<2020年4月改正法施行に備えて>法改正でどう変わる? 意匠法改正の要点と、実務上の注意点|知財レポート/判例研究|弁理士法人オンダ国際特許事務所

<2020年4月改正法施行に備えて>法改正でどう変わる? 意匠法改正の要点と、実務上の注意点|知財レポート/判例研究|弁理士法人オンダ国際特許事務所

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<2020年4月改正法施行に備えて>法改正でどう変わる? 意匠法改正の要点と、実務上の注意点

(パテントメディア2020年1月発行第117号掲載)
弁理士 森 有希

2020年4月1日より、いよいよ改正意匠法が施行されます。
改正の内容は、意匠法の保護対象にまでメスを入れたドラスティックなものであり、企業等における知財管理(意匠調査対象範囲や、意匠権の維持管理方法、ブランド保護の在り方等)にも、直接的な影響を及ぼす改正事項を多く含んでいます。
本稿では、その中でも特に意匠実務との関わりが深い下記の事項について解説していきたいと思います。

保護対象の拡充、新設(画像デザイン、建築物のデザイン、内装デザイン)

関連意匠制度の拡充

また、法改正に伴い、意匠審査基準も大幅に改訂されます。条文だけでは把握しづらい審査上の運用も多々あるため、本稿では、意匠審査基準案(※注1)にも言及しながら、実務上の留意事項や、施行日に備えて準備すべきことを確認していきたいと思います。

1.保護対象の拡充、新設について

今回の法改正の大きな特徴は、保護対象の拡充、新設であり、具体的には、「画像デザイン」の保護範囲が拡充されるとともに、新たに「建築物のデザイン」や「内装のデザイン」が保護対象となります(図1参照 ※注2)。

▼図1

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1-1.画像デザインの保護拡充について

従前、画像デザインは、物品の部分(部分意匠)としてのみ登録が可能でした。例えば、デジタルカメラに表示される画像は、物品「デジタルカメラ」の画像部分の部分意匠として登録可能でした(図2参照)。
意匠法の保護対象が「物品の形状等」であったため、物品と画像との結びつきが必要とされていたのです。

▼図2(デジタルカメラにおける画像部分の意匠)

このような登録(出願)方法は、改正後も継続して認められます。
さらに、今般の改正では、意匠法の保護対象に「画像」が加えられたため、「画像」だけを、物品から独立したものとして、登録できるようになります。

図3は、図2の事例から、画像部分のみを取り出したものですが、このような画像単体を、「撮影用画像」等として登録できるようになるのです。

▼図3(画像単体の意匠)

また、物品との結びつきが必要とされなくなったことで、従前は登録できなかった下記のような画像も、登録可能となります。

壁や道路、人体に投影される画像

ネットワークにより提供される画像(例えば、ネットバンキングの画像や、ナビ検索の画像、予約サイトの画像等)

アイコン(単体)

VR(仮想現実)、AR(拡張現実)等の画像

 ただし、画像なら何でも登録できるわけではなく、改正後も、登録できる画像は、

  • 機器の操作の用に供される画像(操作画像)
  • 機器がその機能を発揮した結果として表示される画像(表示画像)

に限られます。

上記のいずれにも該当しない「コンテンツ画像」や「ゲームの画像」、「映画やテレビ番組の画像」や、いわゆる「壁紙画像」等は、改正後も登録対象となりません。

この点においては、欧州や米国等と比べると、まだ制約がありますが、「操作画像」または、「表示画像」であれば、インターネット上の画像や、アイコン単体でも登録対象となったのは大きな前進であり、IoT等の分野において、画像意匠権の活用が進むことが期待できます。

また、これまでも画像デザインの分野は、米国を始めとした、海外の出願人による登録が大きな割合を占める分野でしたが、今後は、このような傾向に拍車がかかることが予想されます。

アップル対サムスンの画像デザインをめぐる争いは記憶に新しいところですが、改正後は、外国企業を始めとした他社の意匠権を回避するため、意匠調査の必要性が、今まで以上に高まるものと考えられます。

