別懐晶(個人)と深セン市本色連鎖実業有限公司の商標権侵害紛争事案|外国知財情報|オンダ国際特許事務所

別懐晶(個人)と深セン市本色連鎖実業有限公司の商標権侵害紛争事案|外国知財情報|オンダ国際特許事務所

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別懐晶(個人)と深セン市本色連鎖実業有限公司の商標権侵害紛争事案

(パテントメディア2016年1月発行第105号掲載)
セブンシーズIPコンサルティング上海 法務室

事件の性質:商標権侵害紛争事案
審理法院:一審/牡丹江人民法院、二審/黒龍江省高級人民法院
二審判決日:2015年5月22日
二審上訴人(一審被告):別懐晶(個人)
二審被上訴人(一審原告):深セン市本色連鎖実業有限公司
出典:(2015)黑知终字第7号

一、事件の概要

被上訴人である深セン市本色連鎖実業有限公司(以下、「深セン本色公司」という。)は、中国各地の都市で「本色酒吧」という店名のバー経営を展開している。
深セン本色公司は以下の登録商標を保有しており、これらの登録商標は訴訟時においては有効である。

本件商標1
商標登録番号: 第3034330号
国際分類: 第41類
指定役務: 教育又は娯楽に関する競技会の運営、学術討論会の手配及び運営、文化又は教育ための展示会の運営、ビューティーコンテストの手配、舞踏会の運営、トレーニング、ショー舞台の貸与、演出、娯楽施設の提供、娯楽、ラジオ放送及びテレビジョン用番組の制作、録音用スタジオ、音楽会場、美術用モデルの実演など。
専用権の存続期間: 2003年4月21日~2023年4月20日
商標図案: 別懐晶(個人)と深セン市本色連鎖実業有限公司の商標権侵害紛争事案 | 中国
本件商標2
商標登録番号: 第1647674号
国際分類: 第43類
指定役務: バー、(中国式)喫茶店、喫茶店、レストラン、ケータリング(飲食物)、カクテルパーティのサービス、ホリディキャンプ用宿泊施設の提供、ホテルの予約の取次ぎ、カフェテリア、飯店など。
専用権の存続期間: 2001年10月07日~2021年10月06日
商標図案: 別懐晶(個人)と深セン市本色連鎖実業有限公司の商標権侵害紛争事案 | 中国

上訴人別懐晶氏(個人)は、黒竜江省海林市に本色酒吧という名称のバーを経営している。
※別懐晶の使用例:
別懐晶(個人)と深セン市本色連鎖実業有限公司の商標権侵害紛争事案 | 中国

2014年7月30日に、深セン本色公司は、第3034330号登録商標「本色+TRUECOLOUR」を別懐晶氏が無許可で自ら経営するバーの商号として使用し、かつそのバーの店頭上に「本色」という標識を際立たつように使用したことを理由に、法院へ別懐晶氏を提訴して、以下のことを命じる判決を求めた。

深セン本色公司の商標権を侵害する行為の即時の停止。
消費者の誤認や混同を解消するため、新聞に謝罪声明を掲載する。
深セン本色公司が実際に蒙った経済損失及び別懐晶の権利侵害行為を阻止するために支払った合理的な費用等合計11万元を賠償する。
一審法院は、権利侵害が成立したと認定し、権利侵害の停止、及び経済損失RMB30000元(約60万円)の賠償を命じる判決を下した。

二審法院は、権利侵害が成立しないと認定し、一審判決を取り消し、かつ、深セン本色公司の訴訟請求を却下した。

二、一審と二審の判決及び根拠

一審法院は、以下のとおり認定した。
深セン本色公司は、第3034330号登録商標「本色+TRUECOLOUR」、及び第1647674号登録商標「本色酒吧+図形+TrueColourClub」の商標権者であり、その商標専用権は、法により保護されるべきである。
「最高人民法院による商標民事紛争案件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈」第1条第1項の規定に基づき、「他人の登録商標と同一または類似する文字を企業名称とし、関係公衆に誤認を生じさせる可能性があるもの」は、中国商標法の第57条第7項に規定された「他人の登録商標専用権に損害を与える」行為に属する。本件において、別懐晶氏が実施した商標権侵害行為は、以下の2点にある。即ち、第1の問題点として別懐晶氏は、深セン本色公司の第3034330号登録商標「本色+TRUECOLOUR」をその商号として、企業名称において使用した。また、第2の問題点として、別懐晶氏は自らが経営するバーの店頭に、深セン本色公司の第3034330号登録商標「本色+TRUECOLOUR」における「本色」という文字を際立たせるように使用した。
別懐晶氏の行為は、深セン本色公司が第3034330号登録商標「本色+TRUECOLOUR」、及び第1647674号登録商標「本色酒吧+図形+TrueColourClub」を取得した後に発生したものである。別懐晶氏の経営対象は深セン本色公司の当該登録商標の指定役務と同一である。さらに、別懐晶氏の実施した行為は深セン本色公司の許可を得ていないため、深セン本色公司の商標権への侵害を構成する。一審法院は、深セン本色公司の商標知名度、被告の権利侵害の性質、時間、納税状況、及び深セン本色公司が本件訴訟のために支払った合理的な支出等の要素を結び付け、情状を酌量して、深セン本色公司の経済損失額(深セン本色公司による別懐晶の商標専用権侵害を阻止するために支払った合理的な出費を含む)をRMB30000元に確定した。

