ASEAN知的財産レポート ~タイ特許制度~|パテントメディア|オンダ国際特許事務所

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ASEAN知的財産レポート ~タイ特許制度~

2015年1月
所長 弁理士 恩田 誠

ASEAN諸国の知財制度についてご紹介するこのコーナー、第3回は、ASEANの中でも日本からの進出企業が多く注目度の高い、タイの特許制度についてご紹介します。

1.出願手続

タイは、パリ条約の同盟国であり、PCTの締約国でもあります。
パリ条約の優先権主張による特許出願(以下、パリルートという)の場合、日本出願から12ヶ月以内に英語で出願し、その後90日以内にタイ語明細書を提出するという流れが一般的です。英語に代えて日本語で出願することもできますが、日本語を扱うことのできる事務所が限られる上、日本語からタイ語への翻訳の品質上の心配もありますので、英語で出願するのが無難でしょう。

PCT出願の場合、日本出願日すなわち優先日から30ヶ月以内に、タイに国内移行する必要があります。国内移行に際しては30ヶ月以内にタイ語明細書を提出する必要があります。すなわち、国内移行期限の時点でタイ語明細書が必要であり、この点、国内移行期限の時点で英語明細書を提出すればよいインドネシアとは異なります。

PCT出願の翻訳文の誤訳は、PCT明細書を基準に訂正することができますが、パリルート出願については誤訳訂正制度は明文化されておりません。いずれにしましても、タイ語の翻訳文を出願人側でチェックすることは現実的に困難ですので、誤訳の可能性を極力減らすことのできる明確な英語明細書を準備する必要があります。

タイへ出願を行う場合には、パリルート出願にしろPCT国内移行にしろ、まず英語明細書を準備し、それを現地の特許事務所に送り、タイ語明細書を作成してもらった上で、タイ特許庁へ提出してもらう、という流れとなります。

なお、タイでは、タイで生まれた発明の取り扱いについて特別な制約(第一国出願義務)はなく、タイで生まれた発明を最初にタイで出願する必要はありません。すなわち、タイで生まれた発明を先ず日本で出願しておき、その日本出願を優先権主張の基礎としてタイを含む各国へ出願するといったことが可能です。

2.異議申立制度

タイには実体審査前の異議申立制度があり、異議申立があると異議申立書や答弁書の内容について審議されます。異議申立期間は出願公開から90日以内です。

異議申立の通知を受け取った出願人は、90日以内に答弁書及び、必要に応じて補正書を提出する必要があります。この期間に対する延長は認められず、答弁書を提出しないときは出願放棄したものとみなされます。

異議申立が認められた場合、出願人は60日以内に審判請求が可能です。異議理由なしとなった場合には、異議申立が却下され、出願が是認されます。ただし、これは実体審査前の異議申立が却下されたというだけのことであり、これによって特許査定が得られるわけではありません。したがって、審査請求はその後、別途行う必要があります。

3.公開、審査請求、補正、分割
  • タイには出願公開の時期に関する規定がなく、出願が方式要件を満たしかつ不特許事由に該当しないことが認められたときに公開されます。公開前には公開公報発行手数料を庁から請求されますが、通常は、その請求を受けた後に支払いを行ってから2ヶ月後程で公開されます。
    当所が扱った事例では、出願日から1年半~2年半経過後に公開される場合が多いですが、出願日から6年経過後に公開された事例もありました。これは方式審査の遅れが原因のようでした。
  • 審査請求期限は、公開公報発行日から5年以内、異議申立があった場合にはその最終決定後1年以内、のいずれか遅くに到来する期限となります。なお、出願時には審査請求できません。
  • 自発的な補正は特許付与前まで可能ですが、出願公開後は長官の許可が必要です。請求の範囲を拡大する補正は、出願当初の明細書の要旨を変更しない範囲内において認められます。また、発明を明確にするための実施例や比較例の追加も可能です。
  • 分割出願は、庁からの指令に基づく場合のみ、通知受領後120日以内に可能です。自発的な分割出願は規定上は認められておりませんが、分割を希望する旨の上申書を提出すれば認められることもあるそうです。
4.他国出願情報の報告