1-2.建築物のデザイン
(1)改正の背景

「建築物」は不動産にあたり、流通性を有さないため、工業上利用できる意匠に該当しないとして、長らく保護対象からは除外されていました。
しかし、昨今では、店舗外観に工夫を凝らしてブランド価値を高める取り組みがなされたり、住宅等の販売においてもデザインによる差別化が図られるようになっており、建築物のデザインが顧客吸引力に及ぼす影響が大きくなっています。
このような状況を受けて、意匠法の定義規定(2条)が改正され、「建築物」が新たに保護対象に加えられました。

(2)保護対象となる「建築物」とは

保護対象となる「建築物」にはどのようなものが含まれるでしょうか。
意匠審査基準案において、意匠法上の「建築物」と認定されるための要件は、

ⅰ)土地定着物であること
ⅱ)人工構造物であること

とされており、住宅や商業用建築物に加え、工場や競技場、橋梁やダム等の土木構造物も登録対象となり得ます(図4参照)。

▼図4

<拡大図>

また、上記の要件を満たす建築物であれば、外観のみならず、その「内部空間」についても、建築物の部分意匠として登録可能となります(後述する「内装デザイン」との重畳的保護となりますが、登録要件は異なります)。

さらに、社会通念上、同時に使用し得る「複数の建築物」を、一意匠として登録することも可能となります。例えば、「学校の校舎と体育館」「老人ホームと病院」「複数の棟からなる商業用建築物」等がこれに該当します。

これらは「組物」の意匠としても登録可能となりますが、組物の場合は、建築物同士の「位置関係」が特定されないのに対し、一の建築物として出願する場合は「位置関係」が特定されます。

複数の建築物を権利化する機会は少ないかもしれませんが、法改正等により、組物の要件や、一意匠一出願の判断基準が緩和され、制度一般としては利用機会が増えることが予想されます。本件を典型的な事例と捉えて、両者の違いを押さえておくとよいと思います。

(3)従来の組立家屋等との関係

これまでも、反復量産でき、動産のように取引されるプレハブ住宅等は、「組立家屋」として意匠登録が可能でした。

改正後、これらの建物は「建築物」としても「組立家屋」としても登録できるようになります。また、「建築物」と「組立家屋」は、「一定期間、人が内部で過ごす」という用途において共通するものであれば、互いに物品類似の関係になり得ます。
(ただし、改正前に「組立家屋」として登録された意匠権の効力が、従前からある建築物に対して遡及的に及ぶことがないよう、調整規定が設けられる予定です。)

また、両者は改正後2条2項に規定される「実施」の定義において違いがあり、「組立家屋」については「輸入」が実施行為に含まれるのに対し、「建築物(住宅等)」については、これが含まれません。

ここでは詳しい説明を割愛しますが、新たに保護対象となった「建築物」、「画像」については、「実施」の定義も新設されています。
「実施」の定義は、侵害対応にも影響するため、出願方法に選択肢(従前からある「物品」として出願するか/新たに保護対象となった「画像」「建築物」として出願するか)があるときは、模倣品の実施態様なども想定しながら検討するのが望ましいと思われます。

1-3.内装のデザイン
(1)改正の背景

製品やサービスを提供する店舗等の内装は、顧客との重要な接点であることから、空間(内装)のデザインにおいても、企業等の個性を発揮したり、顧客満足度を高めるような取り組みが積極的に行われるようになっています。

しかし店舗等の内装には、通常、複数の物品(例えば、テーブル、椅子、什器等)が含まれるため、意匠制度の「一意匠一出願」(7条)の原則になじまず、これまで「内装デザイン」としては意匠登録を受けることができませんでした。

これを可能にすべく、8条の2(下記)が新設され、内装デザインについては、一定要件下で、「一意匠一出願」の例外的な取り扱いが認められることになりました。

<改正後8条の2>
店舗、事務所その他の施設の内部の設備及び装飾(以下「内装」という。)を構成する物品、建築物又は画像に係る意匠は、内装全体として統一的な美感を起こさせるときは、一意匠として出願をし、意匠登録を受けることができる。

(2)登録要件

内装意匠の登録要件をより明確にするため、審査基準案において、以下のような判断基準が示されています。

ⅰ)店舗、事務所その他の施設の内部であること
ⅱ)複数の意匠法上の物品、建築物又は画像により構成されるものであること
ⅲ)内装全体として統一的な美感を起こさせるものであること

