知財高裁 平成21年(ネ)第10006号 補償金等請求控訴事件|知財レポート/判例研究|弁理士法人オンダ国際特許事務所

知財高裁 平成21年(ネ)第10006号 補償金等請求控訴事件|知財レポート/判例研究|弁理士法人オンダ国際特許事務所

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知財高裁 平成21年(ネ)第10006号 補償金等請求控訴事件

平成22年11月17日執筆
平成23年1月7日掲載
弁理士 佐久間勝久

1 事件の概要

本件は、控訴人(大手タイヤメーカー)が、被控訴人(大手スポーツ用品メーカー)に対し、主に出願公開後の警告から設定登録までの間の特許法第65条第1項に基づく補償金の支払いを求める事件である。原審(東京地方裁判所 平成19年(ワ)第28614号)では、原告(控訴人)の請求は棄却されている。

(1)本控訴審での争点

<1>争点1
被控訴人製品が、控訴人の特許発明の構成要件を充足するか否か。
<2>争点2
被控訴人製品が、控訴人の特許発明の構成と均等なものとしてその技術的範囲に属するか否か。
<3>争点3
控訴人の特許発明の進歩性が維持されているか否か。
<4>争点4
補償金請求の可否、及び請求金額の妥当性。

(2)中間判決(平成21年6月29日判決言渡)について

<1>被控訴人製品は、控訴人の特許発明の構成要件の一部を文言上充足しない(争点1)。
<2>被控訴人製品は、控訴人の特許発明の構成と均等なものとして該特許発明の技術的範囲に属する(争点2)。
<3>控訴人の特許発明は進歩性を欠くものとはいえず、無効理由がない(争点3)。
<4>争点4については、更に審理する。

(3)本判決(平成22年5月27日判決言渡)について

争点4についての審理結果について判示した。本レジュメでは、この審理結果のうち「補償金請求の可否」に関する以下の点について考察する。

<1>警告(特許法第65条第1項)の有無
→警告後の行為につき補償金請求権を行使する可能性があり、補償金請求の前提として警告していることが書面に明示されている必要があるのか否か。
<結論>黙示的に示されていれば必要がない。

<2>補正に伴う再度の警告が必要か否か
→被控訴人製品が、“補正を経て設定登録された”特許発明の技術的範囲に“均等により”属する場合であっても、“補正前の特許請求の範囲”を提示した警告が、補償金請求のための要件(特許法第65条第1項)を満たす場合があるか否か。
<結論>満たす場合がある。

2 警告の有無(項目1-(3)-<1>)について
(1)知的財産高等裁判所の判断  ※判決文抜粋:斜字は筆者変更,加筆部分

(イ)甲3(警告)書面の警告妥当性
原告は,被告に対し,原告知的財産部部長名で,被告開発部部長宛に,別紙3のとおり記載された平成15年9月19日付け内容証明郵便(甲3)を送付し,本件特許の公開公報も送付し,甲3及び本件特許の公開公報は,平成15年9月20日には,被告に到達した。そして,甲3(別紙3)には,ゴルフクラブヘッドに関する本件特許の特許出願が出願公開された旨,出願公開された本件特許と被告が製造販売する被告製品のゴルフクラブとの関係を検討するよう要請する旨が記載されていた。
甲3と本件特許の公開公報の送付により行われた通知は,特許出願に係る発明の内容が書面に記載されているということができる。そして,甲3の差出人名と宛名,記載内容に照らすと,上記通知は,被告製品が,本件特許の出願公開された発明の技術的範囲に属し,特許権の設定登録がされた場合に警告後の行為につき補償金請求権を行使する可能性があり,補償金請求の前提として警告していることが書面により示されていると認められる。
したがって,原告が被告に対し,甲3と本件特許の公開公報の送付により行った通知は,特許法65条1項の警告に該当する

(2)実務上の指針

警告書面に、「相手方がその発明を実施する場合には補償金請求権の行使があり得ることを相手方に認識させること」が「少なくとも黙示に示されている」と認識し得る記載があれば、「特許権の設定の登録がされた場合に警告後の行為につき補償金請求権を行使する」旨を明示しなくても、所定の警告(特許法第65条第1項)に該当すると判断される。
また、警告書面に公開公報が添付されていれば、警告された者は「出願公開がされた特許出願に係る発明であることを知って特許権の設定の登録前に業としてその発明を実施した者(特許法第65条第1項後段)」に該当する。このため、補償金請求権を行使するにあたって明示の警告を行う必要はないと考える(特許法第65条第1項後段)。

