判例研究『知財高裁平成27年(行ケ)第10219号 審決取消請求事件(フランク三浦事件)』の考察|パテントメディア|オンダ国際特許事務所

判例研究『知財高裁平成27年(行ケ)第10219号 審決取消請求事件(フランク三浦事件)』の考察|パテントメディア|オンダ国際特許事務所

アクセス

判例研究『知財高裁平成27年(行ケ)第10219号 審決取消請求事件(フランク三浦事件)』の考察

2019年9月
弁理士 佐久間勝久

著名ブランドのパロディマークの商標登録に対する無効審判の審決取消訴訟として、

・知財高裁平成21年(行ケ)第10404号事件(SHI-SA事件)

 (「 」VS「  」)

・知財高裁平成24年(行ケ)第10454号審決取消請求事件 (KUMA事件)

 (「」VS「」)

の2件の事件が知られている。これらの訴訟では、出願人のこれまでの行状や“具体的な取引状況”を考慮し、前者はPUMA社の無効請求が失敗、後者はPUMA社の無効請求が成功となった。

本件は、裁判においてやはり“具体的な取引状況”が考慮された事件である。本件については既に複数のネット記事で専門家の見解が示されているが、意匠商標本部の発足に伴い、本稿では意匠面でどのようなアプローチが可能であったかも検討する。

1. 知財高裁平成27年(行ケ)第10219号審決取消請求事件(フランク三浦事件)

本件は、原告(株式会社ディンクス)が、被告(エフエムティーエム ディストリビューション リミテッド:全世界の「FRANCK MULLER」ブランドの知的財産を所有・管理する会社)に対し、

  • 原告の商標登録第5517482号についての商標法第4条第1項第10号(未登録周知商標と類似)、同項第11号(先行登録商標と類似)の規定に該当すること、
  • 同項第10号及び同項第11号の規定に該当せずとも同項第15号(他人の著名商標と需要者が混同を生ずるおそれあり)の規定に該当すること、
  • これらすべての規定に該当せずとも同項第19号(周知商標の名声にフリーライドしようとする不正使用の意図あり)の規定に該当すること、

を理由とする無効審決(無効第2015-890035号事件)の取消を求めた審決取消訴訟である。

(1)本件の商標登録及び引用商標登録

①(無効審決された)本件商標

・登録番号:商標登録第5517482号(権利者:株式会社ディンクス)
・出願日:2012年3月27日(設定登録日:2012年8月24日)
・登録商標: (注:「浦」の右上に点なし)
・区分:第14類
・指定商品:時計,宝玉及びその原石並びに宝玉の模造品,キーホルダー,身飾品

②引用商標1

・登録番号:商標登録第4978655号(権利者:エフエムティーエム  ディストリビューション リミテッド)
・出願日:2005年3月25日(設定登録日:2006年8月11日)
・引用登録商標: (標準文字)
・区分:第14類
・指定商品: 貴金属(「貴金属の合金」を含む。),宝飾品,身飾品(「カフスボタン」を含む。),宝玉及びその模造品,宝玉の原石,宝石,時計(「計時用具」を含む。)

③引用商標2
・登録番号:商標登録第2701710号(権利者:エフエムティーエム  ディストリビューション リミテッド)
・出願日:1992年3月5日(設定登録日:1994年12月22日)
・引用登録商標:
・区分:第14類(及び第9類)
・指定商品:時計,時計の部品及び附属品

④引用商標3
・登録番号:国際登録第777029号
(権利者:FMTM Distribution Ltd)
・出願日:2012年3月13日(設定登録日:2013年5月2日)
・引用登録商標:
・区分:第14類
・指定商品: 未加工又は半加工の貴金属,貴金属製身飾品,鍵輪,貴金属製卓上食器セット(刃物類・フォーク及びスプーンを除く。),貴金属製調理用器具,jewellerry(宝飾品),宝玉、宝玉の原石,計時用具

(2)判決(2016年4月12日判決言渡、2017年3月2日確定)について

※主文抜粋
『特許庁が無効2015-890035号事件について平成27年9月8日にした無効審決を取り消す。』
※上記争点に対する結論抜粋
●引用登録商標の周知著名性
「FRANCK MULLER」は、本件商標の商標登録出願時及び登録査定時においては、外国の高級ブランドとしての被告商品を表示するものとして、我が国においても、需要者の間に広く認識され、周知となっていたものと認められる(原告も告使用商標の周知性を争っていない。)。』

