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判例研究/レポート

進歩性なしの審決を取り消した事例:ゲーム機

平成22年1月13日
弁理士 桑垣衛

電車の中で携帯型のゲーム機を楽しんでいる人が沢山います。いつでもどこでもゲームといった感じです。また、魅力あるソフトウエアを提供するために、ゲーム機メーカーもいろいろな工夫をしています。このようなゲーム機にもコンピュータ技術が利用されており、特許の対象である発明となります。
さて、今回は、ゲームソフトに関する判例です。
特許庁の審判において、世の中に知られている技術から容易に思いつくと判断され、「進歩性なし」という理由で拒絶になった案件です。
出願人は、この拒絶を不服として、裁判所で争った事件です。

1.事件の内容

平成20年(行ケ)第10176号審決取消請求事件
平成21年1月29日判決言渡,平成20年12月24日口頭弁論終結
原告:X(個人)
被告:特許庁長官
【公開番号】特開2003−19360
【公開日】平成15年1月21日
【発明の名称】ゲーム情報供給装置、ゲーム情報供給方法、記録媒体及びプログラム

2.発明の要旨

訴訟で争われた出願の権利範囲は以下のようになっていました。

【請求項1】
コンピュータを用いたゲーム情報供給装置であって,
クイズ形式の広告情報を記憶する記憶手段と,
ネットワークを介して端末装置からのアクセスを受信すると,前記記憶手段からクイズ形式の広告情報を読み出して前記端末装置に送信し表示させる表示手段と,
前記端末装置から前記広告情報を含むクイズの回答情報をネットワークを介して受信する受信手段と,
前記回答情報を受信すると,電子データであるゲーム的メリットをネットワークを介して前記端末装置に送信する送信手段とを有し,
前記ゲーム的メリットは,エサ,アイテム,ポイント,キャラクター,サウンド又はストーリーを含むゲーム情報供給装置。

図

ゲーム端末を利用してサーバにアクセスすると、クイズ形式の問題が出力されます。
この問題に回答すると、ゲームで利用できる餌やアイテム、ポイント、キャラクターやサウンド、ストーリーがゲーム端末に提供されます。

3.審決の内容

特許庁の審査において、ゲームをすると電子チップが利用者に提供されるシステムが記載された先行文献(特開平10−254968号公報)が見つかりました。
この文献には、以下のような内容が記載されています。

「インターネット1009を介してユーザクライアント装置1011からの接続があると広告企業WWWサーバ装置1004からスポンサー企業の広告情報を読み出してユーザクライアント装置1011に送信して表示させ,ユーザクライアント装置1011からの応答をインターネット1009を介して受信し,応答を受信すると,電子チップがインターネット1009を介してユーザクライアント装置1011に送信して供給され,電子チップは電子データであって,ゲーム操作に消費できるコンピュータを用いた電子チップ発行管理センター1001。」

ネットワークを介してゲームを行なうシステムにおいて、クイズに回答するとメリットが提供される点については一致しています。
そして、特許庁は、違いがある部分は、そのメリットの内容(餌やアイテム、ポイント、キャラクターやサウンド、ストーリー)でしかないと判断しています。

以上の実質的具備事項1〜5を考慮すると,引用発明と本願発明は,
「コンピュータを用いたゲーム情報供給装置であって,クイズ形式の広告情報を記憶する手段と,ネットワークを介して端末装置からのアクセスを受信すると,記憶手段からクイズ形式の広告情報を読み出して端末装置に送信して表示させる表示手段と,端末装置からの広告情報を含むクイズの回答情報をネットワークを介して受信する受信手段と,回答情報を受信すると,電子データであるメリットをネットワークを介して端末装置に送信する送信手段とを有し,電子データであるメリットはゲームに利用できるゲーム情報供給装置。」の点で一致すると共に,以下の点で相違していると認められる。
<相違点>
電子データであるメリットが,本願発明においては,エサ,アイテム,ポイント,キャラクター,サウンド又はストーリーを含むゲーム的メリットであり,ゲーム内で利用できるものであるのに対して,引用発明では,ゲームに利用できるものの,具体的内容が不明であり,ゲーム内で利用できるものであるか否か不明な点。