3 補正に伴う再度の警告が必要か否か(項目1-(3)-<2>)について
(1)本件特許(特許第3725481号)の審理経過

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(2)1回目及び2回目の手続補正の経緯

<1>審理対象となった請求項の補正の経緯  ※下線部は補正された部分
ⅰ)出願当初の記載
金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とを接合して中空構造のヘッド本体を構成した中空ゴルフクラブヘッドであって,前記金属製の外殻部材の接合部に前記繊維強化プラスチック製の外殻部材の接合部を接着すると共に,前記金属製の外殻部材の接合部に貫通穴を設け,該貫通穴に繊維強化プラスチック製の縫合材を通し,該縫合材により前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合したことを特徴とする中空ゴルフクラブヘッド。

<参考情報>
H16.2.10(発送日)の拒絶理由内容…中間判決文抜粋:斜字は筆者変更,加筆部分
本件発明は,(1)繊維強化プラスチック製の外殻部材と縫合材とを密着させることだけによって結合させる態様,(2)繊維強化プラスチック製の外殻部材にも貫通穴を設け,該貫通穴にも縫合材を通すことによって,二つの外殻部材どうしを縫合材の縫合力のみによって結合させる態様,(3)上記(1),(2)の態様を併用する態様のうちいずれの態様を意味しているか明りょうでない旨の拒絶理由が通知された。
※上記拒絶理由に対し、特許出願人である控訴人は、上記①のみを意味するように特許請求の範囲を減縮、明確化する下記1回目の補正を行った。

ⅱ)1回目の手続補正後の記載
金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とを接合して中空構造のヘッド本体を構成した中空ゴルフクラブヘッドであって,前記金属製の外殻部材の接合部に前記繊維強化プラスチック製の外殻部材の接合部を接着すると共に,前記金属製の外殻部材の接合部に貫通穴を設け,該貫通穴を介して繊維強化プラスチック製の縫合材を前記金属製外殻部材の前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその面側とに通して前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合したことを特徴とする中空ゴルフクラブヘッド。

ⅲ)2回目の手続補正後の記載
金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とを接合して中空構造のヘッド本体を構成した中空ゴルフクラブヘッドであって,前記金属製の外殻部材の接合部に前記繊維強化プラスチック製の外殻部材の接合部を接着すると共に,前記金属製の外殻部材の接合部に貫通穴を設け,該貫通穴を介して繊維強化プラスチック製の縫合材を前記金属製外殻部材の前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合したことを特徴とする中空ゴルフクラブヘッド。

<2>上記請求項の補正に伴う明細書の補正の経緯(主要部分のみ抜粋)
ⅰ)出願当初の記載
【0026】【発明の効果】以上説明したように本発明によれば,金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とを接合して中空構造のヘッド本体を構成するに際して,金属製の外殻部材の接合部の両面に繊維強化プラスチックが跨がるように両外殻部材を接着するから,金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材との接合強度を高めることができる。従って,ゴルフクラブヘッドとしての耐久性を確保しながら,異種素材の組み合わせに基づいて飛びや方向性を含むゴルフクラブ性能を向上することが可能になる。
ⅱ)2回目の手続補正後の記載
発明の効果の記載(【0026】に相当する部分)は,次のとおり補正された(下線部は補正された部分)。
【0019】【発明の効果】以上説明したように本発明によれば,金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とを接合して中空構造のヘッド本体を構成するに際して,金属製の外殻部材の接合部に繊維強化プラスチック製の外殻部材の接合部を接着すると共に,金属製の外殻部材の接合部に貫通穴を設け,該貫通穴を介して繊維強化プラスチック製の縫合材を金属製外殻部材の繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して繊維強化プラスチック製の外殻部材と金属製の外殻部材とを結合したから,金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材との接合強度を高めることができる。従って,ゴルフクラブヘッドとしての耐久性を確保しながら,異種素材の組み合わせに基づいて飛びを含むゴルフクラブ性能を向上することが可能になる。
※1回目の補正では、明細書の補正はされなかった。

