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判例研究/レポート

特許請求の範囲の記載に対する考察 
〜「…しうる…部」の記載が審査・中間処理に与える影響について〜
知財高裁 平成20年(行ケ)第10394号 審決取消請求事件

平成21年7月21日
弁理士 佐久間勝久

1. 事件の概要

本件は、原告(個人発明家)が、本件特許出願(【発明の名称】押しピンおよびそのカートリッジ)に対する拒絶査定不服審判の請求について、特許庁が、本件補正(該請求時に行った)を却下した上、同請求は成り立たないとした本件審決には、次の取消事由があると主張して、その取消しを求める事案である。
・取消理由1
  本件補正を却下した判断の誤り(補正の目的要件に関する判断と、補正却下の独立特許要件に係る判断)
・取消理由2
  本願発明の進歩性を否定した判断の誤り

本件判決では、取消理由1の目的要件「明りょうでない記載の釈明(現特17条の2第5項4号)」および「特許請求の範囲の減縮(同項2号)」)を満たしていないとする審決での判断を覆し、審判請求時にした補正がそれらの目的要件を共に満たすとした。しかしながら同判決では、その補正後の発明に進歩性がない(いわゆる独立特許要件を満たしていない)としてその補正を却下した(現特17条の2第6項、準特126条5項、特53条1項)。その結果、その補正前の特許請求の範囲の記載に基づいて特許要件が判断され、進歩性なしとして原告の請求が棄却された。

2.本件特許出願の手続の経緯

図

3. 手続補正(H17.6.15)後の特許請求の範囲(以下、斜字は筆者が加筆した部分) 

※以下、本手続補正後の請求項1を本願発明1、請求項2を本願発明2という。

図

4. 手続補正(H18.5.26)後の特許請求の範囲  

※以下、本手続補正後の請求項1を本件補正発明という。

図

5. 本件審決の判断(不服2006-8167号)

(1)補正目的について 

※審決文抜粋

手続補正(H18.5.26)前後の請求項の対応関係を対比すると、本願発明1は、「カートリッジ」の構成を記載していない点で、本件補正発明と対応せず、他方、本願発明2は、「押しピン」と「カートリッジ」の構成を記載している点で、本件補正発明と概ね一致するので、本件補正発明本願発明2に対応すると考えられる。
してみると、手続補正(H18.5.26)は、特許請求の範囲について以下の補正事項を含むものである。

(補正事項1)本願発明1の削除。
(補正事項2)本願発明2における「押しピンを内部に収納しうる空洞部と」及び「押しピンのカートリッジ。」を、本件補正発明においては、「押しピンと、該押しピンを内部に…収納しうる空洞部と」及び「押しピンおよびそのカートリッジ。」にする補正。
(補正事項3)本願発明2における「使用時に…下部に設けられた孔部からピン部先端が外部に突出する構造である押しピン」に、本件補正発明においては、「使用しないときには手でどの部分に触れてもピン部が動くことはなく、」という限定を付加する補正。
(補正事項4)本願発明2における「使用時に筒状部の上部に設けられた押入部材が挿入される孔部を通じて押入部材により押圧され」及び「押入部材が挿入される孔部を通じて押入部材により押しピンを押圧する押圧部」を、本件補正発明においては、「使用時にロッドによって筒状部の上部に設けられた孔部を通じて押圧され」及び「孔部を通じて押しピンを押圧するロッド」とする補正。
(補正事項5)本願発明2における「押しピンを内部に収納しうる空洞部」を、補正後の本件補正発明においては、「該押しピンを内部に複数収納しうる空洞部」にする補正。