以下、各要件について確認していきたいと思います。

要件ⅰ)「店舗、事務所その他の施設の内部であること」の「施設」には、「人がその内部に入り一定時間を過ごすためのもの」であれば、動産も含まれると解されます。

「内装」という言葉からは、不動産の内装をイメージしがちですが、実際の保護範囲はさらに広く、キャンピングカーや客船、鉄道車両、旅客機、そして、乗用自動車等の動産の内装も登録対象となり得るため、今後、意匠調査や出願の対象として検討していく必要があるといえます。

また建築物の「一部」の内装、例えば、「キッチンの内装」や「バスルームの内装」等も登録対象となり得ます。

そして、「内部」とありますが、室内から連続するオープンテラス等も内装の一部として登録できる可能性があります。

このように、内装意匠として保護できる範囲は、条文から受けるイメージよりも広く認められる運用となりそうです。その詳細は意匠審査基準に記載されているため、制度の適切な利用のためには、審査基準の把握が不可欠だといえるでしょう。

次に要件ⅱ)の「複数の意匠法上の物品、建築物又は画像により構成されるものであること」に関しては、出願対象の中に、必ず、複数の物品等が含まれていることが必要となります。例えば、室内にテーブルや椅子等が配置されたものがこれに該当します。

なお審査基準案においては、内装の意匠を構成するものとして適切/不適切なものの例が、次のように示されています。

< 〇内装の意匠を構成するものとして適切なものの例 >

  • 机、椅子、ベッドなどの家具類
  • 陳列棚などの什器類(意匠法の物品と認められる販売商品等が含まれていても可)
  • 照明器具など
  • 内装の意匠を構成する建築物に備えられたモニターに表示される画像や、同様に備え付けられたプロジェクターから当該建物の壁面に投影される画像等

< ×内装の意匠を構成するものとして不適切なものの例 >

 意匠法上の意匠に該当しないもの
(ただし、以下の例に該当するものであっても、建築物又は土地に継続的に固定するなど、位置を変更しないものであり、建築物に付随する範囲のものは建築物の意匠の一部を構成する。)

  • 人間、犬、猫、鑑賞魚などの動物
  • 植物(ただし、造花は意匠法上の物品の意匠に該当する)
  • 蒸気、煙、砂塵、火炎、水(ただし保形性のある容器に入ったものは除く)などの不定形のもの
  • 香りや音など、視覚以外で内装空間を演出するもの
  • 自然の地形そのもの

不適切なものの例(動植物等)に該当するものであっても、図面中に表すことは可能です。この場合は、願書及び図面の中で、その動植物等が意匠の構成要素とならないことを明示しておく必要があります。

また、適切なものの例には、画像や、販売商品等も挙げられています。

内装デザイン全体としての美感を保護するような出願のほかに、部分意匠を利用して、「室内や車室空間における、画像やモニター等の効果的な配置」や、「店舗内における商品の見やすい展示形態」等について権利化を図ることも可能になると思われます。

内装デザインが機能性にも配慮したものである場合、これを権利化することによって、意匠制度の活用用途がさらに広がるのではないでしょうか。

要件ⅲ)「内装全体として統一的な美感を起こさせるものであること」に関しては、例えば、「構成物に共通の形態処理が加えられているもの」(図5参照)や、「概念的な共通性(松竹梅を模している等)があるもの」などが要件を満たすとされています。

▼図5

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このほかに、「内装の意匠全体が一つの意匠としての統一的な創作思想に基づき創作されており、全体の形態が一つのまとまりの美感を起こさせるもの」(図6参照)も、本要件を満たすものとみなされます。

▼図6

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「統一的な創作思想」といっても、なかなか具体的にイメージしづらいのですが、審査基準案の検討に際しては、図6の珈琲店の事例に示すような、「漆喰をモチーフとした壁、天井の木材、レンガ、安定感のあるちょっと大きな椅子等からなる内装」も、要件ⅲ)の「統一的な美感を起こさせるもの」に該当し得るとされており、本要件については、かなり緩やかに判断される可能性が高いと思われます。

(3)特徴記載書等の活用等

内装デザインの出願に際しては、いかなる「統一的美感」があるのかを審査において把握しやすくするために、特徴記載書や、願書の「意匠の説明」の欄で、具体的な説明(例えば、「松竹梅のモチーフを用いることで統一感を表現している」等)を行うことが推奨されています。

