空間デザインと意匠出願|知財レポート/判例研究|弁理士法人オンダ国際特許事務所

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空間デザインと意匠出願

(パテントメディア2020年9月発行第119号掲載)
弁理士 山崎理恵
弁理士会著作権委員会
京都造形芸術大学 芸術学部 デザイン科(建築デザインコース)卒業

100年に一度といわれる意匠法の大改正が行われ、2020年4月より建築物・内装の意匠が出願可能となりました。本稿では、新たな登録対象となった空間デザインに関して、実務的な注意点を中心に解説したいと思います。

 

1.改正の背景について

これまで、建築物・内装のデザインは意匠法では保護を受けることができず、例外的に、図1,2のような「組立家屋」や「組立室」として登録されるのみでした。

▼図1 「組立家屋」
空間デザインと意匠出願 | 2020年
▼図2 「組立室」
空間デザインと意匠出願 | 2020年

そこで、不正競争防止法や著作権法による保護を求めていましたが、これらの法律による保護のハードルは非常に高いものでした。

(1)不正競争防止法

コメダ珈琲事件(東京地裁 平成28年12月19日決定 平成27年(ヨ)第22042号 仮処分命令申立事件)では、不正競争防止法に基づく店舗の外装、店内構造と内装による表示の使用差し止めの仮処分が認められました。
それまでも店舗外観について不正競争防止法に基づいて争われた例はありましたが、店舗外観の使用差し止めが容認されたのはこのケースが初めてでした。
不正競争防止法は、不正競争行為があったかどうかという、相手方の行為を争点とするため、予見可能性が低く店舗外観について保護を受けることは難しいものでした。

 

▼図3
原告店舗               

空間デザインと意匠出願 | 2020年

被告店舗
空間デザインと意匠出願 | 2020年

(2)著作権法

著作権法において、建築物は著作物(法10条1項5号)と明記されています。しかし、一般住宅については、著作権法で保護を受けることはできませんでした。
モデルハウスについて争われた、グルニエダイン事件(大阪高裁平成16年9月29日判決(平成15年(ネ)第3575号)では、一般住宅が建築の著作物として保護されるためには、独立して美的鑑賞の対象となり、造形芸術としての美術性を備える必要がある。モデルハウスは「建築の著作物」には該当しないとされました。
空間デザインと意匠出願 | 2020年

これに対して、改正意匠法では、新規性及び創作非容易性などの要件を満たせば、意匠登録を受けることができ、建築物や内装のデザインを意匠権に基づき容易に保護することが可能となりました。以下、具体的にどのような建築物や内装を保護できるか見ていきたいと思います。

 

2.保護対象
(1)建築物

意匠法2条1項

この法律で「意匠」とは、物品(物品の部分を含む。以下同じ。)の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合(以下「形状等」という。)、建築物(建築物の部分を含む。以下同じ。)の形状等(中略)であつて、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう。

改正意匠法では、「意匠」には建築物が含まれることが明記されました。意匠法上の建築物に該当するための要件は審査基準に定められています。(意匠審査基準 第Ⅳ部第2章「建築物の意匠」3.1)

ⅰ)土地の定着物であること。
ⅱ)人工構造物であること。土木構造物を含む。

意匠法の法目的に基づき、意匠の創作の対象となるものは広く意匠法で保護されるべきとの考えに基づき、建築基準法の定義等における用語の意よりも広く、建設される物体を指し、土木構造物が含まれます。

空間デザインと意匠出願 | 2020年

 

ここで、例えば住宅をデザインする場合、住宅そのものだけをデザインするのではなく、その住宅が建設される敷地の形状、方角、周辺環境を考慮した上で、敷地内における住宅の配置や外構計画も含めてデザインがなされます。
意匠法で保護される「建築物」にはどこまでの範囲を含むことができるのでしょうか。建築物の一意匠の考え方は、物品とは少し異なるので注意が必要です。
審査基準では、
「社会通念上、建築物又は土地に継続的に固定し任意に動かさない、建築物に付随する範囲内の物品については、建築物の意匠の一部を構成するものとして取り扱う。」
と記載されています。(意匠審査基準 第Ⅳ部 第2章 「建築物の意匠」4.3)

①外構や植栽は建築物の一部に含まれる?