(2)補正事項についての検討 

※審決文抜粋

・(補正事項1について) 省略(目的要件を満たすと判断)
・(補正事項2について)
本件補正発明の「筒状部と、筒状部に収容された弾性部材及びピン部とを有し、…下部に設けられた孔部からピン部先端が外部に突出する構造である押しピンと、」における「押しピンと、」は、末尾の「…を有する、押しピンおよびそのカートリッジ。」における「有する」に対応しているから、本件補正発明における上記「押しピン」は、本件補正発明ある「押しピンおよびそのカートリッジ」の構成に含まれる。
一方で、本願発明2の「筒状部と、筒状部に収容された弾性部材及びピン部とを有し、…下部に設けられた孔部からピン部先端が外部に突出する構造である押しピンを」における「押しピンを」は、直後に続く「内部に収納しうる」に対応しているから、本願発明2における上記「押しピン」は、内部に収納しうる一例であって、それ自体は本願発明2である「押しピンのカートリッジ」の構成に含まれない。
したがって、(補正事項2)は、本願発明2の構成に含まれていない「押しピン」を新たに構成として付加するものすなわち外的付加であって、請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものではない
よって、(補正事項2)は、平成18年改正前特17条の2第4項各号に掲げる請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものではないから、平成18年改正前特17条の2第4項各号の規定に違反するものである
・(補正事項3について)
本件補正発明には…(中略)…作動が記載されているが、「ピン部」がいかなるときにどのように作動するかは、…(中略)…様々な事項に依存する。
それ故、…(中略)…、上記作動は、本願発明2における発明を特定するために必要な事項を限定したものではない。してみれば、(補正事項3)は、…(中略)…特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。また、(補正事項3)が、請求項の削除、誤記の訂正、明りょうでない記載の釈明でないことは明らかである。
よって、(補正事項3)は、平成18年改正前特17条の2第4項各号に規定する事項を目的とするものでなく、該規定に違反するものである。
・(補正事項4について) 省略(目的要件を満たすと判断)
・(補正事項5について) 省略(目的要件を満たすと判断)

(3)補正事項の検討のまとめ 

※審決文抜粋

上記のとおり、本件補正のうち、(補正事項2)及び(補正事項3)は、平成18年改正前特17条の2第4項各号に規定する事項を目的とするものでなく、該規定に違反するものである。

(4)審決の結論(趣旨)について

※判決文抜粋

本件審決の理由は、要するに、本件補正は、平成18年法律第55号による改正前の特許法(以下、単に「法」という。)17条の2第4項4号に規定する「明りょうでない記載の釈明」、2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものではないから、いわゆる「目的要件」を欠き、また、仮に目的要件を満たすとしても、同条5項において準用する法126条5項の規定に違反するので、独立特許要件を欠くとして、これを却下した上、本件補正前の特許請求の範囲の記載に基づいて本願発明の要旨を認定し、本願発明2は、下記の各引用刊行物(以下「引用刊行物1」及び「引用刊行物2」という。)に記載された各発明(以下、それぞれ「引用発明1」及び「引用発明2」という。)に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、進歩性を欠く、というのである。
引用刊行物1:実願昭62-72282号(実開昭63-179197号)のマイクロフィルム
引用刊行物2:実願昭61-188466号(実開昭63-92796号)のマイクロフィルム
なお、本件補正は補正事項1ないし5からなるが、これらのうち本件訴訟の審理判断の対象となるのは次の補正事項2及び同3である。

注1:本願発明1は、上記引用刊行物2に基づいて特29条第1項3号の規定により特許を受けることができないと審決されている。
注2:本審決では、原告が本願発明2を補正した本件補正発明について進歩性があると主張している(上記取消理由2)ため、補正を却下したといえども、本願発明1と2について判断するのではなく、本願発明2のみについて判断している。
注3:以下では、補正目的に関する注目すべき解釈が判示された補正事項2についてのみ説明する。

6.本件裁判における原告(特許出願人)の主張

※判決文抜粋

ア 補正事項2について<目的要件に関する判断>

(ア) 本件審決は、補正事項2は、「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものではない、とした。

(イ) しかしながら、「押しピン」の構造については、本件補正前の請求項2(本願発明2)において、「筒状部と、筒状部に収容された弾性部材及びピン部とを有し、非使用時にピン部は弾性部材によって筒状部内に収容され、使用時に筒状部の上部に設けられた押入部材が挿入される孔部を通じて押入部材により押圧され、下部に設けられた孔部からピン部先端が外部に突出する構造である押しピン(を内部に収納しうる空洞部)」と記載されていたところ、本願発明2は、そのような「押しピン」と「カートリッジ」とから成るものであることも記載されていたのであるから、「カートリッジ」だけでなく、上記構造により特定される「押しピン」も本件補正前の請求項2(本願発明2)における必須の構成要件であった。
もっとも、本件審決は、本件補正前の請求項2(本願発明2)における「押しピン」の記載は、カートリッジの内部に収納しうる一例を記載したものであって、それ自体は本願発明2である「押しピンのカートリッジ」の構成に含まれないとしているが、「内部に収納しうる(空洞部)」との記載は、上記構造によって特定された「押しピン」も、「カートリッジ」と同様に、本願発明2の対象であることを前提に、当該押しピンが当該カートリッジの内部に収納しうるものであることを意味するにすぎないのであり、本件審決の判断は誤りである。(中略)