なお、内装デザインの図面は、施設の内部のみを開示すればよいとされており、外観を表す必要はありません。
また図面中には、「床、壁、天井の少なくとも一つ」を表す必要があり、図7のように「家具のみ」を表したものは認められないとされています。
図面表現については、今後、特許庁により、新たなガイドラインが示される予定です。

▼図7

(4)意匠調査、意匠出願対象の見直しの必要性

従来、内装デザインは意匠の保護対象ではなかったため、例えば、ショールームや展示場のブース、店舗等の内装全体について、他人の意匠権に配慮する必要は殆どなかったと思いますが、今後は、注意を要します。

また、新たに実施する内装デザインが、自社のブランド構築や、イノベーションの実現に寄与しているもの等であれば、意匠出願を検討する価値があるといえます。

調査や出願案件の抽出のため、企業内において、これまで知的財産とは関係の薄かった部門との連携が必要となる可能性もあります。
改正法の施行に備え、関連部門の洗い出しを行うとともに、改正事項を周知して、知財管理の連携体制を築いておくことも急務であると思います。

2.関連意匠制度の拡充
(1)主な改正点

今回の改正の目玉の一つといえるのが関連意匠制度の拡充です。
主な改正事項は以下の3点です。

改正点1:「関連意匠のみに類似する意匠」の登録可能化
改正点2:関連意匠の出願可能な期間の延長
改正点3:新規性要件、創作非容易性要件、および先願の規定等の一部適用除外化

関連意匠制度は、あらゆる製品分野の出願に関わるため、改正事項の中でも、特に実務への影響が大きいものといえます。

また改正内容は、基本的に出願人に利するものといえますが、従前の制度に比べてルールが複雑化しており、思わぬ場面で足をすくわれる可能性(落とし穴)のある制度という捉え方もできるように思います。

新制度を有効に活用するためには、新ルールの正しい把握が不可欠であり、その多くは審査基準中に示されていることから、ここでも審査基準案の内容に言及しながら、改正事項を確認していきたいと思います。

(2-1)改正点1:

「関連意匠にのみ類似する意匠」の登録可能化について
従前の関連意匠制度においては、関連意匠は、「本意匠にのみ類似する」ことが登録要件となっており、「関連意匠にのみ類似する意匠(関連の関連)」は登録できませんでした。

このため、以下の乗用自動車の事例(図8参照)に示すように、初期のデザインが市場に投入されたのち、徐々にデザインが変わり、最終的に初期のデザインとは異なるものになった場合、後継のデザイン同士に一定の共通性があったとしても、全てを一つの関連意匠群として登録できないといった事態が生じていました。

▼図8

これに対し、改正後は、「関連意匠にのみ類似する意匠」も、関連意匠を本意匠として、連鎖的に登録可能となるため、これらを一つの関連意匠群として登録できるようになります(図9参照)。

▼図9

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なお、本改正に伴い、最初に本意匠として選択した一の意匠を「基礎意匠」と呼び、基礎意匠の関連意匠及び、その関連意匠に連鎖する段階的な関連意匠を「基礎意匠に係る関連意匠」と呼ぶことになります(図10参照)。いずれも従前の意匠法にはない新しい用語です。
例えるなら、ファミリーの最長老(創始者)が「基礎意匠」で、それ以降の、子や孫、曾孫の世代はすべて「基礎意匠に係る関連意匠」ということになるでしょうか。

また、今般の改正では、意匠権の存続期間が延長されることになり、従前は「設定登録日から20年」であったのが、改正後は権利の終期が「出願日から25年」になります。
そして「基礎意匠に係る関連意匠」の存続期間(権利の終期)は、「基礎意匠の出願日から25年」となります。
上述の例になぞらえるなら、「最長老」の存続期間が満了するとき、全ての子孫の存続期間も満了することになります。

▼図10

(2-2)改正点2:関連意匠の出願可能な期間の延長について

従前の関連意匠制度においては、関連意匠の出願は、「本意匠の出願日以降~意匠公報発行日の前日まで」に行う必要がありました。この期間は、平均8ヶ月であり、デザイン開発のスパンと比べると、十分な出願期間が確保されているとはいえない状況でした。