<3>上記手続補正に関する部分の図面

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※上図が示す内容…判決文抜粋:斜字は筆者変更,加筆部分
出願当初の図6には,出願当初の請求項5記載の発明の実施の形態として,金属製外殻部材11に繊維強化プラスチック製外殻部材21を接着するとともに,金属製の外殻部材11複数の一直線状に並ぶ貫通穴13を設け,これらの貫通穴13を介して繊維強化プラスチック製の縫合材22を金属製外殻部材11の繊維強化プラスチック製外殻部材21との接着界面21a側とその反対面側とに通して繊維強化プラスチック製の外殻部材21と前記金属製の外殻部材11とを結合した接合形態を示す図面が示されていた。
※金属製外殻部材11に穿たれた複数の一直線状に並ぶ貫通穴13を縫うように通された一本の縫合材22が、金属製外殻部材11の繊維強化プラスチック製外殻部材21との接着界面21a側とその反対面側とにおいて交互に貼設される。すなわち、貫通穴13の数と縫合材22の数とは一致しない

<参考情報>
被控訴人製品の特徴…中間判決文抜粋:斜字は筆者変更,加筆部分
透孔7(貫通穴に相当)を介して各透孔7毎に分離した炭素繊維からなる短小な帯片8(縫合材に相当)を前記金属製外殻部材1の上面側のFRP(繊維強化プラスチック)製上部外殻部材10との接着界面側とその反対面側の前記金属製外殻部材1の下面側のFRP製下部外殻部材9との接着界面側とに一つの貫通穴を通して,上面側のFRP製上部外殻部材10及び下面側のFRP製下部外殻部材9と各1か所で接着し,前記FRP製上部外殻部材10と金属製外殻部材1とを結合してなるゴルフクラブヘッド
 →金属製外殻部材1には複数の透孔7(貫通穴)が穿たれているものの、上記短小な帯片8は、各透孔7を縫うように通されない。該帯片8は複数の透孔7の数だけ使用される。すなわち、透孔7の数と帯片8の数とは一致する

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(3)上記補正の経緯を踏まえた知的財産高等裁判所の判断 ※判決文抜粋:斜字は筆者変更,加筆部分

・イ 補正と再度の警告の要否
 [~中略~]
(イ)本件における再度の警告の要否について
念のため,本件において,補償金請求の前提として,再度の警告を要する特段の事情があったかを検討する。
 [~中略~]
b 再度の警告の要否についての判断
(a) [~中略~] 本件特許の補正等の経緯に照らすと,1回目の手続補正及び2回目の手続補正は,いずれも特許請求の範囲を減縮し又は明瞭にするものであったと認められる。すなわち,本件発明 [~中略~] は,当初明細書の特許請求の範囲 [~中略~] 発明の詳細な説明,当初図面 [~中略~] に記載されていた。ただし,当初明細書の特許請求の範囲の記載は,本件発明(縫合材が金属製外殻部材のみを貫通し繊維強化プラスチック製外殻部材を貫通しない構成からなる発明)の他,縫合材が金属製外殻部材だけでなく繊維強化プラスチック製外殻部材も貫通する態様をも含むものとして記載され,当初明細書の発明の詳細な説明では,発明の実施の形態として,本件発明の他,そのような態様をも含むことが記載されていた。
1回目の手続補正は,同補正前の特許請求の範囲の記載を,本件発明のみを対象とするように減縮した2回目の手続補正は,[~中略~] 特許請求の範囲を明瞭にするとともに,その発明の実施の形態の説明 [~中略~] から,縫合材が金属製外殻部材だけでなく繊維強化プラスチック製外殻部材も貫通する態様のものを削除し,[~中略~] 発明の実施の形態の記載が同補正後の請求項1の記載と整合するようにした。被控訴人製品は,1回目の手続補正及び2回目の手続補正の前後を通じて発明の技術的範囲に属する。以上のとおりであるから,本件において補償金請求権を行使するために,2回目の手続補正後の本件明細書を示した上で再度の警告をしない限り,不意打ちに当たる,というような特段の事情は認められない。
(b) 被控訴人は,2回目の手続補正により,[~中略~] 特許請求の範囲の「縫合材」の語は,「複数の対象物のすべてを貫き通すことによって結合させるために用いられる部材」という意義を有しないものとして用いられることになったから,同補正は,特許請求の範囲を減縮するものではない旨主張する。
しかし,本件発明(縫合材が金属製外殻部材のみを貫通し繊維強化プラスチック製外殻部材を貫通しない構成からなる発明)は,[~中略~] 出願当初から一貫して,本件発明の上記構成(縫合材が金属製外殻部材のみを貫通し繊維強化プラスチック製外殻部材を貫通しない構成)が本件特許の発明に含まれるものであったことからすると,2回目の手続補正により再度の警告を要する場合となったものとは,到底いえない。
c 技術的範囲への属否
中間判決の「2 争点(2)〔均等侵害の成否〕について」(中間判決17頁7行目ないし23頁5行目)のとおり,控訴人製品は,本件発明の構成と均等なものとして,2回目の手続補正後の [~中略~] 本件発明の技術的範囲に属する。そして,本件特許の特許請求の範囲 [~中略~] は,1回目の手続補正により減縮 [~中略~] され,更に2回目の手続補正によりその記載を明瞭に [~中略~] されたから,控訴人製品は,1回目の手続補正及び2回目の手続補正の前後を通じて,特許請求の範囲に記載された発明の技術的範囲に属するものと解される。
控訴人は,警告が発せられたのは,1回目の手続補正前の特許請求の範囲に基づくものであるから,これに基づく補償金請求には,均等の手法による技術的範囲の解釈は適用されない旨を主張する。
しかし,前記のとおり,本件特許の各補正は,特許請求の範囲を減縮し又は明瞭にする目的の範囲にとどまるものであること,控訴人製品が本件発明の技術的範囲に属するか否かについては,補正後の設定登録を経由した発明の技術的範囲に基づいて判断していることに照らすならば,被控訴人の上記主張は,理由がない [~中略~]
・ウ 補償金請求権の行使の可否
甲3(上記警告書面)及び本件特許の公開公報の送付によって行われた警告は,補償金請求権行使の要件である警告に当たり [~中略~] ,本件の補償金請求権の行使のために,再度の警告は不要であり(前記イ(イ)b),均等により技術的範囲に属する場合にも補償金請求をすることができるから(前記イ(イ)c),本件において,補償金請求権を行使することはできる。