(ウ) さらに、補正事項2は、拒絶理由通知が、引用刊行物1記載の画鋲刺入装置において、引用刊行物2記載の画鋲を収容することにより、本願請求項2記載の発明の如く構成することは当業者が容易になし得たものであると指摘したのに対し、本願発明は引用刊行物2に記載された画鋲とは異なる特定の構成の押しピンとカートリッジの組合せに係るものであることを明瞭にすることを目的としたものであるから、同補正事項に係る補正は「拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするもの」にほかならない。

(エ) したがって、補正事項2は、本願発明2が「押しピン」とこれと組になった「カートリッジ」とから成ることを明瞭にするための補正であり、法17条の2第4項4号が規定する「明りょうでない記載の釈明」を目的とした補正であるから、補正事項2に係る本件審決の判断は誤りである。

7 本件裁判における被告(特許庁長官)の主張 

※判決文抜粋

ア 補正事項2について<目的要件に関する判断>

(ア) 原告は、補正事項2は、本願発明2が「押しピン」とこれと組になった「カートリッジ」から成ることを明瞭にするための補正であり、法17条の2第4項4号(現特17条の2第5項第4号)が規定する「明りょうでない記載の釈明」を目的とする補正であると主張する。

(イ) しかしながら、本件補正前の請求項2(本願発明2)の記載に接した当業者は、本願発明2について、「押しピンのカートリッジ」の発明として、「押しピンを内部に収納しうる空洞部」、「押しピンを押圧する押圧部」、「開口部」及び「押しピンを一方の端部側に移動させる弾性部材」との構成を有するものと理解するものである。つまり、本件補正前の請求項2(本願発明2)において、「押しピン」は、それ自体としてカートリッジを構成するものではなく、カートリッジの構成要素である「空洞部」、「押圧部」及び「弾性部材」を特定する意味しか有しないのであり、本願発明2において、「押しピン」は必須構成要件ではないというべきである。
そして、本件補正前の請求項2(本願発明2)において、「押しピン」の構成が具体的に記載されているのは、「…押しピンを内部に収納しうる空洞部」との箇所であり、この「収納しうる(空洞部)」との記載は「収納することが可能である」ことを意味するから、本願発明2の「空洞部」は、他の構成の押しピンを収納することを排除するものではないと解釈するのが自然である。したがって、本件補正前の請求項2(本願発明2)に開示された特定の構成の「押しピン」は、「内部に収納しうる一例」であるとした本件審決の判断に誤りはない。

(ウ) また、「明りょうでない記載の釈明」は、本来、拒絶理由通知において拒絶の理由が示された事項についてのみ許容されるものであるところ、平成18年3月22日付け拒絶査定の理由となる同17年8月22日付け拒絶理由通知及び同18年3月22日付け補正却下の決定のいずれにおいても、「押しピンのカートリッジ」が「明りょうでない」との拒絶の理由は示されていないから、補正事項2が「明りょうでない記載の釈明」であるとする原告の主張は、この点においても失当である。

(エ) したがって、補正事項2については、「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものではないとした本件審決の判断に誤りはない

8 知的財産高等裁判所の判断 

※判決文抜粋

ア 補正事項2について<目的要件に関する判断>

原告は、補正事項2は、本願発明2が「押しピン」とこれと組になった「カートリッジ」から成ることを明りょうにするためのものであるとして、この補正が法17条の2第4項4号にいう「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものではないとした本件審決の判断に誤りがある旨主張するので、以下、検討する。

(ア)本願発明2の理解

本件補正前の特許請求の範囲の請求項2(本願発明2)の記載は、前記したとおりであって、同記載において、押しピンについては、「…構造である押しピンを内部に収容しうる…」、「…により押しピンを押圧する…」と記載されているにとどまることから、本件審決が判断し、また、被告も主張するように、押しピンは、本願発明2における発明の対象ではなく、発明の対象であるカートリッシが備える構成の1つとして記載されているにすぎないと理解する余地もないわけではない。他方、(本件補正前の)請求項2(すなわち本願発明2)の記載において、押しピンは「筒状部と、筒状部に収容された弾性部材及びピン部とを有し、非使用時にピン部は弾性部材によって筒状部内に収容され、使用時に筒状部の上部に設けられた押入部材が挿入される孔部を通じて押入部材により押圧され、下部に設けられた孔部からピン部先端が外部に突出する構造である」ことが特定されており、本願発明2は、このような押しピンと、「筒状部の上部に設けられた押入部材が挿入される孔部を通じて押入部材により押しピンを押圧する押圧部」を有するものであることによって特定されるカートリッジと、によって構成されるものであると理解する余地もないわけではない。
そして、そのような理解を前提にすると、本件補正前の請求項2(本願発明2)は、これとは反対に、押しピンを発明の対象とせず、その対象であることが記載上明らかなカートリッジの備える構成の1つとして記載されているにすぎないと理解されなくもない記載となっていたということができるのであって、その意味で、当該記載は法17条の2第4項にいう「明りょうでない記載」に当たるといわなければならない。