建築物に付随する範囲の物品、すなわち、建築物の仕上げ材や固定された什器はもちろん、ウッドデッキテラス、門柱などは、建築物の一部を構成するものとなります。
また、「人工構造物であること」の要件を満たさない植栽であっても、建築物の外壁に固定したグリーンウォールや床面に固定されたプランター内の植物、家屋と門柱の間の立木等は、建築物の一部を構成するものとなります。
上記のような物品や植栽が含まれていてもこの建築物は一意匠と判断されます。

②照明(光)や画像は建築物の一部として保護可能?

次に、電波塔や橋などの建築物に点灯される光や画像は建築物の一部として保護できるのでしょうか。
「照明器具が建築物及びそれに付随する範囲内の土地に固定されている」という条件を満たせば、レインボーブリッジのような照明による色彩や模様についても建築物の一部として保護することができます。
同様に、「建築物の外壁に固定した画像表示器の表示部に表示された時刻表示用画像」のような画像も、「プロジェクタ等が建築物及びそれに付随する範囲内の土地に固定されている」という条件を満たせば、建築物の一部となります。
(意匠審査基準 第Ⅳ部 第2章 「建築物の意匠」4.6、4.7)

 

(2)内装

意匠法8条の2

店舗、事務所その他の施設の内部の設備及び装飾(以下「内装」という。)を構成する物品、建築物又は画像に係る意匠は、内装全体として統一的な美感を起こさせるときは、一意匠として出願をし、意匠登録を受けることができる。

組物の意匠の例外として内装の意匠が追加されました。内装の意匠の登録要件については審査基準において、以下のような判断基準が示されています。(意匠審査基準 第Ⅳ部第4章 「内装の意匠」6.1.1)

ⅰ)店舗、事務所その他の施設の内部であること
ⅱ)複数の意匠法上の物品、建築物又は画像により構成されるものであること
ⅲ)内装全体として統一的な美感を起こさせるものであること

要件ⅰ)の「店舗、事務所その他の施設の内部であること」の「施設」には、「人がその内部に入り一定時間を過ごすため」のあらゆる施設が含まれます。また、不動産だけでなく動産も含まれます。

要件ⅱ)の「複数の意匠法上の物品、建築物又は画像により構成されるものであること」に関しては、出願対象の中に、必ず、複数の物品等が含まれていることが必要となります。例えば、カフェの内部にテーブルや椅子等が配置されていることを要します。なお、意匠登録を受けようとする部分以外の部分も含めて本要件が判断されます。

要件ⅲ)の「内装全体として統一的な美感を起こさせるものであること」については、意匠全体として視覚的に一つのまとまりある美感を起こさせるものであれば本要件を満たします。

審査官は、出願された内装の意匠の創作に関する、出願人の主観的意図等を記載した特徴記載書が提出されている場合は、これを参考としつつ審査を進めます。
特に要件ⅲ)の「統一的な美感」について、審査官の理解を促すため、積極的に特徴記載書を提出することが審査の迅速化につながると思われます。

 

3.空間デザインの出願形態をどうするか

「人がその内部に入り一定時間を過ごすためのもの」またはその中で使用する物品であれば、「建築物」「内装」「物品」として出願できる可能性があります。ここで、具体的な事例を用いて考えてみたいと思います。

例えば、カフェの内部であって、そこにカウンター、テーブルと椅子、空気調節機、観葉植物が含まれているとします。

▼図6

空間デザインと意匠出願 | 2020年

 