(4)実務上の指針
(1)出願書類作成時の留意点

ⅰ)特許請求の範囲の記載には、従来と同じく、不要な限定を盛り込まない。
ⅱ)発明の単一性を満たす実施の形態、別例、及びなお書きの充実を一層図る。

(2)中間処理時の留意点

ⅰ)通知された拒絶理由の解消のみを考えるのではなく、数ある補正材料の中から当業者間での技術動向に合致した補正材料を選択する。
ⅱ)特許出願人の競合他社の技術動向を調査、把握する。

(3)特許調査時の留意点

・防御的立場から調査する場合
ⅰ)公開公報の特許請求の範囲の内容のみを見て、実施形態が所謂文言侵害を構成し得ないために、補償金請求権を行使される可能性はないと早合点しない。すなわち、均等により特許発明の技術的範囲に属する場合も考慮する。
ⅱ)公開公報の明細書の記載内容を精査し、シフト補正とならない範囲で将来権利化される虞がある内容を抽出する。
※情報提供(特許法施行規則第13条の2)に値する先行技術文献等の調査も上記と同様の手法に基づいて行う。
・攻撃的立場から調査する場合
上記ⅰ)、ⅱ)の裏返しの観点から調査する。
<コメント>
出願当初の特許請求の範囲の記載内容が、複数の内容を包含しているために審査官によって不明確と認定されるような場合であっても、そのうちの一つの内容が数次の補正を経て権利化され、かつその内容が出願当初からの実施の形態等に一貫して記載されていれば、出願公開後~設定登録における該特許権の技術的範囲に属する業としての実施に対して補償金請求権を行使し得る旨が今回判示された。
これにより、広い特許請求の範囲と豊富な実施形態とが記載された公開公報が、該公報に記載された特許出願人の競業他社にとって実施可能な技術の選択肢を狭めさせる圧力となることが改めて確認された。なぜならば、出願公開後の補正は誤訳訂正書の提出によるもの以外は特許公報に掲載されないため(特許法第193条第2項第3号)、上記競業他社は、公開公報に記載されているどの技術内容が将来権利化されるのかをピンポイントで予測し難いからである。
そのため、従来から実施しているように、出願当初の特許請求の範囲の記載はできるだけ広くなるように記載するとともに、“実施形態、なお書き等の記載を一層充実させること”の重要性がさらに裏付けられた。