(イ)補正事項2の位置付け

これに対し、補正事項2は、本件補正前の請求項2(本願発明2)における「押しピンを内部に収納しうる空洞部と」及び「押しピンのカートリッジ。」の記載を、補正後の請求項1(本件補正発明)においては、「押しピンと、該押しピンを内部に…収納しうる空洞部と」及び「押しピンおよびそのカートリッジ。」の記載に改めるものであり、その記載内容から、本願発明2が「カートリッジ」だけでなく、「押しピン」も発明の対象とするものであることを明示しようとするものであることが明らかである。
そして、上記(ア)のとおり、本件補正前の請求項2(本願発明2)の記載からは、「押しピン」と「カートリッジ」と、その両者を本願発明2の対象とするものであったと解することが可能であったところ、その反面、「押しピン」を当該発明の対象とするものではなく、「カートリッジ」のみを対象とするものであったと解する余地もないわけではなく、明りょうでない記載といわざるを得ないものであったのであるから、補正事項2は正にその明りょうでない記載を釈明するものであるということができる。
実際、補正事項2による補正前後の記載を比較してみれば、本件補正前の請求項2(本願発明2)のように、本願発明2の対象である「押しピン」がもう1つの発明の対象である「カートリッジ」が備える構成の1つにとどまるかのように記載されていることを前提として、両者の構造を認識し、これらを対比して両者が発明の対象であると理解する場合に比較して、本件補正後の請求項1の記載のように「押しピン」と「カートリッジ」とを並列的に記載したほうが、その趣旨がより明りょうとなっているということができる。
この点について、被告は、本件審決の判断と同様に、本件補正前の請求項2(本願発明2)に係る発明が「カートリッジ」の発明であって、「押しピン」の発明ではないなどとする主張するが、本件補正前の請求項2(本願発明2)が「カートリッジ」のみを対象とする発明として明りょうに記載されていた場合であれば格別、既に説示したとおり、当該記載が「明りょうでない記載」であった以上、被告の主張を採用することはできない。

注:「理解する余地もないわけではない。」と判示し、裁判所は「理解することができる」と断言していないため、本件にて原告が行った主張を無闇に踏襲することはできない。しかし、特許請求の範囲に「…しうる…部」と記載したとき、このような外的付加となる補正をした場合であっても、上記と同様の主張をすることにより、その補正が「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものであると認められる可能性が出てきた点に注目すべきである。

(ウ)拒絶の理由について

法17条の2第4項4号は、「明りょうでない記載の釈明」として補正が許されるのは、「拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る」と規定するところ、被告は、本件においては、「押しピンのカートリッジ」が「明りょうでない」との拒絶の理由は示されていないから、補正事項2は「拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするもの」ではないと主張するので、この点についても検討する。
甲11によると、平成18年3月22日付け拒絶査定には、本件特許出願は平成17年8月22日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって拒絶されるべきことが記載されていることが認められ、甲7によると、平成17年8月22日付け拒絶理由通知書には、拒絶の理由として、請求項1及び同2に係る発明(本願発明1及び同2)が特許法29条1項3号又は同条2項の規定により特許を受けることができない旨記載されるとともに、請求項2に係る発明(本願発明2)については、引用発明1の画鋲刺入装置において、引用発明2の画鋲を収容することによって、本願発明2のように構成することは容易である旨記載されていることが認められる。
これに対し、補正事項2は、前記認定の経緯からして、本願発明2が「押しピン」と「カートリッジ」と、その両者を当該発明の対象とするものであることを明示することにより、上記拒絶理由通知書において指摘された本願発明2に係る拒絶の理由を回避しようとするものであると認められるから、補正事項2が「拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするもの」であるということが妨げられるものではなく、被告の主張を採用することはできない。

(エ)

以上によると、補正事項2に係る補正は、法17条の2第4項4号が規定する「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものというべきである。

9 検討内容のまとめと実務上の指針

(1)検討内容のまとめ

【1】前提条件

・【発明の名称】は「押しピンおよびそのカートリッジ」。
・本願発明1は「押しピン」に係る発明、本願発明2は「押しピンのカートリッジ」に係る発明で共に独立請求項。
・本願発明2の記載は、「…する構造である押しピンを内部に収納しうる空洞部と、該空洞部の…する押圧部と、…に設けられた開口部と、前記空洞部の…させる弾性部材を有する、押しピンのカートリッジ」となっている。
・本件補正発明は、「…する構造である押しピンと、該押しピンを内部に複数収納しうる空洞部と、…を通じて押しピンを押圧するロッドと、…に設けられた開口部と、前記空洞部の…させる弾性部材を有する、押しピンおよびそのカートリッジ」となっている。