カフェにおけるカウンターと、テーブルと椅子を含む内装を保護しようと思えば、「内装」の意匠として出願が可能です。
テーブルと椅子は任意に動かすことができるので建築物の一部ではありません。これらは複数の物品であるため、「複数の意匠法上の物品、建築物又は画像により構成されるものであること」の要件を満たします。
観葉植物は自然物であるため、意匠を構成する物品とはみなされませんので、破線にするなどして登録を受けようとする範囲から除外しておきます(図7の網掛け部)。
空気調節機の配置が重要でない場合は、破線で表しておきます。なお、破線で表された物品についても内装の意匠の構成物品となります。

▼図7:「飲食店舗の内装」(内装の意匠)

空間デザインと意匠出願 | 2020年

次に、カフェの内部におけるカウンターの形状、位置、範囲、大きさを保護しようと思えば、「建築物」の内部の意匠として出願が可能です。
カウンターは、「社会通念上、建築物又は土地に継続的に固定し任意に動かさない、建築物に付随する範囲内の物品」として建築物の一部と考えることができます。
この場合、カウンターを実線(図8の網掛け部)、その他を破線で表します。テーブルと椅子等があると、複数物品が含まれているとして、一意匠一出願違反を指摘される可能性がありますので、図面には表しません。

 

▼図8:「飲食店舗」(建築物の意匠)

空間デザインと意匠出願 | 2020年

 

また、空気調節機は、「物品」なので、通常の物品としての出願が可能ですが、空気調節機の配置が特徴的であってこれを保護したい場合は、「建築物」または「内装」として出願することができる可能性があります。
出願形態をどうするかは、空気調節機が「継続的に固定し任意に動かさない、建築物に付随する範囲内の物品」といえるか否か、また、他の物品等との関係に特徴があるか等を考慮します。
例えば、空気調節機が建築物に付随するものであり、室内における配置が特徴であれば、「建築物」で出願することができます。この場合、図9に示すように、空気調節機を実線で表し、テーブル等は図面に表しません。
あるいは、空気調節機がテーブルの頭上に配置されているというテーブルとの関係が特徴であれば、「内装」で出願しても良いと考えます。この場合は、図10に示すように、テーブル等も図面に表した状態とし、空気調節機を実線で表します。

▼図9:「飲食店舗」(建築物の意匠)

空間デザインと意匠出願 | 2020年

 

▼図10:「飲食店舗の内装」(内装の意匠)

空間デザインと意匠出願 | 2020年

あるいは、もしもこのカフェの内部が観光列車の食堂車両であったとしたら?
そうです。「車両」という物品の内部として出願することも可能であり、「車両の内装」という内装の意匠として出願することも可能です。
「建築物」「内装」と聞くと、プロダクトを製造販売する業種などでは、全く関係ないと思いがちですが、プロダクトに関しても建築物や内装の一部として保護することが有効な場合もあると考えます。

 

4.商標との関係

建築物については、商標法でも保護できる場合があります。例えば、以下のような位置商標、立体商標が登録されています。
意匠権は出願から25年で権利が消滅しますが、商標権は、使用を継続していれば更新をすることにより長く権利を維持することができるため、非常に強力な権利となるといえます。

▼図11 位置商標 
空間デザインと意匠出願 | 2020年
▼図12 立体商標
空間デザインと意匠出願 | 2020年

ただし、位置商標は登録率が一割程度と低くなっています。また、立体商標については、店舗建築物の外観形状だけでは、通常、識別力がないとして登録できません。(建築物の外観に、識別力のある図形や文字が付されていれば、立体商標全体としても識別力ありとして登録可能です。)

一方、意匠は、新規性等の登録要件を満たせば登録が可能であるため、まずは意匠登録を行い、将来の実施(使用)状況によって、商標登録の可能性も検討してはどうかと考えます。

 

5.空間デザインに関する課題

従来の意匠法は「物品」を保護するものであり、プロダクトデザインを中心に考えてきました。「建築物」「内装」に関わる空間デザインは、プロダクトデザインにはなかった課題がありそうです。