ただし、どのようなメリットを与えるかについては、コンテンツの特徴であって、技術的な特徴ではありません。
従って、先行技術と本願発明とにおいては、技術的な差異はなく、「進歩性なし」と判断したのです。

そうすると,引用発明のゲーム操作に利用できる電子データであるメリットとしての電子チップに,上記周知技術を適用して,電子チップを,ゲーム内で使用できる,エサ,アイテム,キャラクター,サウンド又はストーリーをも含むゲーム的メリットとすること,すなわち上記相違点に係る構成となすことは,ゲーム技術分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易になし得る程度のことということができる。

4.裁判所の判断

以上のような特許庁の判断に対して、出願人側は審決の取消を求めて、裁判所に提訴しました。
この提訴では、先行文献においては、利用者に与えた電子チップはサーバ側で管理されていたのに対して、本願発明では、ゲーム端末側に提供される点が異なることを主張しました。
裁判所においては、以下のように判断されました。

【裁判所の判断】

(ア) 審決は,引用発明の電子チップが本願発明のゲーム的メリットと共通する(実質的具備事項5)とした上で,引用発明と本願発明とが「電子データであるメリットをネットワークを介して端末装置に送信する送信手段」を有する点で一致すると認定している。しかしながら,上記ア及びイに認定説示したところによれば,本願発明は,ゲーム的メリットをネットワークを介して端末装置に送信するものであるのに対し,引用発明は,電子チップを端末装置に送信するものではないから,引用発明の電子チップが本願発明のゲーム的メリットと共通するかについても争いのあるところであるが,仮にこれが認められるとしても,引用発明が「電子データであるメリットをネットワークを介して端末装置に送信する送信手段」を有するとした審決の認定は誤りというべきである。
(イ) この点について,被告は,引用発明においては,電子チップ情報をクライアント装置に送信して供給することにより,消費あるいはゲームの進行に従った電子チップ数の演算及び表示をクライアント装置に実施させ,ひいてはユーザが電子チップを消費し,あるいはゲームの進行に従って電子チップ数を変化させることを可能としているから,電子チップ情報の供給は,実質的には,クライアント装置に対して利用可能な形態で電子チップを送信して供給するものであるということができると主張する。
しかしながら,引用発明において,ユーザがクライアント装置を使用してその保有する電子チップに関する情報を確認できたり,電子チップを使用できたりしたとしても,そのような機能を実現するための具体的構成は複数存在するのであって,引用発明と本願発明とでは同じ機能を実現するための具体的な構成が異なるのであるから,単に実現される機能が同一であるという理由から,両者の具体的な構成を同一視することはできないというべきである。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。

クイズに答えてゲームで利用できるメリットを提供するという目的では、先行文献に記載された技術も本願発明も共通しています。
ただし、その実現方法が異なれば別の技術です。
この点について、特許庁では十分に検討されていないので審理のやり直しを指示したのです。
ここで、裁判所は本願発明が特許要件を満たしているとは言っていません。
特許庁の審理が十分でないと判断しているのです。

本願発明のポイントは、一見、ゲーム的メリットの内容にあるように見えます。
ただし、先行文献と本願発明とを客観的に見ていくと、他にも違いがあるのです。
つい目立つ部分に目が行きがちですが、この判例では「ちゃんと細かく違いのある部分(ここでは、メリットを管理する方法)も見て判断してください」という示唆のように感じました。
これは特許庁だけではなく、私のような弁理士を含め、発明を取り扱う者に共通していることのように感じました。

さて、この出願ですが、特許庁において再度、審理が行われました。
審判官は、今度は、権利範囲の内容について不明点があるとの拒絶理由を通知しました。
出願人からは特許庁における審理について色々な文句が提出されましたが、拒絶理由である不明点については解消されず、最終的に拒絶になったようです。

以上

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