意匠制度の潜在的可能性についての提言 ~特許権をも凌駕するグローバルな意匠権を獲得するには~ (後編)|パテントメディア|オンダ国際特許事務所

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意匠制度の潜在的可能性についての提言 ~特許権をも凌駕するグローバルな意匠権を獲得するには~ (後編)

2010年9月
会長 弁理士 恩田博宣

小誌5月号掲載の前編では、機能的意匠の保護や、関連意匠制度の活用について、筆者が実際に携わった事例を交えつつ、ご紹介した。
本稿では、その続編として、特許権をも凌駕するような意匠権を獲得するための要諦である特徴記載制度や部分意匠制度の活用法、さらには、意匠制度の総合的活用法について提言を行いたい。

3.3 特徴記載の利用

特徴記載の制度は「早出しの意見書」ともいわれ、通常、従来の意匠を図面とともに記載し、それとの比較の上で特徴を記述する。
その記載は必須ではないが、特徴記載を利用することによって、意匠の要部を文章で主張できるのであるから、数多くの関連意匠を出願しなくてもよいことになる。
審査においても、どこが特徴かを審査官に的確に伝えることができるので、審査の迅速化を図ることができるともいえる。
例えば、事例4(次頁)に示す椅子のシートの出願を紹介する。この意匠を見た誰もが要部は右側面図の左部に表れる鍵型部だと判断する。しかし、実は後部も下降傾斜し、前部も下降傾斜している構成が特徴なのである。拒絶理由通知なしで登録になったが、審査官は前部が鍵型になった椅子は数多くサーチしており、後部が下降傾斜している引例を見つけられなかったため、登録されたのである。もし、特徴記載がなかったならば拒絶理由通知は避けられなかったものと思われる。

事例4 椅子用座

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事例5 包装用容器
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また、特徴記載によって、その特徴部分からどのような効果が表れるかを記載するのが通常である。しかし、時には技術的効果を主張して奏功することがある。
例えば、事例5はコンテナの部分意匠であるが、保護を求める部分と特徴は断面L字型のリブのみにある。そのとき特徴記載はリブとリブの間の距離が長くなるので、コンテナ側面に設けたクリップで挟む連絡用紙を大きくできるというものである。技術的特徴が活かされたケースである。

なお、特徴記載の補正はできないが、新たな特徴記載書を提出することによって、前の特徴記載書は自動的になくなり、禁反言の根拠ともされないので、特徴だと主張した構成を、拒絶理由でずばり示されたときは、かまわず別の特徴を主張することができる。もちろん、最終的に残った特徴記載書の主張点は禁反言の根拠とされる。
実務上、筆者はユニークな意匠を出願し、範囲の大きな意匠権を獲得しようとする場合には、数件の関連意匠とともに、特徴記載をすることを薦めている。
狭い範囲の意匠が乱立しているときに、何とか権利を取得しようという場合には、引用される拒絶引例に対して変幻自在に対処する必要があるから、特徴記載はお勧めできない。

3.4 部分意匠の利用

部分意匠の制度の使い方は、特徴記載のそれと非常によく似ている。すなわち、意匠の要部となる部分を、通常実線で描き、その他の部分を破線で描いて、両方を合わせた物品名を意匠に係る物品として表わす。
例えば、包丁の口金を部分意匠として出願するときには、通常、口金の部分を実線でその他の部分を破線で表すが、意匠にかかる物品名は「包丁の口金」ではなく、「包丁」なのである。
部分意匠として出願することで、審査官は、出願人がどの部分を要部として保護を求めているのかを明確に理解でき、審査はそれだけ容易になるといえる。
筆者が主張しようとする機能物品(機能部品)の保護はさらに容易になる。機能物品のさらに要部を特定して出願できるからである。機能的にいくつかの要部が存在するときには、同じ物品についていくつもの部分意匠出願が可能になる。
実務上、広範囲の権利を取得しようとするときには、部分意匠の関連意匠を展開するのである。例えば、事例6に示す擁壁用ブロックの意匠は、波状にうねる複数の溝を要部とする部分意匠であるが、ブロックの形状を要部と認定されないようにするために、裏面の構造を全て破線で表している。こうすることによって、溝の本数や込み具合が変化しても、また、ブロックの形状が変化しても、類似の範囲に入ることを主張しているのである。

