速報!「切り餅」特許の知財高裁判決|判例研究/レポート|弁理士法人オンダ国際特許事務所

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速報!「切り餅」特許の知財高裁判決

平成24年4月5日
弁理士 桑垣衛

「切り餅」特許について、知財高裁判決が出ました。
この裁判では、越後製菓(原告)の特許(切り餅の周囲に設けられた「切り込み」)が対象になっています。
この特許を用いて、「サトウの切り餅」の佐藤食品を訴えたのです。

速報!「切り餅」特許の知財高裁判決 | 2012年

東京地裁の判決では、被告である佐藤食品の主張が認められ、特許権者である原告(越後製菓)は敗訴しました。以下で説明記事を掲載していますので、ご興味のある方はご覧ください。
前回の切り餅特許技術についての記事

敗訴した越後製菓は、知財高裁に控訴しました。
この裁判では、越後製菓の主張が認められ、逆転判決となりました。
判決文では、被告(佐藤食品)の製造や販売の差し止めや、損害賠償(約8億円)が認められました。
この裁判では、「サトウの切り餅が越後製菓の特許に抵触するかどうか」や、「越後製菓の特許の有効性」が争われていたのですが、この点については、中間判決(平成23年9月7日)が出されています。
この中間判決では、サトウの切り餅が越後製菓の特許に抵触すること、越後製菓の特許は有効と判断されています。この中間判決については、以下の説明記事をご覧ください。
特許技術の詳細

今回の判決では、損害賠償金が算定され、上述のような金額が出されています。
更に、この判決において注目したいのが、以下の「中間判決後の被告の新たな防御方法の提出」です。
具体的には、中間判決後に、被告である佐藤食品は、更に議論するための主張や証拠を提示しました。
しかしながら、裁判所はこれらの主張や証拠を「被告の重大な過失によって時機に後れて提出された防御方法」として却下しています。

では、「時機に後れて提出された防御方法」って何でしょうか。
一言で言うと「後出しはだめよ」ってことです。
裁判の中で主張や証拠を出すタイミングは決められていません。主張や証拠は争いの内容を検討する段階で出しておくべきですが、場合によっては、「切り札」のようなものが後から見つかったりすることもあります。場合によっては、利用するタイミングを選びたい時もあります。
ところが、主張や証拠をわざと後出しにすると訴訟が遅れてしまい、裁判所にとっても当事者にとっても不都合です。
そこで、タイミングが遅い防御方法(主張や証拠の提示)は却下されることがあります。これを、「時機に後れて提出された(タイミングが遅い)防御方法」と呼ばれています。民事訴訟法第157条第1項が根拠条文です。

 「当事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法については、これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めたときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。」

今回の裁判においても、「被告が中間判決後においてした、先使用の抗弁(註1)、権利濫用の抗弁(註2)、公知技術(自由技術)の抗弁に係る主張(註3)、及び証拠の提出、証人尋問の申出等については、いずれも、被告の重大な過失によって時機に後れて提出された防御方法に該当し、これにより訴訟の完結を遅延させることとなる」と判断されています。

(註1)要するに「前から使っていたから、継続して使えるよ」
(註2)要するに「権利を的確に使っておらず、振り回しているよ」
(註3)要するに「誰でもが普通に使えるパブリックドメインな技術を使っただけだよ」

それでは、どのような「やりとり」があったのかを判決文の中から拾ってみましょう。

 
主体
内容
平成23年9月16日
裁判所
 「口頭弁論の再開」
平成23年10月4日
原告
 「訴え変更の申立書(参考資料)」を裁判所と被告に送付
平成23年10月5日
裁判所
第1回弁論準備手続期日
平成23年10月21日
裁判所
第2回弁論準備手続期日
双方の代表取締役に出頭を求め、和解条件について、意見聴取。
次回期日の指定は、被告弁護士の事務所移転により、11月24日に指定せざるを得なかった。
平成23年11月9日
被告
被告弁護士の発症した傷害により入院
平成23年11月10日
被告
 「期日の変更に関する意見」の提出
 
