【判例研究】平成27年(行ケ)第10184号 審決取消請求事件 (知財高裁 平成28年9月29日判決言渡)|判例研究/レポート|特許業務法人オンダ国際特許事務所

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【判例研究】平成27年(行ケ)第10184号 審決取消請求事件 (知財高裁 平成28年9月29日判決言渡)

2017年3月22日掲載
弁理士 金森晃宏

1.概要

記載要件及び進歩性を理由に請求された特許無効審判の維持審決に対する審決取消訴訟。

2.経緯
[出願]
出願人:ペガサス・キャンドル株式会社
平成18年6月7日 特許出願(特願2006-186074)
平成23年 拒絶応答×2回
平成24年3月13日 特許権設定登録

[無効審判からの経緯]
平成24年11月29日 無効審判請求
平成25年9月20日 訂正請求(1回目)
平成26年5月9日 訂正を認めて維持審決(1回目)
平成26年6月12日 審決取消訴訟提起
平成27年3月25日 取消判決(訂正要件違反)
平成27年5月19日 訂正請求(2回目)
平成27年8月6日 訂正を認めて維持審決(2回目)
平成27年9月12日 審決取消訴訟提起←本稿で取り上げる事件

[審決取消訴訟]
原告:X1、X2
被告:ペガサス・キャンドル株式会社(特許権者)
3.本件特許(特許4968605号)

「【請求項1】
A: ローソク本体から突出した燃焼芯を有するローソクであって,
B: 該燃焼芯にワックスが被覆され,
C: かつ該燃焼芯の先端から少なくとも3mmの先端部に被覆されたワックスを,該燃焼芯の先端部以外の部分に被覆されたワックスの被覆量に対し,ワックスの残存率が19%~33%となるようこそぎ落とし又は溶融除去することにより
D: 前記燃焼芯を露出させるとともに,
E: 該燃焼芯の先端部に3秒以内で点火されるよう構成したことを特徴とする
F: ローソク。
【請求項2】
該燃焼芯の先端部がほぐされていることを特徴とする請求項1記載のローソク。」
なお、下線部分は訂正箇所を示し、アルファベット表示は裁判所による。

【判例研究】平成27年(行ケ)第10184号 審決取消請求事件 (知財高裁 平成28年9月29日判決言渡) | 2017年

【判例研究】平成27年(行ケ)第10184号 審決取消請求事件 (知財高裁 平成28年9月29日判決言渡) | 2017年

表1は、比較例1,2及び実施例1~4に記載のワックス残存率としたローソクを直線状に12個配置し、実験者A,Bがローソクに点火用ライターを用いて12個すべてのローソクを点火させるまでに要した時間を計測した結果。
被告の主張する「ワックスの残存率」=[ワックス除去処理後の先端部のワックスの単位長さあたりの被覆量]/[ワックス除去処理後の先端部以外の部分のワックスの単位長さあたりの被覆量]。

4.審決取消訴訟

本稿で取り上げる審決取消訴訟の争点は、①請求項中の効果の記載、②物の発明における製造方法の記載の2つ。なお、以下のカギ括弧による引用中の波線は筆者記載。

4-1.請求項中の効果の記載

A.原告の主張

「1 取消事由1(記載不備に関する判断の誤り)について
…(省略)…
(3)構成要件Eは「燃焼芯の先端部に3秒以内で点火される」と規定されているものの,本件訂正明細書には,点火時間の平均値しか記載されておらず,本件発明のローソクには,点火時間が3秒を超えるものが含まれている可能性がある。
したがって,上記「3秒以内」という本件発明の詳細な説明の記載及び本件特許請求の範囲の記載が特許法36条4項1号の実施可能要件及び同条6項1号のサポート要件のいずれにも違反しないとした審決の判断には誤りがある。」

B.被告(特許権者)の主張

「1 取消事由1(記載不備に関する判断の誤り)について
…(省略)…
(3) 本件訂正明細書では,2名の実験者による各12個の平均値(合計24個の平均値)を採用するという統計処理手法を採用しているところ,当該手法は,技術常識からみて一般的,合理的な範囲内のものであるから,当然許されるべきである。
…(省略)…」

C.裁判所の判断

「1 取消事由1(記載不備に関する判断の誤り)について
…(省略)…
イ 「3秒以内で点火される」(構成要件E)について
前記(1)及び(2)によれば,本件発明の技術的特徴は,ワックスで被覆された燃焼芯を有するローソクの点火時間を短縮するための解決手段を提示するものであり,また,「3秒以内で点火される」との構成は,本件発明を構成する要件であるから,「3秒以内で点火」ができないローソクは,本件発明から除外されていることは明らかである。
したがって,構成要件Eの「3秒以内で点火される」とは,その意味が明確なものであり,本件発明のローソクに点火時間が3秒を超えるものが含まれないことは明らかであるから,本件発明の詳細な説明の記載及び本件特許請求の範囲の記載が特許法36条4項1号の実施可能要件及び同条6項1号のサポート要件のいずれにも違反しないとした審決の判断は,その結論において誤りはない。」

