ASEAN知的財産レポート ~インドネシア特許制度~|外国知財情報|オンダ国際特許事務所

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ASEAN知的財産レポート ~インドネシア特許制度~

(パテントメディア2014年9月発行第101号掲載)
所長 弁理士 恩田 誠

知的財産業界でもASEAN諸国について話題に上ることが多い昨今ですが、その中でも特に注目度が上がってきているインドネシアの特許制度についてご紹介します。

1.出願手続

インドネシアは、パリ条約の同盟国であり、PCTの締約国でもあります。
パリ条約の優先権主張による特許出願(以下、パリルートという)の場合、日本出願から12ヶ月以内に英語で出願し、その後30日以内にインドネシア語明細書を提出するという流れが一般的です。直接インドネシア語で出願することもできますが、実務上は、審査官がインドネシア語への翻訳をチェックするために、英語明細書の提出を出願人に求めるとのことです。
PCT出願の場合、日本出願日すなわち優先日から31ヶ月以内に、インドネシアに国内移行する必要があります。国内移行に際しては31ヶ月以内に英語明細書を提出し、その後30日以内にインドネシア語明細書を提出することが可能です。
PCT出願の翻訳文の誤訳は、PCT明細書を基準に訂正することができますが、パリルート出願については誤訳訂正制度は明文化されておりません。いずれにしましても、インドネシア語の翻訳文を出願人側でチェックすることは現実的に困難ですので、誤訳の可能性を極力減らすことのできる明確な英語明細書を準備する必要があります。
インドネシア出願を行う場合には、パリルート出願にしろPCT国内移行にしろ、まず英語明細書を準備し、それを現地の特許事務所に送り、インドネシア語明細書を作成してもらった上で、インドネシア特許庁へ提出してもらう、という流れとなります。
なお、インドネシアでは、インドネシアで生まれた発明の取り扱いについて特別な制約はなく、インドネシアで生まれた発明を最初にインドネシアで出願する必要はありません。すなわち、インドネシアで生まれた発明を先ず日本で出願しておき、その日本出願を優先権主張の基礎としてインドネシアを含む各国へ出願するといったことが可能です。

2.自己衝突の問題

インドネシア特許法では、日本の特許法第29条の2(拡大された先願の地位)における出願人が同一の場合の例外規定に相当する規定はありません。すなわち、出願時に未公開であった先願は、それが同一出願人の出願であっても先行技術であるとみなされます。このように、自己の先願によって自己の後願が拒絶され得るということを、自己衝突(Self-Collision)といいます。
なお、先願、後願ともに、優先権を主張している場合には、優先日がインドネシア出願日とみなされます。従いまして、実施形態の内容が重複するような複数の関連出願については、優先日が同一となるよう、同日に日本出願しておく必要があります。
もし同日に日本出願を行うことができなかった場合には、先願の優先権主張期間内であれば、先願も優先権主張の基礎としてインドネシア出願を行うという手段を採ることができます。
つまり具体的には、先願Aの内容に基づくインドネシア出願A’と、後願Bの内容に基づくインドネシア出願B’とをそれぞれ行う場合、インドネシア出願A’は先願Aを優先権主張の基礎として出願する一方、インドネシア出願B’は先願Aと後願Bとの両方を優先権主張の基礎として出願するということです。このようにすれば、自己衝突は回避可能です。

3.異議申立制度・特許取消の手段

インドネシア特有の制度ですが、出願公開から6ヶ月間、第三者は異議申立が可能です。出願人はこの異議申立に対して答弁書を提出可能です。ただし、異議申立や答弁書の内容は、その後に行われる審査の参考資料として使われるのみで、異議申立や答弁書に対して庁の見解が示されるわけではありません。よって、異議申立といいましても、その実体は日本の情報提供に相当するものです。なお、特許付与後の異議申立制度はありません。
特許無効の訴えについてですが、インドネシアには、無効審判制度はなく、また訂正審判制度もありません。特許を取り消すためには商務裁判所へ提訴する必要があります。
また、特許後の訂正はできませんので、特許無効の訴えに対して特許の訂正で対応することはできません。従って、無効理由が存在する可能性のあるような広い権利範囲で特許を取得することは、できるだけ避けた方がよいでしょう。

