米国特許改正法(America Invents Act)における重要な改正事項|外国知財情報|オンダ国際特許事務所

米国特許改正法(America Invents Act)における重要な改正事項|外国知財情報|オンダ国際特許事務所

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米国特許改正法(America Invents Act)における重要な改正事項

(パテントメディア2013年5月発行第97号掲載)
米国特許弁護士 ジェームズ・バーロー

米国特許改正法(AIA)によって多くの改正が米国特許法に加えられました。そのすべてを紹介するには紙面に限りがありますので、ここでは特に重要な変更点についてご説明します。AIAの変更点としては先発明主義から先願主義への移行が第一に挙げられますが、この先願主義規定により、ある2つの米国出願の優先性は、どちらが先に出願されているかを基準として決定されるようになりました。このため、米国特許弁護士にとっては大変重要な変更点になります。しかし、日本の出願人にとっては、この変更点は米国の制度を日本の従来からの制度に近づけるものであり、その影響は大きくありません。日本の出願人は、米国特許法の如何にかかわらず、できるだけ早く国内出願を行う必要があります。従って、先願主義規定は日本の出願人にとって特に重要な変更ではないと思われますので省略し、以下には、日本の出願人にとって影響度の高い改正事項について考察します。

非米国出願日の先行技術効力

米国以外の国での特許出願日が、米国において先行技術効力を持つようになりました。これは、公開された日本出願がその日本出願日を基準として、米国特許庁にて係属中のある米国出願に対する先行技術として認められるようになったということです。AIA施行以前の米国法においては、米国以外の国における出願日は先行技術の効力発生日ではありませんでした。つまり、AIA施行以前は、米国出願に対して日本出願が先行技術となり得るか否かの判断は日本出願の出願日を基準としておらず、先に公開された日本出願のみが先行技術として認められていました。しかしこれからは、日本出願の出願日に基づき、先に出願された日本出願を根拠として米国出願のクレームを拒絶できるようなります。審査官は、このような先行技術を新規性拒絶及び自明性拒絶のいずれにも用いることができます。この改正が米国出願の出願人に与える影響は以下の二点です。a)AIA施行前には先行技術であると認められていなかった競合他社の出願により、自社の米国出願が拒絶される可能性がある。b)競合他社の米国出願に対して先行技術となり得る自社の日本出願が増える。

この改正により問題となるのは、米国審査官が外国語文献をどのように処理するかです。例えば、米国審査官が英語の米国出願公報である引例を発見し、その引例が英語以外の言語で書かれた非米国出願の優先権を主張するものであったとします。AIAの施行により、その引例の基礎出願の非米国出願日に基づいて、この引例を拒絶の根拠として用いることができるようになりました。しかし、審査官が英語以外の言語で記載された基礎出願を読める可能性はほとんどありません。このような場合、審査官は、英語の引例がその基礎出願と実質的に同じであると想定すると思われます。この想定は多くの場合間違いではありません。とはいえ、基礎出願が出願されてからその出願が後に米国に出願されるまでの間にいくつかの内容が追加されることもよくあります。つまり、米国出願公報は、その米国出願の基礎出願の内容と一致していない可能性があるのです。従って、自社の出願が米国審査官により拒絶され、その拒絶が非英語出願の出願日に依拠するものであった場合、審査官が拒絶の根拠とする内容が基礎出願に実際に記載されているか確認した方が良いでしょう。審査官は基礎出願の開示内容を確認していないかもしれません。

この点について以下に図示します。下図の独国基礎出願は、審査官が拒絶の根拠とする内容を開示しているでしょうか?もし開示していないのであれば、拒絶の根拠とされた内容が独国基礎出願に開示されていないことを主張することにより、拒絶を克服できます。

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同様に、日本からのPCT出願についても、出願が英語で公開されたか否かに関わらず、そのPCT出願日が、他の出願に対する先行技術としての効力発生日として認められるようになりました。AIA施行前は、日本からのPCT出願が日本語で公開された場合、そのPCT出願の出願日は、他の米国出願のクレームを拒絶するための先行技術としての効力発生日とはなりませんでした。これからは、英語で公開されているか否かに関わらず、先の出願日を有する日本からのPCT出願を根拠として、他出願のクレームを拒絶することが可能になります。この改正が日本の出願人に与える影響は以下の二点です。
a)AIA施行前には先行技術となり得なかった競合他社のPCT出願により自社の米国出願が拒絶される可能性がある。
b)競合他社の米国出願の先行技術となり得る自社のPCT出願が増える。

同一人所有の例外

AIA施行前は、ある条件の下では、自明性拒絶の根拠となる先行技術として同一人により所有された引例を用いることはできませんでした。AIAにおいては、対象出願の出願時にその出願の所有者と同一の所有者により所有されているが発明者の異なる米国特許又は出願は、その米国特許又は出願が対象出願の出願日より先に公開されている場合にのみ先行技術として認められるようになります。これは新規性拒絶及び自明性拒絶のどちらにも適用されます。この改正は、関連出願を多く行う企業にとって重要であると思われます。

本事項の一例を以下に図示します。

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上図の引例は、対象出願の所有者と同一である所有者により所有されておりますが、発明者が異なります。AIA施行前は、この引例は米国特許法第102条(e)に該当する先行技術として認められていました。所有者が同一であるため自明性拒絶の根拠とはなり得ませんでしたが、新規性拒絶の根拠としては使用できました。しかし、AIAにおいては出願人はこの引例を排除できます。この引例は、同一所有者による例外の適用により、先行技術として認められません。