これを改善すべく、今般の改正により、「基礎意匠の出願日から10年を経過する日前」まで、関連意匠を出願できるようになります(図11参照)。

▼図11

ⅰ)基礎意匠の消滅後における関連意匠の出願可否

さらに、図12に示すように、「基礎意匠」が消滅した後であっても、「関連意匠A」が存続していれば、Aを本意匠として、「関連意匠B」の登録が可能となります(ただし、他の登録要件を満たすことも必要です)。

一方、「関連意匠B」の存続中に、これを本意匠として「関連意匠C」を出願したとしても、Cの「査定審決時」において、Bが消滅している場合は、Cを登録することができません。

なかなか複雑ですが、ここは大切なポイントですので、押さえておく必要があります。

▼図12

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ⅱ)本意匠の選択について

出願しようとする関連意匠が、一連の関連意匠群(本稿では「ファミリー」と呼びます)に属する複数の意匠(基礎意匠や他の関連意匠)に類似する場合、いずれも本意匠として選択できます(出願日の先後等の要件は満たす必要があります)。

また、関連意匠出願について特許庁で審査がなされた結果、「願書に記載した本意匠とは非類似」であるが、「ファミリー内の他の意匠に類似する」と判断された場合は、審査官が、その関連意匠と類似すると判断した意匠(複数ある場合はすべて)が、拒絶理由(拒絶条文10条1項)中に記載される運用となる見込みです。

審査官の判断が示されることで、補正での対応がしやすくなる一方、ファミリー内の他の意匠との類否判断の結果が包袋中に残り、第三者の知るところとなる点には注意を要します。
このような運用の変更を踏まえ、本意匠の選択には慎重を期す必要があるといえます。

(2-3)改正点3:新規性要件、創作非容易性要件、および先願の規定等の一部適用除外化について

1)「自己の(公知)意匠」を拒絶引例から除外する規定

基礎意匠の出願日から10年間に延長されたとしても、その10年の間に、基礎意匠等の公報発行や、製品公開によって、基礎意匠と同一又は類似の意匠が公知となる可能性は極めて高いといえます。

このような「自己の公知意匠」を引例として、関連意匠の登録が拒絶されるのを回避するため、改正法においては、

  1. 出願人自身の公知意匠(「自己の意匠」といいます)であって、
  2. 出願人自身が出願又は登録した「基礎意匠」や、「基礎意匠に係る関連意匠」と、同一又は類似の意匠

については、一定要件下で、関連意匠出願の審査において、新規性や創作非容易性等の判断の基礎から除外される(すなわち、拒絶引例から除外される)という規定が新設されました(改正後10条2項、同8項)。

ただし、本規定は、関連意匠出願について、極めて長期にわたる新規性等の例外的適用を認めるものであって、国際的にも類をみないものであるため、出願人のみに利益が偏りすぎないよう、適用除外の規定(改正後10条8項括弧書)を設けて、適用範囲を限定しています。
こうした点に留意しながら、いかなる条件下で「自己の意匠」が拒絶引例から除外されるのか(また、除外されないのか)を確認していきたいと思います。

2)「自己の意匠」とは?

改正後10条2項及び8項における「自己の意匠」とはどのようなものでしょうか。審査基準案では、以下のうち、いずれかに該当するものが「自己の意匠」であるとされています。

  1. 関連意匠の意匠登録出願人自らが「意匠権」を有する意匠、又は
  2. 関連意匠の意匠登録出願人自らが「意匠登録を受ける権利」を有する意匠

当然ながら、「他人」が意匠権や、意匠登録を受ける権利を有している意匠は「自己の意匠」にはなりません。
したがって、出願した関連意匠が、他人の公知意匠と同一又は類似である場合は、(「自己の意匠」が別に存在していたとしても)、他人の公知意匠が拒絶引例となり得ます。この点は従前どおりの運用となります。

一方、意匠を公知にしたのが他人であっても、上記ⅰ、ⅱのいずれかに該当するものであれば「自己の意匠」として取り扱われます。
つまり「自己の意匠」というためには、「創作の主体」が出願人自身であることが必要であり、「公開者」は他人であってもよいのです。

なお、実施製品のみならず、意匠公報や、特許・実用新案の公報、外国公報、カタログ等に掲載された意匠についても、上記ⅰ、ⅱのいずれかに該当するものであれば「自己の意匠」となり得ます。