一方、二審法院は、以下のとおり認定した。別懐晶氏が経営した海林市本色酒吧は、その店頭看板のみに「本色」という文字を使用し、商品上においては深セン本色公司の登録商標を使用する行為が存在しなかった。
更に、二審法院は「最高人民法院による商標民事紛争案件の審理における法律適用の問題に関する解釈」第1条第1項の規定に基づき、被疑侵害行為が商標権侵害を構成するか否かを判定する際、以下の2つの条件に合致するかが基準となると述べた。
即ち、第1の要件として、被疑侵害者が他人の登録商標と同一又は類似する文字を企業名称として、かつ同一又は類似する商品において目立つような使用行為があったか否か。
第2の要件として、上記使用行為は、関係公衆に対して容易に誤認を生じさせるか否か。
二審法院は被疑侵害行為が上記2つの条件を満たす場合こそ、当該行為が商標権侵害を構成すると認定することができると断定した。二審法院は、対比を経て、別懐晶氏に他人の登録商標と同一又は類似する文字を企業の商号として同一又は類似する商品において目立つように使用する行為が存在すると認定した。しかしながら、二審法院は、本件商標が本件の関連公衆、即ちバーの消費者及び経営者において一定の知名度を有するか否かについて疑惑を抱いた。まず、「本色」という言葉は、もともと「本来の色」、「本来の面目」のような意味合いを持っており、深セン本色公司が独創的に作り出したものではない。従って「本色」という単語のみにより、深セン本色公司と「本色酒吧」との関係を想起させることはできない。次に、深セン本色公司は、主に広州、成都、深センにおいて、本件商標を使用していたが、黒龍江省を含む中国東北地方において、「本色酒吧」の支店を開設・経営せず、さらにはその登録商標の使用を他人に許諾していない。そのため、深セン本色公司の本件商標の全国範囲における影響力と知名度を証明することができない。これによって、二審法院は、別懐晶氏の被疑侵害行為が関係公衆に誤認を生じさせるに足りないことを理由に、権利侵害が成立しないとの判決を下した。

三、商標権侵害における混同・誤認の基準と 影響除去及び謝罪の適用

商標法においては、一般民衆を混同させることを商標権侵害行為認定の必要条件としない。

中国商標法の第57条においては、商品生産領域における商標権侵害行為に対して、「商標権者の許諾なしに、同一の商品についてその登録商標と同一の商標を使用しているとき」、登録商標専用権侵害に該当すると明確に規定されている。また同時に、「商標権者の許諾を得ずに、同一の商品についてその登録商標と類似の商標を使用し、又は、類似の商品についてその登録商標と同一又は類似の商標を使用し、混同を生じさせやすいとき」、登録商標専用権侵害に属すると規定されている。

また、中国商標法の第58条に基づき、他人の登録商標、未登録の馳名商標を企業名称に商号として使用し、公衆を誤認させ、不正競争に該当する行為は「中華人民共和国不正競争防止法」に基づき処理する。
以上から分かるように、同一の商品又は役務について、同一の商標の存在を認めていない。そのため、その権利侵害の構成には、主観的な誤認を生じさせることは要求されない。また、損害事実があることも要求されない。一方、同一の商品について類似の商標を使用すること、或いは異なる商品について同一又は類似の商標を使用することに対しては、主観的な誤認を生じさせることが要求されている。即ち、混同・誤認の基準を適用し、容易に混同又は誤認を生じさせてこそ、商標権侵害行為と認定する。

本件に対して、二審法院は、別懐晶氏の被疑侵害行為は、深セン本色公司の本件商標をバーの名称として使用することだけに限っており、本件商標を商品に使用した事実が存在しない、と認定した。そのため、中国商標法の第58条、及び不正競争防止法の関連規定に基づき、容易に誤認を生じさせるか否かを権利侵害の認定基準とするべきであるとされた。この点が、一審判決の結果が逆転された主な原因となった。

以上