裁判所
損害額に係る争点整理を早期に終了する必要性が高いこと、被告は訴訟復代理人を選任したことなどを考慮して、期日を変更せずに進行することとした。
原告に対し、同月17日までに損害額を確定するよう指示
平成23年11月16日
原告
既に提出されていた「訴え変更の申立書(参考資料)」と同一内容の訴え変更の申立書を正式に提出
平成23年11月18日
被告
新たに弁護士を訴訟代理人に選任
平成23年11月24日
被告
第3回弁論準備手続
被告弁護士は、事実関係の調査が未了であるとして、弁論準備手続の続行を要求。
 
裁判所
中間判決後、損害額に関する認否、反論を尽くす十分な準備期間が与えられていたことから、弁論準備手続を続行せず、終了することとした。
最終の口頭弁論期日として被告弁護士から要請を受けた平成24年1月中である同月31日を指定し、同日に口頭弁論を終結する旨を伝えた。
平成23年12月19日
被告
被告弁護士を突如解任。その他の従前の被告訴訟代理人弁理士はすべて辞任。
平成23年12月26日
被告
準備書面において、先使用の抗弁、権利濫用の抗弁、公知技術(自由技術)の抗弁に係る主張や証人尋問及び検証の申出新たに証拠の提出
 
原告
時機に後れた防御方法であり、却下すべきとの申出
平成24年1月31日
裁判所
第3回口頭弁論期日
被告の上記準備書面のうち、先使用の抗弁、権利濫用の抗弁、公知技術(自由技術)の抗弁に係る主張や証人尋問及び検証の申出についてはいずれも却下。
平成24年3月22日
裁判所
判決言い渡し

この中で、平成23年10月4日に原告が作成した「訴え変更の申立書」は「参考資料」となっており、裁判所と被告に送付されています。
このような書面を、本格的な提出の前に配布した点について、裁判所は、「被告に対して迅速に反論の準備をさせ、判決時期を遅延させないこと、和解的紛争解決に支障を来さないよう配慮したこと、印紙代等の出費を抑制することからであったと合理的に推測される。」と良い評価をしています。

一方、被告が最後に提示した主張や証拠は、既にこれまでの争点となっていたこと、以前に新たな主張、立証はないと述べていたこと、直前になって弁護士を解任したこと、新たな訴訟代理人が、これまでの主張と実質的に同じ主張を繰り返したこと、これらの主張や証拠をもっと早い段階で出せない状況ではなかったことから、「後出し」と判断されてしまいました。
このような「後出し」を認めてしまうと、相手方が反論する場合にも大きな負担がかかります。また、これまでの裁判における主張や証拠と矛盾やつじつまが合わない部分もあったようです。
更に、「被告が以前から販売していた」という主張に対して、この商品についての特許出願を後からしているので、「販売事実は疑わしい」と判断されたようです。

そして、裁判所は、「被告代理人らが、控訴審の口頭弁論終結段階になって選任され、限られた時間的制約の中で、精力的に、記録及び事実関係を精査し、新たな観点からの審理、判断を要請した点について、裁判所は、その努力に敬意を表するものである」としていますが、その一方で、裁判所は以下のようにも述べています。

特許権侵害訴訟は、ビジネスに関連した経済訴訟であり、迅速な紛争解決が、とりわけ重視されている訴訟類型であること、当裁判所は、原告と被告(解任前の被告訴訟代理人)から、進行についての意見聴取をし、審理方針を伝えた上で進行したことなど、一切の事情を考慮するならば、最終の口頭弁論期日において、新たな審理を開始することは、妥当でないと判断した。

【コメント】
速報!「切り餅」特許の知財高裁判決 | 2012年裁判の当事者においては、お互いに敵対関係になり、「勝った、負けた」は最大のテーマであり、その気持ちはよくわかります。
しかしながら、裁判の本来の目的は、紛争解決であり、被告も原告も、迅速な紛争解決に協力しあう必要があります。
本事例については、最高裁に上告されていますので、まだ争いが継続することになりますが、身近な製品において、納得がいく解決が望まれるところです。
更に、裁判の当事者にならないように、自社製品について、他者の権利を調査し、抵触しないかどうか、事前準備も大切です。

以上