●類似性
『本件商標と引用商標1は、称呼においては類似するものの、外観において明確に区別し得るものであり、観念においても大きく異なるものである上に、本件商標及び引用商標1の指定商品において、商標の称呼のみで出所が識別されるような実情も認められず、称呼による識別性が、マーク自体の外観及び観念による識別性を上回るともいえないから、(中略)本件商標は引用商標1に類似するものということはできない。』
引用商標1の場合と同様の理由により、本件商標及び引用商標2が同一又は類似の商品に使用されたとしても、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるとはいえず、本件商標は引用商標2に類似するものということはできない。』
引用商標2の場合と同様の理由により、本件商標及び引用商標3が同一又は類似の商品に使用されたとしても、商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるとはいえず、本件商標は引用商標3に類似するものということはできない。』

●取引の実情
『原告商品は、被告商品の価格の100分の1~1000分の1の廉価で販売され(中略)ている。さらに、被告商品の使用実態は宝飾品といっても過言ではなく、現に、デパートの時計宝飾サロン、時計・宝飾売場、ジュエリー&ウォッチコーナーなどで店舗や専用の販売スペースを構え、宝飾品と同様に販売されている。(注:原告の主張)
『本件商標の商標登録出願時及び登録査定時において、「FRANCK MULLER」を付した時計が、百貨店や時計店において展示する方法により販売され、また、商品の外観を撮影した写真を付して雑誌において広告宣伝されていた』
を付した原告商品は、インターネットで販売され、その際には、商品の外観を示す写真が掲載されている』

●混同を生ずるおそれ
『本件商標の指定商品のうちの「時計」については、商品の出所を識別するに当たり、商標の外観及び観念も重視されるものと認められ、その余の指定商品についても、時計と性質、用途、目的において関連するのであるから、これと異なるものではない。』
『高級ブランド商品を製造販売する被告のグループ会社が、原告商品のような(安価な)商品を製造販売することはおよそ考え難い』
『本件商標が商標法4条1項15号に該当するか否かは、飽くまで本件商標が同号所定の要件を満たすかどうかによって判断されるべきものであり、原告商品が被告商品のパロディに該当するか否かによって判断されるものではない。』
『本件商標の指定商品の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準としても、本件商標を上記指定商品に使用したときに、当該商品が被告又は被告と一定の緊密な営業上の関係若しくは被告と同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品であると誤信される(広義の混同を生じさせる)おそれがあるとはいえないというべきである。』

●結論
『本件商標は、(中略)商標法4条1項11号に該当するものとは認められない。』
『本件商標は商標法4条1項10号に該当するものとは認められず、…』
『本件商標は商標法4条1項15号に該当するものとは認められない。』
『本件商標は、被告使用商標のいずれとも類似するとはいえないから、本件商標が不正の目的をもって使用するものに該当するかどうかについて判断するまでもなく、本件商標は商標法4条1項19号に該当するものとは認められない。』
『以上のとおり、(中略)本件審決は取り消されるべきものである。』

注:斜字部分は筆者改変、追記

2.考察

原告の商品については、「三浦一族オンラインショップ」で確認可能である。
・http://tensaitokeishi.jp/html/page12.html
税込価格3,000円~16,000円
・販売場所:自社オンライン店舗、「ドン・キホーテ」、「ヨドバシカメラ」、「イトーヨーカ堂」等
※原告の商品の一例
(原告のホームページhttp://tensaitokeishi.jp/html/page12.htmlから引用)

 

被告の代表的な商品については、「『FRANCK MULLER(フランク ミュラー)』のオフィシャルウェブサイト」で確認可能である。
・https://www.franckmuller-japan.com/watch/detail/?id=24
税込価格2,376,000円
・https://www.franckmuller-japan.com/watch/detail/?id=74
税込価格1,674,000円
・販売場所:自社直営ブティック(東京、銀座)、デパート内ブティック及びサロン、ホテル内ブティック等
※被告の商品の一例
(被告のホームぺージhttps://www.franckmuller-japan.com/watch/?から引用)

「日経ビジネス」(2018年3月23日付記事)
https://business.nikkei.com/atcl/interview/15/238739/032000282/ によると、
・「フランク三浦」の商品企画は2011年頃
・ヤクルトスワローズの所属選手を含む球団関係者の口コミで商品が普及
・その情報を察知した大手流通が、取引開始にあたり商標登録を指示
・当該指示にしたがって「フランク三浦(「浦」の右上に点なし」を出願し、商標登録後に一気に流通ルートが拡大。
となっている。
以上より、本件の出願時及び査定時には、「FRANCK MULLER」のパロディ商品が被告商品と比べて極めて低価格で販売されていたことになる。
また、本件の出願時及び査定時において、日本で「FRANCK MULLER」が外国の高級ブランドとして周知されていた事実に争いはない。

(1)本件の「類否判断」について

商標の類否については、いわゆる氷山印事件(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)の判決に沿って判断している。
当該判決のポイントは、

