはないと認められるとした一方で、
美容器である両製品の性質から、その需要者の中には、価格を重視せず、安価な商品がある場合は同商品を購入するが、安価な商品がない場合は高価な商品を購入するという者も少なからず存在するものと推認できるとした。
また、原告製品は、ローラの表面にプラチナムコートが施され、搭載されたソーラーパネルが微弱電流を発生させるものであるから、これらの装備のない被告製品に比べてその品質は高いということができ、原告製品は、その販売価格が約2万4000円であるとしても、3000円ないし5000円程度の販売価格の被告製品の需要者の一定数を取り込むことは可能であると判断した。
以上から、控訴審は、原告製品及び被告製品の上記価格差の存在による販売できない事情に相当する数量がかなりの数量になるとは認められないと判断し、この販売できない事情に相当する数量は、全体の約5割と認めるのが相当とした。

(寄与度について)
なお、一審被告は、本件発明2の寄与度を考慮して損害額が減額されるべきとの主張をおこなったが、上記控除とは別に減額を認める規定/根拠はないとして、その主張は排斥されている。

Ⅶ)損害額
以上から、控訴審においては、被告製品の譲渡数量35万1724個のうち、約5割については販売することができないとする事情があるとしてその分を控除し、控除後の販売数量に原告製品の単位数量当たりの利益額2218円に乗じることで、3億9006万円になるとした。
35万1724個×0.5×2218円≒3億9006万円
なお、弁護士費用については、認容額、本件訴訟の難易度及び一審原告の差止請求が認容されていることを考慮して、5000万円と認めるのが相当とした。