(1)内装デザインの開発スピード

プロダクトデザインの場合、製品化決定から販売まで1年程度の開発期間があることが多く、開発のフェーズに応じて、第三者の権利が存在するか否かを確認するクリアランス調査(先行意匠調査)や、製品発表前の意匠出願の準備を行うことができました。
内装デザインの場合は、発注から納品まで、数週間~数か月と、プロダクトに比べて開発期間が短いという特徴があり、その短期間でクリアランス調査や出願準備をする必要があります。
内装の意匠登録意匠公報はまだ発行されておらず(本稿が発表されるころにはそろそろ発行されるかもしれません)クリアランス調査はできませんが、出願は可能ですので、実施が決まれば積極的に出願を検討されてはどうかと思います。

 

(2)建築物の新規性

一方、建築物の場合は、デザイン開発から竣工まで数年を要することも珍しくありません。
例えば国立競技場のデザインを考えると、最初の国際デザインコンクールは2012年9月25日に応募締切、ザハ・ハディド案が最優秀賞に選ばれたのは2014年11月15日、実際のオリンピックは2020年の予定でした。
このような大規模かつ国際的な建築物は極端な例ですが、一般的に、建築物の開発はプロダクトの開発よりも時間がかかるものと思われます。(なお、ザハ・ハディドの国立競技場の場合は、おそらく著作物としても保護されるでしょうし、気軽に模倣が起こるとも考えにくいので意匠登録をする必要性は低いと考えます。)
意匠登録を受けるためには出願時に「新規性」を有していることが必要ですが、例外的に出願前1年間の出願人による公開は「新規性喪失の例外」適用を受けることができます。
建築物の意匠は、プロダクトの意匠よりも、出願前に新規性を喪失しやすいと考えられるため、なるべく早く出願することはもとより、出願前に公開してしまった場合には、「新規性喪失の例外」の適用を受けられるように、図面や模型を公開した相手方や公開日などの記録を取っておく必要があると考えます。

 

6.おわりに

今回の改正によりデザインを保護できる手段が増えました。プロダクトや光・画像も空間で使用するものであれば空間の一部として保護できる可能性があります。
これまでにない出願の選択肢が増え、デザインの多面的な保護が可能となりましたので、空間デザイン出願の可能性についてご検討いただければと思います。
なお、特許庁ホームページには、建築・内装デザイナー向けの分かりやすい資料の掲載や、意匠法改正特設サイトが開設されていますので、よろしければご参照ください。(注3)

 

保護対象 状態 単独での出願 建築物の一部としての出願 内装の一部としての出願
物品
(空気調節機等)
建物等に固定 
建物等に非固定 × 
照明(光) 光源が敷地、建物内 × 
光源が敷地、建物外 ×  ×  × 
画像

プロジェクタ等が敷地・建物内

機能画像
表示画像
装飾画像
(壁紙等)
× 
プロジェクタ等が敷地・建物外 機能画像
表示画像
×  × 
装飾画像
(壁紙等)
×  ×  × 
コンテンツ画像 ×  ×  × 

 

※注1:
本稿の内容は、2020年6月現在の法律、規則、その他の情報に基づき作成されております。法律や規則等は、随時改正される可能性がありますので、手続の際には、十分にご注意ください。

※注2:
本稿中に掲載した図の出典:
図1:意匠登録第1661344号
図2:意匠登録第1568147号
図3:東京地裁 平成28年12月19日決定  平成27年(ヨ)第22042号  平成27年(ヨ)第22042号 判決別紙
図4:平成14年(ワ)第1989号判決別紙
図5:「意匠の審査基準及び審査の運用」(意匠審査基準説明会テキスト)特許庁 令和元年
図11:商標登録第6018352号
図12:商標登録第5916693号

※注3:
特許庁ホームページ「建築・内装デザイナー向け情報」
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/design/kenchiku-naiso-joho.html

特許庁ホームページ「令和元年意匠法改正特設サイト」
https://www.jpo.go.jp/system/design/gaiyo/seidogaiyo/isyou_kaisei_2019.html