【2】審決の内容

・本願発明2における上記「押しピン」は、内部に収納しうる一例であって、それ自体は本願発明2である「押しピンのカートリッジ」の構成に含まれないため、本件補正発明は外的付加であるから補正却下となる(特53条1項、特17条の2第4項各号)。
・引用刊行物1と引用刊行物2との記載を参照すれば、「押しピンのカートリッジ」に係る本願発明2は進歩性がない

【3】本判例の内容

<原告の主張>
・「内部に収納しうる空洞部」との記載は、構造によって特定した「押しピン」も、「カートリッジ」と同様に、本願発明2の対象であることが前提であり、この補正は、本願発明2が「押しピン」とこれと組になった「カートリッジ」とから成ることを明瞭にするための補正である(現特17条の2第5項4号)。
・進歩性なしの拒絶理由に対し、本件補正発明は引用刊行物2に記載された画鋲とは異なる特定の構成の「押しピンとカートリッジの組合せ」に係るものであることを明瞭にすることを目的としたものであるから、この補正は「拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするもの」(現特17条の2第5項4号かっこ書)にほかならない
<被告の主張>
・「内部に収納しうる空洞部」との記載は「収納することが可能である」ことを意味するから、この補正は外的付加である
「明りょうでない記載の釈明」は、本来、拒絶理由通知において拒絶の理由が示された事項についてのみ許容されるものであるが、どこにも「押しピンのカートリッジ」が「明りょうでない」との拒絶の理由は示されていない。
<裁判所の判断>
・原告の主張を認容。※ただし、上記主張点についてのみであることに留意。

(2)実務上の指針

補正前の特許請求の範囲の記載が、例えば本件のように、「…である押しピン(部品の一例)を内部に収納しうる空洞部と、…を有する、押しピンのカートリッジ(完成品)。」である場合、中間処理における留意点を以下に示す。
【1】例えば、「…である押しピン(専用部品)と、該押しピン(専用部品)を内部に収容する空洞部と、…を有する、押しピン(専用部品)およびそのカートリッジ(完成品)。」とするような外的付加による減縮補正は、最初の拒絶理由通知(現特17条の2第1項1号)の段階で行うべきである点。
∵「限定的減縮」(現特17条の2第5項2号)とは、「特許請求の範囲の減縮」をもたらすための限定である「外的付加」と「内的付加」のうち、「内的付加」による限縮のみを指す(知財高裁平成19年(行ケ)第10056号)。したがって、最後の拒絶理由通知等(現特17条の2第1項3号、同4号)に対する補正では、外的付加となる補正をすることができない(特53条1項)。
【2】最後の拒絶理由通知等(現特17条の2第1項3号、同4号)に対し、特許請求の範囲の記載を、例えば「…である押しピン(専用部品)と、該押しピン(専用部品)を内部に複数収容しうる空洞部と、…を有する、押しピン(専用部品)およびそのカートリッジ(完成品)。」に補正したとしても、その補正が外的付加であるとして却下されない可能性がある点。
∵特許請求の範囲の記載に基づいて、発明の対象が(完成品)であると自然に解することができるときであっても、(完成品の専用部品)と(完成品)と、その両者が発明の対象であると解することができる余地があれば、その特許請求の範囲の記載は、不明瞭であると判断される可能性がある。

※中間処理時、「…しうる…部」の限定は、外的付加による減縮補正であると判断されるおそれがあることに注意すべきである。
※本判決だけでは、上記【2】が認容されるとは言い切れないため、安全策として、まずは無難に上記【1】の対応をとるべきであると考える。しかし、上記【2】の可能性は、窮余の一策として検討するに値する。
※上記【2】の「明りょうでない記載の釈明」を目的とする補正(現特17条の2第5項4号)は、拒絶の理由に「明瞭ではない」と示されていないときでもすることができる。

10 その他(補正事項3について判決で原告の主張が認容された点)

特許請求の範囲の減縮(現特17条の2第5項第2号)について ※別途ご確認ください
・物の発明に関する特許請求の範囲の減縮は、その物の構造が補正前から明確であれば、作動的に減縮する補正であっても認められる。
・補正が特許請求の範囲の減縮に該当するか否かは補正前の特許請求の範囲の記載に基づいて判断するため、従来通り、実施例に基づいて減縮補正することができる。

以上

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