4.公開、審査請求、補正

公開は出願日又は優先日から18ヶ月後であり、6ヶ月間、特許庁の公開専用の掲示板に掲載されます。また、手数料の支払いにより早期公開の請求が可能です。
審査請求期限は、パリルート及びPCT国内移行のいずれについても、出願日から36ヶ月です。公開期間満了前には、実体審査は行われません。
なお、インドネシア特許法第54条には、「審査請求受理日又は公開期間満了日から36ヶ月以内に出願の承認又は拒絶の決定をしなければならない」とあります。当所の取り扱い案件をみますと、対応他国出願で特許になっている場合、審査請求から1~2年で拒絶理由通知が発行される例が比較的多くありますので、概ね遵守されているようです。
自発的な補正については、最終決定(特許査定又は拒絶査定)が出される前ならいつでも可能です。請求の範囲を拡大する補正も、出願当初の明細書及び図面の範囲内において認められます。発明の理解を容易にするための実施例や比較例の追加も可能です。

5.審査

審査は対応他国出願の審査結果を参考にする場合が多く、当所の取り扱い案件をみてみますと、自国で独自に審査したケースはほとんどありません。他国情報の自発的な提出義務はありませんが、審査官は他国情報の提出を要求することができるとされています。
実務上は、審査官自らが他国情報を調査した上で、他国で特許になっていれば、その他国特許クレームに合わせる補正を要求するという場合がほとんどです。審査官の要求どおりにクレームを補正すれば、ほとんどのケースで速やかに特許付与通知が発行されます。
当所がこれまで扱った事例からは、次のことが分かります。

●PCTを含む他国で審査結果が出ている場合には、審査請求から1~2年で庁通知が発行されることが多いです。国際段階で肯定的見解が得られている場合には、そのクレームのまま許可されることもあります。

●米国特許クレームに合わせる補正の勧めが最も多いです。これは米国の審査が他国よりも早い傾向にある影響かもしれません。また、米国と他国とで特許になっている場合、米国特許クレームに合わせることを提案される場合が多いです。一方、米国で特許になっていない場合、日本、欧州、中国、さらにはロシア、韓国の特許クレームに合わせる提案を受けることもあります。

●審査官の勧めに従わない場合には、速やかに特許付与通知を得られない可能性があります。

●長期にわたって審査されず停滞している案件については、特許済みの他国クレームに合わせる補正を自発的に行うことによって、審査が促進される可能性が高いです。

6.インドネシア出願の対応策

●庁通知を受ける前に、他国特許クレームのうち、最も望ましい特許クレームに合わせる補正を自発的に行っておくことです。このようにすれば、出願人が望んでいない他国特許クレームに合わせる補正の提案を審査官から受ける前に、出願人が希望する他国特許クレームで早期に権利化できる可能性が高くなると思われます。

●特に、長期停滞案件については、審査を促進するために、特許済みの他国クレームに合わせる自発補正を積極的に行うことをお勧めします。

●他国の審査結果がなければ審査が進みませんので、早期権利化を目指すのであれば、他国出願のうち、審査請求制度のある国については極力早めに審査請求することをお勧めします。その場合、各国で早期審査制度も積極的に利用するのが望ましいです。

●日本特許クレームを利用した特許審査ハイウェイ(PPH)が2013年6月1日より開始されていますので、日本と米国を含む他国とで特許になっているものの、日本特許クレームで早期に権利化したい場合には、日本特許クレームを利用したPPHを実施することをお勧めします。

●国際段階の成果物を利用した特許審査ハイウェイ(PCT-PPH)も可能ですので、国際段階で肯定的見解の得られたクレームで早期に権利化したい場合には、PCT-PPHを実施することをお勧めします。なお、PPHは審査着中前に行う必要がありますので、PPHを利用する場合には実施のタイミングに注意が必要です。