4-2.物の発明における製造方法の記載

A.原告の主張

「(5)本件特許請求の範囲には,「ワックスの残存率が19%~33%となるようこそぎ落とし又は溶融除去することにより」との記載があるところ,「こそぎ落とし又は溶融除去することにより」は,製造に関して経時的な要素を記載するものであり,最高裁判所平成24年(受)第1204号同27年6月5日第二小法廷判決(以下「PBP最高裁判決」という。)にいうプロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当する。
したがって,本件特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項2号の明確性要件に違反する。」

B.被告(特許権者)の主張

「(5) 原告らは,構成要件Cにいう「こそぎ落し又は溶融除去することにより」がプロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当するとして明確性要件違反を主張するものの,この点については,本件の特許無効審判において審理判断されていないから,本件審決取消訴訟の審理判断の対象となるものではない。そもそも上記記載は,被覆ワックスが除去された燃焼芯の先端部の露出の状態そのものを表現するものであり,このことは当業者に自明であるといえる。
したがって,本件特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号の明確性要件に違反するものではない。」

C.裁判所の判断

「オ 原告らは,本件発明の「こそぎ落とし又は溶融除去することにより」との記載は,物の製造方法が記載されているプロダクト・バイ・プロセス・クレームであるから,明確性要件に適合しないなどと主張する。
しかし,証拠(甲25)及び弁論の全趣旨によれば,原告らの上記主張は,本件の特許無効審判において無効理由として主張されたものではなく,当該審判の審理判断の対象とはされていないものと認められるから,もとより本件訴訟の審理判断の対象となるものではなく(最高裁判所昭和42年(行ツ)第28号同51年3月10日大法廷判決・民集30巻2号79頁参照),失当というほかない。
なお,この点につき付言するに,PBP最高裁判決は,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合に,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という。)が存在するときに限り,当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう明確性要件に適合する旨判示するものである。このように,PBP最高裁判決が上記事情の主張立証を要するとしたのは,同判決の判旨によれば,物の発明の特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合には,製造方法の記載が物のどのような構造又は特性を表しているのかが不明であり,特許請求の範囲等の記載を読む者において,当該発明の内容を明確に理解することができないことによると解される。そうすると,特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合であっても,当該製造方法の記載が物の構造又は特性を明確に表しているときは,当該発明の内容をもとより明確に理解することができるのであるから,このような特段の事情がある場合には不可能・非実際的事情の主張立証を要しないと解するのが相当である。
これを本件についてみるに,本件発明の「該燃焼芯にワックスが被覆され,かつ該燃焼芯の・・・先端部に被覆されたワックスを,該燃焼芯の先端部以外の部分に被覆されたワックスの被覆量に対し,ワックスの残存率が19%~33%となるようこそぎ落とし又は溶融除去することにより前記燃焼芯を露出させる・・・ことを特徴とするローソク」という記載は,その物の製造に関し,経時的要素の記載があるとはいえるものの,ローソクの燃焼芯の先端部の構造につき,ワックスがこそぎ落とされて又は溶融除去されてワックスの残存率が19%ないし33%となった状態であることを示すものにすぎず,仮に上記記載が物の製造方法の記載であると解したとしても,本件発明のローソクの構造又は特性を明確に表しているといえるから,このような特段の事情がある場合には,PBP最高裁判決にいう不可能・非実際的事情の主張立証を要しないというべきである。

5.まとめ(実務上の指針)
  • 本件では、「3秒以内で点火されるよう構成した」と記載された発明に対し、裁判所では「3秒以内で点火ができないローソクは,本件発明から除外されていることは明らかである。」と判断しており、請求項に記載した効果を奏しないものは、権利範囲外となっている。なお、本件では、審査段階において進歩性を主張するために同構成を追加している。他に主張点がなければ仕方ないが、少なくとも原稿作成段階では、請求項だけでなく、明細書の【課題を解決するための手段】及び【発明の効果】の記載についても、作用効果を記載しすぎないように留意することを再確認したい。
  • 物の発明における製造方法の記載について、本件では製造方法の記載が物の構造又は特性を明確に表しているときは,不可能・非実際的事情の主張立証を要しないと解するのが相当と、比較的緩やかに判断している。また、特許庁においても、「特許・実用新案審査ハンドブック」がPBP最高裁判決後に数回にわたり改訂されており(※)、物の発明における製造方法の記載については緩やかに審査しているようである。ただし、本記載要件の端緒は最高裁での判決であるため、引き続き留意しておきたい。

以上

https://www.jpo.go.jp/shiryou/kijun/kijun2/handbook_shinsa_h2809.htm