上図において、対象出願の日本出願日が引例の公開日に先行していることに留意下さい。対象出願の出願日よりも引例の公開日が早い場合は、結果が異なります。AIAの下では、自明性拒絶であるか新規性拒絶であるかは問題となりません。従って、AIAにより、同一人所有の例外が若干拡大されたことになります。

権利化前情報提供

競合他社の出願を審査している審査官への先行技術の提供が若干容易化されました。このような情報提供は「権利化前情報提供(Pre-Issuance Submissions)」と呼ばれており、その手続きはIDS提出の手続きに類似しています。競合他社の出願に対して先行技術を提出できるか否かは、その出願の経過及び状態に応じて決定されます。先行技術は審査の初期段階に提出しなければなりません。権利化前情報提供を行いたいのであれば、まず米国特許庁のウェブサイトにアクセスして対象出願に特許許可通知が発行されているか否かを確認して下さい。もしすでに特許許可通知が発行されていたら情報提供を行うことはできません。特許許可通知の発行前であった場合は、審査官により最初の拒絶理由通知が発行されているか否か、及びその出願の公開から6ヶ月以上経過しているか否かを確認して下さい。情報提供を行うことのできる期間は、a)公開日より6ヶ月後の期日、及びb)最初の拒絶理由通知の発行日のうち、いずれか遅い方の期日をもって締め切られます。

付与後レビュー

AIAにより「付与後レビュー(Post-Grant Review)」という制度が成立しました。これは、欧州の異議申立て制度に類似する制度です。
この制度は、出願日又は優先日が2013年3月16日以降である出願に付与される特許に対して適用されます。このため、本制度の実施は早くても2014年頃となるでしょう。また、付与後レビューの申請は対象特許の付与後9ヶ月以内に行う必要があります。従って、この制度を利用するためには、競合他社の特許を監視し、特許付与後は素早く対処しなければなりません。また、付与後レビュー制度により特許に異議を申し立てる者は特定されますので、匿名で行うことはできません。

当事者系レビュー

「当事者系レビュー(Inter-Partes Review)」もAIAにおいて新たに成立した制度です。この制度はAIA施行前の当事者系再審査に類似していますが、当事者系再審査に代わり実施されることになりました。「当事者系」ということは、特許権者だけでなく、異議申立人も関与できるということです。付与後レビューが進行中でなく、特許付与から9ヶ月が経過した後に、この当事者系レビューにより特許に異議を申し立てることができます。ただし、特許の無効理由は、特許又は刊行物に基づく新規性・自明性(米国特許法102条又は103条)の欠如に限定されます。また、当事者系レビュー制度により特許に異議を申し立てる者は特定されますので、匿名で行うことはできません。

査定系再審査についてはAIAによる変更点はありません。「査定系」とは、最初の申請後は特許権者のみが手続きに関与できることを意味します。査定系再審査の申請は匿名で行うことができます。

補充審査

AIAにより「補充審査(Supplemental Examination)」という手続きも新たに規定されました。この手続きは、特許付与後に特許権者が先行技術を提出する際に利用されます。ただし、最初の審査において審査官に対して意図的に提示しなかった文献を提出することはできません。特許付与後に先行技術が発見された場合は、特許権者はその先行技術を考慮してもらうよう申請することができます。特許庁が、その先行技術により特許性に関する実質的で新たな問題(substantial new question of patentability)が生じないと判断した場合は、手続きはそこで終了されます。反対に、その先行技術により特許性に関する実質的で新たな問題が生じると判断された場合は、特許庁はその特許の査定系再審査を開始します。特許権者は査定系再審査の費用を請求されますが、この費用はかなり高額です。AIA施行前でも、特許権者が再審査請求することにより先行技術文献の考慮を申請することは可能でした。AIAによる変更点は、特許性に関する実質的で新たな問題が生じない場合には再審査が行われないため、高額の再審査費用が必要とならないということです。補充審査の申請自体にかかる費用はそれほど高額ではありません。

真の発明者決定手続き

AIA施行前は、内容が同一である2つの出願の優先性を「インターフェアレンス」という手続きにより決定していました。この手続きはAIAでは廃止され、代わりに新しい制度である「真の発明者決定手続き(Derivation)」が規定されました。この手続きは、係属中の出願の発明が、後に出願された別の出願の発明者を出所とするものであるか否かを特許庁が判断するものです。換言すると、真の発明者決定手続により、係属中の出願の発明者がその発明を他者から得たのであるか否か、すなわち真の発明者であるか否か、が判断されます。

米国以外における公然実施及び販売の先行技術効力

AIA施行前は、日本での公然実施及び販売は米国では先行技術となり得ませんでした。このため、ある米国特許の出願日に先んじて日本企業が日本において公然実施又は販売していた製品であっても、その製品が刊行物により開示されていなかった場合、その米国特許の権利侵害を米国で訴えられる可能性がありました。旧法の下では、米国国外での行為のうち、米国において先行技術たり得るのは刊行物による開示のみでした。現法では、米国国外での商業的販売や公然実施も、米国特許のクレームを無効にするための先行技術となり得ます。権利侵害を訴えられた企業にとっては、原告の特許クレームを無効化できる可能性が増加しました。

AIAにおける改正は他にも数多くあります。ここでは、日本の出願人に影響を及ぼす可能性のある重要な改正点をいくつかご紹介しました。

以上