BRICs諸国、とくにブラジルにおける意匠制度の特色について|外国知財情報|オンダ国際特許事務所

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BRICs諸国、とくにブラジルにおける意匠制度の特色について

(パテントメディア2012年9月発行第95号掲載)
意匠部

知的財産権分野におけるBRICs(ブリックス)─ブラジル・ロシア・インド・中国─への関心は、年々高まりを見せ、各国における意匠出願件数においても、それが実績となって現れています。
BRICs4カ国が中長期の成長を期待できる新興国としてその命名を受けた2001年以降の各国の意匠出願件数を見てみますと、2011年までに6万件から52万件へと8.5倍に増加した中国は別格としても、ブラジル、ロシア及びインドにおける出願件数も、下表のとおり、約3000件前後から概ね増加傾向にあるといえます(下表参照)。

▼2001~2010年における3カ国の年間意匠出願件数の推移

BRICs諸国、とくにブラジルにおける意匠制度の特色について | ブラジル

実際、当所においても、ブラジル、ロシア及びインドの意匠制度に関するお問合せや、出願のご依頼が年々増加しています。
そこで本稿では、BRICs4カ国のうち、中国を除いた3カ国の意匠制度の概要をご紹介するとともに、その中でも特に、日本においてはまだ馴染みが薄いとされるブラジルの意匠制度にフォーカスして、基本的な留意事項を検討していきたいと思います。

1.3カ国の意匠制度の概要

一般に、意匠制度は特許や商標と比べても、各国間での相違が多いことから、有効な意匠権取得や模倣品対策を図るには、まず、それぞれの国の制度の特徴を把握した上で、他国との違いに配慮しつつ、その国の制度を踏まえた出願戦略を検討していく必要があります。
以下の一覧は、ブラジル、ロシア及びインドの意匠制度の概要をまとめたものですが、ブラジルにおいては、特に★印を付した項目において、他国とは異なる制度、規定がみられるため、このような点に着目しつつ同国での意匠戦略について検討していきたいと思います。

▼3カ国における意匠制度の概要

  ブラジル ロシア インド
実体審査 ★意匠権者の請求による
主な登録要件 新規性、独創性 新規性、独自性
(なお、本質的特徴リストの提出が必要)
新規性、独自性
部分意匠 × × ×
多意匠出願
同一用途に係るものであり、かつ、同一の顕著な識別を有していることを条件として20意匠まで包含することが可能。

(1)図面・写真などの表現物及び意匠の本質的特徴リストから、本質的特徴が共有し、一の創作的概念を形成しているものと認められる場合には可能。
また(2)完成品の意匠とその部品の意匠であっても、その部品がロカルノ分類の同じサブクラスに属する場合には、一出願をすることが可能。
×
新規性判断基準 内外国公知 内外国公知 内外国公知
新規性喪失の例外 ①創作者による開示
②発明者から情報を知得した第三者による開示
①創作者による開示
②出願人による開示
③創作者又は出願人から情報を知得した第三者による開示
①意に反する公知
②中央政府によって官報に告示された博覧会の展示における公開等
新規性喪失例外の適用期間 180日以内 6ヶ月以内 上記①→制限なし
上記②→6ヶ月以内
出願からアクション(拒絶理由等)
または査定までの平均的期間(当所取扱案件)
7~12カ月程度 6~9カ月程度 6~9カ月程度
権利期間 出願日から10年、その後5年毎の更新により最長25年 出願日から15年、更新により最長25年 出願日(又は優先日)から10年、更新により最長15年
無効審判・異議申立 ★登録日から5年以内に登録の無効(Nullification)を特許庁へ請求可能、また意匠権の存続期間中、無効の訴えを裁判所に請求可能。 無効審判請求は、いつでも、また何人によっても可能。 利害関係人によって、いつでも取消申請を行うことが可能。
2.ブラジルにおける意匠制度の特色
(1)無審査登録主義

ブラジルの意匠制度の大きな特徴の一つとして、出願時には新規性、独創性等の実体的要件が審査されない、いわゆる無審査登録主義を採用している点が挙げられます。
方式審査で不備がなければ、通常、出願からおよそ1年以内で登録査定になり、公告がなされます(なお出願人の申請により、出願日から180日は出願内容が秘密にされ、その後に方式審査が行われるようにすることができ、これにより公告を実質上遅らせることが可能です)。
実体審査の請求は、意匠権者のみが行うことができ、また、意匠権の存続期間中であれば、いつでも請求することができます。
実体審査の請求を行うことで、新規性や独創性等についてブラジル特許庁の肯定的な見解を得ることができれば、権利行使の実効性を高めることができるという側面があります。

(2)無効手続

上述のように、ブラジルにおいては出願人以外の第三者による審査の請求は認められていませんが、登録意匠に無効理由があると思われる場合、利害関係人等は登録日から5年以内に限り、特許庁に対し登録の無効(Nullification)を申し立てることができます。
また意匠権の存続期間中、無効の訴えを裁判所に請求することができます。

3.ブラジルにおける留意事項
(1)無審査登録主義国における冒認出願の問題

ブラジルと同様に無審査登録主義を採用している中国においては、近年、冒認出願(出願する権利のない者が他人のデザインを出願し、権利を取得してしまうこと)が大きな問題となっています。商標の分野では、著名ブランドや地方の特産品(「札幌ビール」や、「松阪牛」「九谷焼」等)が中国企業や個人により冒認出願されたという事例が後を絶ちませんが、意匠の分野においても、同様の問題が起きています。
このような冒認出願の存在は、現地での模倣品対策の大きな足かせになりかねず、また、一般に、冒認登録を無効化する手続には多くの労力と費用を要します。

(2)ブラジルにおける冒認対策の必要性

無審査登録主義を採用するブラジルにおいても、今後の経済成長に伴い、中国と同様に冒認出願の問題が生じる可能性が無いとはいえません。
特に注意を要するのは、上述したような、ブラジル特有の意匠制度です。
すなわち、中国等に比べて意匠権の存続期間が長い(中国が出願日から10年間であるのに対し、ブラジルでは出願日から最長25年間)にも拘らず、特許庁に対し登録の無効(Nullification)の請求を行うことができる期間が、登録後5年間に限られ、それ以降は裁判所への訴えを要することから、ブラジルにおける現行の意匠制度は、冒認出願への対策がとりづらい一面を有していると考えられます。
このような状況下においては、自ら意匠出願して先願権を確保することが冒認出願に対する防衛手段となり得ます。
したがって、ブラジルでの意匠戦略を考える上で、少なくとも同国内での製造、販売等が予定されている製品については、冒認対策という観点からも、意匠出願の要否を慎重に検討していく必要性があるものと思われます。

なお、2010年時点でのブラジルにおける年間意匠出願件数は約5500件に留まっていますが、今後、同国においては、2014年FIFAワールドカップブラジル大会の開催、2016年リオ・デ・ジャネイロオリンピックの開催が予定されていることもあり、経済の急速な成長に伴って、知的財産戦略の必要性も高まりをみせるものと予想されます。
オンダ国際特許事務所では今後とも、現地特許事務所との緊密な連携をとりつつ、適切な権利取得をご支援できるよう努めてまいりたいと考えております。

(※なお、本稿は2012年7月時点の情報に基づくものであります。今後、法改正等が行われる可能性がありますのでご了承下さい)