タイでは、他国出願情報の提出が制度化されています(タイ特許法第27条)。
提出期限に関し、他国での審査結果の受領から90日以内との規定はありますが、実質上制限はないとのことです。
また、他国出願が複数あっても、任意の1国分の情報を提出するだけでよいようです。
審査官の要求があったときには、他国情報のタイ語の翻訳を提出する必要がありますが、そのような要求を受けることはまれであり、通常は英訳で足りる場合がほとんどです。

5.審査

タイの審査は、実質的に修正実体審査(MSE:Modified Substantive Examination)が採用されています。修正実体審査とは、対応他国出願の審査結果等を提出することにより、実体審査を行うことなく、対応出願の特許クレームにて特許査定が得られる制度です。

通常、審査官は、提出済みの他国特許公報のクレームに合わせる補正を要求し、その要求に従うことによって特許査定が得られます。他国審査結果情報が提出されない限り、出願は放置され、審査は進みません。

オーストラリア特許庁への審査委託、あるいは国内の指定された大学や研究機関への国内審査委託も可能であり、これは審査官から指示されるか、出願人自らが要請することもできます。他国出願がない場合には、このような形で審査を行う必要があります。ただし、国内審査は品質に問題があり、一方、オーストラリア特許庁への審査委託は高額で、8万バーツ(約24万円)との話もあります。

当所がこれまで扱った事例からは、次のことが分かります。

  • 通常、他国情報の提出から1年~2年で庁通知が発行されます。また、庁通知への応答から半年~1年程で特許査定が得られます。
  • 通常、提出した他国特許クレームで許可され、それ以外の他国情報を審査官から要求されることはありません。
  • 場合によっては、他国情報の提出から6~8年経過しても審査が開始されないこともあります。
6.タイ出願の対応策
  • 他国情報の提出に際しては、他国特許公報のうち、最も望ましい特許クレームを含む特許公報を提出することです。このようにすれば、望ましい特許クレームで権利化できる可能性が高くなります。
  • 早期権利化を目指すのであれば、他国特許公報を提出するのと同時に他国特許クレームへの補正を自発的に行うことをお勧めします。
  • 他国の審査結果を提出しなければ審査が進みませんので、早期権利化を目指すのであれば、他国出願のうち、審査請求制度のある国については極力早めに審査請求することをお勧めします。その場合、各国で早期審査制度も積極的に利用するのが望ましいです。
  • 日本特許クレームを利用した特許審査ハイウェイ(PPH)が2014年1月1日より開始されていますので、日本特許クレームで早期に権利化したい場合には、日本特許クレームを利用したPPHの実施をお勧めします。PPHは審査着手前に行う必要がありますが、他国の審査結果を提出しなければ審査が進みませんので、意図せずにPPHが利用できなくなるというおそれはないと思われます。現在までに、数十件のPPHを利用した出願があり、すでに特許査定されたものが存在するとの情報もあります。ただ、PPHが開始されたばかりで申請件数が少ないために非常に短い審査期間で特許査定となっていますが、今後申請件数が増加した場合に、どの程度の審査期間となるかについては留意が必要です。
  • 国際段階の成果物を利用した特許審査ハイウェイ(PCT-PPH)はタイでは利用できません。
7.小特許制度

タイには、日本の実用新案に相当する小特許が存在します。日本の実用新案と同様、無審査登録ですが、保護対象は特許と同じです。特許要件は産業上利用性と新規性のみで、進歩性は問われません。
小特許の発行前であれば、特許出願への変更が可能です。また、特許出願の公開前であれば、小特許への変更が可能です。ただし、特許と小特許の併願は認められません。

なお、利害関係人は、小特許の登録公報発行日より1年以内に実体審査を請求することができます。
進歩性に欠けるものやライフサイクルの短いものを対象とするなど、使い方によっては小特許にはメリットがある可能性もあります。

以上