3)「自己の意匠」の公開時期等

改正後10条2項、8項の規定(以下、本稿では「自己の意匠の特別措置」と呼びます)は、「自己の意匠」が次のいずれかに該当した場合に限って適用されます。

  1.  「関連意匠として意匠登録を受けようとする意匠」の「基礎意匠」と同一又は類似する意匠であって、当該「基礎意匠」の出願時(又は優先日)以降に公知となったもの

  2.  「関連意匠として意匠登録を受けようとする意匠」の「基礎意匠に係る関連意匠」とそれぞれ同一又は類似する意匠であって、対応する当該各関連意匠の出願時以降に公知となったもの



    <拡大図>

  3. 「関連意匠として意匠登録を受けようとする意匠」の「基礎意匠」及び「基礎意匠に係る関連意匠」と同一又は類似する意匠であって、当該「基礎意匠」又は「基礎意匠に係る関連意匠」において、新規性喪失の例外の規定が適用されている意匠



    <拡大図>

なお、上記ⅲのケースに該当するためには、単に出願人が新規性喪失例外適用の申請を行っただけではなく、審査においても、実際に例外適用が認められたことが必要となります。

例えば、「出願意匠A」について、「公開意匠A」と「公開意匠B」の公開事実に関する証明書を提出し、新規性喪失例外の適用申請を伴う出願を行ったとします。このとき、出願人は、「公開意匠AとB」が「出願意匠A」に類似する(もしくは創作容易)と自己認識していますが、審査において、「公開意匠B」については、「出願意匠A」と非類似(創作容易でもない)と判断されたとします。

この場合、特に特許庁からの通知はありませんが、「公開意匠B」については新規性喪失の例外が適用されたことになっていません。
この状態で、「出願意匠A」を本意匠としてBを関連意匠出願する場合、「公開意匠B」は自己の意匠の特例の対象「外」となります。
よって、Bの出願時において「公開意匠B」について新規性喪失の例外適用を受けないと、「出願意匠B」は、「公開意匠B」によって登録を拒絶されるという事態になりかねないと思われます。

また、新規性喪失の例外適用を受けたい場合は、Bの出願は、「公開意匠B」の公開日から1年以内(新規性喪失例外適用期間内)に行う必要がある点にも注意が必要です。
(なお、この事例では、BはAに類似せず、そもそもAの関連意匠として登録できないため、上記ⅰ~ⅲのいずれのケースにも該当せず、自己の意匠の特例を受けることができません。)

このように、「公開意匠と出願意匠が類似しているか」、「関連意匠として出願する意匠と、基礎意匠等(ファミリー内の他の意匠)が類似しているか」についての判断は、出願人側と審査官とで異なる可能性があるため、自己の意匠の特別措置の対象となるか否かについては、常にグレーゾーンが残ります。

従前の出願実務においては、「本意匠と関連意匠の類否」に注意すれば足りましたが、改正後は、「関連意匠とファミリー内の他の意匠の類否」「公開意匠と出願意匠との類否」についても、慎重な検討が必要となる場面がありますので、この点には特に注意を要します。

 

4)「自己の意匠」の判断の具体例

基礎意匠が部分意匠であったり、他の創作物が加えられたりするケースにおいて、「自己の意匠」の判断はどのようになされるのでしょうか。審査基準案には、以下の例が示されています。

i) 基礎意匠が「部分意匠」である場合

図13に示すように、基礎意匠が「部分意匠」である場合は、部分意匠の対象部分(実線部分)と、自己の公知意匠とが同一又は類似である場合に、その部分が「自己の意匠」として取り扱われます。

公知意匠2はオープンカーであり、基礎意匠の「破線部分」とは形状が異なります。このようなケースでも「実線部分」が基礎意匠と同一又は類似であれば、「自己の意匠」となり得ます(「基礎意匠に係る関連意匠」との関係でも同様に判断されます)。

▼図13

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ⅱ)「自己の意匠」に、他の創作物が加えられている場合1

「自己の意匠」に他の創作物が加えられている場合であっても、基礎意匠(又は「基礎意匠に係る関連意匠」)に相当する部分を、付加された創作物から区分して認識できる場合は、オリジナルの部分は「自己の意匠」として取り扱われます。

例えば、図14に示すように、基礎意匠が「自転車のサドル」のような部品の意匠であって、公知意匠が、そのサドルを使用した「自転車」である場合、サドル部分を、自転車から区分して認識できれば、サドルの部分については、「自己の意匠」となり得ます。