事例6 擁壁用ブロック
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なお、部分意匠の出願と似ているが、部品そのものの出願もある。例えば、エンジンの部品として、燃料弁、ピストンリング、カム、吸排気弁等は独立して取引される物品として意匠の保護の対象になることは、誰も疑う余地のないところであるが、シリンダカバー、シリンダ、ピストン、コネクティングロッド、クランクとなるといささか疑わしくなる。しかし、これらの部品もよく調べてみれば、補修部品として単独で取引されているのである。そうすれば意匠法上の物品たりうるのであるから、出願可能となるのである。部分意匠と部品の意匠の差は単独で取引されるか否かの差異になる。

3.5 総合的な意匠制度の利用

以上、関連意匠、特徴記載、部分意匠の利用について述べた。特にユニークな意匠が創作されたとき、もっと実務的にいえば、厚く保護しなければならない発明がなされたとき、意匠戦略が功を奏することは多いのである。形状のあるもので単独で取引の対象となるものであれば、意匠戦略の採用可否の検討は必須である。そして、多くの場合可能であると断言できる。
次に前記の意匠制度を総合的に利用して有効な権利を取得した一例を説明する。
事例7は、幼児用椅子(チャイルドシート兼用ベビーカー)(事例7 図(a)参照)に関する意匠である。この物品は車輪を折り畳むと車に乗せるチャイルドシートになるし、車輪を出すと、ベビーカーになるという物品である。

事例7 幼児用椅子
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本意匠には5件の類似意匠(関連意匠)が登録され、それらは本意匠からできるだけ遠くで関連意匠を登録するために、本意匠とは、以下のような形状変化がもたらされている(事例7 図(b)参照)。
(1) 手押しハンドルの部分が各意匠間で変化している
(2) 前部のガードがないものを含めて形状が変化している
(3) 側面の取手の部分の形状が変化している
(4) 安全ベルトの前当て部分の形状が変化している
(5) 車輪の形状が変化している

この関連意匠の登録状況を見ただけでもこの意匠権の幅はかなり広いといえるのであるが、さらに権利を広げる工夫がなされている。
すなわち、第2群の意匠登録として、部品のバケットのみについて、本意匠と2件の関連意匠を登録している(事例7 図(c)参照)。このバケットは単に一連の全体意匠のなかから3つの部品意匠を取り出して登録したというものではないのである。バケットの意匠としては前記全体意匠のものとは、別のものを創作してさらに範囲を広げようとしている。
さらに、折り畳み式の足回り(同じく図(e))、車輪とその支持脚(同じく図(d))、そして、自在車と固定車の車輪の取付座(同じく図(f))について、それぞれ本意匠と関連意匠1件を登録している。

事例7
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一つの物品について、全体意匠から部品意匠までを段階的にきめ細かく登録したケースである。これは、特許権で特徴部分をくまなく出願したケースに似ている。特許ではこれだけの出願をすることは難しいケースであろう。しかし、このように意匠を手厚く出願することによって、この幼児用椅子のアイデアはかなり広い範囲で保護されているといえる。
現在ならば部分意匠や特徴記載を含めての出願戦略が考えられる。

4.おわりに

以上、前編・後編に渡り戦略的意匠出願のあり方について述べた。
わが国の意匠制度は世界の中でも、とりわけ意匠の概念を広く捉え、保護を厚くしているといえる。その意匠制度の特徴を有効に活用しない手はない。
購買動機を刺激するような優れたデザインはもちろんのこと、単に機能のみが要素となっている機能部品であっても、それが単独で取引の対象となる意匠法上の物品である限り保護の対象となることを理解し、その面での利用をすべきなのである。
ところで、平成19年4月施行の法改正により、意匠権の存続期間は設定登録から最長20年間に延長された(改正前は設定登録から15年間)。特許権の存続期間は、「出願日」から20年間であるから、法は意匠権に特許権を凌ぐ権利期間を認めているといえる。
本改正の背景として、従前の存続期間満了年である15年目における意匠権の現存率が約16%(平成16年末)であり、同じ時期における特許権の現存率(約4%)に比較しても高い数字となっていることが挙げられている。
このことは、有効に取得された意匠権が、企業にとって貴重な「知的財産」となっていることを如実に物語っている。
事実、不況による経費削減が叫ばれる昨今にあっても、弊所クライアント企業の多くにおいては、本稿で紹介したような、意匠についての積極的な取組が継続されている。
意匠権の存続期間の長さを考慮すれば、この時期に、意匠について真摯に取り組んだ企業と、そうでない企業とでは、この先20年にも渡って、決定的な差が生じてしまうのではないかと思われる。
本稿の事例を参考にされ、より多くの企業において、意匠制度が有効に利用されることを願ってやまない。