4 その他

本件の最終判決では、出願時の特許請求の範囲(に含まれる内容)の記載と文言上明確に異なる製品を製造販売等していたとしても、上述したような所定の条件の下で、該製造販売等の行為が、数次の補正を経て権利化された特許発明の技術的範囲と均等であるとして補償金請求権の行使対象になり得ることも判示している。
本判例は最高裁判所の判例ではないものの、注目すべき判決である。

5 備考

本件の中間判決では、発明の構成と均等なものとして、発明の技術的範囲に属するか否かを判断する過程が詳細に判示されている。ここでは、参考情報として、その判断過程を中間判決文から抜粋して記しておく。興味をもたれた方は一読しておくことをお勧めする。なお、斜字は筆者変更,加筆部分である。
(1)置換可能性について
[~中略~] 本件明細書の記載によれば,本件発明の構成要件 [~中略~] において「(繊維強化プラスチック製の)縫合材」を用いたことによる目的,作用効果(ないし課題の解決原理)は,金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材との接合強度を高めることにあるものと認められる。[~中略~]
本件発明の縫合材は,[~中略~] 金属製外殻部材の前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側で少なくとも2か所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接合することになるから,その接着性によって,必然的に,接合強度を高める効果を生じることになる。
他方,被告製品では,[~中略~] 炭素繊維からなる帯片8は,一つの貫通穴に通され,上面側のFRP製上部外殻部材10及び下面側のFRP製下部外殻部材9と各1か所で接着されることにより,金属製の外殻部材(金属製外殻部材1)と繊維強化プラスチック製の外殻部材(FRP製上部外殻部材10)との接合強度を高める効果を奏している同効果は,本件発明において「(繊維強化プラスチック製の)縫合材」を用いたことによる目的,作用効果 [~中略~] (ないし課題解決原理)を共通にするものであるから,置換可能性がある
(2)置換容易性
本件発明においても,被告製品においても,金属製外殻部材に設けられた貫通穴に繊維強化プラスチック製の部材を通すことは共通であり,金属製外殻部材の複数の貫通穴に複数回通し,少なくとも2か所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接合(接着)する部材を,一つの貫通穴に1回だけ通し,金属製外殻部材の上下において上部繊維強化プラスチック製外殻部材及び下部繊維強化プラスチック製外殻部材と各1か所で接着する部材に置き換えることは,被告製品の製造の時点において,当業者が容易に想到することができたものと認められる。したがって,置換容易性は認められる
(3)非本質的な部分か否かについて
本件発明の目的,作用効果は,[~中略~] 金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材との接合強度を高めることにある。[~中略~] 本件発明の課題解決のための重要な部分は,「該貫通穴を介して」「前記金属製外殻部材の前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合した」との構成にあると認められる。[~中略~] (1)本件発明の課題解決のための重要な部分は,構成要件 [~中略~] 中の「該貫通穴を介して」「前記金属製外殻部材の前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合した」との構成部分にあること,(2)本件発明の「縫合材」の語は,[~中略~] 通常の意味とは明らかに異なる用いられ方をしているから,「縫合」の語義を重視するのは,妥当とはいえないこと,(3) [~中略~] 「縫合材」の意味は,[~中略~] 「金属製外殻部材の複数の(二つ以上の)貫通穴を通し,
かつ,少なくとも2か所で繊維強化プラスチック製外殻部材と接合(接着)する部材」と解すべきであるが,当該要件中の「一つの貫通穴ではなく複数の(二つ以上の)貫通穴に」との要件部分,「少なくとも2か所で(接合(接着)する)」との要件部分は,本件発明を特徴付けるほどの重要な部分であるとはいえないこと等の事情を総合すれば,[~中略~] 本件発明において貫通穴に通す部材が縫合材であることは,本件発明の本質的部分であるとは認められない。
(4)対象製品の容易推考性について
本件の全証拠によっても,被告製品が,本件特許の出願時における公知技術と同一又は当業者が公知技術から出願時に容易に推考できたものであるとは認められない
(5)意識的除外について
[~中略~]原告は,[~中略~] 出願経過及びその過程で提出された手続補正書や意見書の内容に照らして,原告が,本件特許の出願経過において,本件発明の「縫合材」を,一つの貫通穴を通し,金属製外殻部材の上下のFRP製外殻部材と各1か所で接着した部材に置換する構成を意識的に除外したと認めることはできない

以上