▼図14

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ⅲ)「自己の意匠」に、他の創作物が加えられている場合2

また基礎意匠等が完成品であって、そこに他の創作物が付加された場合も、基礎意匠等に相当する部分を、付加された他の創作物から区分して認識できる場合は、「自己の意匠」として取り扱われます。

図15の事例では、基礎意匠が「乗用自動車」の完成品であるのに対し、公知意匠は、その乗用自動車にエアスポイラー(他の創作物)が加えられています。
このような場合でも、乗用自動車の部分が、エアスポイラーから区分して認識できれば、乗用自動車の部分については、「自己の意匠」となり得ます。
なお、エアスポイラーが出願人自身が付加したものであっても、他人が付加したものであっても、同様に判断されます。

▼図15

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5)適用除外(10条8項括弧書き)に要注意

最後に、「自己の意匠」の特別措置が適用されないケースについて確認しておきたいと思います。

改正後10条8項括弧書きには、自己の意匠の特別措置の適用除外について定められており、「基礎意匠」又は、「基礎意匠に係る関連意匠」の出願や意匠権の「消滅後」は、「消滅した意匠と同一又は類似の公知意匠」について、自己の意匠の特別措置を受けることができないとされています(図16参照)。

「自己の公知意匠」と同一又は類似の関連意匠が、図16中の(1)~(7)のいずれかに該当するに至った場合は、その「自己の公知意匠」は、以降に出願される(他の)関連意匠の審査において、拒絶引例になり得るということです。

▼図16


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このような適用除外が設けられた趣旨は、意匠権等が消滅して、一旦パブリックドメインとなった意匠が、後願の関連意匠を登録することで復活することにより、第三者に不利益が及ぶのを防止することにあります。

日頃の実務において、拒絶理由に承服したり、出願を取下げたり、存続期間の途中で意匠権を放棄等する機会は割と多いと思います。
従前は、このような場面において、他の関連意匠出願の登録性への影響を考える必要は殆どなかったと思いますが、改正後においては、関連意匠を後から出願する可能性がある場合は、基礎意匠の出願日から10年間は、そのファミリーに属する意匠を不用意に消滅させないように注意する必要があるといえます。

ⅱ)改正後10条8項括弧書きにおける「当該関連意匠」とは?

ところで、図16における「当該関連意匠」には、どのようなものが該当するのでしょうか。審査基準案では以下の2つの要件を共に満たすとき、改正後10条8項括弧書きにおける「当該関連意匠」に該当するとされています。

要件1)願書の「本意匠の表示」の欄に、「基礎意匠」又は、「基礎意匠に係る関連意匠」(すなわちファミリーに属する意匠)が本意匠として記載されていること、且つ、

要件2)審査、審判又は再審において、その出願の意匠が、「基礎意匠」又は、「基礎意匠に係る関連意匠」の関連意匠であるとの判断が通知されていること

要件1)は「出願人側の意思表示」であり、要件2)は「特許庁側の判断」です。
この二つが揃ったときに限り、適用除外の対象となり、その「関連意匠」が消滅した後は、これと同一又は類似の自己の公知意匠について、自己の意匠の特別措置が受けられなくなります。

ⅲ)基礎意匠の意匠権が消滅したときは?

図16で示したように、改正後10条8項括弧書きが適用されるのは、「関連意匠」が消滅した場合となっています。
それでは「基礎意匠」を消滅させても、「自己の意匠」の特別措置は受けられるのでしょうか。

この点は、条文では明確に規定されていないのですが、審査基準案等においては、「基礎意匠」が消滅した場合でも、自己の意匠の特別措置が認められないとされています。

これは、10条8項括弧書きの趣旨(パブリックドメインとなった意匠の復活防止)を踏まえれば、当然、そのように解釈すべきという理由によるものです。

例えば、図17のケースにおいて、「関連意匠B」は、これと同一又は類似の公知意匠が存在しなければ、「基礎意匠」の消滅後であっても、「関連意匠A」を本意匠として意匠登録を受けることができます。

しかし、「関連意匠B」の出願前に、「基礎意匠」と同一又は類似の、「自己の公知意匠」が存在する場合は、Bの査定審決時に「基礎意匠」が消滅していると、自己の意匠の特別措置が受けられなくなり、たとえ本意匠がAであっても、Bを登録することができなくなります(図17中の(注2)の記載参照)。

