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判例研究/レポート

「切り餅」特許事件

平成23年5月
弁理士 桑垣衛

「サトウの切り餅」という商品名を聞かれたことがありませんか。
お正月シーズンには、よく売れている身近な商品です。
今日の判例は、この切り餅についての事件の紹介です。
「サトウの切り餅」の佐藤食品を、越後製菓が特許権侵害で訴えた事件(註)です。
この判例では、「請求範囲の表現をどう解釈するか」が争われました。

「サトウの切り餅」のパッケージには「パリッとスリット」という謳い文句が出ています。
この切り餅には、以下のように、側面や上面に切り込み(スリット)が入っているのです。
お餅を焼いた時、ぷーっと膨らみますよね。歪に膨らんで、形が崩れてしまったことってないですか。
切り餅にスリットを入れることにより、全体的に綺麗に膨らむようになっているようです。

画像データ

一方、原告の越後製菓の切り餅のパッケージには、「ふっくらカット」という謳い文句が出ています。こちらも、切り餅にスリットが入れてあります。
越後製菓は、この「ふっくらカット」についての特許権を持っていました。そして、無断で「スリット入り切り餅」を売っている佐藤食品を訴えたのです。この訴訟では、「無断使用の切り餅を売るな」、「約15億円の損害賠償金を払え」というものです。

この越後製菓の権利内容は、以下のようになっていました。

【請求項1】
焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に,
この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け,
この切り込み部又は溝部は,この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状とした若しくは前記立直側面である側周表面の対向二側面に形成した切り込み部又は溝部として,
焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり,最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように構成したことを特徴とする餅。

ポイントは、「切餅の載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に…切り込み(スリット)」があることです。このようなスリットによって、「お餅が最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態」で膨らむのです。

画像

この裁判において、問題になったのは「切餅の載置底面又は平坦上面ではなく」という表現です。
この表現は、(1)「底面や上面にスリットがない切り餅」というようにも読めます。この場合、「サトウの切り餅」には、上面にもスリットがありますので、越後製菓の特許とは異なることになります。これが、被告のサトウ食品の主張です。

ところが、原告の越後製菓は、この権利を取得するまでのプロセスに注目して、反論しました。
実は、審査の途中で、越後製菓は、「上側表面部の側周表面のみに…切り込み」という限定を加えたのです。ところが、特許庁の審査官は、「上側表面部の側周表面のみに…切り込み」があるお餅は、出願当初の明細書に記載されていないと判断しました。
そこで、越後製菓は、前言撤回、この「のみ」を削除したのです。すなわち、「のみ」という表現を削除することによって、最終的に特許となったのです。
越後製菓は、「切餅の載置底面又は平坦上面ではなく」は、(2)「切餅の載置底面又は平坦上面ではなく」は「側周表面」の修飾語であって、「底面又は平坦上面ではない側周表面にスリットがある切り餅」と読むと主張したのです。
修飾語は難しいですね。

東京地裁は、越後製菓の言い分を認めてくれませんでした。
判決では、審査過程で認めたからといっても、客観的に表現を解釈すべきとしています。そして、「載置底面又は平坦上面ではなく」というのは、「載置底面又は平坦上面には切り込みがない」を考えるのが自然と判断しました。
更に、権利範囲には、「最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形する」と強調してあったので、底面や上面に切り込みがないと考えるのが自然としたのです。
ちょっと、越後製菓としては、効果を強調しすぎたような感じがします。

結局、東京地裁では、「請求範囲の表現を解釈」したところ、佐藤食品の切り餅は、越後製菓の特許権の権利範囲に含まれないとしました。ただし、高等裁判所で争われる可能性がありますので、これで裁判が終わったわけではありません。

今回の判例において感じたことは、修飾語には要注意です。
長い文章における修飾語の場合、どこに繋がっているか、不明確になる可能性があります。
特許出願書類においても、誤解を招かない簡潔な表現が大切です。

また、効果の記載にも注意が必要です。「こんなに素晴らしい!」という発明者の気持ちはよくわかりますが、強調し過ぎると、それが限定的に判断される可能性もあります。

図さて、この判例ついての説明はこれでおしまいです。
身近な切り餅一つにしても、奥が深いですね。ちょっとした工夫から特許が生まれてくる可能性があります。
ところで、所内でこの判例を説明した後で、所員からこんな話を聞きました。
「お餅は、多少、歪に膨らんだ方が…お餅らしく好きです。」
なるほど。それじゃあ、上面に丸い切り込みを入れてみる?
まだ工夫の余地があります。
美味しいお餅を食べながら考えてみると、「夢も膨らむ、おいしい」発明が生まれてくるかもしれませんね。

以上

註)平成22年11月30日判決
平成21年(ワ)第7718号特許権侵害差止等請求事件
原告 越後製菓株式会社 
被告 佐藤食品工業株式会社

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