・商標の類否は、互いの外観、称呼、観念によって取引者に与える印象等を総合して判断、
・商品の取引の実情を明らかにできる限り、具体的な取引状況に基づいて判断、
・外観、称呼、観念のうち1つが類似する場合であっても、具体的な取引状況により他の2つが著しく相違しており、商品の出所混同を生じ難い場合は非類似と判断すべき、

というものである。
本件商標と各引用商標とは称呼類似と判断すべきであるが、上述の取引状況に鑑みると取引者が商品の出所混同を生じ難いと判断可能であるため、知財高裁の判断は妥当と考える。
なお、商標審査基準では外観、称呼、観念のうち1点でも類似すれば商標類似と判断するとなっており、特に称呼を重視して審査官は類否判断している。そのため商標実務上は、同基準に基づいて商標の類否を判断している。

(2)本件の「混同のおそれ」に対する判断について

商標法第4条第1項第15号の混同を生ずるおそれについては、いわゆるレールデュタン事件(最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参照)の判決に沿って判断している。
当該判決による混同を生ずるおそれの判断ポイントは、

・当該商標と他人の表示との類似性の程度、
・他人の表示の周知著名性及び独創性の程度、
・指定商品又は指定役務と他人の業務に係る商品又は役務との間の性質、用途又は目的における関連性の程度、
・取引実情

などに基づき、当該商標の指定商品又は指定役務の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断すべき、というものである。
上述の取引状況に鑑みると、販売形式や商品価格に著しい差があるため、取引者や需要者が原告商品と被告商品とを比較していわゆる“広義の混同”を生じさせる可能性はほとんどないと言える。そのため、知財高裁の判断は妥当と考える。

3.実務上の指針

腕時計等の製品では、特に高価格帯のいわゆる「ブランド物」であれば、遠くからでもどこの製品かを容易に判別可能な「顔」を有している。また、「デザイン経営」が叫ばれる昨今、あらゆる製品で独自性を主張するデザインが採用される可能性が高いと予想する。
このような独自性を有するデザインは、創作容易ではないとともに、他社製品と区別する十分な自他商品識別力を有している。そのため、今後は独自性を主張する商品の「顔」を商標及び意匠で保護していくことが重要になる。
本件を例にとると、「」と「判例研究『知財高裁平成27年(行ケ)第10219号 審決取消請求事件(フランク三浦事件)』の考察 | 2019年」等との称呼類似よりも、原告製品の文字盤のデザインと被告製品の文字盤との外観の類似度が高いことを需要者が容易に認識するはずである。それゆえに、被告は文字商標のみの出願ではなく、
・文字盤のデザインを図形の商標として商標登録し、
・文字盤のデザインを「腕時計本体」「腕時計本体の部分意匠」「腕時計用文字盤」「腕時計用文字盤の部分意匠」等で意匠登録しておけば、今回のような低価格パロディ品の販売を阻止できたと考える。
本件のように商標及び意匠での保護を検討可能な事例として、以下の事例を当所では現状想定している(商標の出願公報の発行により意匠が公知となるため、原則、意匠登録出願後に商標登録出願する必要がある)。

<事例1>
「画像意匠」と「図形商標」
例:スマートフォン等の画面上のプログラムの起動用アイコンを画像意匠として保護するとともに、同アイコンを当該プログラム及びそのプログラムで提供するサービスの図形商標として保護する。

<事例2>
「製品パッケージ意匠」と「パッケージに記載されたロゴタイプ商標」
例:日本酒のブランドを表す揮毫された文字が表面に印刷された当該日本酒の化粧箱を意匠で保護するとともに、当該文字を日本酒のロゴタイプ商標として保護する。

<事例3>
「部分意匠」と「図形商標」
例:ポロシャツ等のエンブレムを部分意匠として保護するとともに、当該エンブレムをポロシャツ等の図形商標として保護する。

<事例4>
「全体意匠」と「立体商標」

例:  

・全体意匠:意匠登録第1415239号 (意匠権者:エルメス セリエ)

 ※斜視図のみ公報から引用

・全体意匠:意匠登録第1389843号 (意匠権者:エルメス セリエ)

 ※斜視図のみ公報から引用

・立体商標:商標登録第5438059号
(商標権者:エルメス・アンテルナショナル)

 ※斜視図のみ登録公報から引用

※立体商標の登録は二次元の図形商標の登録よりも依然として困難であるため、できる限り商品の顔を図形商標として出願することが望ましいと言える。

今後は改正意匠法の内容を考慮しつつ、商標及び意匠での保護を検討可能な他の事例を引き続き検討していく予定である。

以上