▼図17

<拡大図>

改正後の意匠実務の中では、初期のデザインを「基礎意匠」として登録したのち、デザイン変更を繰り返す中で、後継デザインが、徐々に「基礎意匠」から離れていった場合に、「関連の関連」として意匠登録を受けることもあると思います。そして、「基礎意匠」が実施されなくなった場合、意匠権の放棄を検討する場面もあると思います。

そのときは、「基礎意匠」の意匠権を放棄等する前に、

□その「基礎意匠」と同一又は類似の、「自己の公知意匠」が存在しないか
□そのファミリーにおいて、追加の関連意匠を出願する可能性がないか

を精査した上で、放棄等の要否を決定する必要があるといえます。

ⅳ)「自己の意匠」に関するまとめ

以上のとおり、「自己の意匠の特別措置」は、創作法である意匠制度において、極めて「例外的な」規定であるといえます。このため、第三者の不利益を防止するために適用除外(「例外の例外」)が設けられています(図18参照)。

▼図18(関連意匠出願における新規性、創作非容易性の判断)

  関連意匠出願の審査における取扱 関連条文
①原則

「他人の公知意匠」との関係や、「基礎意匠等と同一又は類似ではない自己の公知意匠」との関係では、新規性、創作非容易性が求められる

3条1項各号
3条2項

②例外

「基礎意匠」又は、「基礎意匠に係る関連意匠」と同一又は類似の自己の公知意匠については、「自己の意匠の特別措置」が認められる

10条
2項、8項
③例外の例外

「基礎意匠」又は、「基礎意匠に係る関連意匠」が消滅した後は、消滅した意匠と同一又は類似の自己の公知意匠については、「自己の意匠の特別措置」が認められなくなる

10条
8項括弧書

上記①のとおり、「他人の創作に係る公知意匠」等との関係においては、改正後も特別措置は認められません。
関連意匠について、10年間もの出願期間が設けられたとはいえ、顧客吸引力の高い製品などは、発売後の早い時期に模倣品や、追随品が発生する可能性が高いといえます。

模倣品については、いわゆるデッドコピーを除き、原則、自己の意匠の特別措置の対象とはなり得ず、新規性等の拒絶引例となり得るため、関連意匠の登録性を高めるには、必要以上に出願時期を先延ばしにしないことも大切です。

ⅴ)現行法下の登録意匠を本意匠として、改正後に関連意匠を登録できるか?

現行法(改正前)の下で登録された意匠を本意匠として、改正後に関連意匠を出願することは可能か否かについて、2019年11月時点、法令は出されていませんが、これができないとする規定は存在しないため、認められる可能性が高いと考えられます。

これが可能となれば、「すでに意匠公報が発行された意匠に類似する意匠」や、「公開後1年以上が経過した意匠」、「関連意匠のみに類似する意匠」についても、関連意匠として登録できる可能性がでてきます。

「もっと関連意匠を出願しておけばよかった」という場合や、「自社の関連意匠で拒絶されて登録を諦めていた」等という場合に、改正後のリバイバル出願が認められるとすれば、改正法の活用の幅は、さらに広がるものと思われます。

改正を目前とした今、自社の保有する登録意匠の棚卸をして、出願しそびれていた関連意匠の有無などを確認しておいてはいかがでしょうか。

3.おわりに

細かな注意事項はありますが、今般の意匠法改正は、「デザイン」というものを、より広義に捉え、経営資源として活用していくことを、多面的に支援するものといえます。
本稿が、新しく生まれかわった意匠制度を、知財業務にスムーズに取り入れていくための一助となりましたら大変幸いに存じます。


※注1:
本稿の内容は、産業構造制度審議会のウェブサイトにおいて、2019年11月20日までに公開された審査基準案や、その他の資料に基づいています。以後の審議において基準案の内容に変更が生じる可能性がある点をご了承ください。

※注2:
本稿中に掲載した図の出典:
▼産業構造審議会知的財産分科会意匠制度小委員会意匠審査基準ワーキンググループ
https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/isho_wg/index.html

▼特許庁発行「イノベーション・ブランド構築に資する意匠法改正」
https://www.jpo.go.jp/resources/report/sonota-info/document/panhu/isho_kaisei_jp.pdf